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恋、そして甘々でラブラブな時が始まろうとしています

 心地のよい風が吹いている。

 「海森くん、いつまで寝てるの?」

 うん? なんか俺のことを呼ぶ声が聞こえる。気のせいか?

 「海森くん、もうホームルームが始まるよ」

 ホームルーム? なんだそりゃ? 俺は眠いんだ。なんだかしらないけど、このままにしてくれ。

 「海森くん!」

 その声の主は、声を大きくする。すると、俺のほおに痛みが走る。

 なんだ、どういうことだ?

 その痛みで目が覚める。それとともに、いい匂いもしてくる。

 「やっと起きたのね。もう、なにをやっているのよ。高校二年生にもなって」

 ストレートヘアの美少女が、俺の目の前にいた。


 俺の名は海森海忠うみもりうみただ。そして、彼女の名は水多咲織。

 高校一年生の時、同じクラスになり知り合った。

 始めて会った時から、なぜか俺のことを気にしているようだ。

 もともと俺は朝が弱く、学校に着き、席についた途端に寝てしまうタイプ。

 それが許せないのか、彼女は一週間も経たないうちに、俺に対して、

 「もう、なんで学校に着いた途端に寝ているのよ!」

と怒りながら言うようになった。

 それがもう一年も続いている。

 親友の伊島祐一郎は、

 「それは、お前に気があるからだよ。気がなきゃ、毎日毎日お前に、怒ってお小言を言うことなんかないよ」

と言うのだが。

 俺にはそうは思えない。

 単純に俺のことが嫌いだから、毎日怒るんじゃないのかなあ……。

と思う。

 それに、彼女は、快活なスポーツ少女。テニス部に所属していて、一年生のうちから頭角を現し、二年生になった今では、部を背負って立つまでの人材になってきている。

 成績もトップクラス。性格もよく、面倒見がいい。

 こんな彼女なので、女子の間ではもちろん、男子の間での人気も高い。

 誰誰と付き合っているという噂もある。

 それに比べて俺は、普通の男子生徒だ。まだこの年まで彼女はいたことはない。好きになった子はいなかったわけではないのだが、そうした子に告白することはできず、今に至っている。そして、帰宅部だし、その他に別に運動をしているわけではない。運動という点からすると、彼女との接点はないということが言えるだろう。

 どういうふうに考えても、彼女が俺に気があるとは思えない。とはいえ、嫌われているとしたらそれはそれで嫌だなあ……。

 いや、嫌われるのは絶対に嫌だ。

 俺は彼女のことが好きだから……。

 俺は彼女と初めて教室で会った時、しばらくの間動けないほどの衝撃を覚えた。

 容姿が俺の好みそのものだったからだ。

 その日から彼女のことが好きになり、その想いは日ごとに募っていく。

 しかし、彼女からすると、ホームルーム前に寝てしまうような男子なんて嫌う対象でしかないのだろう。

では俺がしっかりすれば、と言うのかもしれないが、眠さの方がいつも勝ってしまう。

一方で、もし俺がホームルーム前でもシャキッとするようになったら、逆に彼女との接点がなくなるのではないか、という気もだんだんしてきた。

 俺がこうしてホームルーム前に寝ているから、彼女の声も聞くことができるし、彼女の手のぬくもりも感じることができる。痛さはあるけれど。

とはいえ、このままだと、これ以上の関係の発展は望むべくもない。

 できれば、もっと親しくなり、ゆくゆくは付き合いたい、と俺は思う。


 しかし、悠長なことは言っていられなくなってきた。

 咲織さんと板木が付き合っている、という噂が聞こえてきたからだ。

 板木は、他のクラスにいるが、スポーツマンでイケメン。女子の間で一番人気ではないか、と思う。

 そんな人と付き合っていたら、俺には勝算はない。

 俺はその噂を聞いてから、気力がなくなっていった。

 ただ彼女への想いの方はますます募っていった。

 こういう時は頼りになりそうだったので、祐一郎に相談することにした。

 「うーん、付き合っているかどうかは俺にはわからないけど、付き合い出したら、他の男子に入り込む余地はないだろうな」

 「もう俺にチャンスはない?」

 「そういうことだとは言える。普通ならな。でも、もし付き合っていたとしても、まだ付き合い出してそんなに経っていないだろうから、チャンスがゼロと言うわけではないと思う」

 「ほんの少しだけでもチャンスはあるってことだよな」

 「そういうこと。だから、お前は今すぐにでも彼女に告白すべきだよ。それで、失敗したっていいじゃないか。俺だって、今の彼女に出会うまでいろいろ苦労しているんだから」

 さすが、人生経験豊富な人は違う。

 「そうだな。今すぐにとはいえないが、好き、だって言うことにするよ」

 「そう、それでこそ男よ。応援してるぞ!」

と、祐一郎は、にやにやしながら俺の肩を叩く。

 「ありがとよ」

 俺は恥ずかしさで顔を赤くしながら、そう言った。

 とは言うものの、なかなか決断ができない。

 しかし、このままではどうにもならないの。

 いろいろ悩み苦しんだが、その翌日の昼休みが始まろうとした時、俺は思い切って彼女に声をかけた。

 「あの、ちょっと水多さん、話があるんだけど」

 なんとか一気に言うことが出来た。しかし、ドキドキなんてものじゃない。もう体がどうにかなりそう。

 「海森くんから話なんて、珍しいわね」

 咲織さんの方は普通の対応だ。

 「これから、屋上に来てくれる?」

 これもなんとか詰まらずに言うことができた。というものの、ますますドキドキしてくる。限界も近い。

 断られるのか。そうなったら俺はどうしたいいのだろう。

 一瞬時間が止まった気がした。

 「別にいいけど」

 彼女はあっさりオーケーしてくれた。特に怒っている様子はない。普通の様子だ。

 お、俺の好きな子と話ができる。

 俺はそれだけでも、心が花開いた気がした。

 とは言え、屋上までの道は無言。

 うーん、こんな調子で大丈夫だろうか。

 と、どうしても緊張してしまう。

 そして、屋上で二人きり。まわりには誰もいない。

 「海森くん、話って?」

 「あの、あの……」

 俺は言葉に詰まる。顔も赤くなってきている。昨日の夜、練習をした言葉がなかなかでてきない。

 しかし、今日の彼女は、そんな俺に怒る様子はない。それどころか、微笑んでいるようだ。

 こんな笑顔を見ているだけで、もう幸せな気分。

 もうこれは、好き、と言うチャンスだ。

 「水多さんのことが、す、好きです。つ、付き合ってください」

 やっと言えた。ここ数日の苦しみからもこれで開放される。これで振られようとなにしようと、もういいや。

 すると、彼女は、

 「海森くん……」

と言葉を詰まらせた。しばし訪れる沈黙の時間。

 あれ、あれ、彼女が涙を流している。

 俺はどういう対応をしていいのかわからなかった。

 やがて、彼女は、涙を拭くと

 「海森くん、あたしもあなたのことが好き。やっと両想いになれるのね」

と俺の手をとった。

 柔らかくて、温かい手。手ってこんなにいいものだったのか、と思う。

 「付き合ってくれる、ってこと?」

 「そうよ。よろしくね」

 彼女は満面の笑み。

 俺たちはこれで両想い。うれしい。そこいら中でスキップをしたくなるほどうれしい。

 そう思う反面、板木のことが気になる。

 「でも板木と付き合っていたんじゃないの?」

 「板木くん? 付き合ってないよ。話すことはあるけどね。それに板木くん、既に彼女はいるよ」

 「そうなんだ……」

 なんと、思い違いだったのだ。噂というのは難しいものだ。

 「嫉妬した?」

 ちょっといたずらっぽい笑顔になる咲織さん。こういう表情もできるんだ。

 「そりゃしますよ」

 少し俺は口をとんがらせた。

 「これからは海森くんの彼女よ。いろいろ思い出を作っていきましょ」

 「お、俺でいいの?」

 思わず聞き返す。

 「海森くんだからいいのよ。あたしね、あなたと初めて会った時から、この人は運命の人だと思ったの」

 「運命の人……」

 「そうよ。そして、日ごとにあなたのことが好きになっていったわ。特に笑顔が大好き」

 咲織さんの方も俺を好きだと思っていたなんて……。恋愛って難しい。

 「でもあなたの方はあたしの方に全然興味がないようだった。つらかったわ」

 そうなんだ。咲織さんの方も、つらい気持ちだったんだな。申し訳ない気持ちだ。

 「だから、今日、好き、だって言ってくれて、とてもうれしかったの」

 「咲織さんが俺のことを好きでいてくれて、俺もとてもうれしい」

 咲織さん、と名前呼びを初めてした。自然にそう呼んだのだ。

 彼女はちょっと驚いたようだったが、すぐに微笑んで、

 「名前で呼んでくれてうれしい。あたしもこれから名前で呼ぶことにするわ」

と言ってくれた。

 「そうしてもらえると俺もうれしい」

 微笑み合う二人。これで、二人の距離はさらに縮まったような気がする。

 「これからデートをしていきましょ。いろいろなところにいきましょ。楽しい思い出をたくさん作っていきましょ」

 「そうだね」

 そう。甘い思い出をたくさん作っていこう。

 「でもホームルームで寝ないようにね。あなたのことを好きになったからこそ、今までずっと言ってきたのよ」

 その好意に俺は今まで気づくことができなかった、ということだ。その点祐一郎はさすがだ。

 その分これからは気をつける必要がある。でもね……。

 「それは難しいなあ」

 眠いものは眠いのでどうにもならないよなあ。

 「またそんなことを言う」

と言うと、彼女は俺の頬をつねる。

 でもいつもの怒った顔じゃない。笑顔が素敵。

 そんな彼女を俺は、いつの間にか抱きしめていた。

 温かい体温。いい匂い。心がとろけていくような気がする。

 うっとりとした表情の彼女。

 まわりにはまだ誰もいないまま。

 「このまま時間が止まったままならいいのにね」

 「俺もずっとこうしていたい。このままずっと……」

 春のうららかな陽ざしが俺たちを包んでいく。

 「好き、って言って」

 咲織さんが甘い声で言ってくる。

 「好き。咲織さんのこと、だーい好き」

 「あたしも。海忠くんのこと、だーい好き」

 とっても幸せな気持ち。

 これからずっと咲織さんと一緒にいられますように……。

 そう思いながら、俺は彼女を抱きしめるのだった。


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