ー 約束っていってたのに… みんなどうしたの? ー
新年明けましておめでとうございます、この頃には新しい小説を書き始めるんですが、まだ続きです。
新年にちょっとふさわしくないのかなぁ…、ですが 読んでいただけたら嬉しいてす。
ー 約束って言ってたのに みんなもどうしたの? ー
「パパ… どうしちゃったんだろう…」
天空が 俺の隣で何かを言った、小さくつぶややくというより 大きな独り言だ、
天空は 俺のことを気にしていないのか? って思ってしまうほどだ。
そんな俺たちの前で 映像は流れ続ける、まだ 弥月は帰ってこない…、
それにママさんたちも出掛けたままだ、相変わらず 弥月を みんなを待ちながら、
ヒマそうにしている 俺の姿ばかりが映し出される。
「あれっ… なんか… なんか 変だ…」
「何が? いったい何が変なんだ天空?」
「だって ママたちもいないし パパも ずっと家にいる」
「ママさんたちは出掛けたままなんだろう だからパパだって…」
確かに パパさんがずっと家にいる、ママさんたちも帰っていない、
でも 何が変なんだ? 少し前に ママさんは疲れた… って言っていたんだから、
きっと おばあちゃんたちのところにでも泊まって 休ませてもらってるんだろう、
それにあわせて パパさんも また 仕事を休んでいるだけだろう。
「ママたちが 帰っていないのも だけど…」
「だったら 何が変だって言うんだ?」
「だって パパ 家からまったく出ていないよ ずつと ひなたの散歩もしてない」
「えっ?」
言われてみれば… 確かにそうだ、映像を見ていたのに気がつかなかった、
おばあちゃんが まるで俺を捨てるように 家の前に置いていった あの日、
そうやって ご主人様の家に帰ってきてから パパさんは家の外に出ていない、
過去の俺も 外に散歩どころか 庭にすら出ていない、ずっと家の中だ、
いままで 散歩に行かないことがあった だから 別に普通のことだと思ってた。
「でも 外に行かないことだってあるだろ 散歩に行かない日だってあるさ」
「確かに 出掛けないってこともあるよ でも 買い物すら行かないなんて、
絶対に おかしいよ」
そうだよな みんな 仕事や 学校で 毎日のように出掛けてたんだ、
ママさんだって 毎日じゃないけど 食べ物を買いに外に出てたもんな、
そうだよ 休みの時にはよく一緒に外に出でいた、俺も一緒に みんなで外に、
そう 弥月だ、弥月が帰ってきていないんだ、なのに 会いに行く様子もない、
大事なことがあっても パパさんは あの日から まったく外に出ていない。
「そっ… そうだな…」
大事なことなのにな…、俺は あの頃のパパさんの様子を ちょっと思い出した、
パパさんはなんだか弱々しくて それが 気になっていたんだった。
それを 話そうと思って 天空の方をみたんだけど、話しかけられなかった。
天空は画面をみたままで まったく俺をみていなかったんだ。
「やっぱり おかしい…、パパ どうしちゃったんだろう 大丈夫かなぁ…」
俺に話しかけているのか、独り言なのか…、相変わらず天空は画面から目を離さない。
何かがおかしい…、そう言われて映像をみていると 確かに変だった…、
それは パパさんが家から出ない ということだけじゃ なかったんだ、
俺にも ご主人様たちに感じていた何か? の その意味 がわかってきた。
“まるで… パパさんは まるで…、過去の俺みたいだ…”
パパさんが毎日やっていたことが 俺と同じだって そう思えてきたんだ。
映像の中のパパさんは 朝 ソファーから起きあがって…、ほとんど何もしない、
俺のごはんを作っても 自分の分は作らない、大好きな お風呂も入ろうとしない、
ただ 玄関に誰かがくると 思い出したように 何かを受け取ったりはしている、
でも すぐに ソファーに戻りボーッとしてしまう。
俺のこと以外は 他に何をするのでもなく、ソファーのある部屋で過ごしていた。
一応 お腹が空いたら 食べ物 や 飲み物 は探して口にはしているんだけど、
終わったらそのままにしてるせいで 少しづつ部屋の中が散らかっていった、
だからだよな パパさんは どんどん弱っていく…。
でも そんなパパさんは あることにだけは しっかりと反応していた、
そう 過去の俺と同じように。
「パパ… 電話の音には反応してるんだけどな…」
俺が思っていたことを 天空が言葉にした、
俺は弥月が帰ってくるのを待っていた、だからドアの音をよく聞いていたんだ、
パパさんは まるで その俺と同じように かかってくる電話の音に反応していた、
電話に出て、安心したような 残念なような ちょっと複雑なそうな顔をしていた。
そんな毎日の映像が流れる中で 家に誰かが来たようだ パパさんが動き出した。
パパさんずつと なにもしていない だんだん弱っていくみたい 大丈夫かなぁ…、
パパさんのそばにいるけど 僕は だんだん そんなことを思うようになった、
そんなことを考えてたら なんだか大きな音がした 誰かが来たときにする音だ。
「はいっ は~いって… もう いったい誰だよ…」
パパさんは立ち上がって ドアの方に向かって歩きだした
僕も パパさんの後ろを ゆっくりとついていった。
「はぁ~い… どなたか知りませんが~、ウチは 今 隔離中ですよ~」
「その声は 太樹、太樹ね、いいから早く開けなさい!」
「えっ? その声 母さん?」
パパさんが 急いでドアを開けた やっぱりだ そこにはおじいちゃんたちがいた、
僕は お出迎えをしたんだけど…、なんだろう おばあちゃん 怒ってるの?
僕 なにか悪いことをしたのかなぁ…、でも 僕のことじゃなかったみたい…。
「太樹! このおバカ!! いったい何をやってるの!!!」
「母さん… ダメだ…母さん 近づかないで もし 母さんに何かあったら…」
「なに言ってるの だいたい あんたの風邪なんて うつるわけないでしょ!
いったい 何年 あんたの母さんしてると思ってるの!!」
「そんな…、無茶苦茶だよ 母さん…」
おばあちゃんに怒られてるのは パパさんのようなんだけど… なんで?
「ひなたちゃんの世話だけはしていたみたいだけど… しっかりしなさい 太樹」
「そうだぞ太樹、なんだその成りは… とにかく風呂に入ってこい 話はそれからだ」
パパさんは おじいちゃんに何かを言われて あわてて中に入っていってけど…、
おばあちゃんが僕をなでてくれた 久しぶりに みんなが 住みかの中に入った。
「みてみて 僕も手伝ったんだよ パパさん」
パパさんが戻ってきた どうやらおふろに行っていたみたいだ、いい匂いがしてる、
よかったね いっぱいで歩けなかった床は おばあちゃんが片付けてくれたんだよ、
僕はパパさんにかけよった。
「父さん… 母さん… もういいから… 俺 もう大丈夫だから だから…」
「だから あんたの風邪なんて うつらないわよ」
「太樹 お前 テレビもつけてないのか いったい何日たったと思ってるんだ」
「えっ」
パパさん あわてて何かを手に取った あの箱の中が動き出す。
「もう 隔離の期間は終わっているはずだ だから 大丈夫だ」
「それに 一応 お前が風呂に入っている間に その辺は 消毒しておいたわ」
「父さん…、母さん…」
「こんなになって ホンとに なにやってるの あんたは…」
おばあちゃんよりもパパさんの方が大きいのに…、なんだか小さく見えた、
ちょっと 目の辺りが濡れているように見える、
おばあちゃんに 怒られたから? 泣かないでパパさん…。
「太樹、お前 柚希さんたちのことは どうなったか わかっているのか」
「知っているの 父さん、俺 家から出られなくて 連絡 待ってたんだけど…」
「やはりそうか… 一応 手短に済ますが、もう 大丈夫だな 太樹」
「父さん 俺 もう大丈夫だから、聞かせて 柚希たちのことを…」
さっきまで 小さく 弱々しく見えていのにな、すっかり いつものパパさんだ、
おじいちゃんたちと何かを話していたパパさんは いつものパパさんに戻った。
「パパ 元気になったみたい よかった…」
「そうだな…」
相変わらず 天空は声を出してるけど、これって独り言なんだよな 俺を見ない、
映像は流れ続けている、どうやら ママさんたちは 病気で入院しているみたいだ、
だから ずっといなかったんだな、あの頃の俺は そんなこと知らなかったもんな、
けど…、このあと どうしたんだっけ?
俺の過去なのに 今の俺に かなり近づいた過去の映像なのに 思い出せない…。
「あっ ひなた見て パパさん 出掛けるようだね」
「そうだな 俺も 車に乗せるようだ…」
やっと やっと 天空が話しかけてくれた、天空が俺の方を向いてくれた、
でも なんでだろう…、天空は笑ってるのに なんだか悲しそうにみえる。
「あっ… パパさんが 向かっている先って…」
「どうしたの ひなた」
バタンっ という大きな音がして 思わず二人して画面をみた…、
パパさんが俺と一緒にクルマをに降りたところだった。
「パパさん ここどこ? ここでさんぽするの?」
パパさんが 僕を狭いところから出した さんぽのときの ひもをつけてる。
「ひなた…、俺に力を… 力を分けてくれ…」
「どうしたのパパさん 元気をだして…」
これから近くを歩くのだと思っていたんだけど、パパさんは僕を抱き上げた、
そして 僕になにかを話しかけて歩き出した…、どうしたんだろう…、
僕は なぜか パパさんが泣きながら眠ってしまったこと を思い出していた、
同じような顔をしているんだ…、僕はパパさんの顔をなめてあげた、
それに驚いたのか パパさんは僕を降ろした、
そして また抱き上げた、パパさんは顔になにかをつけるために降ろしたようだ、
パパさんの口が見えない、だから僕は パパさんの腕の中でおとなしくしていた。
パパさんは黙って歩きはじめた、目の前の大きな人間の住みかに入るようだ、
知らない人間がパパさんに話しかけている、なにを話しているんだろう、
パパさんは その人間についていくように 僕を抱えたまま歩き続けた…。
「こちらで少しお待ち下さい」
「……は…ぃ……」
知らない人間の言葉に返事をしたようなんだけど…、とても弱々しかった、
だけど 僕を抱える手は 声とは逆に なぜか 力が入っているようだった、
僕が苦しくないようにしてるんだけど 震えるようだ 身構えているのかな…、
そんな感じが パパさんの手から伝わってくる…、大丈夫なの パパさん…。
「お待たせ致しました どうか 直接 お手では触れませんように…」
「わかり… ました…」
なんだろう… なにか入ってるのかな 知らない人間が 箱を持ってきた、
パパさんは ゆっくりとその箱に近づく、また手に力が入った… 震えてるの?
僕はパパさんの顔をみた、なんだろう… なにかを 怖がってるのかなぁ…?
パパさんは 僕をしっかりと抱きしめながら 下をのぞきこんだ…、
いったい なにがあるんだろう… ……!?。
「ダメだ ダメだよ 戻ってこい」
「離して 離してよ、 だって だって そこに…」
中にいたのは みづきだった、 なぜか みづきが箱の中で 眠っていたんだ、
僕はそれに気がついて 少し暴れるように みづきのところに飛び降りようとした、
だけど みづきのところにおりれなくて、箱の中のみづきに気がついて欲しくて、
箱にかけよろうとしたんだ、でも パパさんにひもを引っ張られてしまった、
「どうして? どうして止めるのパパさん みづきが みづきがいるんだよ…」
「ひなた… もう… もう やめて… やめてくれ… お願いだよ…」
「パパ…さん…?」
パパさんが膝をついてしまった、僕が引っ張ったから? ごめんなさいパパさん、
だけどね パパさん みづきが みづきがそこに眠ってるから…、
「大丈夫ですか?」
「犬が床に… すみません…、私は 大丈夫ですから どうか 私には…」
「心得ております…」
知らない人間がパパさんに近づいて 膝をついたパパさんを立たせていた、
どうしたのかな パパさん 具合が悪いのかな、近寄った僕をパパさんが抱き上げた。
「おっ… お願い…しま…す……」
パパさんが 知らない人間に話しかけた そうしたら 箱が動きはじめた、
パパさん みづきが みづきが中にいるんだよ 行っちゃうよ、ねぇ ねぇって…、
「パパ…さん… 大丈夫?」
震えてるのか 泣きそうなのか パパさんが箱を見つめているようだ、
……箱がみえなくなった。
それから パパさんは 僕を抱えたまま ゆっくりと歩き出して 外に出た、
でも 乗ってきたヤツのところに行かないで 静かなところで僕を下に降ろした、
誰もいない 大きな音もしない、さんぽしやすそうな広いところだ…。
「パパさん さんぽしたいの?」
「ひなた 今日は 珍しく 晴れていい天気だな、まぶしい…くらい…だ」
「パパさん まだ 具合が悪いの? …泣いて…いるの?」
パパさんは上を向いていた、僕がそばにいるのに僕を見ないで上を向き続けている、
どうしたんだろう せっかくみづきに会えたのに パパさん 具合がわる…く、
そうか みづきも具合が悪くなっちゃったんだ だからあんなところで寝てたんだ、
パパさんがせっかく迎えに来たのに みづきが具合が悪くなっちゃって
一緒に帰れなかったんだ、だから パパさんも かなしいんだね…。
それから パパさんは歩きはじめた、とても静かで 誰もいないところを、
ゆっくり… ゆっくりと…、僕は寄り添うように歩く ふたりだけのさんぽだ…。
「大丈夫だよ パパさん みづきはまた迎えにくればいいんだから 元気出して…」
しばらく歩いてから パパさんと 僕は みづきがいたところに戻った、
知らない人間が話しかけてくる、パパさんは知らない人間と話したあと、
僕を つないで ひとりで中に入っていった。
それからしばらくして、ずっと待っていた僕を パパさんは迎えに来てくれた。
「あれっ パパさん いいの?」
「ひなたも そばが いいだろう…」
「パパさん どうしたの この箱は なに?」
パパさんをみた でもパパさんは 何かを言って僕をそこにおろしたんだ、
僕は狭いところにいれられて ご主人様たちとは別の 後ろに乗せられるのに、
なぜか パパさんは ご主人様のたちが座ってるところに乗せたんだ、
そこには さっきみた箱より かなり小さい箱があった。
「さぁ… 帰ろう… 家に帰ろう… みんなの家に…」
「そうか この箱 大事なものなんだね、さっき みづきがいたし もらったの?」
パパさんはそのあと なにも言わず、前に座ると 乗ってきたのが動き出した。
「なぁ 天空、あれ あれはいったい なんなんだよ、あれは…」
俺は天空に話しかけた、話しかけたんだけど 天空には聞こえていないようだった、
画面の中の映像は続いている、車は家に向かっている 天空はそれを見ている…。
それより 弥月だ、過去の俺が弥月に会ったときって あんなだったのか?
俺の記憶… 俺が見た弥月とは 何が違う感じがするんだ、
確かに具合は悪そうだった それはおぼえている、でも 気がつかなかった、
弥月は何かにくるまれていたんだ、顔から胸辺りまで窓のように透明な何かに、
箱の中の弥月は あんな透明なのにくるまれてたなんて、俺には 見えなかった。
そもそも あれだけ近くに弥月がいたら 匂いですぐわかるはずなんだけど…、
俺が 弥月の匂いを忘れるわけがないし 近くにいたらわかるのにな、
あの時 パパさんのように下を覗いて、弥月に気づいて 嬉しくて飛び降りたんだ。
もしかして 今の俺は 人間と同じように見てるからなのか?
犬の俺は 鏡とか知らなかったし、窓の透明なガラスだってよく見えていなかった…。
そばにいる天空は画面を見つめたまま 手を握りしめている…、震えてるの?
そのままで 俺の方を向くことはなかった、俺は そっとその横顔を見つめる…、
この横顔… 気づかれないように 天空の匂いを嗅いでいると… 何か やすらぐ…。
「パパ…」
天空がつぶやいた…、映像の中では 俺たちを乗せた車は家についたようだ、
俺を車においたままで 小さい箱とパパさんは 先に家の中に入るようだ…。
「ひなた お待たせ… さぁ 中に入ろうな…」
「パパさん 大丈夫? 疲れちゃったの?」
小さい箱を持って住みかに入っていったパパさんが、僕を迎えに来てくれた、
みんながいないから順番だよね、でも あの箱を先に住みかに入れるなんて、
それだけ あの 小さい箱 は 大事なものなんだなぁ。
「ひなた… そばに居てやってくれ 今 準備をするから…」
「あっ さっきの箱だ 大事な箱なんだよね、大丈夫 僕が守るよ 任せて」
迎えに来たパパさんは 僕の足を拭いたあと、抱き上げて中に運んでくれた、
ソファーのそばに僕を降ろした そこには あの大事な箱が あったんだ。
「さぁ… 待たせたね 行こうか 弥月…」
「えっ パパさん みづきって言った? どこ? どこにいるの?」
探してみたけど みづきはいなかった、聞き間違いだったのかなぁ、
パパさんは あの 小さい箱 を いろんなものがおいてある台に乗せた、
いい匂いがする花とかがあるところ その 真ん中だ、そして その前に座った。
「パパさん 何をしてるの? なにか いい匂いだけど… これ ケムリだっけ…」
「大丈夫だよ ひなた… ひなたも祈ってやってくれ…」
「パパさん そんなに この箱が大事なんだね」
「なっ… なんで… なんで…だよ…」
「大丈夫だよ パパさん、僕が しっかり守ってあげるから…」
パパさんは 箱の前で泣き出してしまったようだ…
そんなに心配なのぁ…、僕がずっと守るから大丈夫だよ パパさんの足に手をのせた、
パパさんは手を握りしめている 僕はその手をなめてあげた、
しばらく 泣き続けたパパさんは 小さい箱のそばで横になり
そのまま 眠ってしまった 泣き疲れて眠ってしまう弟たちのように。
映像は続く… 映し出されるのは また 過去の俺とパパさんだけだった、
それでも 天空は その顔を画面に向けたまま 映像を見続けている…、
次第に 俺は 気づかれないように そっと天空のことを見るようになった…。
それからの パパさんは 前と同じようだった 部屋の床はどんどんみえなくなる、
そして 自分はほとんど食べない 俺の世話をしては 電話の音に反応していた、
ただ あの小さい箱の回りだけは とてもきれいにして 何かをおいたりしていた、
パパさんはほとんどの時間を あの小さい箱のそばで ポッーっと過ごしていた。
「あっ ママが帰ってきた」
「えっ」
天空が気づいた 帰ってきたのはママさんだった そういえば… 思い出してきた、
あの 散らかった部屋で しばらく 俺は パパさんとふたりだったんだ、
ママさんたちは帰ってこない、弥月も帰ってこない… パパさんは元気がない…、
こんなに いつもと違うことが起こってたのに なんで思い出せなかったんだろう
映像をみながら 過去を思いだしていくと、なんとなく あの頃のことが、
あの頃 気になっていたことが 少しずつ わかったいく、
過去の俺は 異変を気にしながら ずっと あの箱のそばにいる…。
突然ドアが開いた 開けたのはママさんだ、でも すぐにどこかに行ってしまった、
しばらくして戻ってきたママさんは まっすぐ過去の俺 いや 箱のそばに座った。
「おっ… お帰り 柚希、 連絡してくれれば…」
「ママさん お帰りなさい」
帰ってきたんだね ママさん、そっか おふろにいっていたんだ、いい匂いだ、
座ったママさんは パパさんのように あの箱の前で何かをしている、
ねぇ ママさん みんながいないから 僕 ずっとパパさんのそばにいたんだよ
パパさん元気がなかったし パパさんの大事な箱も守っていたんだよ、…ママさん?
「どっ… どうして… どう…して…」
ママさんが泣き出した 大きな声で 僕がそばに近づいてもまったく気がつかない、
その泣き声を聞いていると 僕はすごくかなしくなった… パパさんもみたいだ、
ママさんは あの大事な箱を持ち上げ 膝に乗せて抱えるように抱きしめた、
抱きしめたあとも 泣き続けるママさんは 泣きつかれて眠ってしまった、
箱を戻したパパさんは ママさんに何かをかけてあげると ママさんから離れた…。
「柚希… 少しは 何かを食べた方が… ほら ごはんをつくったから…」
「触らないで 私に… 私に 触らないで!」
「でも 柚希 君まで…」
「どうしたの ご主人様 ケンカしないで…」
せっかく帰ってきたのに ご主人様たちは なんだかよくケンカするようになった、
だから僕は足元にかけよった、僕がかけよれば ご主人様たちは ケンカをやめて
僕をなでてくれるんだ、そしてしばらくすると すぐに仲直りするんだ、
でも なぜだろう…、パパさんたちは かけよっても 僕をなでてくれない、
仲直りしない ずっと離れてる、ただ仲直りしないで離れてる というよりも、
離れたところでパパさんは ママさんを心配しているように思えた、
パパさんは あの優しい大きな手で ママさんを支えようとしてるんだけど、
ママさんはそれを 振り払っている、まるで 支えられてはいけないように。
それからも ずっとママさんはあの箱の前にいた、ほとんど動かない…、
突然 泣き出したり 大きな声を出したり いつものママさんじゃないみたいだ。
「太樹だって 私のせいだって 私が悪いんだって 思ってるんでしょ」
「そんなことは…」
「もう ほっといてよ 私のことなんて放っておいて 私に触らないで!」
「ママ… どうしちゃったんだろう…」
天空がまた画面を見てつぶやいている…、俺は天空に気づかれないようにそっと見た、
まったく俺のことは見ていない天空の顔は、まるで大事な人を心配するようだった。
ママさんは ほとんど食べないで ずっとあの箱のそばにいる
泣いたり ボーッとしたり…、パパさんが心配して話しかけてる、だけど、
ママさんに優しく話しかけても ママさんは パパさんのことを見ない、
ずっと パパさんの手を いや 何もかもを嫌がるようだった。
俺は 次第に 映像の中のママさんは 少し前のパパさんのようだって思えてきた、
そして…、そんな家に そんなご主人様たちの元に 誰かが訪ねてきた…。
大きな音がした 音を聞いて パパさんが 外に出るドアに向かった、
僕は あの大事な箱のそばに 座ったまま 耳を立てた、
誰か一緒だな この足音… それに この匂いは… 僕は立ち上がった。
「お帰り~ そうせい、もう どこに行っていたんだよ~」
「あっ ひなただ~ ただいま~」
「こんにちは 太樹さん ひなたも こんにちは、今日は 明日花も連れてきました」
やっぱりそうだ おじいちゃんたち と そうせい だ あすかもいる、
あすかは まだ あの動くの の中に乗ってるみたいだった、
おじいちゃんがそこで何かをしている、そうせいが僕の頭をなでてくれた…。
どうやら ママさんも みんなをお出迎えするようだ、ゆっくり歩く音がする。
「あっ ママ ただいま、ママ 僕 やっと治ったよ ママは大丈…」
「………みっ 弥月!」
「…えっ? 柚…希」
僕は探した 足音も匂いもしてなかったけど ママさんが みづきって言ったから、
でも みつからないよ ねぇ どこ? どこにみづきがいるの ママ…さ…ん?
あれっ なにが変だ ママさんの声をだしたら みんな ママさんをみて止まった、
僕は人間の言葉が全部わかるわけではないけど、ママさん “みづき” って言ってる、
みんなが 動きを止めている中で ママさんだけが楽しそうに しゃべり続けた。
「もう どこにいってたの 弥月、 ママ 心配して… そうか そうなのね、
ママが具合が悪いから おじいちゃんの家にいっていたのね…」
「柚希… あなた 何を言って…」
「お母さんも 弥月を預かってるなら 連絡くれたらよかったのに、太樹は何も…」
「はぁ~ 柚希 お前 何を言ってるんだ 弥月じゃないだろ」
おばあちゃんの後ろで声がした おじいちゃんだ あすかを連れてきたようだ、
すぐにおばあちゃんは おじいちゃんからあすかを受けとるようにして抱き抱えた。
「お父さんっ 何を言ってるの! もう 変なおじいちゃんだね ねぇ 弥月」
「ママ…」
「久しぶりのお家はどう弥月 退院祝いしなきゃね 夕ごはんは何を食べたい?
ママ 好きなものを…、そうだ 今日は 弥月の好きなハンバーグにしようか?」
「止めなさい 柚希」
「もう いったいなんなの! こんな人たちほっといて 中に入ろうう 弥月」
おじいちゃんが ドアの辺りでママさんに何かを言った、
そうしたら ママさんは怒ったみたい、そうせいの肩をつかんで中に入ろうとしてる。
「柚希…、 本気で… 言っているの?」
「なんなの 太樹くんまで やっと 弥月が帰ってきたんだよ 嬉しくないの?」
「ママ… 僕…」
「ねっ そうしよう 弥月、ママ 頑張って 美味しい ハンバーグ作るからね…」
「柚希…、そこに…いるのは 奏星 だよ、そこにいるのは 弥月じゃ…ない…」
「パパさんどうしたの? 具合が悪いの?」
どうしたんだろう…、そうせいが すごく困ったような かなしそうな顔をしている、
パパさんの声はだんだん小さくなって どんどん弱っていくようだった、
ママさんだけが あの小さい箱のそばにいたときと違って 元気に話してる…、
なにを話しているんだろう…、みづきの話かな ママさんはみづきって言ってる、
僕も人間のように話せたらいいのに、そうしたら言ってることが もっとわかるし、
人間のような手があれば パパさんのことも支えてあげれる…、
ねぇ パパさん 大丈夫? 僕はパパさんの足元に行った。
「そう… せ…い……?」
「そうだよ 柚希、奏星だ そこにいるのは 奏星だよ、間違えちゃ…」
「そう…せい、奏星…、この子は…、そうせい… みづき… 弥月 じゃ 弥月は?」
「そうだ いったい何を言ってるんだお前は だいたい 俺たちは手を合わせに…」
「みづ…き…、みづき 弥月…、弥月は? あの箱…? いっ…いやぁー!!」
「柚希!」
ママさんが 突然叫び出した、パパさんがそばに行ってママさんを支えようとしてる、
でも ママさんは また パパさんの手を振り払った、
というより ママさんは暴れているようだ、パパさんは近寄れない、
おばあちゃんは そうせいを ご主人様たちから 離すようにドアの外に出した、
それから 暴れているママさんのそばで困っている パパさんのところに行った、
「いやぁー、違う! 違う 違う 弥月は 弥月は…」
「柚希、いい加減にしないか 弥月はもう…」
「あなたは ちょっと 黙ってなさい! …太樹さん」
「はいっ お義母さん」
「孫たちを… 奏星と明日花を お願いできますか?」
「はいっ もちろんです、大丈夫です」
僕も ママさんに落ち着いてもらおうとしたんだけど ダメだった、近寄れない、
おばあちゃんはおじいちゃんに何かを言った すると おじいちゃんは少し離れた、
それから パパさんに声をかけて あすかは パパさんに抱き抱えられた。
「では 孫たちをお願いします 柚希は このまま 私たちの家につれていきます」
「えっ、母さん つれていくなら 柚希より 孫の方だろう そっちの方が…」
「うるさい あなたは 本当に黙ってて! 柚希 行くわよ こっちに来なさい!」
「おばあちゃん…」
「ごめんね 奏星、おばあちゃん ママをちょっと借りるわね 心配しないでね」
いったい なにを話していたんだろう、そうせいがドアの向こうからのぞいていた、
嫌がるママさんを引っ張るように、ドアからおばあちゃんは出ようとしている、
僕はどうしたらいい? どうすればいい? あぁ… 僕が人間だったら…、
「奏星… パパのところにおいで…」
「パパ…、ママは どうしちゃったの? ママ 僕のこと “弥月” って…」
「ごめんな… びっくりしちゃったよな…」
ママさんは おばあちゃんたちにつれられて ドアから出て行った、
あの 遠くに行くとき 乗るヤツの音がする しばらくして外は静かになった、
パパさんは そうせいのそばで あすかをしっかりと抱き抱えたまま、膝をついた、
そして そうせいの顔を見つめて 何かを そうせいに話しかけている、
それから そうせいのおでこに自分のおでこを着けた。
「ママ…さぁ 病気がまだ治ってなかったんだよ…、だから間違えちゃったんだ」
「なんで? ママ 今まで 僕たちのこと間違えたことないよ」
「きっとママも 病気とかで すごく大変だったんだよ 奏星もそうだろ…」
パパさんは あすかを抱き締めていなければ
そうせいのことを あの優しい大きな手で抱き締めているんだろうな…、
僕は なにもできなかった…、犬の僕には… なにも… なにもできなかった…。
パパさんは立ち上がると 中に向かって歩き出した、
そうせいはドアを閉めて パパさんのあとをついていく
僕は その後ろを ゆっくり歩きながらついていった。
中に 入ると そうせいは パパさんと何かを話していた、さっきのことかな…、
しばらくすると そうせいは あの小さい箱のそばに行き 箱の前に座った、
「そうせい 大丈夫…?」
僕はそうせいに近寄った そうせいは僕を抱きしめたてくれた、
パパさんは 少しはなれたところで 悲しそうな顔をして僕たちを見ていた、
僕は そうせいも みんなと同じように泣き出すって思ったんだ、だけど…、
そうせいは 僕を抱きしめるだけで 泣かなかった。
しばらくして パパさんはそうせいに近づいた、そうせいが眠ってしまったからだ、
パパさんは そっとそうせいの手を僕から離して連れ出した、寝かせてあげるんだね。
パパさんも あすかのそばのソファーで眠ることにしたようだ…、静かになった。
それを見ていた僕は 僕の寝床に行かないで まっすぐ あの小さい箱にむかった、
この辺りが みんなが座るところだな…、そこから あの小さい箱を眺めてみた、
“あの 小さい箱は ご主人様たちにとって 本当にすごく大事な箱なんだね…、
大丈夫、僕がみんなのいないときも 守ってあげるからね…”
みんなが座っているところから ジャマにならない箱が見えるところに移動した、
そして僕も パパさんたちの寝息を聞きながら 箱のそばで目を閉じた。