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人間になりたかった犬  作者: 仁咲友希
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ー それぞれの誕生日 ー

ー それぞれの誕生日 ー



「なぁ 天空、 天空は解るか? この 〈小児白血病〉 って なんなんだ」

「んっ~、難しい言葉だよね 説明が出来るほどは… 知らないんだけど…」


「…そうか、ならご主人様たちが 先生と話したときを聞くしかないな…」


申し訳なさそうに天空が教えてくれたのは、

人間の病気で、とても治すのが大変、“血液のがん” って言われている…だそうだ、

そもそも 血液? がん? って 人間の言葉がやっとわかった俺には難しいよ、

でも…、ご主人様たちのあの様子からすると、とても悪いってことはわかる、

あの頃の俺も 今の俺のように 異変には気がついて 気にしていた けど…、

ここまで大変なことになってたってことは 考えてもいなかったよな、

人間の言葉が解った 今だからこそ、ご主人様たち つらかったんだな…。


話を聞き終わったパパさんが立ち上がり、ソファーのママさんの横に座り直した、

ママさんを慰めるように肩を組んでいる…、

しばらく 小さい声で泣く ママさんの泣き声だけが部屋に響いていた…。


「まっ…ほらっ 弟くん まだ 大きな病気って 決まったわけでは…」

「いや、…たぶんそうなんだろう、だって 弥月は今でも帰ってきていないんだ…」

「…そうだね…、ごめんね 中途半端なこと言っちゃった…」

「いや、天空が謝ることじゃないよ、俺だって そう思いたいさ、

きっと この映像の…、この時のご主人様たちも そんな感じだろう…」


そうだよ、これは 今じゃない 今じゃないんだ これは過去の映像なんだ、

これから 何か起こるんだ… 何が起こるか それが何かなんだよ、

俺の二人の弟、奏星には兄ちゃんだけど、弟の弥月にこのあと何が起こったんだ、

この後のことを知れば 俺があの家に帰ったときに きっと役にたつはずだ、

ご主人様たちが、旅行に行った時のような あんな笑顔に戻れるように…。


ご主人様たちは しばらく真剣な顔をして話していた、これからのことを…、

“とにかく結果が出るまでは身動きがとれないね” …と その言葉を言うと、

二人な寝床に向かった、用意していたお酒はお預けにしてしまったようだ…。


「みんな眠っちゃったね…、理由もわかったし 次の誕生日まで早送りにする?」

「そうだなぁ…、でも一応 ご主人様と先生の話を聞きたいなって思うんだけど」

「そうだね、難しい話をしそうだけど… そうしよう」

「んっ~…それにさ、たぶん… この年さ 俺 誕生日してないと思うんだよね」

「誕生日をしてない? えっ どういうこと」

「ちょっと 記憶って言うんだよな 色んなことが ごちゃごちゃしてるんだ…、

俺 独りでごちそうを食べたことがあるんだけど、たぶん この頃だよ…」

「そうか 記憶が曖昧なのって ひなたは 毎年とか何でごちそうかなのかとか、

知らなかったから、食べたっていう ことしか記憶にないって そんな感じ?」

「まぁ、そんなところかな、“このごはんうまいな~” ぐらいだよ、

あの誕生日ケーキってヤツさ、いつもこの頃 みんな楽しそうに食べるてるのに、

この頃は俺だけ食べたような…、そんなことがあったのはおぼえてるんだけど…」


だいだいは天空が言う通り、何でごちそうが食べれるのか なんて知らなかった、

ご褒美でおやつをもらえるような感覚って言うか、うれしい方が先で、

また出ないかなぁ…とか いつ食べれるかなぁ…とかぐらいしか思ってなかった。


そんな俺でもおぼえてる、ケーキ あれは みんなで食べるごちそうなんだって、

でも…、思い返してみれば いや 理由を知ったから気付けたのかも…な、

みんなでごちそうをしなかったんだ…、違和感だけは はっきりしてるけどな。


そんな話をしている間も、映像は流れてる、

学校 会社 それに見舞い…、生活の流れが変わってみんな大変そうで…、

映像の俺は みんなの異変を気にしながらも、どうすることもできない様子で…、

ただ そばにいることが多くなってる、

そしてついに ご主人様たちが病院の先生と話をするようだ…。



「なぁ…天空 わかった? 俺 全然だった…、言った通りだ 難しすぎる」

「僕もよくわからない言葉ばっかりだよ、ちょっと… 聞いてこようか…」

「聞くって… あの何もないところでか? あそこで一体 何をしてるんだ」

「えっ 何を…って、あそこで僕の先輩とか いろんな人とお話ができるんだ、

あそこは出入口だから、教えてもらったり 物をもらったりもできるんだよ」

「出入口? でも、出られないんだろ?」

「そう 向こうから開けてもらわないと出られないんだ、終わるまで開かないの、

長くなることもあるから、必要なことができるようにあの辺りで繋がってるんだ」

「なんだかそれって ちょっと 閉じ込められてる って感じじゃないか」


そうだね…って 天空は笑ってた、こんなところ イヤじゃないのかな…、

それから 天空は また あの何もないところに行って何かをはじめた、

今は 俺とママさんを追いかけている映像になってるけど…、元に戻したら、

また 弥月がいなくなった辺りに戻るのかなぁ…、とりあえず試してみた。

どうやらそのまま続きになるらしい…、弥月がいない家で 過去の俺が待ってる、

カイザーの時と違って 俺も映っているから 両方ってことになるからかなぁ…、

よくわかならないけど とりあえず早送りにしよう、誕生日で止まるんだもんな、

しばらく映像を見てから…、やっぱり自分で 映像を止めて 天空を待った。


「ねぇ ひなた 見てみて!」

「んっ? どうしたんた」

「コレだよ、ほらっ コレで 何もないところじゃなくなったでしょ」

「…んっ? かっ…カッコいいけど ちょっと …やりすぎかな 天空」

「えっ~、結構いいと思うんだけど…、頑張ったんだよ…」


俺が 何もない ナニもないって言い続けたからか、天空は気にしていたようだ、

え~っと デコレーションだっけ、なんとなく明るくなるぐらいの場所を、

わかりやすく別けて、飾り立てていた、なんだろう…、どうツッコ… 

…いや、どう表現すべか…だ、祈るところ 話すところ っていう感じに分けて… 

派手に 超お子さまの飾りつけをしている、はぁ… この辺やっぱ子供だな、

とりあえず誉めるだけ誉めて、視界に入るとな…と ちょっとした理由をつけて、

簡単なのに変えてもらった。

また あの 人間のおじいちゃんの姿を ちょっと意識してしまった、…はぁ…。


「せっかく頑張ったのにな…、まぁ 映像が見えにくいなら仕方ないね…」

「せっ… せっかく頑張ってくれたのに… ごめんな」

「でも、確かに あの方がスッキリするね」


すべての飾り付けを取り去って台だけを置いてもらった、白い台だったから

転ばないように色をつけてもらった、綺麗な青色を そう空色だ。


「なぁ、何もないところのことはいいとして…、手に持ってた それなんだ?」

「あぁコレ、さっきの病気のことを教わったんだけど、聞いてもスゴく難しくて、

時間かかるから 解りやすい資料をあげる ってくれたんだけど…」

「…そうか、まぁ 無理と思うけど 一応 見せてくれよ」


天空が解らないものなのに 俺が解るとは思わないが、

天空が手にもっていたもの、片付ける前にテーブルに置いていたものは、

病気の資料だった、一応 見せてもらったんだが…。


“リンパ?” “白血球?” “抗がん剤?” やっぱ難しい言葉がいっぱいだった、

…ん~、天空と一緒に見たけど… わかったような… わからないような…だった、

ようやく二人で理解できたのは、“がん”っていう病気があることだ、

その “がん”っていうのにも “良性” と “悪性”っていうのがあるってこと。

もしその “悪性の方のがん” っていうのになってしまうと、

体の中の “細胞”っていうのが 突然 悪さをする厄介者に変わってしまい、

大事な自分の体なのに、自分の体を攻撃してしまうらしい、

その中でも弥月のは 体の中を流れている“血液”ってのが “がん”になって、

体の中でが悪さをしているってことだった、

でも… 俺たちにも これだけは はっきりと分かった。


「スゴく治すのが つらくて大変だけど、治らないわけではないみたいだな」

「治したあとも大変そうだけど…、弟くん 元気になれるんだね」


弥月は そんな大変な病気にかかっていたなんて…、俺 そんなこと まったく…。


「弟くん ケガじゃなくて そんなに大変な病気だったんだ… 確かに心配だね」

「さっきも思ってたけど…、知れば 知るほど… だな…」

「とりあえず誕生日まで見てみようよ、そこで どう見るか…、あれっ?」

「あぁ、映像は止めておいたよ」

「コレって…、いいの? 大キライな注射のところだよ」

「…一緒に 一緒に 誕生日のところ見ようと思ってさ…、

二人 一緒なら見落とさないだろ」


これは 誕生日の前だろう…って思って止めておいた、

まだ 俺は人間の行動を理解してないかもしれないから、見落としそうだ。

いろいろ知って気になったんだ 何で誕生日に 俺は独りだったんだろう…って、

弟たちと毎年 祝っていたんだよな…、人間のことを知ったから意味がわかった、

そう思うと 弟たちは祝ったのか…、それとも 俺だけ仲間からはずれたのか…。

弥月が病気になったのに 何もしてないから、みんなから嫌われたのかなぁ…俺。


「そうだね、二人で見よう、再生を始める前に 一応 確認ね…、

ひなた独りで誕生日を祝ったんだよね、なら 弟くんたちはどうしたんだろう、

その年は 誕生日のお祝いをしなかったのかなぁ」

「そうそれ、どうなのかなって思ってさ、どうやったら それがわかるかなぁ…」


とりあえず ここからの映像を 俺たちは注意深く見ることにした、 

毎日 荷物を持って出掛けてるから 弥月に会っているんだろうし、

なら 誕生日の話をするだろう、そうしたらもっと調べようってことに。

弥月はどんな状態なんだろう…、早送りしてたから わからなかったけど、

天空に聞いたら “いなくなってから たぶん1ヶ月ぐらいだ” って言ってた、

人間の時間の感覚が だいぶ わかってきた、それって ちょっと長いよな…、

その間に 弥月は元気になったのだろうか? 

それとも もう つらい治療っていうのを 始めているのだろうか…。


「そろそろ 誕生日の頃かなあ…、服が半袖に変わってきた」

「半袖? あぁ 確かに 長さが変わってるな 夏 だったよな」

「夏休みに入る月が誕生日だったと思うよ…、日にちはわからなかったけど」


そして 見たかった映像は突然に始まったようだ…、追いかけよう…。





「出掛けないのパパさん? なら遊ぼう、いや みづきのところに行こうよ」

「ひなた、後で散歩にいこうな、今日はなぁ サプライズ するんだぞ~」


弟がずっと帰ってこない…、たまに匂いがするんだけど… そこにはいないんだ、

どこかにいるんだろうけど…、パパさんは知らないかなぁ… 探しにいきたいな、

いつもなら出掛けるのに まだ出掛けない、どうしたんだろう。


そろそろママさんも出掛ける頃だ…って思ったけど、ママさんも出掛けない、

いつも以上にバタバタして、パパさんも手伝ってる…、忙しいなら仕方ないか…。

一眠りしよう、そうしたら みづき 帰ってくるかなぁ… 帰ってきたらいいな…。


「ただいま~ ママ、 あっ パパも今日はいるんだった ただいま パパ、

ねぇ、早く… 早くいこうよ 僕 もう出掛けられるよ」

「はぁ… 奏星、ちゃんとカバンを置いて 手を洗ってきなさい、

そのままじゃダメだろ ちゃんと準備をするんだ 行くのはそれからだよ」

「えっ~ すぐに出掛けちゃえばいいじゃん… だって外にいくんだもん」

「これから病院にいくんだ、そんなことじゃ 先生に怒られて弥月に会えないぞ」

「えっ 嫌だ 会いに行く、今日 絶対に会うんだ すぐに洗ってくるね パパ」

「ねぇ、そうせい みづきは? 一緒じゃないの? まだ帰って来ないの?」


そうせいが帰ってきた…、でも みづき は まだだ、まだ 帰ってこない…。

そうせい も帰ってくるなり忙しそうだ、どうしたんだろうな みんな…。


「じゃ みんないくぞ! ひなたも行くよ おいで…」

「えっ、みんなで出掛けるの?」


みんなで行くの? いつもは そうせいが散歩につれていってくれるのに…、

いつもの散歩にしては何か変だけど、連れていってくれるなら うれしいよ。

狭いところに入れられたけどドッグランじゃないみたい、どこに行くんだろう…。



「さぁ 着いた、おいで ひなた」

「もう着いたの? ここ…どこ?」


知らないところだった、狭いところから出されて ヒモをつけられて…、

ママさんはすぐにどこかに行ってしまった、パパさんも忙しそうだ、

どうやら そうせい と待っていればいいらしいけど…、どうしたんだろう。


「お待たせ~ つれてきたよ」

「あっ、ママさん戻って…、えっ… この…匂い…」


「ひなた! ひなただぁ! 会いたかったんだよ おいで~ ひなた」

「みづき! みづきだ! どこに行ってたんだよ 会いたかったんだよ!!」


みづき だった、そこにいたのは みづき だった、

なんだか しっぽも勝手に動いて、思わず飛びついてしまったんだけど、

あれっ…? 見たことのない人間が みづき を支えた。


「ごめんね ちょっと具合が悪かったんだね… みづき 大丈夫?」

「心配してくれるの ひなた、 大丈夫だよ 僕 頑張るからね」

「少しなら 遊んでいいって、パパ 奏星 お願いね」

「任せてよ ママ」


久しぶりだ、久しぶりの弟たちとの散歩だ…、スゴくうれしいよ!

ご主人様たちはさっきの人間と話してる、みづきはちょっと具合が悪かったのか、

まだちょっと支えられてるけど、もう動けるようだから 帰って来れるよね…、

きっと みづきを迎えに来たんだな、話が終わったのか パパさんがやって来た、

久しぶりに、みんなで久しぶりに たくさん遊んだ、

遊びおわったら 一緒に帰ろうな みづき。


「そろそろいかないと、看護師さんに怒られちゃう」

「えっ~、もっと遊ぼうよ パパ、ねっ 弥月も…」

「…もっと 遊びたいんだけど、ちょっと疲れちゃった…な」

「えっ? わっ ごめん 弥月 どっ どうしよう ねぇ パパ どうしよう」

「大丈夫か 弥月? 病室へ戻ろう、 大丈夫だぞ 戻れば大丈夫だ 奏星」

「パパ、ひなたのリード もっていい?」

「いいぞ 弥月、 奏星 弥月のことを手伝ってあげて」

「ごめんね 弥月、 久しぶりだから 楽しくて…」

「奏星のせいじゃないよ、僕も楽しかったんだ…」

「もう外は終わり? ちょっと疲れちゃったの? じゃ 早く住みかに帰ろう…」


さっきのところに戻ると、 みづきが 僕を抱き上げた、何かを言ってる、

何て言ったんだろう…わからない…、まぁいいか、これからまた一緒だもんな。


「僕 病気と戦ってくるよ、しばらく会えないけど 応援してね ひなた」





「弟くん、大きな病気を治すことにしたんだね」

「そうか… 弥月 あの時 あんなことを言ってたんだ、それなのに俺って…」

「仕方ないよ、言葉が解らないんだもん、でも 弟くんはとても満足そうだよ」


あの時のことはおぼえてる、あれからも どこに行ったんだって思ってた、

だって もう帰ってくる、また ずっと一緒にいられるって思ったんだ…

でも 帰って来なかった、あれから しばらく待っても帰って来なかった、

ずっと どうしてか 分からなかったんだ…、そうか… そうだったんだ。


「ねぇ、ひなたキャリーに入れられてるよ、映像はどうする このままにする?」

「どうしよう…、任せるよ」


弥月と別れた俺は パパさんによってキャリーバックに入れられていた、

弥月と帰ると思って 素直に入っている…、でも すぐに帰らないようだ、

乗って来た車にも 過去の俺を乗せずに、受付? に預けている、何でだ?


それから映像は 俺を預けたパパさんたちがママさんと合流したところを映した、

その後は ママさんを追いかけている 天空はママさんを選んだようだ。

ママさんは看護師さんと何かを話してる、弥月の着替えが終わった?

何を話していたんだろう… その答えはすぐにわかった…。





「ねぇ ママ どこに行くの? ごはんの時間なんだけど…」

「大丈夫よ、ちゃんとお医者様には許可をもらってるから」

「おっ、やっと来たな 始めるぞ 奏星」

「うんっ パパ、じゃ弥月 ここで目を閉じて、いいって言うまで開けないでね」

「目を? わかったよ…、でも どうしたの 奏星 何かあるの?」


「こっちだよ ここに立って…、じゃ 三つ数えたら目を開けていいよ 弥月」

「何があるの? えっ、三つ…? わかったよ …い~ち、に~い、さん」


「お誕生日おめでとう、弥月 奏星」

「おめでとう 弥月兄ちゃん」

「あっ ありがとう、パパ ママ 奏星、 それに 奏星もおめでとう」

「さっ、二人とも座って 一緒に食べよう」

「今日はね ここでみんなでごはんよ、病院の皆さんに協力してもらったの、

弥月は入院中だから同じごはんじゃないけど…、ちゃんとケーキもあるんだよ」

「ねぇ 奏星、いつも 兄ちゃんって言わないのに どうしたの 珍しいね」

「誕生日だけだよ 弥月を兄ちゃんっていうのは、これが僕のプレゼント」

「変なプレゼントだなぁ…、でも 僕 用意してないから… ごめんね奏星」

「いいよ 早く元気になれば、それに次に期待してるからね、弥月兄ちゃん」





「とっても楽しそうだねみんな、ひなたがいれば もっといいのにね…」


看護師さんに案内されて部屋の前で 弥月は奏星に目を閉じるように言われてた、

奏星に 手を引かれながら 弥月は部屋に入って目を開けた、そこには…、

ごちそう…、まではいかないけど、みんなのごはんが用意してあった、

弥月だけは病院の食事らしいけど、ケーキっていうのを食べていた。

きっと みんなで弟くんのために計画したんだね… って天空がつぶやいた、

それから 天空は教えてくれた、犬は病室に入れないんだって、

きっとご主人様は、ごはんを食べてる間 ずっと車で待たせると危ないから、

受付の人に頼んで預かってもらったんだろうって。

そうか… 人間と違うからか…、 人間しか入れないところがあるのか…。

でも 俺が独りだったのはこのせいか 嫌われたわけじゃなかった、…よかった。


「入れないならしょうがないよな、まぁ みんなが楽しいならいいか」

「この日から ひなたの誕生日は ずっと 独りになったの?」

「いや、この時だけだと思う、後は家で祝ってたはず…」  

「…なら」

「でもな… 弟がさ、弥月だけは ずっと いないんだよ」


映像は続いている、みんなが帰る時間がきたようだ 看護師さんが声をかけてる、

みんなと別れたくないのか? 弥月は寂しそうに看護師さんと部屋を出ていった、

みんなは 静かに帰りの準備と片付けをすると 肩を落として部屋を出ていった。


帰る途中に会った看護師さんと パパさんは何かを話しているようだ、

ママさんは先を歩く 泣きだしそうなのをガマンしている奏星をなだめながら、

それから 預けられてた俺を連れ戻して、みんなで車に乗って家に帰ったようだ。


家に帰ってからは、さっきの騒がしさからすれば ちょっと静かだったけど、

いつも通り…、いや 珍しく パパと奏星が 一緒に風呂に入っていた、

それから いつものよう…ではないが 1人で奏星は先にベッドに入った、

またご主人様たちはお酒を飲むようだ、今日のこと、これからのことを話ながら。


それからの映像は 俺の言った通り、独りでごちそうをもらうようだ…。

これが俺が気になってた、独りの誕生日、独りごちそうの理由 なんだな…。





「ちょっと長湯になっちゃった お待たせしました」

「別にいいよ 今日は大変だったんだから、ひなたにはさっきおやつあげたし」

「ひなた、ごめんね遅くなって、今夜はごちそうだよ」

「じゃ お祝いの続きしよう、今度はひなたの誕生日な」

「ごはんくれるの? お腹すいたよ、おやつだけじゃ たりなかったんだ」


僕の苦手なお風呂を、ご主人様たちは順番にしてきたらしい、匂いがかわった…

それに…、またあの苦手な匂いのを飲むようだ…、でも、なんだかいい匂いも…。


「さぁ 準備出来たよ、今日は一緒に食べよう おいで ひなた」

「ソファーのほうで ごはんするの? 僕もいっていいの?」

「待て、ここで待てだよ ひなた いい子だね…」


「お誕生日おめでとう、ひなた、よしっ、さぁ ごはんだよ」

「じゃ ひなたの誕生日に乾杯」

「おめでとう ひなた 乾杯」

「えっ、すごい ごちそう、食べていいの?、…スゴく おいしい~」


「すごい ごちそうなのに ひなた あっという間に食べちゃったね」

「ほんとだ、ひなたったら… 自分の生まれた日ってわかってるのかなぁ…」

「これ スゴくおいしいよ、もっと食べたいよ…」

「ごめんね、もうおしまいだよ、ママたちお話するから付き合ってくれる?」


ご主人様たちはソファーの前に座ってごはんを食べ始めたようだ、

僕にもごはんをくれたんだけど…、すっごく おいしいごはんだった!

もっと欲しくて 入れ物をご主人様に出したけど…、代わりにお水をくれた、

もう無いみたい…、ご主人様たちみたいに 僕も話せたら欲しいって言えるのに…。


「ねぇ ママさん、みづき は いつ帰ってくるの? さっきいたよね」

「どうしたの ひなた、お話に付き合ってくれるの?」

「ママさん、迎えにいこうよ、きっと もう大丈夫だよ」

「どうしたの ひなた…、あっ イタズラしたら ダメだよ」


ママさんのよく持ってる カバン にさわって たおしたら 止められた、

だけど倒れたから 中から出てきた、僕 知ってるよ、これで迎えに行けるって。


「どうしたの ひなた… これが欲しいの? これって… 車のカギ…だよ」

「もしかしたら、ひなたさぁ 弥月に会いたいのかな… なんて…な」

「…今日 会ったから 迎えにいけってこと…なのかなぁ」

「あれっ…、僕 そんなにいけないことをしちゃった? ごめんなさい…」


ご主人様たちの声が弱々しくなった…、僕が取ろうとしたせいなのかなぁ…、

でも、迎えに行こうって言えないから、これを見てわかってほしかったんだ、

でも… ごめんなさい、もう しないから元気だして…。


「ひなたも弥月のこと 心配だよね…」


何を言ってるのかよくわからないけど…、僕はママさんのそばに居ようと思った、

おとなしく…、ただそばにいるのがいいと思った…、抱きしめてあげれないから。


「ひなたも 寝ちゃったのかな…」

「今日はひなた 久しぶりに弥月に会って 楽しそうだったもんな」

「これからのこと 少し決めないとね、子供たちのために」

「そうだね、弥月が帰ってくるまで長くなるから、お互いに頑張らないと」


何を話してるんだろう…、なでられてたら 眠くなってきちゃったなぁ…、

僕が起きたら ご主人様 みづきを迎えにいくかなぁ…、

一緒に連れて言ってって、言えたらいいのになぁ…、人間なら 言えるのになぁ…。





映像はここで止まった、誕生日の時に停止させる…って決めてたもんな。


まただ…、また映像の中の俺は人間に憧れてる…、

みんなと話したくて、笑って欲しくて、一緒に… 人間として一緒に居たくて、

人間のことをよく知らない俺は、そうならいいのに…って願ってる、

人間を知った俺は… 知った俺は…憧れるのか? 人間に…って そう願うのか?

自分のことなのに… わからない… なんでだろう。


「確かに独りでごちそうだけど、ご主人様たちも一緒にごはんしてくれてるね」

「そうだな、言葉が解らないから… 分かったら意味も変わってくるな やっぱ」

「ひなた 寝ちゃたね…」

「弥月と会えて スゴく散歩して楽しかったんだ、たぶん そのせいだろう」

「ご主人様たちの話も気になるし、すぐに続きを見る?」


「なぁ… 天空、…ちょっと…さぁ 一緒に遊ぶ…っていうか 運動しないか?」

「えっ 運動? 僕と?」


さっきも…、それに今もだ、なんか… なんだか モヤっとするんだ、

おもいっきり走りたいっていう気分て言うか…、スカッとしたいっていうか、

とにかく 何も考えずに、他のことをしたい気分だった、…でも。


「ここには何もないから、何か遊ぶものもらってくる、何がいい?」


何でもいい…って答えた、道具なんて なんでもよかったんだ、

ここでまた 何も考えずに走り出したら、きっとこの場所まで戻れない…、

とにかく そんなふうに思うから、だから 走り出したらダメだと思った、

なら… この辺をただぐるぐる回ってって…、むなしい… むなしすぎるだろ…、

そんなことをしてたら それこそ、イライラして… そうイライラして、

間違いなく 自分のしっぽを追いかけて走り出している、

それぐらい モヤっとしてて もう 何でもいいから叫びたいってぐらいなんだ。


天空は さっき作った空色の台のところに向かった、

低い方の台に乗ると、何かを始めた、…あぁ あんなふうにやってたんだな。

それから 手にいくつかの物をもって、ソファーに座る俺の前にやって来た。


「とりあえず 簡単に遊べる物をもらってきたよ これでもいい?」

「ああ…、じゃ 悪いけど 俺の運動に付き合ってくれ」

「うんっ いいよ」


“あれっ?” 俺はソファーを降りて歩き始めた 危なくないぐらいに離れる為だ、

為…なんだけど…、気のせいか? 天空 なんだか スゴく嬉しそうに見える…、

ソファーから離れて、振り向いたその顔は…遊び道具を選ぶその姿は…、まるで…。


“なんだか、さっきの映像の 弥月みたいだ…” 


さっきの映像… 病院に入院していて 会えなかった弥月の顔、

久しぶりに会った時の弥月の顔が、過去の俺を見つけた時のあの嬉しそうな顔が、 

急に俺の頭の中に浮かんだ。


「じゃ…これっ これなんてどう? これから始めよう 勝負だ負けないよ~」

「おう、望むところだ、絶対に勝つ!」

「じゃ 僕が勝ったら ごほうびで 顔スリスリしていい?」

「いいぞ じゃ 俺が勝ったら…、 …もっ…もっと 一緒に飛んでもらうからな」


変な返事をしてしまった …真っ先に思い浮かんだのは… 別の事だったんだ、

でも それを天空に言えなかった、真っ先に浮かんだこと…、

それは、 また 天空に撫でてもらいたい ってことだったからだ、

そんなことを天空に言ったら きっと からかわれるし、

それに それじゃ 顔スリスリと たいして変わらないじゃないか、

でも なんでだろう、あの子供の手で あの小さな手で 撫でてもらいたかった、

あの 優しい手で…。


綱引きのロープ、フリスビー、犬用?のサッカーボール…、

犬がよく遊ぶ道具ばかりだ、何で勝負するのかわからないけど 対決が始まった、

でも どっちが勝ったとか そんなのどうでもよかった、だってスゴく楽しい…!

そうか、最近 弟とは こんな風に遊んでなかったもんな、

家族が増えて、みんな忙しくて、家族より犬仲間と遊ぶことが多かったんだ。



なんだかいろいろあって いろいろ考えて モヤっとして…たけど、

なんだかスッキリするぐらい楽しくて、これが 頭を空っぽ…って言うのかな。



映像の中で ケガをした弥月は あんなに元気になってたんだ、

それにあの時… 映像の中で俺に “戦ってくる” って言ってた、

あの頃はまだ、ケガを治してるところで 病気とは戦ってなかったんだ、

それに 天空に教えてもらった 治らない病気じゃないんだって、

なら… 弥月なら きっと病気にも勝つさ、俺の弟だもん、絶対に勝つさ。


治すのに時間がかかるって言ってたよな、それじゃ きっと まだ戦ってるんだ、

だから 帰ってこれないんだ、家からいなくなって 時間はかなりたってるはず、

もしかしたら ここから出られて帰ったら もう 治って帰ってるかも知れない、

やっぱり 早く帰らないと、天空と離れるのは… ちょっと 寂しいけど…な。


映像見てたら よけいに思った、 あぁ… 会いたい 弥月に 早く会いたい…。



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