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8th Race:深き緑のBlizzard


「強い馬は先行策をとることが多い」と言った。

それは、裏を返すと「先行した馬は強い」とも取れる。


 特に有馬記念の行われるコースは特徴的で、コーナーの数が多く、最後の直線が短い。

 後ろにいる馬は、前の馬を追い越すために外側を走るという距離のロスがより顕著にあらわれ、更に直線が短い分だけ挽回の余地が減る。

 前を走る馬は、内側を走る事ができ、距離的にも断然有利で、後ろから来た馬にスピードを発揮されないうちにゴールしてしまえばいいのだ。


 このレースでこれを体現していたのが、2番タイキブリザードだった。

 ゲートオープンからゴールまで終始一貫して、逃げたマヤノトップガンの直後にどっしりと構え、最短距離を進んできた。


 大外を周って後方から迫りくるサクラチトセオーの勢いは凄まじく、当時の現役最強馬ナリタブライアンをも飲み込んで、タイキブリザードを射程圏内に捉える。


 対するタイキブリザードは、サクラチトセオーに比べて無駄に消耗していないであろうスタミナのアドバンテージで、最内最短を粘りに粘る。


 マヤノトップガンの優勝を確信し、この時点で単勝の的中はほぼ確定。焦点は2着争いに。


 タイキブリザードが残るか?

 サクラチトセオーが差すか?



 僕のねがいは叶った。



 トップガンから引き継いで僕が祈っていた馬こそ、タイキブリザード。

 もちろんそれは、締切直前で追加購入したのがトップガンとブリザードの組み合わせだった事に他ならない。



「日本は、アメリカひいては世界の味方だ」

 

と発せられたかのような、2001年有馬記念の六年も前の話。



「俺たちは、傷付いた日本についていくぜ」


と言わんばかりに、神戸の山を冠名に持つマヤノトップガンを必死に追ったのは、タイキブリザード。


 何故なら、彼の父の名は『シアトルスルー』と言い、アメリカ西海岸ワシントン州にあるシアトルは『神戸の姉妹都市』なのだ。



 各馬が直線を向いた辺りからの感覚が強烈だった。


 尾てい骨のやや下の空間で生まれた小さく光るエネルギーの玉が、少しずつ大きく熱くなりながら、背骨に沿ってゆっくりと上昇して行く。

 それはトップガンがセーフティリードを取るまで続き、一瞬、時が止まる。ここで焦点はブリザードに移る。

 その時には肩甲骨辺りまで上昇してきたと感じるソフトボール大の塊が、チトセオーに迫られるほど更に膨張が進み光を増し、ゴールに近付くに連れてさらに上向きの力が貯められていく。


 そして……それはブリザードの2着を確信した瞬間、ストッパーが解除され、歓喜の雄叫びとともに、脳天から天高くへと突き抜けて行った。



 最後の直線はほぼ息が出来なかった。その反動だろうか……やや過呼吸になり、回復には少々時間が必要だった。

 落ち着くほどにジワジワと湧いてくる、的中とデート権ゲットの歓びを、じっくりと噛み締めた。



1995/12/24

第40回有馬記念(G1)    騎手  調教師

1着10番マヤノトップガン 田原成貴/坂口正大

2着02番タイキブリザード 坂本勝美/藤沢和雄

3着01番サクラチトセオー 小島太 /境勝太郎


単勝10  1,300円

馬連0210 4,770円





 僕が初めて見た冒頭の1992年天皇賞秋の話をした時、大家さんのご主人は、


「秋天なら、次の年が間違いなく一番だ」


と言って憚らなかった。


 なんでも……一着を争う二頭のマッチレースには目もくれず、贔屓の馬の三着争いに目を向けられていたそうで。クビ差をしのいで見事に三着を確保し、複勝の配当は780円だったそうな。


 口振りからすると相当儲けた感じがするけれど、そこは教えてくれなかった。


 心のどこかでは、

「勝たなきゃ意味はない」

と、感じていた気がするのだが。


 二着や三着も意味があることを気づかせてくれたのは、僕の中ではタイキブリザードなのかもしれない。


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