第二話 2つの始まり
「ママー!どこー?ぐすんっ、どこにいるのー!」
小学校に2年生の頃、私は迷子になった。
お母さんとスーパーに買い物に行く途中、私が鳩を追いかけていってしまい逸れてしまった。
気が付いた時にはもう遅く、見たことのない場所で迷子になっていた。
私は橋の上で1人泣いていた。
そんな時だった。
1人の男の子が私に話しかけてきた。
「1人で何泣いてんだよ。どうかしたのか?」
「え・・・」
年齢は私と同じくらい、黒髪で顔を幼いにしても女の子のような顔立ちの優しそうな子だった。
「ママと・・・離れちゃって・・・ぐすんっ、それで・・・」
「なるほど、迷子か。この辺なら分かるから教えてやるよ。お母さんとどこに行くつもりだったんだ?」
「スーパーにお買い物・・・」
「この辺のスーパーってあそこしかないな。よし、俺に着いてきな!送ってやるよ」
「ぐすんっ、ありがとう・・・」
「 泣くなって。俺が手を繋いでやるからさ!」
そう言うとと彼は私の手を引いて歩き出した。
「そういえば聞いてなかったな」
「え?」
「名前だよ。俺の名前は神城唯人。お前の名前は?」
そう、これが私と唯人君との出会いだった。
「ママが知らない人に教えちゃダメって」
「マジか。しっかりしてるんだな。なら、俺のこと教えてやるよ。そうだな、俺の行ってる小学校は東坂幼稚園で、行く予定の中学校は東坂中学校だ。誕生日は4月の25日で、好きなことは本を読むことだ」
この後も私のためにたくさん話してくれた。スーパーに行く途中、お母さんが私を見つけて合流した。
唯人君は、
「見つかってよかったな!友達が笑顔になったら俺まで嬉しくなったわ。じゃあ俺は帰るわ、またな!」
と言って、手を振りながら帰っていった。
当時引っ込み思案だった私にできた初めての男の子の友達。
そのあと小学校を卒業するまで会うことはなかったけど、中学校が一緒だったことからまた仲良く話すようになりそれからずっと一緒にいる。
私の信頼できる1番の幼馴染。
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「あの頃の夢、久しぶりに見たな・・・」
目覚めると私はベットの中にいた。部屋はとても豪華で高そうな物ばかりが置かれていた。
「ここはどこだろう・・・」
そう呟いた時、頭の上から可愛らしい声がした。
「お目覚めになられましたか、勇者様!」
声がした方を見るとそこには銀髪で少し高めのツインテールにメイド服を着た女の子がこちらを見つめている。私は起き上がると彼女に問いかける。
「あなたは?」
「申し遅れました!私は勇者様専属のメイド。
リアナ・シルベスタです!」
「私は、涼葉、です。相模涼葉・・・。えっと、リアナさん。いくつか聞きたいのだけれど、勇者様ってなに?」
「リアナで構いません。それはもちろん涼葉様のことですよ!異世界より召喚されし勇者・・・、悪しきもの達を葬り去る私たちの勇者様です」
「私が勇者、英雄?」
「その通りです!この国をお救いいただくべく、上位聖術師たちによって異世界より召喚されました」
異世界というのは私の暮らしていた日本や地球のこと?じゃあここは私の知らない異世界のどこかということ・・・
「えっと、ここはどこですか?」
「ここは世界最大の王国、アウスリンダ王国内の円形巨大都市にある、アウスリンダ城内の客室です」
豪華なのも納得だ。明らかに高そうなものしか置かれていないもの。
「そうでした!目覚めたら陛下のもとへとお通しするよう言われておりました!お召し物はこちらにご用意しております。着替えられましたらご案内いたします。」
用意された服に着替え、着いていくと大きな広場へと案内された。そこには軍服に身を包んだ若い女性と数人の兵士、偉い雰囲気を醸し出す男性が一人いた。
「陛下、勇者様がお目覚めになられましたのでお連れいたしました」
「ご苦労さま。下がって大丈夫ですよ」
「は!」
そういうとリアナは部屋を出て行く。
「初めまして、勇者様。私はこのアウスリンダ王国の女王、
フェリシリア=イルス=アウスリンダ
と申します」
「は、初めまして。相模涼葉です。涼葉が名前です」
この人が女王陛下なの?すごく若くて綺麗でとても優しそう・・・。なんだか緊張する・・・
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。きっと年は近いですから」
「はい!分かりました!」
「丁寧な言葉も必要ありませんよ」
「女王陛下にそんな失礼なこと出来ませんよ!」
「私がいいと言っているので大丈夫です!それにあなたぐらいにしか頼めませんから」
笑顔でそう言われたら断れない。
「分かりました。では軽く・・・。頑張ってみます。聞きたいことがたくさんあるんですけどいいですか?」
「伺いましょう」
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目覚めるとそこは見覚えのない部屋の中だった。
大したものはなく、小さなテーブルが1つ真ん中に置かれており、俺はソファーの上に寝かされている。
頭の下には布を丸めて作った即席の枕があり、体には毛布がかかっていた。
「ここは・・・どこだ・・・。確か・・・熊の魔物に襲われて腕を食われて・・・その後女の子が空から・・・」
俺は起き上がって周りを見渡す。元に戻った腕は普通に機能しており違和感は何もなかった。
部屋の中には沢山の見たことない本があり、まるで図書館のようで本好きとしては手に取って読んでみたいものだが今はそれどころではないのでぐっと堪える。
辺りを見渡していると不意に声をかけられた。
「気分はどうじゃ。我が眷属よ」
いきなりの声に「うわぁ!」と情けない声が出てしまった。振り向くと先ほどの女の子がこちらを見つめている。
「体はなんともないみたいです」
「それはよかったのじゃ。久しぶりに眷属を作ったからの、心配したんじゃが上手くいったみたいでなによりじゃ」
「久しぶりに作った?」
「そうじゃ」
「何を?」
「眷属を」
「眷属?」
「そうじゃ。お主は最強の吸血鬼である我の2番目の眷属じゃ」
はぁ・・・吸血鬼の眷属・・・ん?
「吸血鬼ーーーーー⁈」
吸血鬼ってあの吸血鬼か?あのドラマや映画にもよく出てくるあの吸血鬼か・・・。俺はいつのまにか人間をやめているらしい。
「君はいったい何者なんですか?」
「そうじゃな。ちゃんとは自己紹介しておらんかったな。
ごほんっ。よく聞け、我が眷属よ!
我の名はシルファ=フォン=ラウドラ!
この世界に存在する吸血鬼の頂点にして最強最高の吸血鬼族、
孤高の吸血鬼《ヴァンパイア=ソリタリー》
の唯一の生き残りじゃ!」
「最強最高の吸血鬼族・・・」
「そうじゃ!そしてお前も今はヴァンパイア=ソリタリーになにりかけている半端者じゃ」
「半端者・・・」
「我はな、我の血に合う適合者をずっと探していた。我の力、願い、希望託すために」
「適合者・・・希望を託す?」
状況を飲み込めず、復唱することしか出来なかった・・・
「そうじゃ。我の命はもう長くはないからの」
「どういう意味だよ、それ」
「そのままの意味じゃ、もう死ぬということじゃ」
「どうして・・・」
「あまり時間はないが話すとするかの。この世界のこと、我のことを」
そう言うとシルファは語り始めたのだった。この世界のことを、そしてシルファ自身のことを・・・
久しぶりに更新しました。よろしくお願いします!
次回はこの世界のことや唯人、涼葉がなぜこの世界に呼ばれたのかが分かります。次回もよろしくお願いします!