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人間になりたかった犬  作者: 仁咲友希
13/20

ー きっと もうすぐだ ー

データが消えて、残っていたデータはこれだけです…、まだ ちょっと凹み中ですが…、

少しずつ書き直し始めていますので しばらく更新無しです…。

ちょっと変わっちゃうだろうか… う~んどうだろう…、全部を書くのに6ヶ月程だったので、それよりは早く書けるといいなぁ…っと、楽しんでいただけたら幸いです。

ー きっと もうすぐだ ー



「あっ ひなた 起きた?」

「あぁ 俺… 寝ちゃってたか… ちょっと 疲れちゃったのかなぁ」

「大丈夫? ここはどれだけ時間がかかってもいいんだから、ゆっくりしたら?」

「いや 見るよ 早く帰るんだから、それより そっちの用事は終わったのか?」

「うんっ、スッキリしたよ」


「ずっと 思ってたんだけど… なんだか それ うまそうだな…」


いつの間にか飲み物がテーブルの上に乗っていた、さっきから思ったんだ、

ご主人様たちは お酒を飲んだりしてる、俺と言えば… 水か牛乳 ぐらいで、

ちょっと変わったものを飲んでみたいなぁ…っと、でも それも犬はダメらしい。


「もらってきたよ、ひなたが飲めるもの、水と牛乳 以外はね…」

「やっぱ 少ないな…、人間はいいな いっぱいあって 天空も飲めるんだよな」

「そうだね、僕は子どもと同じだから さすがにお酒は飲めないけど…」


弟たちのジュースも ご主人様たちのお酒も 人間にあわせて作ってるから、

犬の体には 人間の食べ物は合わないってことが多いらしい、そうだよな…、

見てると美味しそうで、“欲しい”って ご主人様にねだったこともあったけど、

もちろん もらえなくて… いつも別のものをくれたんだ、いいなぁ…天空は。


とりあえず飲んだことのないものを もらって飲んでみた。


「美味しい? ひなた」

「水よりは味があるよ、うまい…かな」

「もしかしたら 味覚まで 僕と共有して 変わってたりして…」


そうやって聞いたら… ちょっと 人間の食べ物を試してみたくなったけど…、

やっぱりやめておいた、犬の体には 毒 になるものもあるらしい、

それに今 人間と同じで大丈夫だったとしても、帰ったら食べられないんだろ、

それもなぁ… 試して 美味しかったら きっとまた食べたくなるよな…。

それは… う~ん ちょっと残念だけど、犬用の美味しいものだけでいいや。


「ひなた 寝る前に映像を止めたんだね、それじゃ 早送りをはじめる?」

「いや 再生にしよう 天空は 犬 が好きなんだろう」


飲み物を飲み終わった俺の口の回りを天空は拭いてくれた、付いてたのか?

それから いろいろ片付けて キレイになったところで、ソファーに座り、

映像の再生を始めた、このときだけだもんな うまく見つけてよかったよ、

天空は喜ぶかなぁ、公園での出来事 仲間の その子どもたちの映像を。





「みんな~ ちゃんと ごあいさつして」

「はぁーい」

「どうしたの サクラちゃん この子たちは サクラちゃんの子ども?」

「それがね モカさん 私の子どもの子ども 私 おばあちゃんになったの」


ここのところ そうせいが散歩につれて行ってくれるからなぁ、

久しぶりに近くの公園に散歩に来た、先に来ていた仲間にあいさつをしていたら、

そこにサクラさんがやって来たんだが… いつの間にかそんなことに…。


「私の子どもはね ほとんど もらわれたの、だから いつもは独りなんだけど、

ご主人様の子どもが “里帰り”っていうので、この子たちと一緒に帰って来たの」

「里帰り?」

「なんだか ご主人様と住みかを分けていたみたいで 遊びにきたんだって」


サクラさんのご主人様たちが この子たちを連れてきたらしい、かわいいなぁ…、

そうせいは もう おおはしゃぎで、僕のことなんか見てないようだ、

僕はこんなふうに なれなかったなぁ…、


「はじめまして ひなたさん サクラの子どもの きなこ です」






「すごい 子犬がいっぱいだ いいなぁ… もふもふした~い」

「だろ~? 天空なら こういうの 好きそうだなぁ…って思ってさ」


サクラさんのご主人様の娘さんは サクラさんの子どもと一緒に家を出たそうだ、

サクラさんの子供 きなこちゃん は そこでご主人様の娘さんと暮らしていた。

久しぶりに きなこちゃんは ご主人様と 実家に遊びに来たんだけど…、

いつのまにか お母さんになっていたらしい、ちょっとビックリだよな…

久しぶりに戻ってきたら、子供 いや 孫 をつれてきたとはね…。

人間が話してる、あの子たちは ペットショップに行かずにもらわれるようだ、

あの時 ご主人様たちは そんなことを話していたのか、

でも あの子たちは あんな寂しい思いをせずにすむんだよな …よかった。

短い時間だった、公園にいた時間はわずかで すぐに子犬たちは帰っていった。


「サクラさんの 孫 ねぇ、みんな無事もらわれるみたいで よかったね」

「そうだな」

「ひなた…、ひなたは子どもは嫌いなの?」

「嫌い? そんなことないよ 人間も犬も 子どもは好きだよ、たださ…、

サクラさんには子どもがいるだろ、俺 …縁が無かっ… いや モテないなぁって」


俺の子どもか… もう 想像できないな、俺にもその機会はあったのだろうか…、

あの頃の俺ってどう思ってたっけ…、騒がしい? いや 寂しい… かもな…。

ご主人様たちは忙しくて、毎日の散歩は短くて 仲間と会うの少なくなってたし、

それも人間の都合…って言える? いや 俺が小さくてモテなかっただけだよな…。


それから映像は 奏星との散歩の続きに戻ったところにだった、

俺が知らない間に、どんどん みんなの生活が変わってるんだ、

俺が ただ 弥月を待ってる間にも、みんな どんどん成長して、

家族まで増えて、俺だけ…なぁ…、なんだか…、

そうだ 弥月 弥月だよ どうなったんだろう…、元気になってたはずなのに。


いいなぁ 奏星ばっかり もふもふして…、小さな声で 天空がそうつぶやくと、

映像が早送りへ変わった。


「ひなた また あの病院に連れていかれたようだね…」

「あぁ、何回か知らないとこ… 転院した病院か、そこに行ったんだ、でもさ…」


さっきママさんが言ってたな、会えないかも…って、確かにそうだった、

そこに行ったけど、つながれたり、ちょっと歩いたりするだけだった…よな





「じゃ パパ ひなたをお願いね、弥月に知らせてくるから、行こう奏星」

「後で 交代してよ、俺も弥月に会いたいから」


ご主人たちが何かを話してる、どこかへ行くのか ママさんと奏星が離れていく、

そうか ドックランみたいに パパさんといればいいんだね。


「パパさん どうするの、この辺にドックランがあるの?」

「ひなた、ちょっとこの辺を散歩だ 弥月から見えるのは どの辺だろうな…」


その辺を歩いていたらパパさんが立ち止まった、何かを持って独り言を言ってる、

どうしたんだろう…、持っていたものをしまうと 僕を抱き上げて少し歩いて、

大きな 人間の住みかの方を向いて止まった。


「ん~… この辺なんだけどなぁ ひなた、ここだよ~、僕はここだよ~って」

「パパさんどうしたの? 僕の手を振って、これって誰かがいるときにやるよね」

「あっ 見えた ひなたも 見えるか…、あそこだ あそこに弥月が見えるよ」

「みづき? パパさん 今 みづきって言った? 手を振っているの みづきが」

「おっと 危ない 落ちちゃうから… ひなた」


探そうとした、きっと みづき に手を振っているんだ、でも…見つからないよ、

どこにいるの…、前に見たときは もう少しで元気になりそうだったのに、

だから 僕は待ってたのに ずっと待っても みづき 帰って来ないんだよ、

すぐに帰って来ると思ったのに、ずっと待ってるのに 何で 帰って来ないの?

…! そうか パパさん みづきを迎えにきたんだよね ねぇ そうなんでしょ?


「どうした ひなた、ご機嫌になったな、弥月が見えたのか?」

「パパさん はやく はやく、みづきのところに行こう みづきと帰ろうよ」


「どうして…」


みづきは ここにいない、パパさんとママさんが交代して僕の側にきた、

それから僕は また 狭いところに入れられて どこかに向かってる…。





「やっぱり 弥月がいたんだ」

「そうだね 病院の窓に ちょっとだけ 見えてたね」

「見えてたけど ちょっと元気が無さそうだったな、見えたのに気をとられた、

ご主人様を追えばもっと近くで見れたかもしれないな」


ずっと気になってた、たまにあの建物につれていかれて、何をしてたのかって、

映像の俺は 弥月を迎えに来たんだって 弥月って名前を聞いてそう思って…、

違ったって気がついて がっかりしてた。

ほらっ 今も 病院の帰りにドックランに行って、俺 元気が無さそうだ。


何回 病院に行ったのか よくおぼえてない、あの頃の俺は…知らなかったから、

この病院の意味を知らなかったから、新しい散歩場所ぐらいしか思ってなかった、

次に 過去の俺が病院に行ったら、弥月のところに行く誰かを追いかけよう、

今の映像は 俺の近くしか追いかけさせてもらえない、でも俺が近くにいれば、

さっきみたいに 弥月のところまで 追いかけることが 出来るはずだ。


あんな姿ををみたら…、やっぱり見ないといけないよな、弥月の 頑張る姿を…。


それから… しばらく 不機嫌な感じに見えるけど 元気をなくした過去の俺が、

いつもの ヒマな日常に、ドアの音に反応し続けるだけの毎日に戻っていった、

人間たちが服を たくさん着るようになった頃…、また 機会がやって来た。


「だんだん ママさんのお腹が 大きくなってきたね」

「そうだな」

「奏星くんも さすがに気になっているみたい お腹をさわろうとしてる」


このときは 奏星は知ってたのだろうか? 新しい家族が出来たことを、

もうすぐ クリスマスってやつらしい、なんだかいろいろが賑やかだ…。





「よし、みんな行くぞ」

「お義父さんたちは向こうで会うんだよね 間に合う?」

「十分だよ、じゃ 出発だ」


みんなでお出掛けだ、寒くなって みんなで出かけることは ほとんどなくて、

僕だけ留守番… なんてことも多かったから、久しぶりに遊べるのかなぁ…。


「さぁ 着いたぞ、父さんさんたち来てるかなぁ…」

「やっと着いたの、じゃ 何をして遊ぶ? んっ …ここは」


あんまり来ないけど、ちょっとだけ歩くところだ、みづきと別れたところだよね、

だけど 特になにもないのに…、まただ また歩いてる、それだけだ…。


「あれっ、パパさんこの匂い…」

「あっ 父さんこっち… ご無理を言ってごめん」

「なんの なんの、後で孫にあわせてもらうよ」

「ねぇ、太樹 今日 孫たちに言うの?」

「あぁ、柚希も安定したし もう大丈夫だと思う、それに…」

「クリスマスプレゼントね、一番のプレゼントはとられちゃったな…」

「パパさん… どこに行くの? 僕も…」


“待ってて“ ってきこえた、僕だけおいていかれるんじゃないんだね、

じいちゃんたちも一緒に… って言ってるのかなぁ、迎えに来てくれるよね…。

パパさんは 僕をおいて 大きな住みかみたいなところに入っていった。


「お待たせ ひなたのこと見えた? 柚希」

「お義父さんたちと一緒のところ見えたよ でも 弥月 興奮しちゃって…」

「えっ 大丈夫? …またにしようか」

「今日を逃すと…、また一緒になるのは先でしょ 今でしょ だよ」

「でも… 父さんたちは寒いから ある程度で店に入ってって言ったきたけど…」

「ほらっ 弥月 帰ってきた 大丈夫そうだよ…、短めに… そうしようよ…ね」


「あっ パパ、パパもこっちに来てくれたの?」

「ひなた を預けてきたんだよ、弥月 よく見えたか ひなたのこと」

「うんっ ありがとうパパ、これって クリスマスプレゼントだよね」

「えっ 違うよ 確かにサンタさんは ここに入ってこれないかも…だけど」

「そうだよ、弥月の分のサンタさんからのプレゼントは 僕が預かっておくよ、

だから 早く元気になって 帰っておいでよ」

「そうだね サンタさん 僕が家にいないからって 忘れないでくれるといいな」

「きっと サンタさんなら大丈夫よ それから …こっちに来て 奏星 弥月」

「どうしたの ママ…」

「二人とも ママのお腹に触ってごらん」


「うわっ 何」

「何? ママのお腹で何か動いた…」

「弥月 奏星…、二人はね この子の お兄ちゃん になるんだよ」


「お兄ちゃん?」

「ママ… ホントに…? やっ~ ……ごほっ ごほっ… はぁ…はぁっ…」

「弥月 大丈夫 ゆっくり ゆっくりね…」

「ごっ ごめん…な…さい ママ、僕 びっくりしたから…」

「いいのよ…、もう少し お水を飲む?」

「大丈夫…、もう大丈夫だよ ママ、それよりも ママの方を…」


「…弥月 いや 弥月兄ちゃん」

「どうしたの奏星 兄ちゃん って言うなんて 誕生日じゃないのに」

「今度は 僕も兄ちゃんになるんだ、だから決めた 僕 サンタさんになるよ」

「どうしたんだ 奏星、パパ ちょっとわからないんだけど」

「僕も お兄ちゃんになるんだから… だから もう注射も 怖くないんだ」

「えっ、奏星 なんで急にそんなこと…」

「弥月に僕の血をあげる、“ドナー” っていうのになる 僕からのプレゼントだ」

「…奏星」

「弥月… 早く元気になって 一緒に 赤ちゃんの お兄ちゃんになろう、

本当はね 元気がない弥月兄ちゃんを見るの ずっと嫌だったんだ、だからさ…、

赤ちゃんの為にも早く元気になってよ そして一緒に お兄ちゃんになろうよ、

なんてったって 僕の血なんだよ 僕が血をあげれば すぐに元気になるさ」





映像は俺から、じいちゃんたちと別れて 弥月のところに向かったパパさんを、

追いかけてくれた、そのお陰で ここに入院して以来の弥月の様子が見れた。


パパさんはいろんなところを通ってやっと着いたようだ 部屋に入っていった、

ママさんたちがいたけど、弥月の姿が見えない、いないの? ちょっと思った…、

弥月だ…、そこに白い服の人間に支えられて弥月がやってきた、

俺を窓から見て、嬉しくて 体に負担がかかったって言ってる…、

それだけで? たったそれだけのことで そんなふうになるなんて…、

どうなってるんだ… 弥月。


久しぶりにみた弥月は笑ってた、“俺を見れた、みんなと会えた” と、嬉しそうに、

でも…、でも どこかが 変だった、笑ってるのに… 何かが違うんだ。


それでも ママさんのお腹に赤ちゃんがいるって聞いたときの弥月は、

弥月の顔は 弥月の目は…、いつもの元気な頃の弥月のようだった、

それなのに… 元気そうなのに すぐに 安心したような顔にかわって 

それはまるで… まるで…、今すぐ さよならって言いそうな顔で…、

なんで… なんで そんな顔をするんだよ 弥月。


あの時の 過去の俺が別れた時の弥月を思い出す…、あの時だって弱ってた、

でも あの時よりさらに弱ってる…、うまく隠してるけど… 何か動きが違う…、

映像でもこれだ、側にいたら きっと俺は 心配で仕方がないだろうな…。


「そういえば “ドナー?” って さっき奏星が そんなこと言ってたよな」

「そうだね資料にあった、でも いつの間に 奏星くん検査を受けただろうね…」


奏星は “ドナー” っていうのになるらしい…、でも それ なんなんだ、

奏星の体から病気が治るように “移植” って言うのをするらしい、

何かいろいろとあるらしいけど、家族だったりするとできることもあるようだよ、

きっと 奏星くんは大丈夫だったんだね、天空はそう説明してくれた、


「そっか… 奏星くん お兄ちゃんのあんな姿を見ているのが 嫌だったのかぁ…、

きっと 自分がお兄ちゃんになるって聞いて 勇気が出たんだね…」

「勇気ってほどでもないだろう… だって あの 注射 だろ 大げさだなぁ」

「いや ただの注射じゃないよ、ほらっ ここに 書いてあるよ」


さっきの資料を見直して 天空が教えてくれた、

どうやらちょっと “ちくっ” って、痛いだろ…って、そんな話ではないらしい、

映像のパパたちも奏星に確認してる、

痛いよ 大変だよ いいの? ってパパさん、でも奏星の決心は変わらなかった。


奏星 アイツは 怖がりだけど、やるときはやるんだよ、

ご主人様たちも 弥月も 無理しないでいいよって、やさしく声をかけてる、

でも 奏星はやるって言ってる きっと決めてたんだ やるって決めてたんだ、

でも 言えなかったんだろうな、本当に怖くて きっと言えなかったんだ。


だって 誰も攻めないから、奏星がドナーにならないことを誰も攻めないから、 

きっと 待っていたんだ 誰かが背中を押してくれるのを待っていたんだ、


怖がってる弱い自分が 勇気をだせるきっかけを、大好きな弥月のために…。


映像の奏星はやっぱり強がってる まるで 俺がしっぽを巻いてるみたいだ、

でも 奏星はみんなの優しさに逃げなかった、やっぱり俺の弟だ、

弱いくせに、強がってるくせに、最後はやっぱり 逃げないんだな。


「でもドナーって ずっと病気の治療してたはずなのに、治らなかったのかな…」

「そうかもな、画面の 弥月 笑ってたけど…なぁ」


奏星がドナーになるって聞いて、パパに言われても決心が変わらないって知って、

“一緒にお兄ちゃんになろう”って 奏星に言われて…、弥月の顔がまた変わった、

諦めないんだな もう一度 戦うんだな… 弥月、 弥月も 俺の弟 だもんな。



まだ映像は続いている、病院から出たみんなは おじいちゃんたちと合流した、

おじいちゃんたちは奏星に会えて嬉しそうだ、

それからおじいちゃんの家に向かった、

おじいちゃんの家についてから、しばらくして 一緒にごはんを食べてる…、

今 弥月は 家族しか会えないから仕方ないけど、残念だったって話してる、

でも 奏星に会えたからいいって、それにもう一人孫が出来たって 嬉しそうに、

クリスマスの豪華なごはんを囲みながら…、おじいちゃんたちは笑ってる、

俺はそんなことも知らず豪華なごはんを食べてる、ドアの音に反応しながら、

だってそこには そこには弥月はいないんだ、家族の中に いないんだ。



「いいクリスマス…だったのかなぁ…、弟くんの治療が進みそうだし」

「そうだな 赤ちゃん に ドナー、 弥月には いいプレゼントだろう」


ごはんが終わって みんなで家に戻った、奏星と俺は一緒に眠ってる…、

昼間 はしゃいでたからな…、そこに ご主人様たちがやって来た…。


“奏星の決心のおかげで、希望が出てきた… ありがとう奏星” って…、

ご主人様たちは涙を浮かべてる、やっぱり そんなに 状況は悪かったのか、

なのに画面の中の俺は… 何も、弥月の為に 何もしてない…、ただ待ってるだけ、

こんなに大変だって 思ってもいなくて、ただ… 帰りを待ってるだけだ…、

俺は映像を早送りにした。


「あぁ…、クリスマスのごちそう美味しそうだったなぁ…、食べたいね」

「食べたい? 意外と 食いしん坊なんだな 天空は」

「えっ 今ごろ…、まぁ いいか でも ホントによかったね」 

「弥月か? 確かによかったけど…、まだ 帰って来ないんだよな」

「奏星くんがドナーをやめる…なんてないよね…、治療が長引いてるんじゃないの」


それにしても そもそも俺って何歳なんだろう… 今さらながらに思ってしまう、

特別なことの後なら 何があったとか なんとなくおぼえてるんだけど…、

いつ こういうことがあったとか…、何をしてたとか、記憶がバラバラというか…。


誕生日の意味だってついさっき知ったし…、ごちそうだって何回も食べてるから、

俺の日常も 大きさも そんなに変わらないから 正直 映像を見てても…さ、

これがいつのこととか あの後 何をしたのかとか はっきりしないんだ、

懐かしいけど…これだけ映像を見ても 最後に何をしていたかすら思い出せない。


でも この頃はわかる さすがに最近のことだし、特別なことだから、

弥月がいなくっても、俺の日々は変わらない、ごはん食べて、散歩して…の日々。

ご主人様たちは どんどん変化していってるのにな…、俺は…何も…。


こんなに弥月は頑張ってるんだ だから 絶対に元気になって帰ってくる。

俺… 俺がここから帰って、そして 弥月が帰ってきたら、弥月と何をしよう…、

あぁ そうだ 弥月と話がしたい 天空と話してるみたいに…って まぁ無理か。



「そろそろドナーになるのかなぁ… ひなたから離れてるみたい」

「離れてると 何で そろそろドナーになる なんだ?」

「ん~、奏星なりに考えてるんじゃないかなぁ…、病気になったら出来ないから」


確かにあった 弥月がいないのに 奏星にも避けられて…ちょっと寂しくて、

そんなことがあった、それから しばらくして奏星が家からいなくなって…、

まぁ… しばらくしたら帰ってきたんだけど…、そうだ… 思い出してきた。

思い出しはじめたというより 俺の記憶が やっと 映像が追い付いたみたいだ、

どこかへ泊まりに行った奏星のこと追いかけたい… 俺 以外を見たいんだ、

でも 映像は俺しか映してくれない…、やっぱり もう 映してくれないんだ。


奏星が帰ってきた、やっぱ怖かったんだな、ご主人様たちにあまえてる、

意味の分かっていない 俺は 奏星が帰って来て すごく喜んでる、

思い出してきた 次はママさんの番だ ママさんが入院するんだ、

もうすぐ 新しい兄妹に会えるんだ…。


「奏星も帰ってきたし、ママさんもお腹がすごく大きいね」

「あぁ、もうそろそろ 生まれる頃だろう」

「楽しみだね…、奏星くんも 待ち遠しそうだ」


確かこの頃… そう この頃だよ、俺 奏星と一緒に寝られなくなって、

しかも ゲージの中に入れられることが多くなった、しかもドアも閉められて、

悪いことしてないのに…って思ってたんだ、そういうことだったのか、

みんなは先に会ったんだろう…、弟たちに会うときも俺だけ時間がかかったんだ、


そうだ そうだよ、思い出した、弥月に会った… というより見かけたんだ、

一緒に連れて行ってもらったんだ、また側に行けなくて…がっかりしたんだ、

なんでだ? そんな大事なことも 俺 今まで 思い出せなかったなんて…、


もうすぐだ、もうすぐ俺 預けられる…、その後 あまり相手してもらえなくて…、

どうしてか わからなくて ただ みんなを ただ 弥月を 待ってた。


俺の記憶通り 俺は預けられた… “ペットホテル?”  犬が泊まるところか、

またしっぽ巻いてるし…、もう いい大人なんだけど、捨てられたって思ってた、


記憶通りだ ペットホテルから連れ帰られた俺は ゲージに入れられてる、

しばらく 家の中を歩き回らせてもらえなかったけど ちょっと安心してる、

捨てられてなかったってさ、これも 新しい家族の為だったんだなぁ、

もうすぐ出てくるな…映像に 天空は どんな反応をするかなぁ…。


「あっ ひなた ペットホテルから帰ってきたね」

「俺さ あの時 捨てられたって ちょっと思ったんだよな」

「ひなたって いつも 捨てられるのを怖がってたの」

「言われてみると… そうなのかもな、自分のことになると…な、

まぁ… 子供のころのイヤな記憶って やつなんだろう」

「あぁ トラウマってことかな」


話ながら 俺は映像を再生に切り替えた、ちょっと俺も見てみたかったんだ、

どのくらい小さいのかな… 俺が見たときは ちょっと大きくなってたから、

俺たちの新しい家族、俺たちの 妹 明日花 の姿を。


「あっ ママさん 久しぶりに ひなたのところにきたね…、お腹…へこんだ?」

「ママさんを追いかけてみてくれ… 俺が近くにいるから 大丈夫だろ」





「あっ ママさん お帰り~、お腹 もう大丈夫なんだね」

「ただいま ひなた、ごめんね しばらく不自由だけど、協力してね」

「ママさん 久しぶりに遊ぼう! …ママさん ちょっと匂い… 変わった?」


ママさんが久しぶりに たくさんなでて、たくさん遊んでくれた、楽しい~。

でも ママさんからちょっと違う匂いがするんだ、なんだかあまいいい匂い、

どこかで嗅いだような…、嗅いでるだけなのに、なんだか やすらぐな…。


「ごめんね 会わせるのは 赤ちゃんが もう少し大きくなったらなの、

そうした お兄ちゃんたちの時のように、また遊んであげてね ひなた」

「えっ、もうおしまい、もっと 遊ぼうよ ママさん」


行っちゃった… もっと遊びたかったのに、でも 仕方ないか、

誰か来てるようだ、パパさん と そうせい それに…聞いたことない声だけど、

なんだか 騒いでいるようだし、こんなに離れていても聞こえるよ、元気だなぁ。


「もういいの 柚希」

「うんっ、ありがとう すごーくひなたに会いたかったんだ、ねえ 赤ちゃんは」

「もう 奏星が付きっきりだよ “お兄ちゃんだよ” ってね」


「奏星 いや 奏星お兄ちゃん、赤ちゃんを休ませてあげてね」

「あっ ママ、でも 赤ちゃん遊びたいって」

「赤ちゃんはね、よく眠ることも 大事なお仕事なんだよ」

「えっ そうなんだ」

「そうだぞ パパも 奏星たちが赤ちゃんのとき よくママに言われたんだ」

「パパも言われたの? じゃ 僕とおんなじだ …んっ? 僕が赤ちゃん?」


なんだか騒がしかったみんなの声が小さくなった、もう 終わったのかな、

なら みんなのところに行きたいな、でも 出られない、閉められちゃったから、

あぁ… あんなに楽しそうだったのに、僕も一緒に遊びたかったなぁ…。


「ねぇ… パパ ママ、妹の名前は何て言うの?」

「奏星にも どんな名前がいいか聞いたけど…、実はまだ決めてないの」

「今度 弥月のところに行って みんなで決めようと思って、それでいい 奏星」

「うんっ、だいぶ 弥月も元気になったし、そうしよう きっと喜ぶよ 弥月」





「天空… 天空! そのままだったら落ちる ソファーから落ちるぞ」

「あっ ごめん 赤ちゃんが可愛くて つい… ありがとう ひなた」


いつの間にか足までソファーに乗せていた天空は、だんだん画面に近寄っていく、

落ちそうになってるのも 気が付かないぐらい見いっていたようで、

気づいた俺は膝の上に乗るようにして 天空を止めたら、頭を撫でてくれた。


画面の中では 赤ちゃんが家族に入ったことで もう大騒ぎになってるようだ、

みんなの日々が忙しく変わっている…、それとは逆に 俺は さらにヒマそうだ、

いつもの日常よりも 自由に行動が出来なくなって… ただ みんなを待ってる、

俺も家族なのに… ご主人様たちには 俺は ペットで ただの 犬 なんだな…。


赤ちゃんが来てから数日、みんなが出掛けて 俺だけ お留守番 になった、

言ってた通り 弥月のところに行ったんだろう、様子を見に行くために、

そして 生まれた赤ちゃんに会わせて 名前を決めるために…。


やはり映像は追えなかった、俺を置いて出かけるご主人様たちを追えなかった、

留守番をしている俺ばかりが映っていた、ドアが開くのをひたすら待つ俺が…。


やっと家のドアが開いた、でも もちろんご主人様たちの中に…、弥月はいない、

過去の俺は みんなが帰ってきたことを喜んで、弥月がいないことを寂しがって、

また ゲージの中で 独りで ずっと待ってる、みんなを 弥月のことを。


寂しそうな俺をゲージの中に入れたままで ご主人様たちは話していた、

とても 楽しそうに とても 幸せそうに、妹の名前が決まったようだ、

名前は “明日花” パパが何回も練習して 名前を書いていた。


こんなふうに名前が決まったのか…、 隣で天空がつぶやいていた。


弥月…、弥月は もうこの頃の明日花と 病院で直接会えたのだろうか? 

だぶん病室で名前を決めたんだろうけど、弥月も一緒に 決めたのだろうか?

初めて明日花に会った時は 弥月はどんな顔をしていたんだろうか…。

案外 隣の天空みたい… だったのかもな…。


俺も 俺もみんなと一緒に あんなふうに手を取って喜びたかったよ。

でも、俺には出来ないよな、だって犬だから… この体も 言葉も 犬 だから、

だけど 過去の俺が、いや 今の俺も願っていることが ついに叶うんだ、

あの時 病室を後にするご主人様たちを見送る弥月の顔は 戦うって決めてた、

弥月が 決めたんだ 必ず 病気に勝つ 弥月は約束を守る強いヤツだもんな。


やっと 帰ってくるんだよな 弥月が… 帰ってくる これも 奏星のお陰だ。


“弥月も退院の目処がたちそうだ” って 家に帰ったご主人様たちは喜んでいる、

奏星を寝かせた後に、赤ちゃんの側で 二人で何かを食べなから、

この子が 弥月に希望を与えたんだって、もう大丈夫だって そう言ってる。


ほらな、やっぱり まだ 帰って来てないだけなんだ、あと どのくらいだろう、

どのくらいで帰ってくるんだろう、今 俺が何歳か分かれば はっきりするのに、

でも もうすぐなのは確かだ、これは俺の最近の記憶にすごく近いんだから、


早く帰ろう、早く帰って弥月を迎えてやるんだ、

弥月が帰ってきたら 俺が 一番に迎えてやるんだ。


“弥月 お帰り~” って 俺があの家で 一番に 弥月に言ってやるんだ。


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