第1話
――アリス様!
わたくしの朝は離宮中に響く怒鳴り声で始まります。
「アリス様! いい加減起きてくださいっ」
彼女の寝室へ向かう最中もけたたましくモーニングコールを発するもこの程度ではお目覚めにならないことは学習済みです。
「アリス様っ。いつになったら自分で起きて頂けるのですか!」
離宮の2階――南に面した日当たりのよい寝室は既に朝日が差し込んでおり、常人ならばこれだけでも十分な目覚ましになるはず。それにも拘わらずです。ベッドの上で猫のように丸くなっているアリス様は一向に起きようとはしません。
(……まったく、居候の身とはとても思えない姿ですね)
アリス様が隣国、フェリルゼトーヌから亡命なさって既にひと月あまり。わが主であるクーゼウィン王サミル様の判断でこの離宮でお過ごし頂いていますが、お世話をするわたくしたちの身にもなって欲しいものです。
それにしても――
「無防備にもこんなお姿をされると言うのは、ここが安心できる場所だと思って頂けている証拠なのでしょうね」
この離宮にいるのはアリス様を除けばわたくしだけ。日中は侍女がいますが夜間は屋敷を囲む柵の外を衛兵が守るだけとなります。ゆえに居を構えていると言えるのはわたくしたちのみなのです。
「アリス様。本当にいい加減起きて頂かないと朝食を食べ損ねてしまいますよ」
「うぅ~ん。あと――」
「五分などベタな――」
「――半日」
「…………」
この人、本当にフェリルゼトーヌの王女様なのですか。わたくしより一つ年上で背は高く、初めてお会いした時は亡命直後で不安げな表情をされていましたがその中にも凛々しさがある素敵な方だと思いましたのに。
「…………」
いまのわたくしにはこのお方が一国の王女だとは――
「ア、アリスさまぁーっ!」
とても思えませんでした。