第2話「戦姫繚乱とゾディア・ジェミニ」
爪による攻撃があまりの速度で軽く傷を追ってしまいゼラニウムのヒールのおかげでなんとか逃げ回れるようになった。ルナの猛攻と最後のディストラクションのお陰でかなり消耗したはずなのに、『チェールアリピ・ポルタ』が光り出すと共に翼が復活する。
今度は防御態勢ではなく、完全に空中より攻撃して来るようになり、ルナの攻撃がなかなか当たらなくなった。そこで声を掛けられる。
「どうした?もう終わりか?」
「ディストロ!ディストラクション打てそうになるのにどれくらいかかる?」
「あと5分あればもう一発行けるぜ。」
「だったら、僕も惹きつける!」
無謀なのはわかってる。それでも、ここで決めないと前に進めない気がする。だからこそ、より危険を侵してでもこいつを倒す!
『チェールアリピ・ポルタ』の猛攻が激しい。
ルナも疲れてきた様子で僕が基本的には攻撃を受ける。けれど、頼みの綱のヒールももう打てそうにないらしい。傷だらけでボロボロになった中でディストロが最後のディストラクションを使うが、それでも尚届かない。
絶望で崩れたとき、ネリクルシが翼だけを器用に剥ぎ取る。
「これで少しは楽になったか?」
「はい!」
震える足を踏ん張って立ち上がり、ディストロにはディストラクション。ゼルニウムにはヒールを任せて、ルナに攻めさせる。無我夢中で攻撃を避けて、酸素が足りなくて息継ぎもまともにできない中で最後のディストラクションと共に『チェールアリピ・ポルタ』は息絶える。
闇の靄となって、虚空へと消えていく。
《隠者の翼》を手に入れた!
達成感と共に膝をつくがそんなことをしている場合ではない。
妖精と小悪魔と聖獣が光る。
それを見て、何が起きてるのか理解ができなかったが補足説明してくれる。
「召喚獣とかはな。進化するんだよ。敢えて強敵と戦わせたのはそういう意味合いがあってのこそだ。だから、自分の家族の新たな姿をよく見ておきな。」
妖精は単に普通の布の服に翼が生えただけだったが、翅の羽ばたきと共に花弁が舞うようになった。服も装飾品が付き、豪華になった。
花の妖精 センティッド・ゼラニウム Lv.2
新スキル ハイヒール
新スキル レストフラワー 混乱や恐怖状態になったときそれを解除する。
小悪魔は少し大きくなり筋肉が増えた。それと同時に幼さの残る男の子のような容姿になり、掌にはもう載せられない。今度は肩に乗るのかな?
中悪魔 ディストロジェレ・プロテクチエ Lv.2
新スキル ストゥラァグル 一定時間、攻撃力上昇。
新スキル ダークソード 一定時間、体に合わせた剣を精製できる。
聖獣は小さな兎から猫くらいの大きさに変わったが、大きさ以外は特に何も変化はない。
幼獣 チェールナ・スファント Lv.2
新スキル ムーンショット 月の光を凝縮したレーザービームを撃ち込む。
新スキル ムーンブレッシング 月の出てる日だと攻撃力増加。常時発動。
「よしよし、召喚獣の強化は最低限できたし、次はテニアが今後どうしたいかだな。」
「どうしたいとは?」
「召喚獣に任せるか。自分も戦うか。どうするか?」
僕はゼルニウムもディストロもルナも家族だと思ってる。家族が戦ってるのに僕だけ戦わないのは卑怯だと思ってるし、臆病者だ。だから、戦うことはもう決めていた。
「僕も戦います!」
「わかった。それなら先ずは何の武器を使うか決めるか。」
ネリクルシの後を付いていって武器屋に到着した。そこには多様な武器が揃っている。
投げナイフ、ダガー、ショートソード、ロングソード、ラージソード、レイピア、アックス、ハンマー、ウィップ、スピア、ハルバード、ナックル、ジャマダナハル、ボウなど
ハンマー寄りのブラントウェポンから、投擲型の手裏剣、剣の部類に入りそうな刀まである。この辺は見るのは初めてだ。日ノ本から輸入したらしくそこそこのお値段だが、全額負担してくれるるしい。
ハンターと言えばウィップのイメージが強いが最強のハンターであるネリクルシが手にしてるのはショートソードだ。となると、それに拘る必要はない。とすると僕に合ってるのはなんだろうか?
実際に持たせてもらうと刀が割と重い。けれども、もう決めた。この片手刀を使わせてもらうこととした。ネリクルシはそれに決めた瞬間に修行内容を早速思案し始めた。
『戦姫繚乱』重量1kg
攻撃力+25 速度上昇+5%
その上でやってきたのが、スケルトンの湧く森だ。
『地で蠢く森』
そこで1つ条件を設けられた。
使ってもいい召喚獣は妖精のみ。それ以外は少し離れた位置で戦ってもらうこととして緩慢な動きのスケルトン相手にこの重い刀を使って10体倒すことが今日の目標とされた。
元貴族というのもあり、なかなか当たらない。重くて大振りになる。型なんて気にしてる場合でもないし、そもそも知らない。監視はされてるから危なくなったら助けは入れてくれるみたいだ。
たったの数振りで腕が痛い。筋肉が悲鳴を上げてる。体力も簡単に底につく。段々とその緩やかな攻撃も当たり始めて、ハイヒールを使われたとき筋肉の痛みも底のついた体力も少し軽くなった気がした。
学園に行く予定だったのに、なんでこんなことをやってるのだろうか?と疑問になりつつもあの家に自分の居場所はなかった。だからこそ、ここに残ることを決めた。
こんな難関、努力と我慢比べで乗り越えてみせると思いつつもこの刀の性能が良いせいかなんとか夕方までには倒し切ることができた。
へとへとな酷使した体で座り込んだ僕にネリクルシは手を差し伸べてきた。その手を取りなんとか起き上がると頭を撫でてくる。
「よくやった。まだまだ半人前とはいえ、自分の力で倒した時点でテニアはもうハンターと名乗っても良い。毎日ハードだがその内慣れる。ここが踏ん張りどころだ。」
不思議と涙が溢れてきた。
自分を認められたことが嬉しくってボロボロと涙を零す僕を何も言わずにネリクルシは頭を撫でつつもそっと抱き着いてくる。
それから家に戻りつつ夕飯を食べた。
何処の郷土料理かはわからなくとも、疲れた体に染み渡るようなその味にお代わりまでしてしまい料理人が苦笑していた。
部屋に戻るとかなりの疲れもありそのまま寝てしまった。
目を覚ますと、不貞腐れたゼラニウムとディストロが居た。宥めるのに少し時間は掛かったが、ルナは一緒に居るだけで幸せならしく特に文句はないらしい。
その日も朝から夕方まで食事を挟みつつもスケルトンとの訓練。一週間も続けば慣れて来て、帰ってから三人の召喚獣と話す機会も増えた。
昼頃でスケルトン退治が終えた頃にネリクルシに声を掛けられる。
「そろそろ敵を変えるか。スケルトン相手ならそこそこ戦えるようになったし、もう少し奥へ行って今度はスケルトンソルジャーと戦って貰う。」
言われた通りに奥へ行くと剣と盾を持ち、そこその速い動きのするスケルトンソルジャーが居た。速いなんて言ってもスケルトンの基準だからまだ問題はないが、ここからは盾にも気をつけつつ戦わなければならなくなる。
「今回も妖精以外は全員他の狩場を用意する。そこで少しでも多くの経験を積んでくれ。いきなり召喚獣のレベルを一気に上げることも可能だが、それだとテニアがお荷物になるからな。」
「わかりました!」
「けっ…さっさと俺らと一緒に戦えるくらい強くなれっての。」
最近は相手にする機会が減ってるというのもあり、ディストロが少し不機嫌だが、ルナは楽しそうだ。
「次はスケルトンソルジャーかぁ。楽しみ!」
そこそこ戦闘狂な部分もあるらしく結構好戦的だ。見た目が可愛いのに中身はそういう方向性だとギャップ萌えしてしまう。寝る前はいつもモフらせてもらってるが、是非とも今こそモフりたい。
それぞれが散らばり、ネリクルシが一体だけ残すと姿を消す。
先ずは筋力的な問題で両方の腕で持った『戦姫繚乱』で斬りこむ。その一振りは盾で防御される。されたところでボロボロのショートソードで斬り込んで来るがそれを華麗に避ける。
スケルトンだと思って甘く見てはいけないというのがよくわかったところで、戦法を変える。
今までは一心不乱に攻撃していただけだが、足を狙い攻撃して盾を下に下ろした時点で逆向きで無理やり頭をかち割る。これにより大ダメージを与えたところに追撃を入れてなんとか勝てた。
そこでネリクルシからアドバイスが送られる。
「今の動きはなかなか良かった。だが、あの無茶な動き方は体を壊す。特に長期戦となると負担が掛かって負けることもある。次は絶対にやるなよ?」
「わかりました。」
かなり良い戦法だと思ったのだが、所詮は実戦のない浅知恵で役には立たなかったらしい。この動き以外となると中々難しいところがあるが、2体目も同じように戦ってみる。
今度は無茶な動きはしないようにしつつも倒すことを決意してなんとか考えを練ってみる。
相手は盾を持っている。そこまで大きくはないが、足元を防御する程度の知能は併せ持っている。ここで1つ気付いたのだが、スケルトンということは生前は兵士で死んだあとにこうなったのではないか?
事実、剣も錆びてボロボロ。
殺傷能力は低い。となると、盾もボロくなってる可能性は高い。今度はわざと防御させつつ盾を破壊することを目処に入れよう。
そうと決まれば、片手剣を使わせないようにしつつ、無理しない範囲で攻撃を連続で仕掛けていく。どんどん盾で防御され終わりが来ないと思いきや、ヒビが入った。
終わりが見えたことによりそのまま猛攻撃により盾を破壊したところで一気に攻めてスケルトンソルジャーを撃破することができた。
《鉄くず》を2つ手に入れた!
ネリクルシが近づいて来た。
「さっきよりはまだマシだな。まだ不安定なところはあるし、効率は悪いが、その戦法は中々良い。だが、刀が随分と消耗してるだろうから今日はこのまま武器屋に行くぞ。」
テクテクと歩いて行って、またこの武器屋に着いた。
そこにはいつもの30代の男ではなく女性が店番をしていた。
「インナ!オルゲンは居るか?」
「少々お待ちを…。」
店の奥に入るなり、ドタバタと店長であるオルゲンがやってきた。
「あー、ネリクルシさんどうしました?」
「こいつの刀の整備したくてよ。」
「……刀を見せてもらっても?」
刀身を光で反射させて見るなり一人で納得する。
「あいにくと日本の武器はあまり詳しくはないけど、油が少々良くないね。出世払いってことで手入れの一式をあげるよ。」
「あ~、ありがとな。輸入すんのもかなり大変だろうに。」
「ネリクルシさんのお弟子さんみたいなもんですから大丈夫ですよ。それに売れ残りってのもありますし…。」
苦笑しつつも僕の方を見て真剣な顔をする。
「さて、ざっと話してくけど、持ち手のところに目釘って言って刀身を固定するためのとこがあるんだ。この目釘抜きを使って外す。打ち粉って言って、このふわふわしたやつを刀身にポンポンして古い油を取り除く。拭い紙で打ち粉や油を取り除き、丁字油で錆を防いで、油塗紙で油を均等に整えたらお終い。」
一気に言われたがなんとなくはわかった。
「僕が知ってるのはこの工程だけど、簡潔に言うなら刀身外して、ポンポンして、紙で拭いたあとに油を満遍なく塗れば良いんじゃないかな?」
「おい、雑すぎないか?」
「いや、まぁ。これくらい簡単に説明しないと最初はこんがらがるでしょ。」
「どうだ?手入れの方はできそうか?」
「まぁ、なんとか…。」
「これだと予備の武器もあった方がいいな。テニア。剣系統に興味はないか?」
僕なりに思案したが、今の片手刀ですら両手持ち出し、軽めの物が欲しいと言うのはある。手数が増やせるというのはそれだけ戦いやすくなると思うからだ。
「それなら僕の腕でも持てるような片手剣ありますか?」
「う〜ん。ショートソードだと持てるかなんとも言えないし、ダガーは用途が変わってくるし、何かあったかなぁ。」
奥の方へと入って行って数分経った頃に二本の剣を持ってきた。ダガーよりは長いけれど、ショートソードにしては短い。しかも、そこそこ長いとはいえ、2つの剣の柄には鎖が付いていてなんとも奇妙な形状だ。
「これはね。うちの弟子のインナちゃん考案で作ったんだけど、よかったら無料で差し上げるよ。使い勝手がよかったら販売も視野には入れたいけど、何しろ不思議な武器だからね。」
僕はそれの何かに惹かれた。
こういうときはもらうに限る。
「是非とも下さい!」
「そうかい?おすすめはしないけど、長さ的にも重さ的にもこれが丁度いいからね。それじゃあ、あげるよ。」
『ゾディア・ジェミニ』片方400g 鎖の重さ150g
攻撃力+15 5秒毎にリセットされるが、連続攻撃にダメージ補正
仮宿に帰るなり、刀の手入れに戸惑いつつ仲間達と楽しく談話した。アルミラージは黄色に輝く毛先を持っていて、真っ先に月を思いついたのだが、どうやら月とは関係ないらしい。寧ろ、天へと導く為の聖獣で様々な者達を案内したらしい。案内するまでがアルミラージの存在意義でその先までは知らないらしいが、とにかく神に愛されてる存在だ。
とはいえ、たまに乱獲しようとする不届き者も居るらしい。そういう小話を聴きつつも手入れが終わり次第眠りへと付いた。