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人間になりたかった犬  作者: 仁咲友希
17/20

ー 映像の最後 ー

いよいよ映像の最後です 読んでいただいたみなさま(いるのかなあ…)は

真っ白なところに居るということで、それは想像されていると思いますが、

どのような最後を想像されているのかなぁ…などと思いつつ、続きをどうぞ。

ー 映像の最後 ー



過去の俺たちは 遅れて 誕生日を祝い また 日常に戻っていった。

それにしても… 俺 あれだけ家の中を走り回って怒られてたのにな…、

映像を見て改めてそう思う、俺はソファーのある部屋で、あの大事な箱のそばで、

パパさんがくれた たぶん犬用のクッション?に座って ほとんど動かない、

そして 弥月 と ママさん の帰りをずっと待っている。


「奏星 せっかくの夏休みなのに…」


また 天空がつぶやいた、 よく見ると 確かに 奏星は 夏休みに入ってから、

パパさんと出かけるか 俺との散歩以外は、ほとんどを家で過ごしているようだ。

弥月といつも遊んでたのに、そうだよ 夏休みは旅行に行ったりとかするんだよな、

ここで話していたことを思い出す、さっきまで楽しく話してたのに… 天空。


たまに おばあちゃんが訪ねてくる以外は 何もなく 夏休みは終わったようだ、

また奏星は 朝 学校に行くようになった パパさんは心配そうに送り出している、

けど、奏星は学校が始まってから、ひとりで ボーッとすることは少なくなった、

徐々に 友達と遊びに行くようになった、その様子に パパさんも落ち着いたようだ。


「よかったね 奏星…」


俺の横で つぶやいている天空も パパさんのように安心したような顔をしている、

ふたりがいない以外は 俺たちの家には穏やかな日常に戻った…んだけど…。





「さぁ 着いた、ひなた いくぞ」


狭いところに入れられたから ドッグランに行くのかと思っていたけど…、

どこだろう 知らないところだった、そうせいがひもを着けてくれた。


「パパさん、大事だから持ってきたのかなぁ」


前を歩くパパさんについていく、パパさんはあの大事な箱を抱えているんだ、

パパさんは箱を持ったまま 人間の住みかに入っていった、じゃ 僕も…って、

やっぱり 僕はお留守番なんだね、そうせいが僕のひもを外で結んで入っていった。


どうやらおじいちゃんたちがいるみたいだ、中で何を話しているんだろう。


「もう着いていたの 父さん 母さん」

「ええ 思ったより 早く着いてね、あちらも もうすぐ来るそうよ」


「あっ おじいちゃんたちだ、でも… ここじゃ気がつかなよね」


ママさんの方のおじいちゃんたちが歩いてきたんだけど… なんだろう…、

僕に気づかずに なんだか 急ぐように 住みかに入っていった、

どうやら 中で みんな一緒になったみたい いいなぁ 僕も遊びたいなぁ、

だけど…、みんなで集まってるのに ここにママさんはいないんだよな。


「今日は すみません お義父さん お義母さん、足を運んでいただいて」

「いえ 孫のことですから…」

「あの… それで… その… 柚希は…」

「あの子は 遅れてきます、わざと用事を言って 遅れるようにしました」

「そう…ですか…」

「でも 本当にいいんですか? お話を聞いたときは驚きました」

「柚希もあの調子で 迷ったのですが、ずっとこのままでは、かわいそうですし…」

「ですが…、それでは あまりにも奏星が…」

「そう…ですよね、でも 奏星に話をしたら 協力するって 言ってくれたんです」

「ですが 子供には あまりにも…」

「ふたりでよく話し合いました、それも 僕たちのワガママかも知れませんが、

きっと 柚希も送りたいって思うだろう なら 後で後悔をしないでほしい…と」

「でも 奏星に 弥月のフリを させるなんて…」





「えっ どういうことやなんだ?」


弥月のフリ? いったい…どういうことなんだ、わからない… わからないよ、

映像をを見ながら 思わず声を出してしまった。

知らないところには ご主人様も おじいちゃんたちも みんな集まっていた、

集まると決めていたんだろうか、みんな 合わせたように 黒い服を着ている。

なぁ天空… どうして こっちを向いてくれないんだよ… 俺を見てくれよ 天空…。


流れる映像から ご主人様たちとは違う なんだか 寂しい 悲しい声がしてきた、

なんだか 寂しいんだけど… なんだろう すごく落ち着いていく…。

過去の俺も同じようだ そっと聞いている、でも 俺 このことを思い出せないんだ、

なんでだろう なんでなんだろう、もう 今の俺に近い映像なのに、

映像が近くなればなるほど 記憶ってヤツは はっきりするんじゃないのか?


このあと どうしたんだっけ…、はっきりしない どうしても思い出せない、

んっ~… あっ なんかこのあと 何か大事なことが あったような感じが…。


「あっ ママだ」


天空が 叫ぶように言った、何かを思い出せそうだったけど 思わず映像をみた。

映像の中では ママさんが みんなに合流しようとしているところだった。





「まったく 母さんたら 忘れ物したから 取りに行って なんて」

「まっ ママさん」


ママさんが声のする方に向かって歩いていったけど ひものせいで動けない、

中に入っていったみたいだ、でも なんだろう 怒ってるのかな、

ママさんの声がまったく聞こえなくなって みんなの声も聞こえなくなった、

あの落ち着く声だけだが 僕の耳に届いていた。


あぁ なんだか うとうとしちゃった…、本当に 落ち着く声だったなぁ。

代わりに みんなの声が 聞こえるようになった、こっちの方に来るのかなぁ…。


「弥月! ねぇ 弥月 体調はどう? ママ 弥月のことすごく心配してたんだよ、

ママね すごーく弥月に会いたかったんだから」

「ママ…、僕…は… 僕は 大丈夫だよ ママ」

「そう よかった…、じゃ もういいよね、 弥月 ママと一緒に帰ろう」

「えっ ママ 帰れるの? お家に帰ってこれるの?」

「違うよ… 帰るのはおばあちゃんのところ お家じゃないよ、さぁ ママと帰ろう」

「おばあちゃんの家に? 僕たちの家じゃない…の…?」


ここからは 姿は見えないんだけど…、そうせい 大丈夫かなぁ、

ママさんと話していたそうせいの声が 小さく 弱々しくなったように思えた。


「柚希 こんなところで 何を言ってるの! そっ… 困ってるでしょ」

「何よ 母さんまで、だいたい 母さんが忘れ物なんてするからでしょ」


みんなも そばに集まってきたようだ 声がだんだん 大きくなっていく。


「太樹の親戚かなんかだろうけど、もう私には関係ないんだし 帰るから」

「柚希…」

「太樹もそこにいたんだ、ずっと会わせてくれなかったけど やっと弥月に会えたよ、

太樹、弥月はこのあと私が家につれていく そして今日から私が弥月と暮らすからね、

もう 太樹には 弥月をまかせられない」


なんだろう ケンカしてるのかなぁ…、ママさんの声はさらに大きくなってる、

パパさんまで そうせいのように 弱々しい声になっていく。


「ママ… おじいちゃんの家には パパたちも一緒に行くんだよね?」

「違うよ 弥月、おばあちゃんの家に行くのは ママと弥月だけだよ、

これからママと暮らすの、ママと弥月で ずっと一緒に暮らすんだよ」

「…ママ」

「もう いい加減にしなさい 柚希、こんなところで 何を言っているの」


なんだろう 大騒ぎになってる そうせい 大丈夫かな…、そばに行きたいのに、

このひもにジャマをされて そばにいけないよ。


「僕… 僕 行かない、みんなと一緒じゃないと行きたくないよ ママ」

「どうして 弥月、弥月はママのことがキライなの?」

「ママのことは 大好きだよ、でもね それと同じぐらい パパのことも、

みんなのことも 大好きなんだよ」

「みんな?」

「そうだよ 僕は… 僕は みんなと居たいんだ、だから…」

「弥月…?」

「僕は みんなと離れるなんて嫌だよ みんなが一緒がいいよ、僕は…僕は…、

みっ…、……、そっ 奏星も一緒じゃないと嫌だよ 僕たちは いつも一緒に…」

「……弥月…と そうせい? そう…星… 弥月…と… 奏星 ……明日花!」

「ママ! ママ 大丈夫 ママ、ごめんなさい ごめんなさい ママ」

「こっちにおいで奏星、大丈夫 大丈夫だよ 奏星は何も悪くない…悪くないよ…」





特に何もしていないけど 俺がそばにいるからか、映像はご主人様たちを映していた、

みんなで集まって何かを話をしていたんだけど…、映像の中は大騒ぎになっていた。

泣き出しそうな奏星、その奏星を抱きしめるパパさん、そして…、

奏星の言葉に なぜか叫び出したママさんを支えるおばあちゃんを映し出していた。

どうやら ママさんは眠ってしまったようだ…、あっ これが気絶ってヤツか。


ご主人様たちの騒ぎに 知らない人間がやって来た、こちらに…って案内してる、

おじいちゃんたちに助けられて ママさんは 案内された隣の部屋で横になった、

案内された部屋は 過去の俺が覗けそうなところで 映像はママさんを映し出す。


おばあちゃんがママさんの様子を見ていると、隣の部屋でさらに大きな声がした。






声が聞こえる おじいちゃんかなぁ…、すごく怒ってるようだ。


「どういうことだね 太樹くん、しっかり 話をしたんじゃないのか」

「どういうことですか?」

「奏星にちゃんと話をしないから あんなこと を言い出すんだろ」

「あんなこと とは?」


ママさんがこっちに来たときに 中がちょっと見えたんだけど…ひもがあるからな、

人間だったらこんなひもつけられないし 人間の住みかに入ってそばに行けるのに。


「奏星は 弥月になるって決めたんだろ なら 奏星の名前を出すなんて…」

「弥月と奏星は兄弟です、互いの名前を呼ぶのは当然のことではないですか、

奏星はいなくなったんじゃ ないんですよ」

「だいたい…、奏星だろうが弥月だろうが 双子なんだからどっちだっていいだろ…」


「…さっきから聞いていましたが その言い方はあまりではありませんか」

「それは お宅さんは孫によく会ってますからな、しかし 今は奏星より弥月だ、

今の柚希には 弥月が必要だ、弥月がいなければ 柚希は元に戻らないんだ」

「あなた いい加減にしなさい! あなたは ホンと黙ってて!!」


「奏星 こっちにおいで…」

「おばあちゃん…」


まだ 大騒ぎしてる、明日花とそうせいは おばあちゃんにつれられてこっちに来た、

どうやら 明日花をママさんの横に寝かせたようだ…。

おばあちゃんが、僕を見つけて 僕をもう少し住みかに近づけるようにしてくれた、

でも なんでだろう? そうせいは 眠っているママさんたちに近づかない、

はなれたところから様子を見ているようだ。


「ほらっ 奏星 こっちに入っておいで…、こっちなら 明日花も起きないでしょ」

「でも おばあちゃん…」

「大丈夫よ、明日花も ママも眠っているから、明日花のことをみてあげて」

「明日花のことはみるよ… でも…」

「そうだ、ママが起きそうになったら おばあちゃんを呼びに来て、

それならできるでしょ」

「…大丈夫…かなぁ」

「大丈夫…大丈夫よ、ママは病気のせいで びっくりしちゃっただけだし…それに…」

「おばあちゃん?」

「奏星… 奏星は間違ってないよ、何も悪くない、奏星は奏星なんだから、

奏星は頑張ってるんだから…、ママは 今は 病気だけど 治ったらちゃんと 

奏星のことを呼んでくれるよ…」


何を話しているんだろう、おじいちゃんとパパさんはケンカしてるようだし、

そうせいは すごく悲しいような声を出して おばあちゃんに抱きしめられている、

僕には 何もできないのかなぁ…、ねぇ そうせい、ねぇ ママさん…。

おばあちゃんも そうせいたちをおいて そこから離れていった。



「うっ…、う~ん…」

「あっ!」

「ママさんが起きるみたいだ、なのに… どうしたの そうせい」


そうせいが ママさんたちから離れた、隠れてみているようだ、なんで?

ママさんが起き上がったのをみて そうせいはどこかに行ってしまった。


「あれ…? 私… なんで…、あっ そうか… ここ お寺か…、えっ…!?」


ママさんが起きたみたいだ、僕は ママさんに見えるように体をそちらに向けた、 

ママさん 僕に気がつくかなぁ…、それにしても じゃまだな このひも。


「なんで赤ちゃんがここに寝てるの? 誰もいないの? 危ないな…、そうだ!」


ママさんが僕のほうに向かってくる、僕に気がついたのかなぁ…。


「まったく…、こんな小さい赤ちゃんを…、いったい どういうつもりで…、

ほらっ こっちの方が気持ちいいよ、…あっ ワンちゃんがいる」

「ママさん ママさん どこにいってたの あれからずっと 待ってたんだよ」


明日花と一緒に来たママさんは ふわふわ柔らかいのの上に明日花を寝かせてから、

まどをあけると ソファーに座るようにして 外に足を出した。

僕が近づくと あたまをなでてくれた、久しぶりにうれしいよ ママさん。


「君は人懐っこいね…、もしかして… えっと…、あっ ひなただ 君はひなたなの?」

「ママさん、ママさんが呼んでくれた、僕の名前を呼んでくれた うれしいよ~」

「そうか~ やっぱり ひなたか~、太樹 なんで つれてきたのかなぁ…」


しっぽが ものすごく早く動いてる でも止められないよ うれしいんだもん、

でも うれしくて大きな声がでちゃったら ママさんに怒られちゃった。


「あっ…うっ… うわ~ん…」

「ほらっ 騒ぐから 赤ちゃんが起きちゃったじゃない…、大丈夫…大丈夫よ…」


僕が騒いだから 明日花が起きてしまった、ママさんが明日花を抱き上げてる、

ごめんね明日花、兄ちゃんが悪かったよ…。


「ほら 明日花…、ひなたも心配してるよ…、怖くないよ… 大丈夫…だい… えっ?」

「ママさん…?」

「あれっ 私 今 “明日花” って言った、えっ 明日花って この子の名前?」


ママさんは、泣き止んだ明日花を またふわふわのところに寝かせた。

そうせいが戻ってきたのかな、離れたところから声がする…。


「イタッ…、なんだか…頭が…、痛く…なってきた…」

「うっ… うっ…う…」

「大丈夫 大丈夫よ…、あっ 寝返り!? もう寝返りができるようになったのね…」


明日花が 頭を抱えているママさんに向かって手を伸ばした、心配なんだよね、

その様子を見ているママさんは なんだか様子が変だ 具合が悪いのかなぁ。


「あっ… あぁ… …まっ…」

「イタッ…、どっ… どうしたの ママを心配してくれるの」

「うっ…、まっ まっ…… まっ…ま ままっ…、ママっ…」

「ママ? 今 私のこと ママって言ってくれたの ママって?」

「まっま ママっ…、ママ…」

「明日花…」

「ママ… 病気は大丈夫なの?」


離れたところからそうせいが声をかけた、なんだか声が 元気なく弱々しいな 

どうしたんだろう…、ママさんのそばに行けばいいのに…。


「…ママ、わかるの? 明日花の… 明日花のことがわかるの?」

「なんで そんなところに… こっちにおいで 奏星…」

「……ママっー!」


さっきまで隠れていたそうせいが 叫びながらママさんのところに走ってきた、

そして ママさんにしがみつくように 背中の方から抱きついた…。


「どうしたの 奏星、明日花がビックリしちゃうよ、ママね… ちょっと頭が…」

「ごめんなさい… ごめんなさい…、ママ… ごめんなさい…」

「なんで謝るの 奏星? ママは大丈夫よ ちょっと休めば 大丈夫だから、

そうしたら一緒に帰ろう」

「ママ…、これから僕はおじいちゃんの家で ママとふたりで暮らすの? 

パパや 明日花は 一緒じゃダメなの?」

「えっ なんで ママとふたり? パパや明日花も一緒にお家に帰るんだよ、

それとも、奏星は 今日はおじいちゃんの家にお泊まりしたいの?」





画面の中で 奏星は大きく頭を横に振っていた、そして 安心したように、

ママの背中にしがみついていた、そこに駆けつけたパパさんが近寄っていく…。

明日花を抱き上げたママさんと何かを話して 安心したような顔をすると、

奏星や 明日花 ママさんごと 背中から抱きしめた、涙をにじませながら…。


“思い出したんだね、柚希 もう 大丈夫なんだね…” か、ママさん忘れてたのか?

ママさんの病気って 忘れてるってこと? 俺も思い出せないけど、これも病気?

わかったような… わからないような…、なぁ 天空…、教えてくれよ天空、

隣をそっとみた 隣の天空の顔は まるで安心する奏星と 同じように見えた。


そのあとは 少し休んだ ママさんと一緒に みんなで何かをしていた…、

あれっ…、そうだ そうだよ 思い出した このあと…、過去の俺は抵抗したんだ。





「パパさん なんで…、なんで そんなところに… 大事なんでしょ!」

「ひなたもお別れしてやってくれ…」


ママさんが大声を出さなくなって、しばらくして みんなが外に出てきた、

みんな 知らない人間の後についていく パパさんはあの大事な箱を抱えていた、

そうせいが僕のひもを持ってくれたから 帰ると思ったのに…。


また あの落ち着く声がした、そうか この人間の声だったんだ、

しばらくして 住みかでも匂っている あのケムリのような いい匂いがして

そして パパさんは あの大事な箱の中身を違う箱にしまったんだ。


「どうして? どうしてしまっちゃうの? どうして置いていくの?」

「さぁ 行こうひなた…、お家に帰ろう」

「パパさん、ねぇ パパさん 待って!ここは…なんだか冷たいし さみしいよ!」


ひもを引っ張った あの箱の中身を持ってかえってほしかったから、

でも ダメだった あの狭いところに入れられて、住みかについてしまった、

住みかの中に入ると なぜか ママさんがいなかった、なんで… なんで…。


僕は あの箱はないけど あの箱のあったところに行った…、あそこは落ち着くんだ、

なんで 箱を置いてきたんだろう、あんなさみしいところに、ママさんもいないし、

何かあるのかなぁ…、早く ママさんとあの箱の中身 両方を迎えにいきたいなぁ…、

箱のあったところの モフモフの上に丸まるようにして、僕は目を閉じた、

せっかく住みかに帰って来たのに… なんだか すごく 寒い…な。





思い出した、思い出したよ、やっと 映像より早く思い出せた。

そうだ、あの大事な箱を あの箱の中身をあの大きな石の箱? の中にいれたんだ、

あんなさみしいところになんで なんで置いていくんだって思ってたんだ。


お寺って? あの知らない人間はなんなんだ、わからない、よくわからないよ、

それにママさんの病気って なんだ? あれっ このあとって…また思い出せない。


「ママ… よかった…」


隣で天空かつぶやく、天空には これが何かわかってるのか?

何が起こってるんだ これから何があるんだ 俺のことなのに また思い出せない、

俺 わからないよ 全然わからないよ、教えてくれよ 話してくれよ 天空…。


映像は流れる、どちらからでも 映像を早送り出来るのにどちらも早送りしなかった、

どうやらママさんは病気を治すために おじいちゃんの家に 一度 戻ったようだ、

ママさんは少しづつ 家に遊びに来るようになり 家に泊まるようになり…、 

やがて 家に帰ってきた、元通り… なんだよな でも 弥月は帰ってこない、

まったく会いに行く様子もない、なんで? あれだけ会いに行っていたのに 

弥月がいなくても 平気なの? 過去の俺は ずっと弥月を待っているのに…。


何も変わらない日々 パパさんは仕事に戻り 奏星は学校に行き、

ママさんは明日花と一緒に家にいて 忙しそうだけど 楽しそうにしている、

過去の俺は そんなご主人様たちといることは幸せ…、幸せなんだけど…、

あの箱があったところのそばに 戻っては 弥月のことを ずっと待っている。


隣で天空は 俺よりも夢中になって映像を見ている まるで 自分のことのようだ。

自分の大切な人を見ているように、一瞬も 見逃したくないように 夢中になって、

俺が 天空のことを見ていても まったく 気がつかない、まったく見ていない。


そういえば この映像が終わったら 〈3つの選択肢〉だっけ どれか選ぶんだよな、

映像は 過去の俺が ヒマそうに 弥月を待っているだけだからか、

さっき天空が作ってくれたあの台が 空色の台がなんとなく目についた。


この映像 もうすぐだよな、もうすぐ 今の俺が映るはずだ、それはわかる、

あとどのぐらいだろう 映像を見ながら 先を思い出そうとしてみるんだけど…、

過去の俺の映像は 今の俺に近づいているのに、どうしても、ここに来る前の、

さっきまでの俺のことが はっきりしない… 思い出せないんだ、

俺は 家に帰りたい、ご主人様たちのところに帰りたい、

それは 今も まったく変わらないのに。


「あれっ おじいちゃん いないなぁ…」


つぶやいた 天空の言葉に思わず画面をみた どうやらクリスマスのようだ、

でも おじいちゃんは映ってる、あっ そうか ママさんのほうのおじいちゃんか、

確かに いないかも…、奏星の学校が冬休みなっても おじいちゃんはいなかった。


おじいちゃんは あの ケンカをした日からプレゼントを続けているようだ、

でも 奏星はおじいちゃんを避けているらしい、

人間の言葉がわかるようになった今だからこそ 気がついた、いつの間にか奏星は、

ママさんのほうのおじいちゃんを “おじいさん” と言うようになっていた。


「奏星… 大丈夫かなぁ」


天空の言葉に 思わずまた 画面を見て考える、何が心配なんだ? 

元気そうにしてるのに、あぁ…、そうか そういえば そうだよな、

やっぱり天空の方がよく見てるよな…、

犬の 俺なんかより よっぽど家族みたいだよ 天空。





「みんな 準備はいいか いくぞ…」


みんなでお出かけみたい ドッグランかなぁ…、いや みづき みづきを迎えに…、

…でも どっちでもなかった、着いたのは…。


「どうした ひなた なんかご機嫌になったなぁ」

「パパさん 僕 覚えてるよ やっと迎えに来たんだね、やっと 持って帰るんだ…」


着いたのは 大事な箱の中身を置いたところだ、やっぱり ここ冷たくてさみしいよ、

早く 持って帰ろうよパパさん、でも 僕は また外につながれてしまった。

なんだろう そうせい 怒られているのかなぁ… すごく困ってるような感じだ。


「パパ やっぱり 会わないとダメ?」

「あの時は おじいちゃんも悪気があったわけではないんだ、謝ってるんだし…」

「だけど…」

「別にいいわよ あんなことに平気で言う人なんか 放っておけばいいのよ」

「柚希まで…」


また僕を置いて ご主人様たちは 人間の住みかみたいなところに入っていった。

しばらくして おじいちゃんたちも入っていく、それから…あの声が聞こえた、

あの なんだか さみしくて 悲しくなるんだけど、すごく落ち着いていくあの声。


「あっ 終わったみたいだ」


前はすぐに来なかったのに パパさんたちはあの声が終わったらすぐに迎えに来た、

そうせいが僕のひもをもって歩き出した これって もしかして…。


「どうしたのひなた ここが好きなの?」

「そうせい 早く 早く行こう 迎えに行こうよ」


向かってる やっぱり向かってる あの箱の中身のところに向かってる、

あの冷たい箱の前にたった、みんなでキレイにして いい匂いのも飾ってるようだ。

早く こんな冷たいところから持って帰ろう、いくらキレイにしてもさみしいよ、

やっと ご主人様たちが迎えに来てくれたんだよ 一緒に帰ろうね。

箱も迎えに来たし、あとはみづきだ みづきが帰ってくれば…って、…なんで?


「なんで! ねぇ まだだよ 箱の中がまだだよ ねぇ ご主人様」

「ほらっ いくよ ひなた、もう帰るんだよ」


みんなが帰ろうとするから 僕は抵抗をした、抵抗をしていたんだけど…、


「動かないのか どれっ じいちゃんに貸してみろ だいたい 犬なんてもんは…」

「やめて おじいさん ひなたが苦しがってる」


くっ…苦しい…、僕が抵抗してたから おじいちゃんが乱暴にひもを引っ張った、

おじいちゃんごめんなさい 僕が悪かったから、どうしよう そうせいもごめんね…。


「どうしたの奏星 大丈夫…、ちょっと お父さん 何をやってるの!」

「ママ…」


ママさんが迎えに来てくれて 僕は引っ張られなくなったんだけど…、

おじいちゃんと ママさんがケンカになってしまったようだ、

そうせいはママさんの後ろに隠れてしまった。


「まったく こんな人は放っておいて 行こう、 奏星 ひなた」

「なんだ 柚希 その態度は! それが親に向かってする態度か! しかも孫の…」

「お父さんこそ ここを どこだと思っているの!」


ママさんが 大きな声を出して前を歩く 僕とそうせいはそのあとについていく、

まだ、ママさんとおじいちゃんが大きな声で話している、きっと僕のせいだ…、

僕が人間の言葉を話せたら、ちゃんと ごめんなさいって言えるのに、

僕が謝ろうとしても、ママさんたちは僕のことを見てくれない、どうしよう…。


どうやらみんな 帰る準備をしていたようだった、ママさんが向かっている方に、

パパさんたちや あの人間が乗るやつも見える、

ごめんなさい…、ごめんなさい ママさん おじいちゃん、もうケンカしないで…。

あの寂しいところからだいぶ離れた、今度は おばあちゃんたちが近づいてきた。


「奥様、奏星とひなたのことお願いしていいですか? 主人と話してきます」

「えぇ…、奏星 おばあちゃんと 先にパパのところに行こう」


そうせいと僕は おばあちゃんにつれられてパパさんのところに向かった。

ケンカをしてるのは 僕のせいだよね、だから 僕が謝らないといけないのに…、

僕はただ あの箱の中身をあんなにさみしいところに置いておきたくなかったんだ、

ごめんなさい…、ごめんなさいって そう 伝えたいのに 僕の言葉は伝わらない。


「あなた いったい何をしてるの! 柚希も もうやめなさい!」

「だって 母さん…、とうさ… いや この人が ひなたを乱暴に扱ったんだよ」

「ちょっと しつけた だけだろ、それに お前に言われる筋合いはない」

「しつけ? 虐待でしょ! ひなたは 大事な家族 なんだから お父さんには…」

「何が 大事な家族だ その家族のことをすっかり忘れていたくせに!」

「あなた! ホンといい加減にしなさい!!」


ママさんに近づけない、パパさんがあの狭いところに 僕を入れる準備をしている、

パパさんのところにも声が聞こえたようだ ちょっとママさんのことを見ている、

そうせいは おばあちゃんにしがみついたままだ。


「太樹 すまない、チャイルドシートがうまく固定出来ないようだ見てくれないか?」

「わかった 今 行くよ 父さん、ひなた 待て… 待て だぞ…」


パパさんは 僕についているひもを 僕が入る狭いのの下に置いた、

ひもは狭いのに押さえられているだけだから 引っ張れば動けるけど、

待てって言われたから…、謝りに行きたいけど ここで大人しく待つことにした。


「なんだよ、全部 俺が悪いって言うのか! 奏星だって…

なんだあの態度は、あんなに プレゼントしてやったのに」

「やったのに? なによ恩着せがましい、だいたい 父さんが奏星にひどいこと…」

「はぁ~ ひどいことだと… 一番 ひどいのはお前だろう、お前が忘れなければ…」

「あぁ もういい! 前々から思ってたけど もううんざり! お父さんなんて…」


ママさんたちが向かってくる、まだ ふたりとも すごく怒ってる…、

おじいちゃんはひとりで 人間の乗るやつに乗りこんだ、大きな音がする、

そして それは動き出した、すごいアブないな、あんなのにぶつかったら大変だ、

そしておじいちゃんは 乗るやつを止めて おばあちゃんに話しかけた。


「俺ばかり 悪者にして もういい 俺は 先に帰る! お前は勝手にしろ」

「ちょっと あなた いい加減に…」


どうしよう… 謝りに行こうかなぁ…、もうしっぽがお腹に付き添うになってる、

これって僕が悪いんだよね だけど パパさんには待てって言われ…、

あっ 明日花。

明日花が 乗るヤツから下ろされて 後ろにいた 僕に気がついたようだ。


「ひ~たん! ひ~たん あそ……」

「明日花 こっちに来たらダメだよ 危ないよ」

「ひ~たん ひ~たん つゅき… だいっつゅき…」

「僕も 明日花が大好きだよ でも …あっ 明日花 ダメだよ こっちに来たら」


パパさんも おじいちゃんも明日花に気がついていない、

大きな声を出したママさんとおじいちゃんの方を見ている、

おばあちゃんもそうせいもだ…どうしよう。


「ひ~たん…、あっ ち…ちょ…」

「明日花 ダメだよ 明日花!」


僕は大きな声を出した、でも あの人間の乗るやつも動き出してしまった、

もしかしたら 乗って動かしてるおじいちゃんからは明日花が見えてないかも、

すごく早く走ってくる、どうしよう 明日花 危ないよ、 ……明日花!


…僕は 押さえてあっただけのひもを引っ張って 明日花に体当たりした、

明日花に当たっただけだよね… でも なんで? イタい… すごいイタいよ…。


すごく怒っていた おじいちゃんが 乗るやつから降りてきた、

パパさんが 僕たちのところに 走って近づいているようだ、

明日花は泣いているの? 声は聞こえるんだけど 明日花は大丈夫だったかなぁ。


「おっ…俺は 悪くないからな! こいつが この犬が飛び出して来たんだからな」

「明日花! ひなた! …あぁ… ひなた…」 

「パパさん…、明日花に…ぶつかって… ごめんなさい… でも…」

「大丈…夫…、大丈夫だぞ ひなた 今すぐ病院につれていってやるからな…」

「パパさん… 泣いて…いる…の? 泣か…ないで…」


そっとなでてくれる パパさんの手をなめてあげた、僕は悪いことをしたんだよね、

ごめんなさい…、ごめんなさい…。


「太樹、明日花はかすり傷程度で大丈夫そうだ、念のため 俺が病院につれていく」

「父さん…」

「ひなたに付いててやれ、……ひなた、明日花 守ってくれて… ありがとう」


おじいちゃん どうしたの 泣いているの? そっとなでてくれて いなくなった

どうしたんだろう…どうなってるんだろう…、なんだかすごく寒くなってきたなぁ…、

ここが寒いからかなぁ…、だんだん眠くなってきた、あっ… そうせいの声が…。


「……さんのせいだ!」

「なんだ 奏星 じいちゃんに文句でもあるのか!」

「…あるよ おじいさんの おじいさんのせいじゃないか!」

「なんだと」 

「おじいさんがあんな運転をしなければ ひなたは…、許さない、絶対に許さない」

「やっ… やめろ 奏星」

「僕は何を言われたっていいよ、ガマンできるよ、でも 弥月やひなたのことは…」


そうせい… 僕は大丈夫だよ、そうせいが 泣きながら 怒る声が 聞こえた…。


「謝れ! 弥月 と ひなたに 謝れ、子供だって悪いときは謝るって知ってるんだ」

「やっ、やめろー」


そうせいが… 泣いてる… やっぱりそうせいは泣き虫だ…、あれっ…でも…。


それから僕は ふわふわしたのに包まれてパパさんに抱き上げられた。

よく よくわからないけど あのイタイのをやられるところに運ばれたようだ、

こんなにイタイのに まだイタイのをされるの? イタイのにいっぱいさわられた、

でも みんなもう大丈夫かな まだ みんな 泣いてるのかなぁ…、よく聞こえない。



「これ以上は…、私がいたらず…、申し訳ありません」

「先生 お願いします、たとえ ひなたが寝たきりでも 私達は…」

「お気持ちは…、ですが 大事な器官が傷ついていて出血量も多い、手術も…もう…、

今はひなたくんが 頑張っているだけです、これ以上は 苦しみが長引くだけです」

「そっ… そんな…」


パパさんが近くにいるの? でも 声が弱々しく聞こえる どうしたんだろう、

そうせいやママさんの声も聞こえてきた どうしたんだろう…、泣いているの?

僕が 僕がいけなかったからかなぁ だから 僕はいっぱいイタイのかなあ…


すごくイタイのに、また あのイタイのをやるの? あの大っ嫌いなやつが見えた、

逃げたいのに 逃げれないよ…、 …あれっ でも なんでだろう…、 

あの 大っ嫌いな イタイのをされたら、 だんだんと…。


「先生…、もう ひなたは痛くないの?」

「これで もう痛くないよ、 奏星くん ひなたのことをいっぱい撫でてあげて…」

「ひなた…、ひなた…、ごめん…な…ひなた… ありがとう ひなた」

「ひなた…、もういいよ… ゆっくり… ゆっくり 眠って いいのよ…」

「ひなた… ひなた…、イヤだよ…、やっぱり イヤだ…よ」

「僕ね もう大丈夫なんだよ、ほらっ もう いたくないんだよ」


どうしたんだろう、またみんな泣いているの 体を起こしたいのに動けない…、

でも 僕は 思い出したんだ、そうせいが 泣いていなかったってことを。

あの大事な箱の前で パパさんも ママさんも いっぱい泣いていたのに、

そうせいは… そうせいだけは 泣いていなかったんだ、

そうか 泣き虫なそうせいは あれから ずっと泣いていないかったんだ、

きっと ずっと がまんしていたんだ、あぁ… これで きっと そうせいも…。


優しくなでてくれる みんなの手が、すごく あたたかい、

もっとなでて、モフモフがあっても 僕 なんだか すごく寒いんだ…。

僕は 眠い目を少し開いて 近くの そうせいの手をなめてあげた、


「僕はね ご主人様たちが 大好きだから いつも笑っていてほしいんだよ…、」


やっぱり 僕は みんなが笑っているほうが 大好きだ 笑ってると幸せなんだ。


それにしても なんだかすごく疲れちゃったのかなぁ 眠くなっちゃった、

ちょっと眠っちゃってもいいかな… そうすれば もっと元気になるから…。


「大好きだよ そうせい パパさん ママさん、明日花とみんなで また遊ぼう…」


それから 僕は ゆっくりと目を閉じた。





「えっ? 今のってなんだよ… これって…」


思わず声を出したその直後、映像が消えて、画面が真っ暗になった。


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