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プロローグ 「妖精と悪魔と謎の男」

その予兆はあった。

その素質もあった。


だからなのか、僕は突如としてその力に目覚めた。




夕暮れ刻。空は橙色で満たされ日がそろそろ落ちる頃。僕は護衛の者と一緒に雑貨屋に来ていた。うちの家庭は貴族ではあるけれど、貧乏貴族だ。だから、護衛だけで自らその店にお向くことも簡単というわけだ。


誰もこんな貧乏なとこのお坊ちゃんなんて狙わないというわけだ。少し悲しいけれど。


少し話は変わるが、僕は昔から想像することが好きだった。夢を見るのも好きだったし、それを絵や文章に残すのも好きだった。夢日記も書いていたが、噂ではどうやら気が狂ってしまうなんてものもあったが、僕は不思議と問題なかった。というか、それを知った上で続ける僕には問題がありそうだけれど。


だから、買い物の途中でもつい想像をしてしまう。


可愛らしいワンピースを着た妖精と全身黒づくめの肌をした小悪魔が一緒に居たら面白そうだなぁ。どんな話してるんだろ?喧嘩ばかりしてるかもしれないなぁ。


なんて想像していたら、至って普通の格好をした男に声を掛けられる。


「よぉ、ちょっといいか?貴族の坊っちゃんだからって失礼で絞首刑だけはやめてくれよな。へへっ。」


見るからに怪しさしかないが、不思議とずっと一緒に居たような感覚を覚える。


「そんなことしませんよ。それで?なんですか?」


「いやよぉ。頭おかしな奴だと思われるかもしれんが、お前の頭上で妖精と小悪魔が見えたんだよ。何してたんだ?」


それを聞いて少し驚いた。まるで思考を読まれたかのような事象に動揺はしたが、それにしても怪しい。けれど、不思議とそうしたくなった。なんというか、住んでた場所が同じだったようなイメージが湧く。こっちは貴族で相手は庶民なのにおかしな話だ。


「単純に想像してただけですよ。」


すると、男はあからさまに驚く。


「へぁ〜。そりゃあ凄え。坊ちゃんは『ハンター』の資格があるかもしんねぇな。」


「ハンター?あの怪しげな悪魔とやらと戦い。吸血鬼王を封印したというあの男のことですか?」


頭の中に浮かんだのは一人の優男。

筋骨隆々とまでは行かないが筋肉が凄い。顔が素朴だけれど、格好良さも備わっていて、それでもって誰にでも優しい。そういう噂をよく耳にする。


その男は去年、巷を騒がせていた吸血鬼王を僅か半年で討ち取り封印した。貴族達も被害が少なかったというのもあり、悪魔とか吸血鬼王に関して、尾にヒレがついた噂程度にしか気に留めてなかった。本人は封印の代償が強かったとかでドラキュラ城に住んでるらしい。


全部噂だと思っていたが、まさかここでその名を聞くとは思ってもいなかった。


「どうだ?ここは物は試しってことで俺の言うとおりにやってみてくんねぇか?面白いことが起きるかもしんねぇぞ。」


こういう輩は何処にでも居る。けれど、やっぱり断る気にはなれなかった。これは後々知ることとなるのだが、どうやら彼とはある意味では家族のようなものならしい。ある意味ではだから家系図的には恐らく100位遡らないと行けないとは思う。


「わかりました。それで?どうすれば良いんですか?」


男は嬉しそうに下品に笑いつつ語り始めた。


「先ずはさっきみたいに想像してくれ。」


僕は目を閉じて、さっきの妖精と悪魔の詳細を思考しつつ想像をした。


「次にその妖精と悪魔を手繰り寄せるような感覚で自分の中に引き込んでくれ。」


言われた通りになんとなくでやるが何も起こらない。


「妖精と悪魔のイメージをぼかしつつ似た何かを存在してる前提で手繰り寄せるようにしてくれ。」


固有のイメージを崩し、白霧で覆われた感じで妖精と悪魔を見た。それから似ている同じものを何処か別の場所から連れてくるイメージでやってみると、何か声が聴こえてきた。


「わっ!召喚されたの初めて。って、悪魔も居るじゃないの。」


「けっ!何だよその言い草は!こっちだって妖精と一緒に召喚するようなやつに仕えたくないっての!」


「坊ちゃん。目を開けてみな。」


僕は恐る恐る目を開けるとそこには手のひらに乗るくらいのサイズの妖精と蝙蝠の翼と尻尾の生えた小悪魔が喧嘩してた。


僕は夢でも見ているのだろうか?


「なっ?面白いことが起きただろ?」


「え…えぇ…。」


護衛の人が不思議そうにしてることからもこれは僕と彼にしか見えてないらしい。けれど、そんなことはお構いなしに男は言葉を続ける。


「あとはそいつらに名前をつけてあげな。召喚した奴には名前で縛っておかないと殺されても文句言えねぇからな。」


僕は少しゾッとしたが、すぐに名前をつけてあげた。


「妖精はセンティッド・ゼラニウム。普段はゼラニウムって呼ぶね。」


「ふふん。流石、私のご主人様ね。良い名前付けるじゃない!」


胸を前に出して自慢気に話す。さっきから悪魔とこんなご主人様は嫌とか話してたの聴いてるんですけど…。それは気にしない方向で行こう。


「悪魔の方はディストロジェレ・プロテクチエにしようかな。普段はディストロって呼ぶね。」


「ほう?破壊と守護をイメージしたのか。本来は破壊だけしてりゃあいいけど、守護もできるなんて万能じゃね?け、けどよ。勘違いすんじゃねぇ。別にお前を主人として認めたわけじゃねぇ!寝首掛かれねぇか気を付けろよ!」


なんだか可愛く見えてしまう。まるで僕に子供ができたみたいだ。自画自賛する妖精とちょっとツンとして素直になれない悪魔の二人は可愛いなぁ。つい頭撫でたりしたくなる。


とか思ってたら本当にやってた(笑)


「ちょっ…何すんのよ。髪が乱れるじゃない!……でも、ちょっと気持ちいいかもね!」


「おいおい、偉大な大悪魔になる俺様に何やってんだ!絶対子供かペット扱いしてんだろ!明日の朝覚悟しとけよ!顔に落書きとかしちゃからな!」


やっぱり可愛い。

そんなことをやっていると、男が横槍を入れてくる。


「んじゃ、俺は見たいもの見れたし、そろそろお暇させてもらうぜ。」


「あっ…お礼に少しでもお金を…。」


「何を言ってるんですか!坊ちゃん!」


護衛の人に激しく反対されたがそこだけは譲れない。見えてないからわからないのだとしても僕にとってはこれ以上ないくらいの恩恵を貰えたのだ。どんな風貌していても感謝を示したい。


だが、男はあっさり断った。


「いや、俺にはしなくていいよ。まぁ、近い内に意味もなんとなくわかってくるだろうし、それまではその気持ちは仕舞っとけよ。それにお金なんていらねぇよ。んじゃあな!」


そう言って、店を跡にした。


後々よくよく考えてみればあんな服装をした男がこんな高級な雑貨屋に居ること自体が異常だ。確かに物だけ見て帰る人も居るが、あの人はここの店の袋を手に持ってた。つまり、あの服装は変装のためだった?


となると、何処の貴族かにもよる。

だが、あんな男見たことがない。

今になって、不思議だと思う。



家に帰ってからは自室に引き篭もってゼラニウムとディストロと話していた。


「へぇ、妖精の国なんてあるんだ!」


「そうよ。お花畑に包まれて自然が豊かな場所だったわ。色んな妖精が居て、火の妖精、水の妖精、木の妖精なんかも居たわ。基本的に女王様が頂点に立っててそれ以外は同列よ。それでも自然を破壊してしまう火の妖精だけはあまり良くは思われてなかったわね。」


「ゼラニウムはどう思うの?」


「正直、どうでもいいわ。皆それぞれ女王様によって産まれたんだから、皆同じで皆仲良しで良いじゃないの。一々、階級つけたがる奴等がよくわかんないわよ。」


「ゼラニウムは優しいんだね。」


僕がそう言うとかなり驚いて慌てた様子だ。


「ちょっ!そんなこと平然と言わないでよ。恥ずかしいじゃない。」


最後は少し俯いて顔を赤くしてるのがまた愛しく感じる。

一方悪魔というと。


「俺様の国は力の至上主義だったなあ。いつも殺伐としてて小悪魔な俺は底辺の奴らとの小競り合いの毎日だったぜ。今日はなんとか勝てそうな相手に出会えたってのに俺様を呼び出しやがって…クソッ。」


「突然呼び出しちゃってごめんね?そういう事情があるってわからなかったから…。」


「ちょっ!謝んじゃねぇよ!もっと威厳ある感じで堂々としてりゃあ良いんだよ。お前が俺と同等かそれ以上強かったってだけの話だ!別に謝って欲しくて言ったわけじゃねぇ!」


「そうなんだ。それならもう少し胸を張るように頑張ってみるよ!」


「そうそう。そういう風に堂々としてりゃあ良いんだよ。なんたって、悪魔は力があるやつが正義なんだからよ。」


そうやって、時間も進み、気付いたら夕飯の時間になって仕方なく家族と食べるときだけ黙るようにはした。このことに関しては二人は納得してくれたのが嬉しかった。


数日経った。


そんなある日、一通の手紙が届いた。

『良かったら、こちらの学園に通いませんか?交通費と学園に通う際の必要な資金は全てこちらが持ちます。今後の広告としての必要経費とさせて頂きました。もし、来ていただけるなら1週間後に門の前に馬車を停めさせて頂きますので1時間以内に声をお掛け下さいませ。

ムンテニア地方ドゥンポビッツァ県より』


両親は最近部屋に引き籠もって独り言を喋り続けてる僕を気味悪がってたし、長男と言うわけでもないので、お金が浮くのは幸運だと思ったらしく僕に奨めて来た。


手紙を僕も読ませて貰うと仄かにその手紙からあの男の気配を感じ取った。最近はそういう類いのものに対しての気配を少しずつ感じ取れるようになったからこそわかったのだが、やはりあの男は只者ではなかったらしい。


両親も賛成してくれてるし、長男はやりたいようにすればいい。お前の道はお前が決めるんだ。と少し突き放されるようなことは言われたが、家族では唯一今でも優しく接してくれる兄だ。兄なりの考えあっての発言なのだろう。


少し遠くはなるが、すぐさま行くことを決意して表明した。


それからの一週間は色々と買うものがあって忙しかったが、ゼラニウムとディストロの二人のお陰で長くも短かかった。


そして、いよいよ当日となり窓の外を見ていると馬車が一台停まった。あれだ!と思うなり部屋を飛び出して両親に告げに行く。見送りは兄が来てくれた。


これが暫くの間どころか長い長い旅路の始まりになるなんて思ってもなかったが、不思議と兄の最後の言葉は耳に残った。


「健康には気を付けるんだぞ。それとこれからは選択の連続だ。俺も長男としてこの家を継ぐにあたって色々と大変なことをやってる。けどな。いつだって後悔すると思ったことだけは勇気を振り絞れ。その一歩さえ乗り越えたら、お前はきっとのし上がれる。達者でな。」


馬車に乗り、窓から兄を見ると少し寂しそうな顔に見えた。兄は本当に心の底から僕を愛してたんだとそのときになって気付けた。けれど、もう遅い。僕なりの道はもうできてしまった。


これからの一歩を大切にしていこうと思いつつ、長い旅路が始まりを迎えた。

色んな小説書いてるのでこれは執筆のローテーションの中でも遅めになるとは思います。ですので、2週間に一回くらいのペースだと思ってて下さい。かなり多めには言いましたが、私の躁鬱の機嫌次第です(笑)

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