ー はじめての家出 ー (改)
ー はじめての家出 ー
「えっ~!? カイザーくん 捨てられたの~!!」
「おいおいっ、勝手に映像を止めるなよ、俺から聞くんじゃなくて見るんだろ」
「だって ビックリしちゃって…、ねぇ どれが飼い主さん?」
「あぁ… え~っと、いた あれだ」
「ひとりでいるね、何か話したら聞いてみようかな…」
この後のアイツの話はおぼえている、だけど あの頃の俺は全く信じなかった、
俺が アイツの身に起こったこと を それを理解しようとしなかったからだ、
本当に捨てられたのに すごく困っていたのに アイツのことを信じないで、
飼い主を… いや人間を信じた 本当に捨てられたんだ デュークくんのように…。
「あっ、カイザーくんとデュークくんの飼い主さんが一緒にいる、
あ~ こっちの話の方が聞きたいなぁ、ねぇ、ひなた この時のさぁ…、
カイザーくんたちと話した時の内容は おぼえてる?」
「あぁ、おぼえているよ」
「じゃ 教えて~、あぁ 映画みたいに両方 見れたらいいのに」
とりあえず映像を止めて、天空に 知りたがってるこの時の俺たちの話を教えた、
アイツの… あの時のカイザーの話は、たしかこんな話だった…。
飼い主さんに 離れたところに車で連れていかれて、置き去りにされた、
だから何日もかけて 自力で家に戻った、それなのに、また同じ事をされて…、
なんとか また戻ってこれたけど… いよいよマズい。
俺は デュークくんも、カイザーも、そんなことをされたって 思えなかった、
俺は人間が大好きで 人間は大切な家族だから そんなことって、それなのに…。
「そう…、そんなに大変なことになってたんだ…、続き…見るね…」
でも確かに珍しいな… デュークくんとカイザーのご主人様たちだけで話してる…。
天空が知りたがっている ご主人様同士の会話が聞こえてきた。
「カイザーくんママ こんにちは、デュークと仲良くしてくれて ありがとう」
「こんにちは、デュークくんママ 今日は ひなたくんも一緒になったみたいね」
「みんなが遊んでくれて助かるわ… あの子ったら甘えん坊で 離れなくって…」
「それって、もう 捨てられたくないんじゃないですか?」
「えっ、すっ 捨てるなんて そんな 可哀想なこと…」
「ふ~ん 〈可哀想〉ですか…。 …私、知ってるんですよ」
「えっ? もしかして ひなたくんのママから…」
「へぇ~ ひなたくんのママも知ってたんだ~ 私 それは 知りませんでした、
それより~ 私の家族がお世話になってるようで、いろいろと 噂は…」
「そっ、そんなことは…、」
「まぁ お互い様ってことで…、だから~ 内緒で教えてくれませんか~、
私~困ってるんてですよ~、……もう失敗したくないんです……カイザーのこと」
「うっ うちは、もう そんなことはしませんから、失礼します」
「あっ ご主人様~ 待ってよ~、みんな またね~」
デュークくんとカイザーのご主人様たちが話し出してから、こっちの話が止まってた。
なんだか カイザーがご主人様の話を気にしたからだ、耳を澄まして聞いていたけど、
途中 どんどん小さい声になって よく聞こえなくなってしまって、何でかな…、
何かを言われて デュークくんのご主人様が怒ったようだ、どんどん離れていく、
それを見たデュークくんが ご主人様を必死に追いかけてる、どうしたんだろう…。
なんだか映像を見てるだけで悲しくなってきた。
最近 俺も ドックランにはたまにしか連れていってもらえなくなったから、
いつだったかなぁ、カイザーやカイザーのご主人様に会ったの、話を聞いたのって、
カイザーは大丈夫だろうか…。
「カイザーくん なんか心配だね、だけどデュークくんは、もう大丈夫だ」
「何で デュークくんは大丈夫だって分かるんだ?」
「えっ、飼い主さんが 本音を言ってたから…」
人間って難しいなぁ、 天空は 駆け引き って教えてくれた、
カイザーのご主人様が、悪口の噂を流したこと とか 捨て犬のこと とかを、
責めていたらしい。
「何が理由で捨てたかは知らないけど 『もうしませんから』って言ったでしょ、
それって 自分がやったことを後悔してるんだよ」
「後悔? じゃあ デュークくんに悪いことをしたって思っているってことか?」
「さぁ… どうだろう…」
デュークくんの飼い主さんは デュークくんともう離れたくない…っていうより、
捨てたのを広めらることで 誰かに責められるかも… いじめられるかも…って、
いつも怯えてなきゃいけない、それがもう嫌なのかもね…と天空はそう言った。
ここに来るとそれを いつも心配しないといけないって 勝手に思ってるんだと、
とても悲しそうな顔をして そう言った。
自分は人の噂を平気で広めるくせに、自分が噂されるのは嫌なんてな…、
なんて身勝手なんだろう…、人間はそんなヤツばっかりなのか?
俺のご主人様はそんなことがないって そう思いたい…。
「映像が進んじゃってるね、一回止め…、あれっ、ひなた…」
映像を止めようしていたのに 天空が何かが気になったようだ、
俺も天空につられるように画面に目をやった。
「最近 あんまり遊んでくれないんだよな…」
また独りだ、人間の住みかに独りだ、つまんない…、前はいっぱい遊んでくれた、
でも、みんな住みかにいない、だから ご主人様たちに呼ばれることもない、
この間 ついイライラしてイタズラしちゃったら、ここのドアをしめられた。
「あっ~ つまらない、もっと走りたいよ~」
「僕、もう要らないのかなぁ…、嫌われちゃったのかなぁ…」
「あっ、帰ってきた~!」
ずっと 独り言を言ってしまってた、足音がする、ドアが開いた、この足音は…。
「ただいま~ ひなた、 あっ~! ママ寂しかった、会いたかったよ」
「お帰りなさい ママさん」
「慰めてくれるのひなた、もう聞いてよ~ 先輩ったらね~」
なんだか悲しそう…? いや 怒ってる? 何を言ってるのかわからないけど、
こういうときは いつもすぐに会いに来てくれる、でも、こういうときだけ?
「みんないないから ひなたを独占~って、なんだろう…、待ってて ひなた」
ママさんは僕を狭いところから出して、たくさん なでてくれた…と思ったら、
僕を置いて そのままどこかへ走って行った、どうしたのかな。
「あっ、ドアが開いてる… そうだ!」
最近 あんまり遊びに連れていってくれないし、よーし 探検だ、
ママさんが開けっ放しにしたドアから出てみようっと。
「あっ あそこは ご主人様たちが出入りしているところだ…、行ってみよう」
ご主人様が開けたんだ 向こうから声がしてる、いつもは閉まってるのに、
あそこから出たら走れるところに行けるんだ、これは出るしかないでしょう。
「あっ よく来る人間か、忙しいでしょ 遊びににいってくるね、ママさん」
なんだろう…いつも通るところなのに…、つながれてないだけなのにスゴい楽しい、
好きなところに行ける、好きなことがやれる、ぶつかるところも…ない。
「あっ、危ない! …あぁ、ビックリした」
楽しくて走ってたら、大きなのにぶつかりそうになった、ちょっとビックリした。
「こらっ 急に飛び出したらダメだろ、怪我はないか?」
そうしたら 見たことのない人間が頭をなでてくれた、そして…。
「えっ、何 どこにいくの?」
「お前、首輪ないし迷子だろ、いいよ家に来いよ、水ぐらいは くれてやるぞ」
「えっ、ちょっと待ってよ そっちは行ったことがない…」
人間は僕を抱き上げると 人間が乗っていたのの前の方に僕を入れた、
出られるけど…、ちょっと高さが…、それに 僕を入れたまま走り出しちゃった、
どうしよう、どんどん知らないところに行ってる…、人間が乗るものは早い、
僕が走るより早くどんどん進んで離れていく、どうしよう…、どうなるんだろう…。
「ほら着いた、これ、俺の家っていうか 学舎」
「ねぇ、着いたの? ここはどこ? あのね 帰りたいんだけど」
「ちょっと待ってろ、怪我がないか調べたら、届け出てやるからなぁ…」
話しかけたけど、やっぱり 人間は僕の言葉はわからないようで 伝わらない、
この人間にはイジワルを感じないけど、どうしよう、このまま帰れないのかな…。
「あれっ、買い物じゃ… …で どこでナンパしてきたの この可愛い子ちゃん」
「ちょっとそこの道で…って、違うわ! チャリ乗ってたら飛び出して来たんだ」
「えっ、ちょっと 怪我はさせてない?」
「だから連れてきた、診てやろうって思ってな、それから警察に届けるよ」
人間がまた僕を抱き抱えて歩きだした、そしてどこかに着いたようだ、
ここはどこだろう… 僕を心配してるかなぁ ご主人様たち、
僕が勝手に出てきちゃったからだ…、僕 迷子に… …!? 迷子~!!
「わっ、どうしたんだよ急に、どこも怪我はしてないようだけど」
「どうせ、乱暴に診たんでしょ、これで獣医の卵とはね~ まったく、
ダメダメだよね~、そう思うよね ワンちゃん、はいっ お水どうぞ…」
お水をもらって、頭をなでてもらって ちょっと落ち着いたけど…、
どうしよう、これってデュークくんが言ってた迷子…だよね、いや もしかして、
僕が逃げ出したってことになるの…? ここって 怖いところなのかなぁ…。
どうしよう…、僕もこれから怖い思いをするのかなぁ…。
「大丈夫みたいだったから、警察に届けてくる、…んで しばらく預かるわ」
「はぁ~ 預かる~ そんな 勝手に、教授に怒られるよ」
「なんの 獣医師学部の特権だ、なんなら 家の子になってもいいぞ…なぁ」
「ねぇ、どこにいくの、元のところに返してくれるの、なら自分で帰れる」
ダメだ話しかけても伝わらない、僕を抱き抱えた人間はどんどん進んでいく、
元のところにに連れていってくれるといいんだけど。
「おうっ どうした、これからメシか? なら俺も行きたい」
「メシなら そいつの散歩が終わってからにしろよ…」
「あっ 君 はじめましてだね、こんにちは…」
「なにっ~!! なに あの大きいの~、怖い~!!」
「…って、おいっ ちょっと 暴れ…」
「おいっ、大丈夫か? あっ!」
「お前が脅かすから逃げちゃったろ…、大丈夫だよ 戻ってこい~、
お前もつないできて 探すの手伝え、アイツたぶん迷子なんだ…」
「映像のひなたはスゴい驚いてたね」
「なぁ、あの大きいのって… あっ 〈馬〉 か」
映像ははじめて見た馬に驚いた俺が 助けてくれた人間のところから
走って逃げているところを映していた。
「仕方ないだろ、あの時 初めて 馬 を見たんだ」
「でも ひなた 家出 したことがあったんだね」
「…でも、俺 この頃のこと… あんまり…」
「じゃ そのまま見ようよ、映像のひなた 本当に迷子になってるよ」
そうだ いつもご主人様と一緒なのに 俺 家から勝手に出ていったことがあった、
あの時 何だが色々あってよく覚えてないんだよな、これで何があったかわかるかな。
「ここ… どこだ…」
全然 知らないところだった、あの人間とも はぐれちゃったし、
どうしよう、あの人間のところへ、でも なんだか大きいのがいるし…、
あそこが怖いところかも…、なら捕まったらダメだ 自分でなんとかしないと。
「そうだ、匂いだ、匂いを探そう 知ってる匂いがあるかも…」
だいぶ暗くなってきてるようだ、ここは庭にある葉っぱ見たいのがいっぱいある、
とにかく 散歩して歩いてるところ それに似てるところを、そこを探そう…。
「…なかなか見つからないなぁ、もう明るいところもないし 少し休むか…」
夢中になって迷子…って、ちょっとデュークくんの気持ちがわかった。
あ~あ お腹すいたなぁ…、明るくなったら また探さなきゃ…、
遊んでくれないからって あのとき 探検なんて出なければよかった…。
「よしっ、明るくなって よく見えるし、匂いもわかる、いくぞ!」
明るくなったから、また歩くことにした、スゴく長く住みかにいなかったから、
ご主人様たち 寂しがってるかなぁ…、早く帰らないと、あぁ お腹すいたな。
しばらく歩くと、葉っぱばっかりのところから 散歩してるようなとこに出た。
「いろんな匂いがする…、美味しそうな匂いも…って 行かなきゃ」
人間が乗ってたのに乗せられたから、スゴく早かったし高いところから見ていたし、
どっちから来たのか どこに連れていかれたか ここがどこかもわからなかった。
とにかく、何か知ってる匂いを…、あっ、あった、この匂い…知ってるかも…、
とにかく行ってみよう、俺は走り出した。
「この匂いって…、ルークさん? ん~ちょっと…違うかなぁ」
匂いの方に走っていると どんどん匂いがハッキリしてきたんだけと…、
ここ人間たちの住みかににてる、けど…人間よりも仲間のような声がたくさんする。
仲間がたくさんいるなら… そうか ドックランとかかも
それなら 帰り方がわかるかも、とにかく中に入ってみよう、
もし違っても、話せる仲間がいるかもしれない、とにかく声のする方に入ってみた。
「あっ お客さんだ…」
「なになに お客さん? ねぇ ごはんもってない?」
「もってないんだ ごめんね… …なんか、ルークさんに匂いが似てるなぁ」
ここにはたくさんの仲間がいた、僕が散歩してる時のようにつながれてたり、
狭いところに入れられてたり、人間の住みかの中にもいるようだ、
僕みたいな大人のヤツ や 小さい子どもまで 本当にたくさんいて、
それぞれが僕に話しかけてくる、
みんなにあいさつしてたらどれだけ大変だろう、思わずそう思ってしまう。
だけど こんなにたくさんいるのに、みんな狭そうにしていて なんだか大変そうだ、
それに ここではたくさん走れないのかなぁ…
ドッグランのみんなはいつも楽しそうにしてるのに、ここのみんなはなんだか…。
あいさつをしていて わかったんだけど、ほとんどが同じような感じというか、
匂いを嗅がないと間違えてしまいそうなぐらいみんな似ていて、兄弟とかかな。
「あなた… 帰りなさい、なんだかイヤな感じ、巻き込まれるかもしれない」
突然 話しかけられた、そうだよ 帰り方を聞かないといけないんだった、
いろいろ話かけられて、聞き忘れていたよ。
「えっ…あっ もしかして ひなたさん、息子からは聞いています」
「もしかして、ルークさんのお母さん?」
どうやらここは ルークさんの住みかだったようだ…。
やっと話を聞いてくれる仲間がいた、それはここに長く住んでる大人たちだった、
その中に ルークさんのお母さんがいたようだ、だから 匂いが似ていたんだ。
だとすると ここにいるのはルークくんの家族? ずいぶんたくさんいるんだな、
「あの ルークさんはいないんですか? 最近 会っていないんですが」
「あの子ね、私たちの為に外に出てくれたの、でも、戻ってこなくなったのよ、
その代わりに、知らない人間が来るようになって…、また来そうなの…」
「ルークくん帰ったんじゃなかったんですか? 人間に捕まってたんですけど」
「えっ? ルークのことを知ってるんですか? ひなたさん」
僕はかなり前に見たルークくんのことをお母さんに話した、
その話を聞いて、お母さんはとても悲しそうな顔をした。
何で? 人間が迎えに来て ご主人様のところに帰ってたんじゃないの?
でも ホンとここはなんなんだろう…、いっぱい ルークくんの兄弟がいるのに、
ドックランのように広くないし…、みんなお腹すかしてるようだし、
長く狭いところに入れられているのかもしれない、元気がない仲間もいるようだ、
こんなところにずっといたら… 僕でも 逃げ出したくなるかも…。
もしかしたら ここにはご主人様がいないのかなぁ、
人間にかわれていたら こんなことにはならないだろうに…。
「ひなたさん、ここにいてはダメよ、早く逃げなさい…、あっ!」
「あらっ、どこからきたの? あなたも家の家族になりたいの?」
人間がやって来た、それが どうやらルークくんのご主人様らしい。
「痛いっ ちょっと、ちょっと待ってよ…、……出られない」
僕を見つけると、乱暴に僕を捕まえて、空いてた狭いところに放り投げた、
僕を出られないようにすると すぐにいなくなった、どうしよう…これじゃぁ。
「えっ、何? 何がですか」
「ごめんなさい、飼い主の問題に巻き込んでしまいました」
出られなくなって混乱していた僕を落ち着かせるように、
ルークくんのお母さんが ここのことを話してくれた。
この飼い主さんはいい人だけど、犬を飼うことがキチンと出来ないんだと、
そのせいで どんどん子供たちが、その兄弟たちが お父さん、お母さんになって
こんなにたくさんになったんだってことを。
ほとんど散歩に連れて行ってもらえず…、ごはんもだんだんもらえなくなって、
そんなことが起こったから、ルークくんは何とかしてみせると 脱走していたと、
ルークくんが帰って来なくなってからも もっと増えてみんなお腹をすかして…。
「あの子ね ここで一番 元気だったの、だから 兄弟を助けるって…」
「でも、人間が連れていったんだから、きっと大丈夫…ですよ」
「元気なら…、処分されていないなら…それで…」
お母さん本当に悲しそうだ、もう 何て言ったらいいかわからないよ…。
そういえば ふと思い出した、僕の母さんも悲しそうだったなぁって、
あんな子どもの頃なのになぁ、別れって…みんな こんな顔になるんだ…。
「やめて~ やめてよ、助けて~」
「始まったわ、ごめんなさい ひなたさん」
「えっ、どういうことですか? …ちょっと待って…、やめろ何をするんだ」
人間たちだ。 たくさんの人間たちが ここのご主人様とやって来た、
片っ端から仲間たちを捕まえている、いったい何が起こったんだ?
「ねぇねぇ ひなた アイツら何、なんか悪いヤツ?」
映像から目を話さないで 天空が俺に話しかけてきた、
そんな天空の方を見たんだけど、まったく天空は俺を見ないで画面を見つめている。
「悪いかどうかは分からないんだ この人間がどんなヤツなのか知らないんだ、
ただ この人間たちに捕まったから 俺は家に帰れた」
「えっ そうなの? じゃ 悪いヤツじゃ ないのかもね」
映像は流れ続けている、天空と話ながらスクリーンを眺める、
あの時はひどかったからなぁ、改めて見ると こんなにめちゃくちゃだったのか…、
しばらくして 俺だけ別のところにつれていかれるところが映った。
「ひなたは飼い主さんが違うから すぐに別のところに行ったっんだ」
「確かにそうかもな、あの時は 正直 何が起こったか 分からなかったんだ、
だから このことって こんなことがあった ってぐらいしかおぼえてなくて」
話ながらも こんなだったんだってつくづく思う、やっぱりはっきりおぼえていない、
映像の中で 人間同士で何か話ていた 俺は天空に聞いてみた。
「今 改めて見ると 本当にヒドイ…な、なんだこの〈たとうしい…?〉って」
「難しい言葉だよね… 〈多頭飼育崩壊〉 っていうんだ 僕の知ってるのは…」
天空はちょっと複雑な顔をして 人間の話を こんなふうに教えてくれた。
犬を増やしたかったり、好きだったり、いろんな理由で人間は生き物を飼う、
飼い始めたのはいいけど だんだん世話が出来なくなってしまう人間がいる、
世話をせず飼い続けていると 生き物たちはあんなふうになってしまうんだと。
「この飼い主さんは たぶん 犬が大好きで飼い始めたんだね」
「好きで? だったら何で適当に飼うなんてこと あんなヒドイことを、
みんなあんなにお腹を空かせて、可哀想じゃないか 犬だって…、」
「僕には、そんな人の気持ちは 分からないよ…」
…また、人間の都合ってヤツなのか?
ごはんがもらえないのも、どんどん元気がなくなるのも… 逃げられないのも、
全部 人間が決めて、人間の思い通りにしかさせてもらえなくって、犬って…。
外に出ればなんとかなるかもしれない、ルークさんそう思って逃げてたのかもな。
「あっ ひなたのご主人様が迎えに来たよ」
映像の中のご主人様は泣いていた、“ごめんね” って何回も俺に言っていた、
“スゴく心配してくれたんだね ごめんねご主人様”って、同じことを思ってる
今の俺も 過去の俺も きっと俺は幸せだ、このご主人様に飼われて…幸せだ。
「あっ~、そうだ 思い出した、ここ 動物病院 だ」
「あっ ひなた 注射 また嫌がってる~」
そうだよ、何だか知らないけど、この時はいつもより多く注射されたんだ!
あそこの犬たちと一緒につかまって、動物病院に連れて行かれたんだった。
映像を見ていて どうしてご主人様たちが迎えに来たのか 理由が分かった。
この人間たちの中に、いつも通っている動物病院の獣医師さんがいたんだ、
気づいた獣医師さんがご主人様に連絡を入れて、確認をしてくれたようだ、
ママさんが獣医師さんにお礼を言ってる、それですぐに迎えが来たんだ。
「あっ~ 見てるだけで痛いわ、でも 何であんなに注射をされたんだ」
「あそこにいたワンちゃんたち 病気の子もいたみたいだったから…」
「なんだよそれ、そう言えばあの時、俺 家出のバツだと思ったんだ」
そんな騒ぎが終わってしばらく、6歳の誕生日のところで映像は停止した。
「なぁ、天空 ルークくんや家族はどうなったんだ、
俺 家に帰ってるから見てないだろ、どうにかして見れないか?」
「うーん さすがに会ったばかりの犬だし…、ルークくんはもう前のことだし…」
「そうか…」
変わりに 一般的には…って言ってたけど 教えてくれた、
おそらく、獣医師さんたちに治療をされてから 新しい飼い主のところに行く、
もらわれた犬は しっかりとした飼い主さんのところに行ってるはずだと、
じゃ みんな元気に飼われてるんだな、なら まぁ…いいか…。
でも まただ、自分で話てるのに、天空はまたちょっと悲しそうな顔を見せる…。
「どうしたんだよ 天空、みんな元気ならいいじゃないか」
「うん…、みんな元気なら…ね」
「だよな、なら続き見るぞ、たしか…この頃は みんな忙しかったけど、
時間を作っては いろいろと遊びに連れていってくれだんだ、たしかそうだ」
また早送りを開始する、黙ったまま 天空は映像を俺の横で見ている、
でも… 何だか さっきみたいに楽しそうじゃない、複雑そう…なのか?
いや、きっともう飽きたんだろう、弟もすぐに飽きるもんな…。
映像の俺は日常が戻っている、デュークくんみたいに、俺も迷子になったけど、
俺より べったりしていたのは ママさんだった、きっと責任を感じたんだろう、
映像の中で リードとか 戸締まりとか 何回も確認するようになってる。
「あれっ? 動物病院だね ひなた 何かあったの?」
「えっ 別に何もないぞ? んっ~ 予防接種ぐらいし…、あっ あったかも…」
「じゃ 見ようかな」
「よくおぼえてないけど たぶん 見るほどじゃないぞ…」
…って言ってるのに 天空は映像を再生に切り替えた、
映像の中で ご主人様たちが獣医師さんと話ていた、理由は簡単だった。
それは ICチップ を 俺の中に入れる為だ、また 俺 痛がってるし、
この間の迷子に責任を感じて 話し合った結果、獣医師に頼んだようだ。
そんなのがあるなんて知らなかったが、これでデュークくんと同じなんだな。
それからしばらくして、また ドックランに家族で遊び行った映像になった。
「ホンとですって すごーく大きかったんですよ」
「僕より大きいの~?」
「そうなんだよ、大きな人間が乗れるぐらいでさ、話しかけられたんだ」
「人間が乗れるものはあるけど、そんな生き物 いるわけないじゃない」
「そんなぁ…、見たのに…」
「それより 久しぶりにみんなそろった…って カイザーくんがいないか」
この間迷子になった話をしていた やっぱりすごく楽しいなぁ、
迷子になってから ご主人様はドックランによく連れてきて遊んでくれるんだ、
ここのみんな…って カイザーだけ またいないなぁ…。
「あっ、デュークくんママ こんにちは」
「ええっ こんにちは」
「そう言えば、アレ 役に立ちました、ありがとうございます」
「なっ… 何が…ですか…」
「ひなたに チップ を入れたんです、実は 私の不注意で逃げ出しちゃつて、
迷子になっちゃったんです もう大変で、聞いてたおかけで参考になりました」
「あっ、そのことですか…、それじゃ 私は この辺で…」
あっ デュークくん行っちゃった…、 まただ、ご主人様と話し出すと、
すぐにデュークくんのご主人様は逃げるように帰っちゃう、なんだろう、
ご主人様も もう帰っちゃうかなぁ…、いや まだ 遊んでいられそうだ、
ミーナさんのご主人様と話し出したみたいだ。
「何を話していたの ひなたくんママ あの人と仲良くしてるの?」
「仲良く…というよりは 私 避けられてるみたいですね…」
「その方がいいわよ、あの人 最近あまりいい噂を聞かないし…、噂と言えば…」
「そうなんですか…、私 そういうのどうも うとくて…」
「なぁ 天空 今の話さぁ、俺 よく 解らなかったんだけど…」
画面の中ではご主人様同士の話はまだ続いていたが 俺は天空に尋ねた、
何だがよくわからない言葉が 出てきたんだ。
「話って 最後の方の カイザーくんの飼い主さんのこと?」
「ああ、なんなんだ、あの 借金 とか 夜逃げ とかって、
あの話を聞いてママさん急に元気なくなっただろ、今も ほらっ」
「あっ、この間みたいに ご主人様同士で お酒を飲んでるね…」
画面の中のご主人様たちは いつの間にか家に帰っていた、
そして あの苦手な匂いのする 酒を飲みながら話している、
ドックランでママさんが元気がなかったのは デュークくんの話をしていたから…、
では ないようだ、なんだか別の話をしている。
それから 天空は教えてくれた、借金 や 夜逃げ の意味を、
人間は大変なんだ、犬を飼い続けるのも大変なんだ…そんなふうに教えてくれた、
人間が人間たちと暮らすために必要なことを、俺… 知らなかった。
「カイザーくんがいない理由が解ったね、夜逃げしたご主人様と一緒だから、
ドックランに来ないんでしょ、それじゃ 来られないわけだ」
「なぁ… これって…、ご主人様が その夜逃げっていうのを した後だよな…」
「そうだね、話からすると もう カイザーくんの家にはいないんじゃないかな」
「なら おかしいよ、たしか このあと 俺 カイザーに 会ってる」
「えっ?」
話している間に 流れる映像は朝を向かえ、日常を取り戻していた…。




