【昔話パロ】みらいばなし 桃太郎
男は、裏組織の下っ端だった。ある日の早朝、工場裏に呼ばれ、荷物を本部に運ぶように言われた。軽バンの荷台には、大きな桃がいくつも積まれていた。
男は不誠実だった。道中、川沿いの道路脇に軽バンを停めた。一つばかりなくなっても気づかれないだろう。他の桃の下敷きになっている桃を一つ、抱えて出した。
男は桃にナイフを突き立てたが、傷んだように茶色く変色するばかりで一向に刺さらない。
「なんだ、これ。食べられないじゃないか」
男は傷ついた桃を川に投げ捨て、不機嫌そうに車に乗り込んだ。
* * *
あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へジョギングに、おばあさんは川へウォーキングに行きました。これが朝の日課です。二人とも、健康には気を配っているのです。
おばあさんが川沿いを歩いていると、どんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきました。なんと大きな桃でしょう。おばあさんはびっくりして立ち止まります。
おばあさんはスマートウォッチに話しかけました。
「桃を拾い上げておくれ」
すると、背負っていた小さなリュックサックの中から金属の腕が伸び、大きな桃をがっちりと掴みました。金属の腕はゆっくりと折りたたまれ、リュックサックの上に桃を載せて停止しました。
そしておばあさんは桃を担いで家に帰りました。
山から帰ってきたおじいさんはびっくり。大きな桃は少し傷ついていますが、熟していておいしそうです。
桃を食べようとしたとき、奇妙なことが起きました。おばあさんが包丁を入れようとしても、桃が硬くて切れないのです。
「おばあさんや、代わってくだされ」
おじいさんが持ってきたのは、どんな硬いものでも切れる特製の電子ナイフ。実はこの二人、機械いじりが趣味なのです。
おじいさんのナイフは桃にすいすいと入り込みます。しかしすぐに、おじいさんは違和感を覚えました。ナイフが空回りするような感触がするのです。中が空洞なのだと考え、ナイフをそれ以上差し込まず、ゆっくりと切れ込みを入れていきます。
切れ込みが一周すると、桃が真っ二つに割れました。
なんと、中から赤ん坊がでてきたのです。
二人は呆気にとられましたが、赤ん坊を見ると自然と 頬が緩むものです。
「なんという名前にしましょうか」
おばあさんが尋ねました。
「桃から生まれたから、桃太郎というのはどうじゃろう」
「そうしましょう」
不思議なことに、赤ん坊はみるみる成長し、翌日には言葉をはきはきと話す男の子になりました。 桃太郎が言いました。
「ぼくは、鬼ヶ島という工場で生まれたホムンクルスです。桃を開けてくれた人がぼくの主人だと体に刻まれています」
純粋な目で見つめられ、おじいさんは困ったように笑いました。
「とりあえず、鬼ヶ島について調べるとしよう」
調べてみると、鬼ヶ島というのは裏組織が所有している工場だということが分かりました。
「まさか、このような禁忌を犯すなんて。どうしましょう」
驚くおばあさんに、桃太郎は尋ねました。
「人を造るのは、駄目なことなのですか」
「そうだよ、とても悪いこと」
「じゃあぼく、鬼ヶ島に行って、悪いことをやめさせます」
おじいさんとおばあさんは顔を見合わせましたが、決心した様子で頷きました。
「三日後じゃな」
* * *
裏組織には金が腐るほどあった。金よりも人手が不足している。そう感じたボスは、興味半分、投資半分でホムンクルス製造工場を建てた。ずいぶんと金を使ったが……まあまたすぐに集まるだろう。
そして、待ちに待ったこの日が来た。ボスの好物である特大サイズの桃が届いたのだ。ボスは一つ一つの桃にカードをタッチした。第一号が入った桃は、カードをかざさないと開かないようになっている。
ボスは首をかしげた。カードが反応する桃がなかったのだ。念のため、二度、三度と試したのだが、結果は同じ。部下に桃を切らせてみたが、全てただの桃だった。
ボスは失望した。盗まれたのだろうか。しかし、これだけの桃の中から一号が入った桃だけを選ぶことなどできるはずがない。それができたとして、あの強固な桃を力ずくで開けることは不可能だ。やはり盗まれたわけではないだろう。製造過程で、何かあったにちがいない。
「おい、今すぐ鬼ヶ島に不備がないか点検しろ」
そう部下に命じた。
楽しみが、一ヶ月後に延びてしまった。
* * *
三日間で、桃太郎は背の高い青年になりました。三人揃って車に乗り込み、いよいよ出発です。
しばらく道路を走り、おじいさんは車を停めました。
「後は一本道じゃから。気を付けるんじゃぞ」
「はい。家で待っていてください」
桃太郎は二人から四つのアイテムを受け取り、鬼ヶ島に向かって歩いていきました。
「これが鬼ヶ島か」
突き当りに建物が現れると、桃太郎はさっそく、ナビアイテム「キジ」を空へ飛ばしました。キジは建物を上空から透視して、スマートウォッチに施設内のマップを表示してくれます。それだけではなく、施設のネットワークも遮断してくれます。
まずはセキュリティーシステムを突破しなければなりません。桃太郎はログインアイテム「イヌ」を取り出しました。認証画面にイヌをくっつけると、データを解析してゲートを開けてくれます。
何重もの認証を突破して、ようやく施設に入ることができました。中は無人で、機械の動く音だけが響いています。桃太郎はスマートウォッチに問いかけました。
「キジ、この施設の管理システムはどこ?」
すると施設マップの一点が赤くなりました。
「よし、ここに向かおう」
桃太郎は、管理システムを担うコンピュータの前にやってきました。そしてハッカーアイテム「サル」をコンピュータに差し込みます。桃太郎はスマートウォッチに指示を出しました。
「サル、ホムンクルスの製造を中止し、施設の電気も止めてください」
しばらくすると工場内の機械音が小さくなっていきました。「ホムンクルス作製現在準備中」「中止します」「電気供給をOFFにします。このデバイスが強制シャットダウンされますが、よろしいですか」などの文字が画面に浮かび上がっては消えていきます。
やがて真っ暗、無音の状態となり、桃太郎はスマートウォッチのライトを頼りに来た道を引き返しました。途中、三つの「きび団子」をばらばらに落としていきながら。
建物を後にした桃太郎は、おじいさんに降ろしてもらった場所まで来て立ち止まりました。そしてスマートウォッチにささやきました。
「きび団子、作動」
背後からごうん、ごうんと音が聞こえてきますが、桃太郎は振り返ることなく、おじいさんとおばあさんの待つ家に帰りました。
* * *
「ボス、鬼ヶ島の監視カメラが途切れたので、確認をしてきます」
セキュリティー部門の部下は落ち着いていた。別に、ゲート侵入の警告も、予定のないログイン認証通知も、本部には送られてきていない。監視カメラも、ただ静止画のようにいつもの施設内を映していた、その画面が急に暗くなっただけなのだ。不備があったのかもしれないが、たいしたことではない。
一方ボスは、嫌な予感がしていた。つい最近、不備が見当たらないのにもかかわらず、第一号が消えてしまったからだ。
「俺も連れていけ」
こうして鬼ヶ島に向かった一同は、到着して唖然とした。鬼ヶ島はただの瓦礫の山となっていた。
「うわああああ」
ボスは叫んだ。莫大な資金を投入した施設は、一度も役割を果たさなかった。
「もう、ホムンクルスなんてこりごりだ!」
* * *
おじいさんとおばあさんは、桃太郎の無事な姿を見てたいへん喜びました。 こうして、三人は幸せに暮らしましたとさ。おしまい。




