第1話「聖獣と天翼纏う悪魔」
馬車に揺られ、宿に泊まったりしつつも、庶民の生活というのを楽しんだあと辿り着いたのは1つの街。素朴な街並みと一番奥にあるのは崩れかけた城。
男が馬車の扉を開ける。
「さぁ、つきやしたぜ。ここが俺達の街。先ずは挨拶を二人ほどさせて頂きやす。」
言葉遣いは荒いが小奇麗な服を着ている。決して貴族が着るものではなくとも、庶民の方では中々良い仕立てだ。そんな彼が比較的綺麗な建物の中に案内され、受付で軽く話をするとそのまま奥へと案内される。
その個室は執務室と言ったところだが、一番の驚きはそこの席に座るのはあの謎の男。しかも、貴族が着るような服を着て書類にサインをしているではないか。
「よぉ、坊っちゃん。久し振りだな。ま、困惑とか色々とあるだろうが、一旦落ち着いて話でもしようや。」
ソファーへと案内され腰を下ろす。そこで男の雰囲気が変わる。
「俺の名前はミハイロン。名前は長いから省略するが、この街でそこそこのお偉いさんだと思えばいい。今回は学園への入学を目的として来てもらったがそれはフェイクだ。ハンターの素質のあるもの達を一箇所に集めるのが目的だ。」
僕は顔を顰める。
「ヴァンパイアだとかハンターだとか空想だと思ってしまうのは仕方ない。だがな。お前は見たはずだ。妖精と悪魔を。それだけで少しは信憑性があるんじゃないのか?」
それを言われるとそうとしか言えなくなる。
「俺達のような人種は人から差別されやすい。なんたって、普通の人間が見えないものが見えるんだからな。だから、こうして集めておいて、育成しつつ未だに湧き続けてる悪魔達を滅ぼす為に世界各国からそういう人間を探しているんだ。」
「なるほど。わかりました。ここでの生活が住みやすいのであれば、残るとしましょう。」
ミハイロンはニカッと笑い手を差し伸ばしてきた。それを僕は握ることによって、一時的な約束となる。
「それじゃあ、この街の領主に会いに行ってくれや。暫くはそいつに色々と教えてやってくれ。」
「わかりました。」
御者の案内で半壊した城へと向かう。
その手前で道のりだけ教えてもらいその領主とやらがいる場所へと向かった。
半壊した城にしては比較的まだ崩れていないとある空間。吸血鬼王を目指したときにあった階段は崩れ去っている。大きな瓦礫に縋るように座り込み、時が過ぎるのを待つ。
この国では珍しい黒い短髪。そこそこの筋肉を併せ持ちつつ高級そうでも比較的動きやすい格好をしていて、腰には剣を携えてる。
体に黒い靄が纏わり付く、体中の血管が沸騰するくらいの激痛が迸る。心が軋む、冷や汗が頬を伝う。右手を心臓のある服を掴みなんとか耐え忍ぶ。
そんな瞬間、音が聴こえた。
激痛も和らぎ、その瞳に映るのは一人の少年。
俺は問うた。
「誰だ…。」
貴族のなりをした少年は答えた。
「僕の名前はテニアと申します。」
痛みの和らいだ男は頭の片隅でミハイロンが言っていた2つの血が混ざった少年の話を思い出す。だからこそ、和らいだのかもしれない。
「一応、俺も名乗っておこう。昔は吸血鬼王を倒し、今はこの街の領主をやっているネリクルシだ。適当に呼べばいい。」
「わかりました!ネリクルシさん!」
ネリクルシが手招きする。自分の横の瓦礫の上に座るよう促す。
「最初に言っておくがここはハンターの街。権力は関係ない。全ては力だ。力だけの至上主義ってわけでもないから追々わかってくるだろう。」
「はい!」
「さて、先ずは勉強から行こうか。ハンターというのは大まかに3種類居る。ハンターの血、吸血鬼の血、両方の血を持つ3択だ。だが、吸血鬼の血を継ぐ者が吸血鬼側に行くことは珍しくもない。血脈の性というのがあるからだ。」
つまり、妖精と悪魔を呼び出せた僕は…。
「テニアの場合は混血種のハンターを目指し、聖なる者と邪悪なる者を操るタイプとなりそうだ。だからといって、必ずしもハンター全員が召喚できるとは限らない。ここでもう1つ種類が増える。」
指を一本ずつ増やして行って、ネリクルシなりにわかりやすく説明しようとしている。
「完全な攻撃型のハンター。召喚はできない代わりに攻撃型、補助型、両方型の3パターン。次に防御型のハンター。同じく3パターン。最後に召喚型のハンター。召喚が中心となるが、召喚型の中には武器を訓練によって使える者が多い。召喚した者によるサポート重視か召喚した者に頼りきりの者の2パターンだな。ここまではいいか。」
僕だって貴族の端くれ。
かなりの情報量だが、ある程度は理解できた。
「はい。問題ありません。」
「今は妖精と小悪魔だったな?」
ネリクルシの目を見て頷く。
「それなら先ずは何ができるのかを把握しろ。この街での一室を用意する。そこで話し合ってできることがわかったなら改めて来い。そこで修行方法の方向性を決める。」
「わかりました!」
外へ出ると御者さんが未だに待っていてくれて、案内をしてくれた。比較的城から遠めになったものの何かしら考えがあるのだろう。
僕の一室は素朴な部屋とはなったが綺麗に掃除されており、寝る分には問題ない。色々と準備はしておいたが、部屋に置かれている荷物の大半は使うことはないだろう。素朴な一室とはいえ、珍しい水洗トイレと洗面台に風呂が付いている。食事は別のところみたいだが、御者さんの話によると修行が終わってから暫くの間までは食費は無料になるらしい。
至りつくせりではあるが、学園ではなかったのは少し残念だが、ここでは独り言を話してても皆、誰と話しているのか理解してくれる。それが僕にとって唯一の嬉しい誤算だった。
ベッドに腰を下ろし、ここに来てから一度も話してなかったゼラニウムとディストロに声を掛ける。
「さっきの話を聞いてたと思うんだけど、二人とも何が使えるの?」
「私はまだヒールしか使えないわ。ヒールなんて言っても気づけ薬程度の回復量よ。宛にされても難しいわ。」
「俺様も使えるのはディストラクションって言って、破壊力は凄まじいが詠唱が長くて中々使いづらいところがあるな。こっちも宛にされても困るぜ。」
「そっかぁ。まだまだ僕らは経験不足ってわけか。」
「まぁ、コツコツと努力するしかないわな。」
「こんなやつと意見が合うのは嫌だけれど、そういうことよ。」
片方は回復。もう片方は攻撃と結構良い線言ってるように見えて使い勝手が悪い。別に二人のせいだとは思わない。けれど、戦力不足というのもあり、僕はもう一人召喚することを決めた。
「二人には悪いけど、呼べるんだったらもう一人呼んでも良いかな?」
「勝手にしなさいよ。あんまり増やしすぎるのはだめだけれど、もう一人くらいなら丁度いいんじゃないの?」
「俺はどっちでもいいぜ。好きにやりな。」
許可も貰えたことだし、僕は想像をする。
この二人を補えるような俊敏なやつがいい。攻撃力は高くてそこまで大きくなくてもいい。人に拘らずに獣でもいい。あんまり悪魔系統を呼び出しても喧嘩しそうだから、聖なる獣が良いな。
ある程度の想像が固まった時点でそのイメージで手繰り寄せる。光と共に膝の上に乗っていたのは兎くらいちっちゃいのに鋭い角を持った聖獣。
「なっ…アルミラージ?なんてものを呼び出すのよ!」
「これはやべぇが、まだ幼獣だったからこそ呼べたんだろうな。にしても、幼獣でも聖獣呼べたのはガチでやべぇよ。」
愛くるしい瞳をこちらに向けてくる。
「ご主人様?私に名前をちょーだい?」
危うく忘れるところだった。
アルミラージというのを聞いたことはないが、なんとなく名前は思いついていた。
「君の名前はチェールナ・スファント。ルナって呼ぶね。」
動物の表情は読み難いが喜んてるのがわかる。
「ご主人様ありがとう!がんばって、お役に立てるようがんばるね!」
フサフサな頭を撫でるとより一層喜んでくれて、家族が増えた気分だ。
「ところで、ルナは何ができるのかな?」
「私はとにかく攻撃ができるのと〜、凄く速く動けるよ!」
僕が求めていた能力を持っていたが、こんな小動物を働かせるのは少し抵抗がある。何はともあれ、ネリクルシに報告をしに行く。
「ほう?妖精と小悪魔たけだったが、幼獣とはいえ聖獣まで呼び出したのか…。いよいよ、テニアの血脈が気になってきたがまぁいい。最低限戦えるのなら先ずは雑魚の魔物を用意する。連携して上手く倒してみせろ。」
そうして、連れて行かれた場所には数体のスケルトンが居た。城の外れの森の中なのだが、ネリクルシが真っ先に一体になるように倒してくれたお陰でその一体に集中できる。
「ルナ!攻撃お願い!」
「わかった!」
人間ではありえない速度で走り抜けて攻撃を仕掛ける。ほんの数回の攻撃でスケルトンは倒された。それを見たネリクルシは少し難易度に関して考える。
「スケルトン1体では難易度が低過ぎたか。アルミラージがあまりにも強すぎる。だが、アルミラージがいないと成立しないパーティだし、どうしたものか。」
熟考した結果、城へと戻る。
その中でも奥地に辿り着く。その中にいた天使のような神々しい翼を持ちつつも邪悪の根源とも言える悪魔の姿をした者達が10体程いたが、ネリクルシの剣であっさり一撃で葬り去り、残り一体となる。
「あいつらは『チェールアリピ・ポルタ』。天使のような翼を持ち、聖なる攻撃が効きづらい。中身は悪魔だが基本的には翼で体を纏ってることからもなかなかに倒し辛い敵だ。レベル差は30ある強敵だ。どうしても無理そうだと判断したら俺が倒す。それまでは練習台として戦ってみせろ。」
僕には武器も防具もない。
攻撃する手段がない以上仲間に頼るしかない。
けれど、仲間は頼もしい。
だから、僕はあいつを倒すと心に誓った。
「ディストロ!ディストラクションを詠唱して!」
「はいよ!」
「ルナ!ディストラクション発動まで牽制して!攻撃できそうなときは少しでも攻撃して!」
「わかった!」
「ゼラニウムはルナが攻撃食らったときにヒールを使ってあげて!」
「わかったわ!任せなさい!」
ルナが牽制しつつ翼に攻撃すると、その翼の羽根が引き千切れるように舞う。もしかすると、翼は全て剥ぎとれるのではないか?しかし、翼で体を隠してる間は攻撃をしてこない。その点で少し戦略性が悩みどころだ。
「よし!俺様の一撃を喰らえ!ディストラクション!!」
『チェールアリピ・ポルタ』の内部から爆発する。ルナはきっちり逃げていたが、それではまだ倒れない。
「ディストロ!あと何回使える?」
「俺様の今の力じゃ、あと二回ってとこだな。」
「それじゃあ、二回とも使って!」
「チッ…使いの荒い主様だぜ。」
愚痴を溢しつつもきっちり詠唱し始める。ルナはディストラクションで消し飛んた翼の間から攻撃を仕掛けていく。その長い角を活かして、ズブズブと突き刺していく。
ルナの俊敏さと知能のお陰で誰一人怪我を負っていない。そのせいなのかゼラニウムが手持ち無沙汰だ。
「ねぇ、ご主人様。私、必要?」
「ゼラニウム。油断しちゃだめだ。あいつは僕等より遥かに格上だ。何かまだ手を残してるはずだ。それにディストラクションを喰らっても尚、ダメージがあまり入ってるようには思えない。ディストロが何も出来なくなってからが本番だから今は我慢して欲しい。」
不貞腐れつつも同意はしてくれる。
「わかったわよ。」
「良し!次のディストラクション!!」
大半の翼が削げ落ちて黒い肉体を持ち、二本の角が生えた悪魔が顕となるにつれて、動きが変わる。
防御態勢だったのにその手の爪が2mくらい伸びて攻撃してくるようになった。いよいよ、僕等も動き始めなければいけなくなるが、ルナの聖属性の攻撃がかなりダメージを与えてるはずだ。
そこでネリクルシが呟く。
「さて、ここからがこいつの厄介なところだ。何処まで耐えきれるのか見物させてもらうとしようか。」
暫くはこんな感じで修行シーンが続きますが、いきなりハードな修行方法(笑)
てか、主人公の血筋ってなんなんでしょうね?
色々と疑問点が残ったり、タイトル名の本当の意味とか気になる点はあるでしょうが、次もお楽しみに!
テニア
体力 300
攻撃力 5
防御力 5
俊敏力 5
召喚獣
妖精種 花の妖精 センティッド・ゼラニウム Lv.1
悪魔種 小悪魔 ディストロジェレ・プロテクチエ Lv.1
聖獣種 幼獣 チェールナ・スファント Lv.1
ネリクルシ
体力 5000 OVER
攻撃力 1000 OVER
防御力 500 OVER
俊敏力 100
召喚獣
不明