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 最近なんだか、長いこと宙に浮いていられなくなってきた。

 すぐに床の上に落ちてしまう。

 以前はいつまでもほよほよ浮遊していられたのに。

 なんだか調子が狂ってしまう。


 床に蹲っていると、有紀哉が学校から戻ってきた。

「どうした化け物?」

 有紀哉も変に思ったのか声をかけてきた。

 まったく、普段はわたしをガン無視しているくせに。


「ちょっと化け物って何よあまりに失礼うんぬん」

「だってオバケじゃないか」

「いや幽霊だけど」と一瞬考えにつまってから答える。「何かに化けてはいないと思う。ほら素のままだし」

 と両手を広げてみせる。

 すると有紀哉も首をひねって、

「そういや化け……てはいないな、するとオバケの定義って……」

「そんなのどうでもいいわよ」わたしは主張した。「なんか変なのよ」

「だから、どうした?」


 この不安にはとても親しみがある。

 ベッドの上で病状がどんどん悪化していくときの、あのいやな感じ。


「ううん。なんでもない」


 幽霊が病気になるなんて、聞いたことがない。

 だから否定した。

 それからしばらくは有紀哉にも黙っていたのだが。



 数日経ってみると、やはりだんだん悪くなっている……。


 気がつくとわたしは床にぐでーっと寝そべっていた。

 全身に力が入らず、起き上がることができない。


 さすがに有紀哉も気づいて声をかけてくる。


「お、おい、一体どうしたんだ……」

「わたし、そろそろ死ぬと思うわ」

「馬鹿を言うな。もう死んでるじゃないか」

「ああ、そうだった……」


 じゃあこのまま状態が悪くなっていったらどうなるんだろう。


「ひょっとしてこれが……成……仏……?」

「うそだろ」


 こんなのが成仏なら成仏なんてしたくない。

 涙があふれた。


「有紀哉と離れたくないよう……」

「沙夕……」

「というか……」

 わたしはか細い声で言い、有紀哉の目を見つめた。

「な、なんだよ」

「今まで不思議に思っていたんだけど」

「……」

「有紀哉くん、いままでにも、わたしの他に幽霊さんとの付き合いがあったのよね」

「まあ……たぶんな」


 有紀哉の目があらぬ方角にそそがれている。何かを誤魔化すときの彼の癖だった。


「たぶん?」

「よく覚えてないんだ。というか、忘れるようにしてる」

「そ、か……」


 なんとなくわかってしまった。

 わたしは満ち足りてしまったのだ。

 納得がいってしまったのだ。


 うん、たぶん、これが幽霊が成仏するプロセスでまちがいない。


「今までありがとうね」

「何を言ってる」

「消えるまえに言っとこうと思って」

「礼を言うのはこっちだ」


 珍しいこともあるものだ。

 あの有紀哉がわたしにお礼を言ってくれるなんて。

 そう思ってくれてるのならあれこれ言った甲斐が少しはあったというものだ。


「いろいろうるさく言ってごめんね」


 彼はまるで何かを我慢しているみたいに、無言で首を横に振った。


 できれば有紀哉ママにも会ってお礼を言いたかったけど。

 でも諦めるしかないかな。

 まもなく、お迎えがきそうに思う。

 あ、お迎えはもうとっくに来てたんだっけ。


 生きている有紀哉から見ればわたしは彼にとり憑りついているわけだし。

 いつまでもここに厄介になっているわけにもいかない。


 楽しかったなあ……

 風になんかなりたくないなあ……

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