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人間になりたかった犬  作者: 仁咲友希
19/20

ー 俺たちのいない日々 ー

久しぶりの投稿です、この内容でいいのかな…と思うところもありますが、

まず先に テレビ関係の方々 “こんなことはしないよ…”と言うことかあるかもしれません、

これは作者が勝手に想像したことなので間違っていたらお許しください。

では これも含めてあと2章になりました、ゴール近し!?です、

楽しんでいただけると嬉しいです。

ー 俺たちのいない日々 ー



「映像が流れていないと やっぱり 静かだなぁ、あっ そういえば…」

「どうしたの ひなた」


俺たちは大人しく ソファーで座って待っていたんだけど、

改めて見ると やっぱり回り以外何もない、ソファーにテーブル それに空色の台、

俺たち以外に 誰もいない、真っ白な… とても広い ただ広い ところだ…。


「さっきさ 弥月の過去に何か起こったかを見せてもらったろ あの時さ…、

弥月も イタいの… じゃない、アレ そう注射、注射されたの? 俺みたいに」

「えっ 俺みたいに?」

「俺さ 最後 すごく痛かったのに あの嫌いな注射されて、眠っちゃったから…」

「そっ… そうだったね…」

「あんなに 痛かったのに なんで 注射するのって 思ってたんだ」


さっき 弥月の過去を見たとき 最後に注射をされていないな…って思ったんだ、

天空は説明してくれた、弥月も治療 病気を治すためには 注射もされたらしい、

でも あのすごく痛い時に 俺に注射をしたのは… その理由は…。


「…なんだよ やっぱり ご主人様たちは 俺のこと いらなかったんだろ!」

「違うよ それは違うよ ひなた」

「何が違うんだよ、ご主人様は ケガした俺に “安楽死” ってヤツをやったんだろ」


悲しそうな顔をして注射の意味を、“安楽死” のことを説明をした天空は、

俺の言葉に すぐに否定をした、すごく真剣な顔をして否定した けど。


俺は…、俺が最後に 痛い思いをしたのは…、“安楽死”ってヤツのためだった、

俺が すごく眠くなったのは それのせいだったんだ。


あの注射は 二度と ご主人様たちと会えなくなくする 別れの注射だった。



「何が違うんだよ、だって 俺は 今 ここにいるじゃないか、

もう ご主人様のところに帰れないんだろ、ご主人様がそれを望んだんだろ」

「それは…、それは 仕方がなかったんだよ きっと パパだって…」

「仕方がない… 仕方がなければ 人間は… あんなヒドイことをするのか、

じゃぁ 人間の家族にも あんなヒドイことをするのか?」


……、ケンカなんか… したく…ないのに…、天空の… 弥月の顔が泣きそうになる。


やっと会えたのに 弥月には笑ってほしいのに、もっともっと 笑ってほしいのに、

ご主人様にだって… なんで…? ご主人様には “犬” の俺は 必要ないの?

やっぱり 俺が 犬 だから…? 人間が大変なとき役に立たない 犬 だから…? 


天空もかなぁ、俺は天空に話しかけれずにいた、仲直りのきっかけがなかったんだ。

ここが ただ白いだけのここが ものすごく 静かになった。

その時 目の前にスクリーンの画面が浮かんで 明るくなった。


「きっと ひなたにも パパたちの気持ちが わかってもらえると思うよ…、

パパたちはそんなひどいことはしない、僕は 大好きなパパたちを 信じてる」


僕の方を向いた弥月は 僕の頭を撫でて はっきりとそう言って うなずくと、

画面の方に向きなおした、あわせるように 映像が写し出されて動き始めた。


「パパ…」


隣から声が聞こえた…、でも 俺は 弥月を見なかった、ケンカしてるからじゃない、

俺も ご主人様たちのことが見たかったんだ、戻るはずだった場所 みんなの姿を…。


パパさんたちは家に帰っていた どうやら 動物病院から帰ったところらしい、

弥月の時よりは 小さい箱を 俺がよく寝ていた ゲージの中に入れていた、

本当に あのあとの続きなんだ ここにきてかなり時間がたってるのにな…。


“ごっ… ごめんな… ごめんな ひなた、守ってやれなくて ごめんな…”


パパさんは 泣きながら 小さい箱を たぶん俺が入っている箱を撫でていた、

そこに ママさんがやって来きた、いつも俺がごはんを食べている皿を持っている、

中にごはんと水が入っていた、もう 俺は食べられないのにゲージの前に置いている、

そして 奏星は よく遊ぶおもちゃと散歩のひもを箱の上に乗せて…、泣きはじめた、

明日花はいないようだけど…、どうしたんだろうか、

でも なぜか ご主人様たちは そのことは気にしてはいないようだ。


パパさんもママさんも 涙を隠すように その場から黙って離れていった、

そして 少し離れたところで そっと 奏星を見守っていた、

しはらくすると 奏星が泣きつかれて眠ってしまった 

それを待っていたかのように、パパさんは奏星に近づいて抱き抱え歩き出す、

ママもそれに続くようにして歩き出し、みんな部屋を出ていった、

俺の入った箱のある部屋は 真っ暗になった…。


どういうふうになっているのかわからないけど、今回は俺を中心に映すのてはなく、

ご主人様たちの 誰かを 少し上から映しているようだ、勝手に誰かを追っている、

さっきの俺の過去のように 自由に動かしたりは出来ないようだった。


朝になっても なんだかみんなは あまり話さない… 全く笑わないんだ…、

あんなに笑っていたご主人様たちは ずっと笑わない、奏星はそのまま学校に行った。


しばらくすると 明日花がおじいちゃんたちにつれられて 家に帰ってきた、

明日花は眠っていた、明日花を寝かせて おじいちゃんたちは俺の箱の前にきた、

明日花を迎えた パパさんたちはホッとしたようだったのに また…言葉をなくす。


“ひなた 明日花は無事だったよ、ひなた 守ってくれて ありがとう”


俺が入った箱を撫でながら おじいちゃんたちはそう言った、あの時も言ってたな、

とても、とても 悲しそうな声だ でも なんで? 明日花は無事だったんだろ? 

それから 眠っている明日花のそばで 大人たちだけで話をはじめた、

資料ってヤツかな みんなで何かを見ている、すると 明日花の目が覚めたようだ。


“マっマ… パパっ… にっちゃ… ひーたん ひーたん… ど…こっ…?”


よちよちと歩く明日花は 俺の名前を呼んでいた 俺を探していた、

ずっと探していた…、その明日花を ママさんは抱き締めて 涙を流した、

それから ママさんは明日花を箱の前に連れて行った、“ひーたんだよ”って言って。


“ひーたん ひーたん ぃ…ない…よ ひーたん …どこー”


箱の前に来ても 明日花は また俺を探していた、いないと 泣き出してしまった、

箱が俺だって言われても わからないらしい、遊ぶんだって 泣いている…、

あの時 俺 後で 遊ぼうって 言ってたのに、俺 明日花の兄ちゃんなのに、

ごめんね ごめんね明日花… 遊んであげれなくて ごめんね…。


あれっ これって…、さっきの弥月みたいだ 弥月も 俺との約束のことを言ってた、

そうか 弥月もこんな思いをしたんだな、 弥月もこんなふうに …辛かったんだな。


“にっちゃ…、にっちゃ、ひーたん ひーたんどこ? いなぁ…の あそぶ…の”

“ひーたんは 疲れて寝てるんだよ だから 明日花 兄ちゃんと遊ぼうね…”


いつの間にか学校から帰ってきた奏星が みんなを探して 俺のところに来た、

みんなを見て 明日花を抱き締めている、明日花も奏星にしがみついた、

それからも泣き続けた明日花は 疲れたのか 安心したのか また眠ってしまった。

パパさんは明日花をまた寝かせて、ママさんは 奏星の頭を撫でてから抱き締めた。


「奏星…、大丈夫かな…」


思わず隣の天空を見た、その顔は紛れもなく 弟たちをみんなを心配する弥月だった。


ママさんは “奏星がお兄ちゃんとして頑張ったんだね ごめんね”って謝ってる、

“お兄ちゃんだからって 無理はしなくていいよ”って 奏星を心配している、

奏星は もうしっかりと 泣きたいときに泣けるようだ、

その言葉に たくさん泣いて 泣いて…、泣きつかれて 

明日花のように 寝てしまった。


おじいちゃんたちが帰ってから、明日花は目覚めて 俺をずっと探していた。

それからしばらくは 明日花は起きると 俺がいないと 俺を探すようになり、

泣きだしては 奏星やパパさんたちがなぐさめる、そんなことが続くようになった、

そして俺の入った小さな箱も、弥月の 大事な箱を石でできた箱に納めたように 

弥月の時より もっと小さい箱に入れられて 納められた、

そして家では 弥月よりも少し低いところだけど 俺の写真も並べて置いてくれた。


「もう 俺はいないのにな…」

「そうだね 何をするんだろう」


映像は パパさんたちが俺が行っていた 動物病院に向かうところを映していた、

どうやら 俺のことの報告と 今までのことのお礼を言いに行ったようだ。

少し待ってから 先生に会うと、今までのことや あの時のことを話していた、

だいたい話し終えたのか、ママさんと明日花は 先に出入口へと向かって行く。

そこに…、そこに いたんだ いつも俺たちが 順番を待っていた椅子のところ、 

そこにいたんだ サクラさん と サクラさんのママさんが。


「やっぱり そうだよな 俺 いらなかったんだ…」


思わず声に出してしまった、隣の天空が動いたのがわかったけど 俺は見なかった、

画面の中のサクラさんのママさんが ママさんを見つけて話しかけてきたんだ、

ママさんから 俺のことを聞くと 悲しそうな声で返事をしていた、 

そして そのあと そのあとに サクラさんのママさんは 言ったんだ。


“それは残念ね… それで 次は どんなにワンちゃんを飼う予定なの” ってさ。


サクラさんのママさんは 次の 犬 を飼うことを すごく勧めていた、

“犬が大好きなんだし いないと寂しいよ 絶対に飼うべきだよ” って言ってる、

だよな…、俺は ただの 犬 なんだ、だから簡単に別れたし、代わりもいるんだ。


…でも それは違った ママさんは言ったんだ、あぁ… 弥月の言う通りだった。


“いつかは 飼うかもしれないけど 今は 次の犬を迎えることは 考えられない、

それだけ ひなた は 私たちにとって とても大事な 家族 だったんです”


そうはっきりと言ったんだ そして 悔やんでいた、

俺の子供がいたら寂しくなかったと、突然の別れが来るなんて思ってなかったから、

子供をつくってあげればよかったと。


そこに パパさんが先生と一緒に現れた、もう帰るようだ、先生にあいさつしている、

ドアから外に出て パパさんたちを見送っていた先生が パパさんを呼び止めた、

そして何かを話したていたんだが パパさんが驚いていた 何を話したんだろう。



なんだか 何日か 抜けているような…、映像は急に数日がたったようだった、

隣で天空が 独り言のように話しかける、“編集してるみたいだよ” って、

聞いてみたら 映像を 必要なところだけを見せるように作ることらしい、 

確かに俺がここに来てかなり時間が過ぎてるから それも当然のことだろう。

でも 誰がその “編集”ってヤツをしてるんだろう…、とか考えてしまったけど、

俺たちはずっと画面を見続けていた、ご主人様たちから目を離したくなかったんだ。


相変わらず 明日花は俺のことを探していた、でも泣くことはなくなっていた、

どうやら 奏星が 明日花に言ってくれたらしい。

“ひーたんは疲れて休んでる” と、“僕のお兄ちゃんと一緒に眠っているんだ” と、 

まぁ あっていると言えばだが、明日花は それで納得したのだろうか。


たまに 散歩で 俺に似た犬を見ると “ひーたん げーきに…った?”って、

明日花はママさんに聞いていた 俺 もういないのに 帰れないのに、

弥月も こんな気持ちだったのかなぁ 約束を守れなかった 悪いことをした感じ。


それから また 数日がたったのだろうか…、

今度はソファーに座って なぜかみんなで あの四角いの そうテレビを見ていた。


「どうしたんだろう ご主人様たちテレビの画面を見つめてる」

「あっ、テレビの画面が見やすくなった」


映像は 上から見ている感じで、ご主人様たちの顔がよく見えなかったけど、

でも これで テレビ画面やご主人様の顔が見やすくなった まるで…、

まるで ご主人様たちと そう弥月も一緒に ソファーでテレビを見ているようだ。


「どうしたのかな パパたち、みんなで 動物の番組 を見るのかなぁ」

「あっ あれって あの 動物病院の先生じゃないか?」


みんなが見ていた その動物の番組ってヤツに あの動物病院の先生が映ったんだ。

画面の中の 番組の司会者って人間が 今日の番組の内容ですと 説明を始めた、

そらから しばらく、動物のかわいらしい姿というのが映し出されていた、

犬の俺が見てもなぁ…、失敗してるのがかわいい? 何が楽しいのかわからないが、 

テレビの中の人間は楽しそうだった そして…。


「えっ、 どう言うことだ 天空」

「えっ~っと 動物病院の仕事を紹介するのに…、僕やひなたのことを話すみたい」

「なんで?」

「そうか、パパがお礼を言いに行ったあの時 テレビのことを話してたんだ」


俺たちのいない部屋で ご主人様たちはテレビで様子を見守っているようだった、

テレビ画面の中で いつもの動物病院が映し出されている、

俺 知らなかったけど あの先生 いろんな動物を助けてるんだな…、

先生も 看護師さんも いろんな動物たちの体調を気づかって治していたんだ。


そして 司会者が言った ある家族とペットの話を聞いてほしいと、

すると 俺たちの話が 一部 再現映像ってヤツで画面に写し出された。


「今テレビに映っている あれって、俺 や 弥月 ってことなのか?」

「そうだね… 僕たちのこと演じてくれるんだ、なんか… う~ん 照れるね…」


でも 見ていくうちに 俺たち いや ご主人様たちも だんだん静かになった、

その映像は 俺たちが楽しく暮らしていた頃の話から 俺たちがみんなと別れた、

感染症で苦しんだ弥月 と 車にひかれ安楽死した俺 が映って終わったのだ。


“感染症は 頑張って白血病と戦った少年の その少年の 小さな願いを奪いました、

その少年を待ち続けた 愛犬 は その少年の大事な家族を命懸けで守った、

感染症 この病気がなければ 病気を軽んじたことで 院内感染が起こらなければ、

この少年は 今頃 大好きな愛犬と 元気に駆け回っていたのかもしれません”


司会者はそう話した、そして この再現を見て 皆さんはどう思いますかと続ける…。


“未だに感染は広がり続け、直接的、間接的にも感染で苦しむ人も増え続けています、

そして 治療にあたる病院関係者 医療現場の状況も逼迫してきているのです。

このような悲しい別れが起こらないように 皆さんのご協力が必要なんです、

皆さんの相手を思いやる行動が ご自身の身を守るだけではない、

あなたの 大事なご家族の 大切な人の命を 守ることにつながるのです…”


テレビの中で何人かの人間が話し合っていた 誰が悪いとか かわいそうだとか…、

でも それこそが 他人事なんじゃないかなって感じてしまう、そして…。


“ちょっと話はそれてしまいましたが、この番組は動物のことを紹介する番組です。

今回は 動物病院の仕事として、“殺処分” のお話を皆さんに見ていただきました、

このご家族は やむを得ず 大事な家族 ペット との別れることになりましたが、

今もどこかで、違法に動物が遺棄されたり、人間の都合で殺処分されてたりしている、

それは まぎれもない現実なんです。

この番組をご覧の皆様、いえそれだけじゃない 動物を飼っている皆様にも、 

どうぞ そんな悲しい別れを選ばないでほしいと願う次第です”


締めくくりと言うのかな その言葉で番組は終わった、けど…、

ご主人様たちは あまり言葉を交わさないまま その日は眠ってしまったようだ、

そして 天空も 隣で黙ったままだった、だから 聞いてみた。


「なぁ 天空、さっき言ってた 遺棄とか 殺処分とか… それってなんなんだ?」

「それは…」


「やっぱり そうじゃないか! 人間は要らないからって 簡単に…」

「違うよ ひなた そんな人間ばかりじゃないよ それに パパたちは…」

「だって 安楽死だって 殺処分だって それは要らないからするんだろう!」


天空は話しづらそうに “遺棄とは カイザーのように捨てることだ” と言った、

殺処分とは…、その捨てられた動物たちをまとめて処分することだって、

殺処分… そう “安楽死” のようなことを 大量に…するんだって…。


俺がパパさんたちの日常から あの家で過ごす日常からいなくなったあの日…、

パパさんたちは 俺のことを悲しんでくれていた。


お兄ちゃんだからって頑張ってた奏星は 俺たちのために怒って 泣いてくれた、

パパさんは ごめん ごめんって謝りながら たくさん泣いてくれた、

ママさんは 涙を流しながら 俺の好きなものを置いてくれていた、

そして、俺がいなくなった意味もわからないのに 明日花は俺を探して泣いてくれた。


あの時 ママさんが勧められても “次を飼うのは…”って 言ってくれたから、

俺、間違っていたかなぁって やっぱり人間はそんなじゃないんだって思ったのに、

ご主人様たちは 俺を 代わりがいる ただのペットだと 思っていなかった、

俺のことを家族と同じように大切に思ってくれたんだって、そう思ったのに、

やっぱり人間は簡単に動物を…、だからご主人様たちも あの時あんなことを…。


奏星は10歳の誕生日を迎えていた、弥月や 俺にも 祝いのケーキが置かれている。

俺たちの誕生日だったんだよな、毎年3人一緒に祝ってもらってた誕生日、

それができなくなってから 祝ってもらうのは ついに奏星 ひとりになった。 


誕生日だけど もう映像は勝手に止まらない もう映像は俺の過去じゃないんだ、

俺の知らない日常 俺たちがいなくなった後の日常なんだ…。


日がたつにつれて ご主人様たちに笑顔が 笑い声が 少しずつ増えていった、

俺 や 弥月がいないのに 何も変わらないんだな…、いや ひとつ変わったか…、

ご主人様たちは あの箱があったところをキレイにしては 毎日 手を合わせてる。


天空は すっかり 静かになってしまった、そっと 横目で見てみる、 

画面を見ているけど 天空… いや 弥月の顔は 悲しそうだった。


「天空… ごめん、俺 天空とケンカをしたいんじゃないんだ…」

「ひなた…」

「天空に…、弥月には…そんな悲しい顔をしてほしくないんだ、笑っててほしいんだ」


天空は俺の方を向いた そして 俺を膝の上に乗せてくれた、

あぁ… 俺たち…、俺たちは二人きりなんなだな…、ここで二人…、

ご主人様たちと離れて 俺たちはしばらく二人… いや それも もう…。

 

ご主人様たちの毎日は続いている、俺たちを残して ここに残して 先に…、

なんだかわからないけど、映像が突然 進んでしまうことはなくなっていた、

現在に映像が追い付いたのかも…って 天空が俺を撫でながら教えてくれた。


奏星が夏休みに入ったり 明日花がもっと言葉を覚えておしゃべりしたり、

パパさんもママさんも忙しそうだけど なんだか嬉しそうで… 幸せそうで…、

反対に俺は寂しくなる… 天空の隠していたようだけど 手に少し力が入っていた。


「ママと おじいさん 仲直りができないようだ ちょっと心配だね…」

「あぁ 奏星も 避けてるみたいだなぁ」


夏休みを利用して おじいちゃんたちが お土産を持って遊びに来たんだけど、

そこには ママさんのパパさん “おじいさん” だけがいなかった、

ずっと謝っているようだけど ママさんも 奏星も 会いたくないって言っている。


「仲直りできるかなぁ、ねぇ ひなた、ひなたは… その…さ… 怒ってるの?」

「おじいちゃんのこと? そりゃ 怒ってるよ あんな目に合ったんだ」

「じゃ ひなた おじいさんのことを…」

「…もう もういいよ、映らないからわからないけど 反省して 謝ってるんだろ」


呆気にとられる…だっけ、俺の顔を覗いた天空は 俺の言葉を聞いて、

ちょっと驚いた顔をしていた、ても なんで そんな顔をするんだろう? 

確かにおじいさんはヒドイことをした、確かに怒っているよ 腹が立つ、

だけど もう どうすることも出来ないし、それに… それにさ やっぱり… 俺…。


「あれっ また パパたち テレビを見るんだ」

「なんだ 特集って んっ また あの動物病院か?」


画面のご主人様たちが おじいちゃんたちまで また テレビの前に集まっていた、

そして映像が テレビが見えやすいように また動いた、それは それはまるで、

ソファー回りに座るみんなの中に 俺たちもみんなの中に入れてくれたようだった。


“以前の放送のことを 視聴者の皆様は覚えていらっしゃるでしょうか…”


司会者のその言葉から 番組は始まった、そして 司会者は言う、

この放送後 様々な反響があり たくさんのお声をいただきましたと、

そして 謝っていた、放送のお礼に 取材した動物病院に連絡したところ、

ご迷惑をかけてしまったことがわかったと。

どういうことだ? そして また 再現映像って言うやつが映し出された。


テレビのおかげなのか 動物病院を指名して来る飼い主さんが増えたようだ、

“ペットの健康のためにも 定期的な受診はいい傾向だ” と先生は喜んでいた。

それなのに…、ある日 来院したある飼い主が 病院で先生に言った言葉、

その言葉に先生は言葉を失い、安易に取材を受けたことを 後悔していた、

その飼い主は 思いっきり 言ったんだ。


“テレビを見てきた ここなら簡単に ペットを処分出来るんでしょ” って。


「ひっ ひどい…」

「なんだよ なんで そんなひどいことを 人間は なんで平気で言えるんだ」


画面に司会者が映った 司会者は言う 前回の番組の意図が伝わらなかったと、

そして “改めて 動物たちの現状を 処分の本当の意味を考えてほしい” と。


次に映し出されたのは 遠くから人間たちを寂しそうに見る 犬の群れだった。

それは カイザーの映像を見たときのような感じだ、

司会者は言う あれは飼い主から捨てられた犬のたち、そして繁殖した結果だと、

野犬化した犬たちは 様々なトラブルを起こし、あのように寂しそうにしてると。


「なんだ 寂しそうにって 保健所に行けば みんな帰れるじゃないか」


キレイな庭の 大きな家 次に映ったのは その “保健所” だった、

たくさんの人間が働いているらしい いろんなところを紹介している。

そうだよ、寂しそうにしていても あそこに行けば みんな帰れるんだ、

でも… それは 違った、デュークくんの言った通りだったんだ。


「なんで? 今 画面に映されている犬たち…、みんな怖がって 泣いてる…」

「ひなたには あの子たちが 何を言ってるのか 聞こえるんだね」


ある場所の 犬が映し出されると その状況は一変した、

人間の話が中心だから 犬の声が入ってないときもあったけど、

でも たまに入ってくる その犬のたちの声は その声はみんな…。


「みんな… みんな言ってる 助けてって 出してって、ご主人様 助けてって…」


もし 人間の手のように耳を塞ぐことができたら どんなにいいだろう、

でも 犬の手ではうまく出来ない 耳を塞ぎたい… 聞いて 聞いていられないよ、


俺はその時 はじめて 子供の頃から言われてた “怖いところ” の意味を理解した。


処分ということは こういうことなのだと 人間を信じ ついてきた動物に、

寂しい 悲しい思いをさせることなのだと、俺の思ったことを司会者が話している。

よく考えて欲しいと司会者は言うと、あの言葉の話へと 話題がかわった。


“動物病院の院長は 今回 いえ、今後は メディアの取材は受けないそうです”

司会者がそう言う、そしてあの来院した飼い主の再現映像の続きが流れはじめた。


“この病院なら 簡単に処分してくれるんでしょ、それで 処分費 はいくら?”

“処分…と 申されますが、この 犬 は とても 若く 健康そうなのですが”

“えっ そうだよ だから困ってるんじゃない”

“それは… どういうことでしょうか”

“どういうことって 見ればわかるでしょ、俺 犬が好きで 衝動買いしたんだ、

だけどさぁ、この犬 すぐにこんなにデカくなって、スゲー力だわ よく食うわ…”

“それは 大型犬ですから…”

“飼うのがこんなに面倒だと思ってなくてさぁ、で、小型犬に替えることにしたんだ”

“なら 仲良く二匹を…”

“そんな 保健所みたいなこと言わないでよ、実は 先に保健所行ったんだけどさぁ、

くどくど スゲー ウザくて、そのまま処分せずに帰ってきちゃったんだよね、

仕方ないから 今度 捨てに行こうと思ってたんだけど、…そしたらあのテレビだよ、

ここなら簡単にやってくれるんでしょ、なんなら金はずむから早く処理しちゃって…”


テレビの中で 司会者と見ていた人間は その言葉に何も言えないようすだった。

そんな状況だけど 思い出したかのように 司会者は番組を進行しようとしている、

“この飼い主さんの要望を 獣医師さんは説明し断っています” そう言うと、

次に “動物病院の院長からのコメントです” と言い 何かを読みはじめた。

    

“先日はありがとうございました、放送後 当院を指名してくださる方も増え、

私達 スタッフ一同 日々 動物たちのために 勤めさせて頂いておりました、

しかし 処分を希望した飼い主さんの言葉に 取材を受けたことを後悔しました、

このような結果に 今後は取材はお断りしようとスタッフと話しおりましたが、

前回 紹介したご家族のために もう一度お話をお受けしました。

誤解があるなら この場であの時のことを 訂正させていただきたいのです。

当院は ご家族に向かえた動物たちが 健やかに過ごせるように 勤めており、

決して 人間の都合で 健康な動物の命を奪うことを目的とはしておりません”


「えっ?」

「よく見ていて ひなた」


思わず天空の顔を見ようとした、天空は 俺を膝の上に乗せたまま映像を見ていた。

人間の都合…とか司会者も言っていたけど そのせいで 俺はここにいるんだろ?

そして 司会者は いつもの先生の 院長の言葉を読み上げた。


“あの時 飼い主様は 愛犬を助けようとしていました、

犬(患者) は ご主人の期待に答えようと苦しいのを我慢しておりました、

ワンちゃんを救ってあげたかった、しかし 私どもの力が及ばなかった、

最後の最後まで諦めすに助けようとしていた飼い主様に その事を説明し、

残酷な決断させてしまったのです、飼い主様は 愛犬の その命がつきるまで 

いえ その後も 犬に寄り添い泣いておられました、

このご家族は 決して 自ら望んで 飼い犬を安楽死させたのではありません”


「ご主人様…」

 

また…、また 目の辺りが濡れている 天空か? 俺は 犬 だから涙は出ないはず、

それを確かめる前に 画面の司会者が話はじめた、

この 動物病院を通じて 飼い主様と連絡をとり お手紙を頂きましたと。


“番組 拝見いたしました、息子の話が 皆様の役に立てればと思っておりましたが、

お世話になった獣医師さんより その後のこと聞かされ謝罪を受けました、

私達も取材はお断りするつもりでしたか、一度だけ 息子の為 お話させてください。

私達は 息子とも 愛犬とも こんな突然の別れが来ると思っておりませんでした。

私達は 息子を亡くし 息子の大好きな愛犬も 守ることが出来ませんでした。

病気がなければ あの事故さえなければと 日々 悔やんでも悔やみ切れません。

別れの日、愛犬(あの子)は 私達の呼び掛けに 必死に答えようとしておりました、 

その姿は とても辛そうで 苦しそうで、もう ゆっくり休ませてあげたかった。

自分なりに覚悟を決めたつもりでした、ですが 自分で決断したにも関わらず、

安楽死をさせたことは正しかったのか いまでも わからないのです、

少しでも長く一緒にいたかった、奇跡を信じたいほどに一緒にいたかったのです。


よく 次の犬を飼うことを勧められます、しかし 私達は今も愛犬を探してしまう、

先に召された息子と楽しそうに遊ぶ愛犬(あの子)の姿を探してしまうのです。

愛犬(あの子)は こんなことをした 私を許してくれるのでしょうか、

もし 許させるのならば そして 次の犬を飼うことを許してもらえるのならば、

それは 愛犬(あの子)が楽しそうに遊ぶ姿を懐かしく思えたときだと思うのです、 

それまでは 愛犬(あの子)のことを たくさん思いだして 冥福を祈るつもりです。


どうか皆様 自らペット(家族)といることのできる幸せを 手放さないでください、

私達は どんなにそれを 愛犬(あの子)と過ごす日々を望んでも もう叶わない、

どうぞ皆様は後悔しないように ペット〈家族〉との幸せな時間を大切にしてほしい、

このお話が 私達と同じような後悔を生まないように役立つことを願うばかりです”


テレビの中では司会者たちと他の人間との話が始まった、やっぱり他人事だなぁ、

ひどい人間がいる、ご家族がかわいそう、私はそんなことしない…って言っていても、

どこか 現実だと思ってないように見えてしまう、そんな感じのまま番組は終了した。


おじいちゃん達は それが合図かのように それぞれの家に帰っていった、

見送ったご主人様たちは また ほとんど何も話さないまま 眠りについた。


俺 すごくバカだな あのご主人様たちを疑っていたなんて ホンとバカだ。

やっぱり ご主人様だ 俺の大事な すごく大事な ご主人様達だ、

すごく痛い ひどいお別れになっちゃったけど…さ、俺 本当に幸せものだ。


やっぱり 俺 人間のことが大好きだ、ご主人様たちが 弥月が大好きだ、

…ご主人様達に あの人達に飼われて よかった。


「天空 今 俺の頭の中を覗いたろ」

「えっ? そんなことしてないよ」

「だって なんか ニヤけてるじゃないか」


俺もきっと 今の天空の顔のように 照れ笑いみたいな顔をしてるんだろうな…、

ご主人様が、弥月にはパパさんたちが、俺たちのことを忘れず大事にしてくれる、

そのことが すごく… すごく嬉しかったんだ。


「でも…、ちょっと心配だね」

「何が? 何がだよ 弥月」

「パパたち 僕たちのことを忘れないでくれるのは嬉しいけど、未来を見てほしい」

「未来?」


また 覗き込むような映像に戻った、それから よく見てみると、

パパさんたちは ぼっーつとしたり 悲しそうな顔をしたりすることがあるんだ、

それは 何かが邪魔をして 動けなくなってしまったような、 

そこにとどまっている感じが、まるで鎖でつながれて 自由のない犬みたいだった。


「あれっ あの人間って」

「テレビ局の人たちかな、何かを渡してるようだね なんだろう」


映像には 俺たちの家に テレビ局の人間が訪ねてきていた、

直接 謝罪にきたと言っているようで、パパさんがそんな必要ないって言ってる、

それでも謝る人間の 顔を上げさせて 何かを受け取ると優しく送り出していた、

テレビ局の人間は 何かを置いていったようなんだけど、なんだろう。


「あれが 大人の謝罪ってヤツなんだ、だとすると… あれ 菓子折り かな」

「なんだ 大人の謝罪って」

「パパたちは怒ってなかったけど、大人は謝るのに ただ ごめんなさいじゃなくて、

土下座って言うのをしたり、お菓子とか持ってくるんだって」


そうなのか そんなものなのか、確かにお菓子もあったようだ、それに…、

渡された袋には お菓子以外に なんだか紙が 入っていたようだった。


「なぁ 天空 あの紙って なんだろう」

「内容までは 見えないけど、テレビの反響って言ってる パパたち宛みたいだ」


部屋に戻ったパパさんは 袋から中身を取り出した、奏星はお菓子に興味を持ってる、

そして パパさんたちはソファーに座り 中身の 手紙? とかを読みはじめた、

しばらくすると、読んでいたパパさんたちは …目を拭いはじめた。


「どうしたんだろう…」


ソファーから立ち上がったパパさんは 手に手紙を持ったまま、

まっすぐ 俺たちの写真のあるところに向かい 手紙を写真に見せていた。


「…もう パパさんたちは 大丈夫だな」

「そうだね 僕たちのことも忘れないし、ずっと過去にとらわれないで すごせる」


他のみんなも 俺たちの写真の前 パパさんのそばに 集まってきた、

映像はまるでその写真からパパさんたちを見るように切り替わり顔がよく見えると、

みんな笑ってた、泣きながら笑ってた、とても とても 幸せそうな笑顔で笑ってた。


「見えるか 弥月 ひなた、お前たちの話を聞いてくれた人たちがくれたんだぞ、

番組を見て 保健所の犬の譲渡会を知って 譲り受けた犬を飼いはじめたそうだ、

1日でも長く一緒にいれるように、大切にしていきます だってさ、

弥月たちが この犬を救ったんだぞ 良かったな…」


パパさんが うれしそうに写真の俺たちに話しかけていた、 

その言葉を最後に、映像は終わり 目の前の画面は暗くなった。


「終わっちゃったね…」

「あぁ ちょっと おじいさんは心配だけど… まぁ ご主人様たちならきっと…」


俺をソファーに乗せなおした天空が、寂しそうな顔をしながら俺に言った、

俺も 俺もちょっと寂しくなってきた、もう あの手で撫でてもらえないんだなぁ…。

それでも 俺はどこか誇らしい気持ちがしていた、たぶん天空も… そうだよ…な。


「それじゃ… ひなた いえ ひなたさん」

「なんだよ 急に どうしたんだよ 天空」

「映像は終わったので あの台の上に立って 選択を…」

「……なんで、なんでそんなことを言うんだよ 弥月」


弥月が 急に真面目な顔をして 話はじめたと思ったら、

なんで なんでそんなことを、弥月は… 弥月は…。


「何でそんなことを言うの 弥月は 僕と会えたことは 嬉しくないの、

そんなに僕とお別れしたいの?」

「違うよ 会えてすごく嬉しいよ もっと もっと ひなたといたいよ」

「なら そうしよう ここなら何でもあるし 弥月とずっと一緒にいれる」

「しばらくはいいけど ずっとは… 神様は それを許してはくれないよ…」


天空が… 弥月がすごく困った顔をした… 俺のせいで またあんなに悲しそうに…、

もう… もうイヤだ、もう 俺の大事な家族の 悲しい顔を見るのはイヤだ、

俺 ご主人様たちを悲しませてこっちにきたんだ、だから… だから…、

ここにいる 弥月には 笑ってほしい、だって 俺は 弥月の兄ちゃんなんだから。


「…俺…さ、あの台に… 乗ってみるよ」

「いいの ひなた、本当にいいの?」

「乗ったら すぐに どこかに連れていかれるんじゃないんだろ…」 


そうは言ってるけど 俺のしっぽは上がらない どんどん下がっていく、

あぁ…情けない兄ちゃんだ…、だけど 何とか天空と一緒に 空色の台に近づき、

少し離れて待っている 悲しそうな天空に見守られて 俺は空色の台に飛び乗った。


どうでしたでしょうか…。

あえて 人間の都合…という中でも ヒドイ飼い主を表すために、

あんなヒドイ台詞を言わせ、常識のない人間を登場させました、

テレビなどにより 広まらなければ 考えることもないだろうとテレビの展開にしました。

ちょっとテレビっていう展開が…と思うところがありますが、

それに 動物病院であんなヒドイことを言う飼い主もいないと思いますが、

実際に 人間の都合がどこかで起こっているんだとも思うのです。

皆さんはいかがでしたでしょうか。

長かった投稿もあと1章 読んでいただけれは嬉しいです。





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