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「……さて、」
田中の前ではあくまでも興味が無いように振舞っているが、俺自身動画配信をすることは嫌いでは無かった。
氷室として動画配信をするのはウィーチューブという動画配信サイトだけだと決めていたが、俺は「山田」として配信を楽しんでいる場所があった。
それはツブヤイッターというアプリの連携しているツブキャスという配信アプリだった。
ツブキャスはウィーチューブと違い声のみの配信しか行えないが、ウィーチューブで俺は顔出しをしているのでちょうど良かったのだ。
勿論ウィーチューブでの氷室とは違い、ツブキャスでの山田は無名の配信者でしか無かった。しかし、この配信を続ける理由はある。
「……あっ、今日も来てくれたんですね」
それが無名の山田の配信にいつも現れてコメントを残してくれる「鈴木さん」だった。
「こんにちは、鈴木さん。『え?私一人なの?』……いつも通り見てくれてるのは鈴木さん一人だけですよ」
鈴木さんのコメントを読み上げながらそれに対して返答をしていく。
無名の山田の配信に来てくれるのは基本鈴木さんただ一人だけだったので、鈴木さんと話す為だけにツブキャスは配信しているようなものだった。
大勢の人の為に行うウィーチューブの配信と違い、たった一人の為に行う配信……。
この時間がとても静かで、心地良かった。
「『山田、さっきから欠伸してるよ。そろそろ寝る時間じゃない?』……ああ、もうこんな時間なんですね」
鈴木さんとの会話が楽しくて、つい日付を超えるような時間まで話してしまっていた。
明日も学校だ。そろそろ切り上げて寝なければ。
「では、今日はこの辺で切り上げますね。またツブヤイッターでも話しましょう。それでは」
配信を切り、大きな欠伸をひとつ。
時間を自覚したら更に眠気が襲って来た。
「ふあ……ねむ……」
片付けは……まあ明日でいいか。とにかく眠くて堪らない。
俺はそのまま気絶するかのようにベッドに倒れ込んで、眠りに落ちるのであった。