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漂流するエクスプローラー  作者: 鈴代しらす
第3章 地下闘技場 〜虎穴の主と暗殺執事〜

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第7話 自由の値段

「髪も髭も伸ばしっぱなしの俺も悪いがな、さすがに酷くないか…?」


 いじけるおっさんに平謝りする俺。剥き出しの上半身は毛深いものの、毛皮というわけではない。やたらと風格のある佇まいのせいで盛大に勘違いしてしまった。


「…まぁいい。俺もお前と同じ境遇だ。ここの暮らしの先輩として、冒険者の先輩として。ついでに格闘術の先輩として、色々教えてやるよ」


 俺はべつに格闘家ではないが、ここの情報をもらえるのは有り難い。

 促されるままに俺のカードを渡すと、おっさんの首が大きく傾げられた。


「…何でこんなに点数が減ってるんだ?」


 減るとは、どういうことだ?


「十日ほど頑張って貯めたんですが…少ないですかね?」


 俺の言葉に、眉間を押さえるおっさん。


「待て待て、さっきのが初戦じゃなかったのか?……どうやら俺たちとは随分状況が違うみたいだな」


 ひとまず腰を据えて話をしようということになった。いつの間にか現れた俺担当の虎男とともに、二人と二匹でおっさんの居室に移動する。


     ◇


 おっさんの棲家はまるで高級宿の一室で、部屋も複数個あった。

 おっさんが虎男に何やら注文をつけている。まだ何か食わせてくれるらしい。


 届いた料理をつまみながら、俺の今日までの事情を話した。応接セットの向かいで酒を呷るおっさんが涙ぐむ。いかつい見た目に反していい人のようだ。


「そうか、苦労したんだな…」


 俺以外の人間は全員こちらの試合場から戦いを始めていたらしい。さらに点数も最初から一万点与えられているとのこと。でろでろ千杯ぶんだ。

 …何で俺だけあんなに過酷な境遇だったんだ?


「いや、最初の点数の使い途について助言してやろうと思ったんだが…どうしたもんかな」


 ほぼ素寒貧の俺にはどうしようもないので、代わりにここの仕組みについて詳しく聞いてみる。その結果、新たにいくつかのことがわかった。

 まず、ここの試合場…おっさん曰く第一階級では一勝ごとに千点もらえるらしい。基本の飯や治療の値段も十倍。比率としてはこれまでと同じだが、初期の点数が多いので随分と余裕がある……それがきちんと支給されていれば。

 第一階級の相手は様々な武器を持った影人間たち。やつらの得物はやたらと頑丈なので、自分の武器が壊れる前に予備を手に入れておく必要がある…ということをおっさんは言いたかったらしい。

 第一階級で勝ち星を九つ集めると「昇格戦」が行われる。立ち塞がるのは影の虎男。第二階級で戦わされる相手だそうだ。現在おっさんはその第二階級で戦っているが、昇格戦の生身の虎男に全く歯が立たなくて足踏みしているらしい。なお、昇格戦で敗北すると勝ち星は一気にゼロまで戻されてしまう。


「つまり…飯代もままならねぇお前は、次も確実に勝たねぇとまずいぞ」


 点数が尽きた人間はどこかに連れ去られて、その後姿を見ていないそうだ。そんなのは勘弁して欲しいが、武器持ち相手を丸腰で相手取るのはなかなかしんどい。刃物でも持ち出されたらほぼ詰みだ。


「…参りましたね。素手ではちょっと厳しそうです」


 肩を落とす俺に、またも首を傾げるおっさん。


「お前、格闘が専門じゃないのか?何で得物も無しに遺跡に潜ってたんだ?」


 何やらまだ齟齬があるようなので、互いに情報を整理する。

 どうやら俺以外の人間は、王都近郊の高難度遺跡で攫われた冒険者、あるいは王国軍の人間らしい。遺跡の探索中だった彼らは当然完全武装で、その装備をここに持ち込めている。

 …何から何まで、扱いが違い過ぎだろう。不機嫌さ全開で虎男を睨みつけるが、全く表情を変えやがらない。


 別のことを考えていたおっさんがため息をつく。


「…この遺跡、そんなに広いのか。逃げるのはやっぱり無理だな」


 王都から近郊の遺跡まで広がっているらしい地下の大峡谷。虎男の追跡を振り切ったところで野垂れ死ぬのが落ちだ。


「とにかく戦うしかねぇか。いくつ階級があるのか知らないが、勝ちまくればいずれ何とかなるだろう」


 このおっさん、考えるのはあんまり好きではないらしい。

 グラスの酒を飲み干しておもむろに立ち上がる。部屋の隅に積まれた荷物を漁り、一つの包みを俺に放り投げてきた。


「それ貸してやるよ。まぁ、お前も……頑張れ!」


 適当な励ましとともに渡された包みを開けてみると、中には一組の籠手が入っていた。皮を素材とした本体に昆虫の甲殻のようなもので補強がなされている。半端な刃物では傷一つ付けられないだろう。


 思いがけぬ土産に礼を言い、おっさんの居室を辞した。


     ◇


 自室に戻った俺は、まだ中身を確認していなかった戸棚を順番に開けていく。中身のほとんどは生活用品だが、やがで目的のものを発見する。


「おぉ、これだな」


 棚から引っ張り出したのは辞典のように重厚な書物。点数と交換できる物品を記した目録だ。何故か金属製なので、厚みの割に頁数は多くない。


 テーブルに移動し、重たい頁をめくってみる。各頁の左側には品目らしき神代文字が、右側には必要な点数が書かれている。少ない点数で交換できるものから順番に並んでいるようだ。


 何とか読める文字はないかと指で追っていく。おっさんは総当たりで内容を確かめているそうだが、俺にはまだペトゥラさんの手帳の記憶が残っている。


 しかして、読み始めて早々に見知った文字を見つけた。

 目録のごく最初のほう、二桁の点数の隣に書かれている「肉」と「果実」の文字。前後に並ぶ物品も食べ物だろうか。


「…頼んでみるか?」


 無駄遣いするなと言われたばかりだが、どのみち明日勝たなければ先はないのだ。今の点数など誤差のようなもの。それに、本当にちゃんと物品と交換できるのか確かめておく必要がある。


 自分への言い訳を重ねた俺は廊下に顔を出した。脇に控えていた虎男に目録を見せて注文する。


「この果物を頼む」


 何の「肉」なのかは読めなかったので、そちらは見送りだ。


 こくりと頷いた虎男は廊下の向こうに消えていった。


     ◇


「これ、果物だったのか…」


 項垂れる俺の前には、小皿に載った色とりどりのサイコロ状の物体。さっき食べたやつだ。たしかにほのかに甘みを感じる味ではあったが…

 神代の叡智は食文化に活かされなかったらしい。


 謎のさくさくを齧りながら頁をめくっていると、「剣」や「盾」などの武具の類を示す文字が現れ始めた。必要な点数はいずれも数千程度から。

 安価なものであれば最初に支給される一万点で入手可能ではあるが、戦って貯めるには何戦もこなさなければならないという価格設定。食べ物などで浪費していれば、いざという時に困ることになるだろう。おっさんの助言も納得だ。


 武具に続いて現れたのは「力」「知性」といった文字。意味は分かるが、意味不明だ。価格は武具を僅かに上回る程度。……怪しい薬でも飲まされるのだろうか。


 以降の物品については読めない文字がほとんどだ。 家具や待遇の改善などだろうか。

 他にも何やら強力そうな武器も載っていたが、それらの入手には数万単位の点数が必要になるので今の俺には関係ない。


 そんな具合に最終頁まで読み進めた俺は、その最下段の品目に思わず声を上げた。


「まじかよ…」


 最高額の物品の名前は「自由」。その価格は百万点。仮に第一階級とやらで稼ぐとするならば千勝を積み上げなければならない。


 ……もう、ここに骨を埋める覚悟をするべきだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] >王都近郊の高難度遺跡で攫われた冒険者、あるいは王国軍の人間らしい。遺跡の探索中だった彼らは当然完全武装で、その装備をここに持ち込めている。 あ~弟さんはこの被害者か・・・
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