ー アイツの名前は 天空〈ソラ〉 ー
ー アイツの名前は 天空〈ソラ〉 ー
「“天使” とは言ったけど 僕はまだ “見習い” なんだけどね」
「“天使?” “見習い?” なんだそれ …あれっ なんか知ってるような…」
「その事も話すよ じゃ… ソファーに乗らないで話そうか」
俺はその言葉にしたがった、また なでられたら眠ってしまいそうだからな、
でも…、なんだか不思議な感じだった、知らない言葉のはずなのに…。
アイツが言った言葉を俺は知らない 初めて聞いた、それは 確かだって思う、
思うのに…、その言葉の意味を知っているような気がするんだ、なんで?
「僕も隣に座っていい?」
アイツは俺の隣に ふっかふかのソファーの前、俺の隣に座り 二人が並んだ。
「なぁ 俺さ 思い出せないところで なんかあったのか…」
「さぁ 僕は見習いだから 聞かされていないよ」
「…何も…か」
「うん 君のことは何も…」
「あ~、やっぱ見習い 役にたたない!」
知らないのに、天使って言葉を聞いたら そう質問せずにはいられなかった、
なんでだろう…、俺に 何かがあったんだ って そんな不安な感じがするんだ。
でも 何も知らないなんて、見習いだってよくわかった…って
ん~何だ? いったい何を よくわかったんだって言うんだ?
「それでね… その… 話の続きだけど…」
「あぁ どうすればいいんだ、お前の言う通りにするよ」
「…だから、“お前” じゃなくて…」
「話って そっちかよ!」
なんだか ちょっと おそるおそる話しかけたきたから、
てっきり天使の仕事ってヤツだろうって思ったのに、名前のこととは。
えっ、名前? あっ 呼び方の事だよな…、名前なんて言ったことなかったのに、
さっきから変だ 知らないことがわかる知っているみたいにわかる、なんだコレ。
「あ~、呼び方な」
「そう 呼び方、僕の名前 僕の名前を呼んでほしいんだ」
「名前…、呼び方なんてどうでもいいだろ…、そんなに呼んでほしいのか?」
「うんっ呼んで、名前、僕の名前だよ 君は “ひなた” でしょ、じゃあ 僕は?」
「う~ん 名前な…、そうだな…」
「なんだよ、ちゃんと付けてやったろ 適当に選べよ」
せっかく いくつか付けてやったのに…
なんだかスゴ~く へこんでいるのか? 動きが止まった。
気のせいか… 真っ白な空間なのに 天使見習いの回りだけ暗くなってるような、
そして 天使見習いが白くなってるようにみえる、コレは燃え尽きるってヤツか?
えっ、なに? 白? 燃え尽きる? そんな言葉 なんで俺 知ってるんだ?
「…あっ 復活した」
「君はそんなふうに思ってたんだよね、そう 分かってた、分かってたけど、
言葉にされると ちょっと、キツイなぁ…、でも それは名前じゃないから」
動きを止めた天使見習いが 動いて話はじめた、目にはちょっと光るものが…、
“変なヤツ” “怪しい鳥” “ダメ見習い” 付けるなら もっと いっぱいあるぞ、
なんだよ付けろって言ったから付けたのに、…でも、ちょっと…やり過ぎた…かな。
「…言い過ぎたよ ごめん、でも いきなりだったんだ 怪しいって思うだろ」
「……。 ホントにそう思ってるんだね」
「思ってるよ、なんだよ 嘘なんか言ってないぞ」
天使見習いが俺の背中辺りに手を添えると 何故か じっと見つめてきた、
なんだか 心の中を探られているみたいな感じで、あっ~なんか気持ちが悪い。
「触るの禁止って言ったろ、その… 悪かったから、ちゃんと呼んでやるよ」
「ホント! じゃ 呼んで 僕の名前を」
「そう名前だ、呼び方を決めるんじゃないなら、名前を教えろ 呼んでやるから」
「……なっ 無いんだ 僕には無いんだ名前 ほらっ 僕 見習いだから」
「そうなのか… じゃ 欲しいよな名前、さっきは 本当に ゴメンな」
「うん 大丈夫 僕 もう平気だよ ありがとう 心配してくれて」
俺が人間だったら 俺の家族みたいに コイツの頭をなでたり出来るのにな…。
コイツ泣きそうだし、仲間への挨拶ように顔を舐めてやりたいって思った、
だけど 仲間以外はダメだ、たまに 嫌がったりするヤツがいるからな、
ご主人様にも 仲間以外にやっちゃダメだって いつも止められてたもんな、
泣き出しそうなヤツに 手を貸してやることも出来ない…、俺の手じゃ出来ない。
「…触りたいときに 触ってもいいぞ…、でも たまにだぞ 特別だからな」
「ホンとに ホンとにいいの? じゃ 触る~ 今すぐ撫でる」
「あっ~、顔スリスリは禁止、絶対禁止だからな~!!」
ちょっと元気になったようだ、大きさは俺の弟ぐらいなのに 手がかかるヤツだ、
そうだ 早く帰ってやらないと 寂しがってる 寂しがりの弟 俺の家族たち。
「さぁ 話を進めてくれ、とにかく帰りたいんだ 家族が心配なんだよ」
「…そうだったね、ごめんね 帰る為には…」
「ちょっとまった まず名前だろ、どんな名前がいいんだ?」
名前が必要じゃなかったのか? なんだか寂しそうな顔しながら
帰る方法を教えようとする天使見習いに、 ちょっとだけそう思った。
結局 簡単に話し合って 天使見習いの名前は 俺たちで決めた。
「じゃ それでいいな、これからは “お前” から その名前に変えるからな」
「うん、ありがとう じゃ 僕は “ひたな” って呼んでもいい?」
「“ひなた” まぁ いいだろう、じゃ これからお前は “天空” な」
天使見習い で 空を飛べる、 二つの漢字をとって つなげて 天空、
天空でソラって名前だそうだ、そのまま空の意味のあるらしい…、
“読む“ とか ”漢字” とか知らないのに知ってるのが やっぱり気持ち悪い。
でも、名前 気に入らなかったのか? せっかく 一緒につけた名前なのに…、
うれしそうな 寂しそうな、なんとも言えない、どっちとも言えない この感じ、
う~ん、なんだか スゴく放っておけないっていうか… 何が引っ掛かる…。
「それでね、さっきも話したけど ここから出る為には…」
「神様に聞くんだろ、でも どこまで夢を見たら最後になるんだ?」
とにかく もう一度 説明を受けた、さっきとあまり変わらないがその内容は…。
1.ここで 生まれた時からここに来るまでを 映像で振り返り 思い出す。
2.映像をすべて見て しっかり思い出したら あの場所に立って 神様に祈る。
3.祈ると 選択肢が3つ出されるので、一度戻って どれにするか 決める。
4.決めたら またあの場所へ行って、もう一度 祈って 決めた選択を伝える。
5.そこで はじめて ここから出られるようになり ここから出される。
その作業の手伝いのため、“天使” や “天使見習い” が付き添っているらしい。
スゴく簡単だけど、何でこんなとこで自分の過去を振り返る必要があるんだ?
それに…、しっかりと答えを決めてないと 勝手に行き先を決めるとかって、
そもそもだ、変なところに連れてこられたのに 帰れないし、勝手に決めるとか、
そんなのありなのか? 俺の望みは 家族のところに帰る それだけなのに…。
「さっきも聞いたよね、他に願うことはないのかって、今まで 夢の中で
気になったりしたことはなかった? 知りたい言葉とか 会いたい仲間とか…」
「知りたい…? う~ん そうやって改めて言われると… まぁ…な」
「ここはね 君が後悔を残さないようにする為の場所なんだよ」
「後悔? 大げさだな ただ家族のところに帰れさえすればいいのに」
確かにそう言われたら、さっきまでの夢もな… 何で母さんは俺を捨てたのか、
人間たちは、何をして 何て言っていたのか? 気になるところではある…よな。
んっ? ちょっとまてよ…、俺 コイツには夢の話をしてない… 何で知ってる?
「天空 俺 夢の内容は言ってないよな、なんで その事を知ってるんだ」
「そんなに警戒しないでよ、それもちゃんと説明するから」
その説明を聞いて 思わず立ち上がった、しっぽまでもゆっくりと反応してる。
「それって… 本当の話?」
「うん、まじめな話だよ、ひなたも 少しずつ変わってきたんじゃない?」
「みっ 見るな~、いまっ 今 俺を 俺を見るな~!」
天空に背を向けた、顔から火がでるって…って 俺 何を言ってる…って言うか
何でそれの意味が解るんだ、あ~、ホンとワケがわからない、
あ~さっき感じたことって このせいだったんだ、 恥ずかしすぎる!!
「あれ~っ、なんか照れちゃった~」
「あっ 当たり前だろ」
眠る前に聞いた説明… それに 加えられた説明が…、それが驚く内容だった、
だって その内容は…。
「だって仕方ないでしょ、言葉が通じないんだから」
「それにしたって、なんだよ “心の中を覗ける” だなんて」
なんでも天空は “天使は仕事で 心や頭の中を覗く事が出来る” らしい、
天空の説明はちょっと難しかったけど、要するにだよ、
その能力のおかげで どんな生き物とも話が出来るらしい、
言葉で伝えなくても 考えたりするだけで、意思を伝えあえるってことらしい。
「でも ただ覗くんじゃないんだよ、僕の知識が君に移動する、共有するんだ、
それで ひなたも いろんなことが解るようになる、とっても便利なんだよ」
「知識の移動? ってどういうことだ」
「僕の知ってることなら ひなたも解るようになる、そんな感じない?」
「…さっきから なんか変なのは そのせいなのか?」
「たぶんね、君は気がついてないけど 人間の言葉を話しているんだよ、
僕は人間の言葉を話している、僕の知識だから人間でいうと10歳ぐらいだけど」
「人間の? コレって 鳥の言葉じゃないのか?」
人間の知識? 人間の言葉? 今の俺なら人間とある程度 話せるってこと?
「あのね ひなた、僕は まだ心の中は見ていない、見るのは最後の手段だから」
「見ていない? 最後の手段ってどう言うことだ」
「心を覗くのは 本当に話も出来ないような時だけなんだよ」
「まだ見てないって言うなら、なんで夢の内容を知ってるんだ?」
「えっ それはね…」
また、また ふっかふかのソファーに乗れと言うのか?
楽しそうに天空は笑ってる、ニコニコしながらソファーを軽く叩いてる、
でも そうしたらあの夢の続きを見るんだろ、小さい頃のことを知られるんだろ、
なんだか…、それは ちょっと…イヤだ。
「乗るだけでいいよ、眠らないでいい それで理由がわかるよ」
「…わかった…よ」
帰りたい…、そうだ 帰る為だ、俺はソファーに乗って座ると、目を閉じた。
「あっ 待って 寝ちゃダメだよ、ほらっ 見て」
「なんだよ、見ろって…、えっ?」
ソファーの前に 今まで無かったものがあった、えっ スクリーン?って
まただ また知らないのに知ってる、これが知識の移動? 共有ってことなのか?
「最初は確かに 君の言葉を理解するため 君の頭に浮かぶ声を聞いてたけど、
後は これを見ていただけだよ、だから心の中は覗いてない、必要ないから」
「頭の中の声~ 見てた~、それじゃ覗いているのとほとんど変わらないだろ!」
「えっ、甘ガミか… んー… なかなかだなぁ~」
ふざける程度で本気で噛んではいないけど、腕の辺りを軽くガジガシってした、
いつもはしないよ ご主人様が怒るから、だけど それから服を引っ張ってみた、
とにかく 怒ってるって態度を 天空に見せたかったんだ、
でも 天空は楽しそうに笑ってる、怒ってるのに わかってるのかなコイツは。
「久しぶりに楽しかった、さっきも言ったけど ここは こういうとこなんだよ」
「こういうって なんだよ 恥ずかしい思いをするところなのか?」
「恥ずかしい? でも ここは一番古い過去の記憶から順番に見るところだから」
なんでこんなことになったんだ、全然 思い出せない、さっきまで…って
言われてみても、思い出せない 何をしていたっけ? なんで思い出せないんだ。
「君は見られたくないって思うんだね、過去を懐かしむ生き物もいるんだけどな」
「懐かしむ?」
「忘れてた事も 全部 見れるから あんなこともあったなぁ…ってさ、
みんな ゆっくり見ることが多いんだよ」
「早く終わらせるヤツはいないのか?」
「そうだなぁ…、嫌な思いをたくさんした生き物は 見るのを嫌がるかなぁ…、
あっ 心を覗くのは そんな感じの生き物かも…」
天空は またちょっと難しい話をしていた、
この場所は普通と違って ちょっとだけ 特別なところらしい。
ほとんどは あの映像を見たあと、決められた場所に行くだけなんだけど、
一部の生き物だけが、ここにやって来て神様の選択肢がもらえる…らしい。
そんな特別なところだから 説明すら受け付けない ちょっと厄介なヤツも来る、
何か強く怒っている生き物 や 言葉を知らない生き物 とか だそうだ。
どうしたいか聞きたくても 会話が成り立たない、だから頭の中に伝える…。
だけど…それも受け付けないことも、怒りが強すぎたりして話を聞かないんだ、
そんな時に 仕方なく心の中を覗く、そして 心に色んなことを伝える…。
過去を振り返ることで 何かか変わるかもしれない、とにかく後悔が無いように、
迷ったまま神様の前で祈らないで欲しいから、その様子も神様に見てもらうと…。
でも、強い思いを持った生き物 無垢な心の生き物の頭の中はまるで嵐のようで、
心はとても複雑だから 天使には 思いを読み取るのは とても難しい…、
スゴく大変な作業だから 簡単に心は覗かない…、そんな話を。
「怒ってたりすると 本当はこうしたいって思っても それがわからなくなる、
そんなことがあるでしょ 怒っていて 本心が隠れちゃうんだ、」
「そんなものか?」
「まぁ… 過去を振り返ったら怒りが収まったって…、そんなこともあるんだよ」
「でもさぁ 俺 そんなに厄介なヤツか? 話ぐらいは出来るはずだけどなぁ…」
「まぁ 見習いの僕でいいんだから、神様に選ばれた方なんじゃない」
「そんなもんか? まぁ いいか、俺の願いを聞いてくれるなら 帰れるだろう」
でも、なんで俺はここに? もしかしたら なんか特別なのか俺 ちょっと思う、
でも まぁ いいや、ここに勝手に連れてこられたのは ちょっと…だけど、
とにかく 最後まで見れば帰れるんだろ。
「じゃ、俺 寝るから、…見るなよ 天空」
「見るなって言われても 仕事だから… って また…寝ちゃうの?」
アイツらと会ってからすぐに、狭いところ 僕の寝床に独りで戻された、
もっとアイツらと、俺の弟たちと遊び…、いや、いろいろ教えたかったのに。
それからは 大きな人間が迎えに来ては弟たちに会う、そして戻るを繰り返し、
だんだん会うのが多くなって 遊ぶのが長くなって、
いろんなことを一緒にやれるようになって、なんだか楽しい。
あの ぶつかるところの向こうにも 一緒に行くようになった。
「よしっ 歩けるようになったな、次は走る だな」
初めてあった時は 座ってるだけでグラグラして倒れそうだった弟たちも、
俺と同じように手足を着けて歩けるようになっていた、
小さい手の人間の力を借りなくても しっかり座って過ごせる。
「もうすぐみんなのお誕生日ね そろそろデビューもいいかなぁ」
「あぁ、子供たちとも仲良くしてるし、ひなたにも新しい友達を…だよな」
「ねぇ 弟たち歩けるようになったよ 次は走れるようにだね、僕 頑張るね」
人間たちが 何かを話してるけど また よくわからない…。
いつもは大きな人間が一緒じゃないとダメなんだけど、
ちょっとなら人間たちがいなくなっても 弟たちと一緒に遊べるようになった。
そろそろごはんだ~って時に 人間が僕を寝床から連れ出した、
えっ ごはんじゃないの? どこに行くの? そっち… なんかいい匂い…。
なんだがスゴ~く おなかがすく いい匂いがする、ごはんの匂いなのかなぁ…、
〝乗ったらダメだ〟って言われてるところに行くようだ、そこで遊ぶの?
抱えられていて うまく見えないけど、人間たちが集まっているようだ、
きっとごはんの前にたくさん遊ぶんだ、今度は弟たちに何を教えようかなぁ…。
「さぁ ひなたも、今日はここに座るんだよ」
「おいで、一緒にごはんだよ」
「じゃ せーの お誕生日おめでとう!!」
「わっ、なんか すごい音が みんな危ないよ…って、なんで笑ってるの?」
どうやら あの大きな音は 大きな人間たちが出したらしい、
大きな人間たちは 大きな音がするって知っててやったようだった、
人間たちは みんな なんだか楽しそうにしてた、スゴく笑ってる…、
驚いた 怖がりの僕を笑ってるの? それは どうやら違うようだ。
弟たちも はじめはビックリしてたけど 今は笑ってる スゴく楽しそう。
まただ…、また僕だけがわからない…、体の形が違うから? 話せないから?
人間のようになりたい…、だってさ 僕だけ違って ちょっと寂しい…。
でも そんなことも気にならなくなる程の美味しそうなごはんが目の前に!
僕が食べたことの無いような美味しそうなごはんが 僕の前に出された、
よく見れば、人間たちのところにもいっぱいごはんがある。
「ねぇ、どうしたの? これ食べていいの? 早く食べたいよ」
「今日はお祝いだからな、練習なしで食べていいぞ~、 ひなた よしっ!」
「さぁ パパも 子供たちのが食べるの手伝って」
「手伝うけど…、お祝いの乾杯は~?」
「手伝ってくれたら出すよ 私も久しぶりに少し飲みたいから」
「これスゴく美味しい! もっと もっと食べたいよ もっとちょうだい」
大きな人間たちは自分たちのごはんを食べずに弟たちに食べさせていた、
弟たちは まだ自分でごはんを食べれない、人間は何かを持って食べるからだ、
アイツらは僕と違って大きくなるのが遅いからな、まぁ… しょうがない、
弟たちの為だからな、食べ終わった僕は 話しかけるのを止めた。
そうだよな 兄ちゃんとして もっと鍛えてやらないと、それにしても…。
人間も何かを持って食べなくても 僕のようにそのまま食べれば簡単なのに…。
人間たちが楽しそうにごはんを食べているから、独りで探検をすることにした、
人間の住みかは、僕には届かない、見えない、行けない ところだらけだ…、
弟たちは大きくなったら そこを探検するのかなぁ…、僕は行けるかなぁ…。
僕はもっと大きくなったら人間のようになるのかなぁ…、ちょっと…無理かな…。
「ひなた~、ひなた おいで~、プレゼントだよ~」
「えっ、呼んだ 遊んでくれるの? やっぱり僕が必要…って 何コレ?」
「似合うぞ ひなた これでもっと散歩に行けるな、ドッグランデビュー近しだ」
「カッコいいよ ひなた、スゴくカッコいい、きっとお友達がたくさん出来るよ」
「何コレ、ねぇ なんだか じゃまなんだけど…、つけないとダメ?」
人間が僕の首に何かをまいた、苦しくはないけど… なんか気になって…、
外してもらいたい…って思ったんだけど、人間たちが誉めてくれているようだ、
人間たちが喜ぶなら、人間のためなら…、だって僕はお兄ちゃんなんだから。
「…約束通り 顔スリスリはしてないようだな…、でも 見たろ」
「それは 見るなと言われても 見えるからね…」
ふっかふかのソファーの上で目を開けると 天空が俺の体を撫でていた、
今度は すぐにソファーから飛び降りずに話をしてみた、
やはりあの “スクリーン” ってヤツがある 映画みたいだなってなんなんだ、
「“映画” とか “スクリーン” とかが頭に浮かぶんだ なんなんだこれ」
「それが 知識の共有だよ。映画は知らなくても テレビは見たことあるでしょ」
「あっ アレか、あの 触れないけど中でなんか動いてるヤツ」
「そうそれ、そんなふうに見れるんだ ひなたの過去からのことが」
「見れるんだ~じゃないだろ」
自分で思い出してみても、ちょっと恥ずかしいのに 誰かに見られるなんて…、
でも、知識の共有のおかげで 人間の言葉が少し解るようになったせいか、
夢? じゃないんだよなな、映画? 映像…か、子供のころ分からなかったことが
その意味が なんとなく分かった。
確かにあの頃 人間の言葉は聞こえてた、大きくなるに連れてよりはっきりと、
ただ 解らなかっただけだ、 人間の言葉で表す 名前や その意味を。
「なあ 天空、あのさ、やっぱり最初の方はもう見れないか、母さんの所とか…」
「確かに録画…だけど、これは映画館の映画みたいなものでもあるからね」
「勝手に始まったのに、ダメなのか?」
「そうだね…、話したり通り これは 見てなかったからもう一度とか、
終わったから もう一度最初からとか、そういうのはダメ、一度きりなんだ」
「そうなのか…」
「なにっ~ お母さんが恋しくなったとか?」
「まぁ 確かに母さんは懐かしいけど…な 子供の頃を見てたら
人間が あの時 何を言っていたのかを ちょっと知りたくなっただけだ」
天空が楽しそうな顔は気になるところだけど、懐かしいか… そうだよな…、
確かに母さんは懐かしかった、人間は言葉では そう表現するんだな、
この “知らないのに知ってる” っていう変な感覚にも だいぶ 馴れてきた。
これなら 天空との会話も、人間たちの言葉も ちょっとなら理解できそうだ。
「なぁ そういえば天空、お前いつここに来たんだ?」
「いつからって、最初からいたよ、ほとんど一緒に来たから」
「えっ ほとんど一緒?」
「なら なんでもっと早く声をかけなかったんだよ!」
「だって、ひなた 動き回ってたから何してるのかなぁ…って つい見ちゃって」
話を聞くと、俺たちはほとんど同時に 別々のところからここに来たそうだ、
ここに来てから天空は、ずっと俺の後ろや上から 黙って見ていたらしい。
俺がソファーで起きたときは ソファーの後ろ側に立って、
俺が辺りを調べているときは その後ろをずっと付いて回って歩いて、
そうしていたら 俺が急に走り出したから あわてて飛んで追いかけて、
ついに追い付けなくなっきて、離れすぎてたから 心配して声をかけたそうだ。
そんなに一緒にいて しかも側にいたのに、気がつかない俺も俺だけど…。
「なぁ 天空 お前は最初から見てたんだろ、その… 俺の子供の頃を」
「うんっ 見てたよ この画面でね」
「最初の方はどんなだった 人間たちは何て言っていたんだ? 教えてくれよ」
天空は見たことを話してくれたんだが、答えは思ったようなものではなかった、
話によると どうやら天空は 相手の言葉が解るまで時間がかかるらしい…、
天空が見ていた 俺の過去の映像は 子供の頃の俺が見ていたものだったから、
俺が聞いた通りだったらしくて 最初は言葉がわからなかったそうだ、
だから頭で考えている事を聞いて、 少しずつ知識を移動・共有して理解した、
もし それでうまく出来ないと もっと深く 心の奥の思いを聞いていく…。
「まだ言葉が解らなかったんじゃ 確かに、見てても何となくだよな、
そうか… 悲しんだり とかあるんだな だから 心の中は嵐みたいか…」
「そうだね、でもさ ひなた、さっき ひなたが 撫でさせてくれて、
ちょっと警戒をといてくれたんでしょ それで共有が早くなったみたいだよ」
「撫でさせたから…か、んっ まて、頭の中で考えていることを…って」
「そう、それで ひなたが “鳥みたいの” って言ってたのが気になって…」
「そういえばお前 さっき ホンとに…とか言ってたよな、…聞いたのか?」
そういえば、さっき 見つめてきて “嘘じゃない”とか言ってたよな、まさか…。
「本心かどうか? だけだけどね、そのぐらいなら ちょっと集中すれば…」
「俺の頭の中も探るの禁止、破ったらもう撫でさせないからな」
「えっ~撫でられないの~ それイヤだよ、でも 思いを調べられないと
天使の仕事がきちんと出来ないよ、あ~それはスゴく困る」
「お前が怪しい行動をしなかったら 仕事には協力してやる、だから探るな」
ただでさえ 子供の頃の情けないところをいっぱい見られてるのに、
頭の中まで覗かれたら、それこそ 強がってるところがバレバレじゃないか…。
それだけはダメだ、だって 俺は強いお兄ちゃんなんだから! そうなんだから。
「なぁ…俺、どれだけこのソファーで寝ればいいんだ? そんなに寝られないし」
「寝る? 別に寝たりしなくてもいいよ ただ見ればいいんだから」
「見るって、だって夢は寝ないと 見ることが出来ないだろ」
「えっ だってこれは夢じゃないから 寝る必要はないよ」
えっ どういうこと? 夢を見ていたんじゃないの? って また説明をされた、
俺が眠ってみている “夢” がスクリーンに映っているんじゃなくて、
俺が見るように作られた映像が 最初からスクリーンに流れているそうだ。
その生き物によって違うが、俺には 見る場所としてここが用意された、
見やすいように たまたま ふっかふかのソファーを置いていたようで、
その上に乗り 目を閉じることが映像が始まるきっかけになっていたらしい、
俺が眠って映像を見ようとしなかったから 夢として見ていただけだった。
「じゃ、この “映画” みたいなのは 簡単に見れるのか?」
「うん、この辺りであれば ひなたの 好きなところ 好きな時で大丈夫だよ」
「それを早く言えよ! 無駄に眠っちゃったじゃないか~」
「あぁ、もう そんなに引っ張らないでよ~、わかったから~」
俺が服を咥えて引っ張ってるのに なんだか また天空は楽しそうにして…、
そうは言っているが、俺も楽しいのか? なんだかしっぽが上がって動いてる、
天空は俺の弟ぐらいだから 遊んでる感じになっちゃうんだろうな。
「わかったのなら なんか出してくれよ、俺 喉が乾いたし 何か食べるものは」
「えっ 珍しい、あんなに走ったからかな? 貰えるか ちょっと聞いてみるよ」
天空は立ち上がると、あの 何もないところの近くまで歩いて行って、
何かを始めた、どこかと話をしているようだ、しばらくすると…、
「ひなた、もらえたよ、ついでに僕もごはんを食べていいって」
天空はそう言うと どうやったのか 突然テーブルとごはんが出てきた、
ソファーの近くにいた俺の目の前に出てきたから ちょっとビックリした。
でも、それなりにいい匂いが…、美味しそうだ。
「食べやすいように テーブルから下ろそうか?」
「あぁ 頼むよ」
俺の代わりに天空が ごはんと水 をテーブルから下ろしてくれた、
俺の手では入れ物を掴むことは出来ないし、テーブルに乗るわけにはいかない。
それから腹を満たした、なかなかうまいごはんだ 喉も渇いていたし助かった、
天空も嬉しそうに食べている、ごはんを食べながら これからのことを話した。
それによると、俺がちょっと面倒に思っていたことが なんとかなりそうだった。
「それを早くって まぁ 仕方ないよな… また 共有が…とかだろ」
「そうだよ、わかってる~」
「でも これからは面倒は無さそうだな」
面倒なこと、それは 言葉もだが 直したかったのは “見え方” だった、
さっきまでは 見てるものが突然 遮られたり、部分的に見えなくなったり、
すべて子供の頃の俺の目線で見えていたから 見えないところがたくさんあった、
今もテーブルの上とかはソファーに乗るまで解らない、俺は人間じゃないから。
でも、いわゆる映画…って 俺 それ知らないけど それなら見えるらしい。
「そういえば さっきのさ いい匂いの美味しそうなの…って」
「あの最後に見た映像のこと? あれは誕生日の… たぶん “お誕生会” だね」
「誕生日? あぁ 生まれた日のことか」
「ひなたと あの双子くんは同じ日に生まれたようだよ、それでお祝いだね」
「同じ日に? そうか やっぱ あの二人は俺の弟、俺はアイツらのお兄ちゃんだ」
「えっ まだ言葉が解らなかった? 人間は ひなたを 弟 って言ってたよ」
えっ 俺が弟? そんなはずはない、だって俺 アイツらにいろいろ教えたんだ、
確かに 今では… アイツの方が大きいし… ごはんをくれたりするけど…、
それでもアイツらが座ることも出来なかった頃をささえたんだ、兄ちゃんは俺だ。
「どっちが “お兄ちゃん” か 先を見れば解るよ、お腹いっぱいになった?」
「あぁ でも いっぱい寝たから、腹いっぱいでも眠くない、本当に見れるのか」
「それこそ さっき言ったこと試してみよう、映画を見るように やってみよう」
「じゃ… 天空も… アレを また… 見るんだよな」
「それは必要だからね でも 大人しくするよ 邪魔したり笑ったりしないから」
天空は 俺たちが食べ終わった入れ物を さっきの何もないところに置いた、
どうやって… なのかはわからないが その入れ物は消えてなくなった、
テーブルの上には飲み物だけが残された、これが映画鑑賞ってことなんだな。
それから天空はソファーの前の床に座り、さっきのようにソファーを軽く叩いた。
「じゃ 始めよう ひなた ここに座って」
「わかった 座る…けど、…天空 お前も座れよ どうせ空いてるんだし」
「いいの?」
「早く座らないと 俺の気が変わるぞ」
「ありがとう じゃ 座るね、でも ホンと ひなたは いつもツンデレだなぁ」
それから俺たちは ふっかふかのソファーに並んで座った、
テーブルには飲み物、まるで俺たちの住みか… じゃなくて家か、
そこで弟と遊んでいるようだ、なんだかよけいに早く帰りたくなった。
「じゃ 始めよう ひなた」
隣で天空が言って頭を撫でたのをきっかけに とりあえず… 俺は目を閉じた。




