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第3話「血の力に目覚めしとき」

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!っ……はぁ…はぁ…。」


いつもの瓦礫の上でネリクルシが胸辺りの服を握り締めて、必死に何かを耐える。ネリクルシにしか見えない幻影が目の前で見下ろしていた。


老齢の皺の入った顔。白髪と白髭を生やしており、黒い装束とマントを身につけている。その目は血のような赤色。口元から見える牙。彼こそ永久封印された吸血鬼王。


ヴラド・ツェペシュ。


「若造よ。我に勝てたことは称賛に値する。だが、我を殺した故に我も若造も救われなかった。我は不死ではなく不滅。故にこうして貴様も苦しんでいる。」


あまりにも永く生き過ぎた吸血鬼王の瞳には何の感情もない。


「哀れだな。愚かな人の為に自らを差し出して、貴様は苦しんでいる。貴様は所詮…。」


「うるせぇ!んなことわかってんだよ!けどな!ここで抗わねぇと俺もヴラド!テメェもまた苦しむだけじゃねえか!」


「そんなことはわかっている。だが、ゆめゆめ忘れるな。貴様は所詮…。」


「チッ……。」


その瞬間、足音が聞こえそちらへと目を傾ける。

そこにはテニアが居た。


「あの…お体大丈夫ですか?」


「気にするな。単なる持病だよ。」


「ところで、さっき居たお爺さんは誰ですか?」


その言葉にネリクルシの目が開かれる。手が震えた。あってはならない現実が目の前に居た。それは諸刃の剣だ。今はまだ危うい。だからこそ、驚愕と共に真実を早々に話すべきか悩んだが、特には何も言わなかった。


「そうか…。」


けれど、1つ心当たりもあったのに気付けなかった自分は相当に追い込まれていたらしい。だからこそ、1つだけヒントを与えることにした。


「テニア。修行の前に少し授業をしようか。」


「はい!」


「テニアは妖精と悪魔と聖獣を召喚したな?」


「はい。」


「妖精は精霊の一種でハンターの血を持つ者が比較的召喚しやすい部類に入る。テニアはまだ未熟なハンターで魔力と呼ばれるものの限界が低いから妖精が召喚された。」


ここからは一部の上位ハンターしか知らない情報だ。


「聖獣は精霊とは違って、天の御使いの力が関係してくる。だから、テニアは生まれ持って天の祝福を少なからず受けているということになる。だが、アルミラージは聖獣の中でもかなり重要な役割を持つ故に天にも神にも愛されてると言われてる。」


「天へと導く為ですか。」


「あぁ、そうだ。主に死者の魂が汚染されないように導く。とは言っても、天の存在は認識できても神が居るかまではわからん。天という存在が神なのか。天とは地名なのかはサッパリだ。」


「そうなんですね。」


ここからが一番重要で最悪の可能性が引き起こされることもあり得るが、敢えてヒントを渡しておく。自分で悩むことも考えることも大切だからだ。


「なら、悪魔は何だと思う?何かの血なのか。魂の祝福なのか。またそれとは別の何かなのか。」


テニアなりに考えてはみるが答えは1つしか思いつかない。


「吸血鬼の血?」


「半分正解だが、これに関しては、追々わかるときが来る。そのときは家族(召喚獣達)や俺に頼れ。さて、今日も修行しに行くか。」


「はい!」


『地で蠢く森』


「さて、刀とジェミニ両方持ってきてるみたいだな。今日は刀の方は預かろう。スケルトンソルジャー相手に使い方を覚えろ。」


「わかりました!ネリクルシ師匠!」


彼のお陰で僕はたった1週間で最低限は武器を振るえるようになった。僕なりの人生の道が開けてきたのも彼のお陰だ。僕としての敬意の払い方として師匠と呼ぶようにしたのだ。


すると、ネリクルシは少し照れ臭そうに笑みを浮かべて、彼なりの激励を言った。


「ま、俺の修行は超ハードだから、せいぜい頑張って付いて来いよ。」


「はい!」


それと共にネリクルシは木の上に登り、スケルトンソルジャーを探す僕の後を無音で追った。木々の揺れすらもなく気配を完璧に消している。


早速、スケルトンソルジャーを一体見つけた。

今日は運がいい。複数でいる場合はかなり多かったが、単体ならばこのまま戦いに行ける。


昨日の戦い方を思い出す。盾を壊すやり方は効率が悪いと言われた。ならば、片方の剣で剥がしつつ攻撃するのが良いのかもしれない。


スケルトンソルジャーが剣を振り下ろすが、それを左の片手剣で受け止める。骨しかない上に剣もボロボロなので僕でもなんとか受け止められる。その隙に右手の剣で攻撃するものの盾で塞がれてしまう。


このままでは防戦一方となってしまうので、こちからから攻勢を打って出た。


先ず、右手の剣で盾を横から剥がす。そのまま左手の剣でスケルトンソルジャーの剣を弾きつつ攻撃する。たったこれだけの動作だ。


しかも、スケルトンソルジャーは魂がないから、一定の動きしかしない。もっと上位のスケルトンとなると魂も宿るらしいが、基本的には生前の動きをなぞらえてるだけで、応用や復習ができない。


だからこそ、同じ戦法でも何度だって通用する。


なんとか、時間を掛けて倒すなり、ネリクルシが正面に立った。


「よくやった。」


そう言うなり、頭を撫でてくる。


「今の戦いは見事だった。まぁ、俺レベルになると盾の上からでも斬れるが、斬れないなら折角の2本なんだし、ああいう戦い方になるだろうな。」


「ありがとうございます!」


「さて、いつもならこのまま連戦させるが、その動きにも剣にも慣れただろう。違う敵と今から戦わせる。」


スケルトンですら大変だったのに次は一体どんな敵が待ち構えてるのか、少し手汗が出てきた。


「そんな緊張すんなって。次戦わせるのは竜と人の混血と言われてる『バーラウルオム』。混血だからといって人ではない。そう言われてるだけの見た目をしてるだけさ。スケルトンと似たようなもんだ。」


白に戻り、比較的近場の部屋に入ると『バーラウルオム』が一体佇んでいた。だが、こちらを見るなり、剣を引き抜く。


「今回も妖精だけ使っても良い。そいつを倒すのが暫くの目標だな。テニアが気絶したとしても俺が居るから心配するな。」


「さて、そこの悪魔と聖獣は二人で『バーラウルオム』を5体狩って来い。それが終えたら帰ってきていいぞ。この辺の部屋なら何処にでも居るからな。」


「へいへぃ、わかりやしたよ。」


「うん!ご主人様も頑張ってね!」


僕はコクリと頷くなり、『バーラウルオム』と対峙する、最近少しずつ養ってきた戦闘の勘的にこいつは知性が少なからずありそうだ。


「ほう?小僧。そこの優男ならともかく、お前が俺と戦うのか。」


まさか人語を理解してるとは思わず、呆気に取られる。


「む?竜人を見るのは初めてか。」


竜の顔を持ち人の形をしている。肌はビッシリと緑の鱗で覆われており、指には鋭い爪。最低限の装備を整えており、片手剣を携えてる。


「は、はい。」


「ガハハハハハ、素直でよろしい。だが、これから命の取り合いをする相手に敬語など不要だ。戦士なら堂々としてるがいい。」


何気に優しさも見せられて、より困惑する。


「困惑してる場合ではないぞ?」


スッと慣れた手付きで片手剣を引き抜く。その瞳には燃ゆる炎のように赤く揺らめいてる。『バーラルオウム』の闘志がヒシヒシと肌で感じ取れる程だ。


「1つ聞いてもいいですか?」


また敬語を使う僕に溜息一つのあと、答える。


「なんだ?」


「貴方には名前があるんですか?」


「あるにはある。だが、この身は吸血鬼王の残った魔力の残滓で縛られておる。故に今の私に名どない。」


「え?」


ついネリクルシの方を見ると、ネリクルシも溜息をつく。


「言いたいことがあるが、そいつの言うとおりだ。竜人にも竜人の世界が存在する。吸血鬼王の魔力の残滓が勝手に呼び出した。だが、吸血鬼王の本質により、呼び出された魔物は吸血鬼王が死んで尚、契約が続く。俺達人との契約とは本質が違うから、名を付けずとも縛ることができる。」


「それなら、罪のない竜人を僕に殺させようって言うんですか!?」


竜人の瞼がピクリと動く。


「ほう、小僧がもう勝った気で居るのか。良かろう。その身で私の力を体感するがいい!」


「待って下さい!そういうつもりじゃ…!」


剣と剣がぶつかり合う。その最中にネリクルシの方を見ると目を瞑り、会話する気のなさが伝わってくる。


その瞬間を相手が利用し、剣を握る手が緩んだ瞬間に剣を弾き飛ばし、それに気付いた瞬間に無様に転がりながら避ける。だが、僅かに傷ができた。


「小僧。殺し合いの最中で余所見とは良い度胸ではないか。私への竜人への侮辱と見做す。」


すぐさま剣を拾い両刃で受け止める。


だが、上からの振り下ろしというのもあり、こちらが分が悪い。


ドクンッ……


なんとか力を込めるが押されつつある。


ドクンッ……


(僕はこんなとこで死ぬわけには行かないんだ!)


ドクンッ……ドクンッ……


そのとき初めてネリクルシが顔を上げ、僕の方を見た。

ネリクルシは懐かしくも感じたくなかった、ある気配を感じ取ったからだ。


ドクンッ


押されて、もう終わりだ…と思ったが、最後の最後に全力で振り絞って押し退けようとする。


ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ!


ガギンッ!!!


押し退けるどころか、『バーラルオウム』を体ごと壁にまで吹き飛ばした。


「え…?」


不思議と体から力が湧き上がる。そんなに力を込めたつもりはないくらいあっさりと吹き飛ばせたからこそ驚いたのだ。さっきまでのピンチがいったい何だったのかと思う。


竜人が呟く。


「これは……まさか……。」


ネリクルシは僕の手を凝視していた。

僕自身は結局最後まで気付かなかったが、両腕の表面に赤い紋様が根のように広がりつつも螺旋のように纏まり、手の甲の赤い眼のような紋様に繋がっていた。


その紋様がドクンッ…ドクンッ…と脈打っている。


その紋様こそが今のテニアに力を与えている理由でもあった。


竜人が叫ぶ。


「おい!そこの優男!お前といいそこの小僧といい、お前達は一体何者だ!!」


「え?」


「ふぅ…信じるかどうかは知らんが、家系図にもの欄くらい遠い昔の血族とでも言えばわかるか。」


竜人は妙に納得したように立ち上がる。


「そうか。それで此処というわけか。」


「いや、意図してこうなったわけではないが、将来を見据えて修行させている。」


「そうか…。」


「え?え?え?」


僕には何のことかさっぱりわからなかった。だが、二人には何かの共通の認識があって、それを話しているのだけはわかる。どう考えても初対面にも関わらず、共通認識ってことはハンターと吸血鬼王やその配下の戦いに関連してるようなものなのだろうか。


話に付いて行けず困惑してるところで、ネリクルシが一言だけ口に出した。


「続けろ。」


竜人は先程よりも更に圧が掛かる闘志でジリジリと近寄ってくる。先程とは明らかにレベルが違う。それは闘志だけなのか、それとも実力なのかはすぐにわかった。


剣の一振りに対する応酬で片手で剣を受け止めるが、軽いには軽いが先程よりも少し力が強かった。もしかしたら、手加減をしていてくれたのかもしれない。それが優しさからなのか子供だと侮っていたかはわからない。


あっさりと弾き飛ばし、もう片方の剣で肩から腹まで一気に切り裂く。竜人はよろめいて倒れ込む。僕はすぐに側に寄り添い心配をした。


「大丈夫ですか!?」


「小僧。心配するな。倒してくれたことに礼を言う。」


「こんな時に何言ってるんですか!?」


「小僧聞け!吸血鬼王の魔力の残滓は未だにこの城に残っている。俺が死んでもまた新たな竜人が呼び出されるだろう。だがな。俺ももうここに囚われるのは飽いてたところよ。それに魔力の残滓は召喚される度に薄まる。だから、お前がやったことは将来竜人の為となろう。」


「それでもっ……!!」


僕は敵なのに、人ではない相手なのに涙を流していた。


「小僧は優しいな。その心を何時までも失うなよ。そろそろ、殺してくれ。」


「そんなっ…!」


ネリクルシが口を挟む。


「テニア。その竜人のことを思うのなら殺してやれ。」


「そんなこと僕には…。」


「なら、俺がやる。」


「待って下さい!」


ネリクルシがそれでも進むが、僕は1つ試したいことができた。


「1つだけやってみたいことがあるんです。」


その言葉にネリクルシが立ち止まる。


「なんだ?」


「竜人さん。貴方の名前を教えて下さい。」


「何をする気かはわからんが、まぁ良い。私はギルネッテだ。」


僕が試してみたいこと、それは召喚だった。

別の世界から呼び出せるというのならこの世界の人ならざるものでも、主人が居ないのなら呼び出せるのでないかと。


僕は目を閉じる。

そっとギルネッテの傷がない肌に触れる。


「何をしてる?」


ネリクルシは真っ先に気付いた。


「まさか……いや、できるわけが…。だが……。」


想像するさっきまで戦った堂々たる竜人の姿を。だが、竜の顔を見るのは少し怖いからちょっとぼやけさせてみて、手繰り寄せる。だが、そのときに手繰り寄せる者の名を呼ぶ。


「ギルネッテ来い!!!」


腕の赤い紋様が激しく鼓動し、ギルネッテの下に魔法陣が浮かび光が部屋中を埋め尽くした。

はい!

久し振りの投稿!

そして、主人公早くも覚醒か?

なんか色々と気になるところ出てきたと思いますが、察しの良い方はお解りですね?(笑)

まぁ。自らネタバレはしません。

作中で出てくるまでは秘密にはしておきます。


では、次の投稿までお楽しみに!

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