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1章 -7- 南雲の苦悩

南雲さんのヒロイン活動です。

宜しくお願い致します。

 エルフの村に住み始めて数日。

 今は深夜。

 気分で言ったら午前1時くらい。

 この世界は1日24時間ではないらしく、俺の腕時計はどんどんずれていっていた。まだ若干の時差ぼけみたいなものはあるが、不思議なもので日が昇れば目が覚めるし日が沈めば眠くなる。1日26時間くらいあるこの世界の生活習慣にも自然と身体が慣れてきていた。

 夏のような熱帯夜の中、部屋を涼しくして俺は眠っていた。

『誰か来る』

 ぐっすり眠っていた俺は脳内に響いた声に起こされた。

(敵か?)

『たぶん違う。けど攻撃しても問題ないわね』

 ミズキがこう言うということは、たぶん南雲だ。

 ここ数日で実感したが、精霊たちは南雲が嫌いすぎて対応が酷い。

 もう少し仲良くしてもらいたいものだ。

「……古川? 起きてる?」

 明らかに寝静まっているだろう時間に、起きてる?もないだろう。

 なんなんだ?夜這いか?

 ギャルだとは思っていたがビッチだとは思っていなかったぞ。

 それにしては険しい声。

「起きてるけど」

「……入っていい?」

 返事があったことに驚いていたようだが、会話を続けてきた。

「おう」

 こんな深夜にこっそり何だというのだ。

「やっぱり……」

 南雲は部屋に入ってきてすぐ、何かを納得した。

「何でこの部屋こんなに涼しいのよ」

 おっと、ズルしているのを忘れていた。

 他の部屋と違い、この部屋だけはミヅキとカグラのクーラー魔法(名前は仮)で快適さわやか状態だったのだ。

 除湿も効いている。

 そういえば、ここ数日の南雲の朝のテンションは最悪だった。

 日々熱帯夜に苦戦していたのかもしれない。

「ちょっとここ借りるわよ」

 イラつきを感じさせるような気の強い声。

 俺の返答も待たずに問答無用で部屋に押し入ってきた。

 やっぱりギャルの圧は怖いものがあるな。

 思わず拒否できなかった。

 俺の寝床でも取り上げられるのかと思っていたら、南雲は部屋の隅っこの床に寝転がった。

 なぜ?

「おい、なにしてんの」

 思わず突っ込んだ。

「寝んのよ」

 南雲は面倒そうに答えた。

 床で寝んのかよ。

「そうよ。どうせあっちの部屋でも床なんだし」

 俺の心の声が漏れていたようで、回答が帰ってきた。

 てか……

「もしかして部屋ベッドないのか?」

「そうよ。どうせアタシは罪人で、悠太様のドレイですもの」

 いつぞやミザリーが言っていたセリフだ。まだ根に持っていたのか。

 南雲の部屋はここよりはるかに狭く、ベッドも無かったそうだ。もはやただの物置。

「すまん、気付けばよかったな。ベッド置いてもらえるように言っとくよ」

「別にいいわよ。当然の対応だし」

(ん?)

 ちょっと投げやりな言い方にも聞こえるが、声に真剣なものを感じた。

 今まで聞いたことの無い南雲の声だった。

 普段のキーキー声とは違う声。

 南雲もいろいろ考えていたということだろう。

 それはそれとして、本気で床で寝ようとしている南雲に待ったをかける。

「こっち来いよ」

 待て待て、これでは違う意味に聞こえる気がする。

「何よ。アタシで遊ぶ気? ……別にいいけど」

 ほれ見ろ俺のアホ! え、いいの!?

「バカ、違うわ。自分を大事にしろ! 女を床で寝かせられるかって話しだよ。俺が床で寝るからベッド使えよ」

「バカはあんたでしょ」

 いつものような喧嘩腰の声ではなく、静かに言われた。

「バカとは失礼な」

「あんたがバカって言ったんでしょ」

 南雲は挑発そのつもりはなかったがに乗ることもなく静かに言う。

「なんでアタシがあんたのベッドを使えるのよ。ここに来るのだって……」

 本当は良くないのに。

 南雲は何かを思いつめたように言った。

「なんで使えないんだよ。俺、別に汗臭くはないはずだし、ベッドは清潔に使ってるぜ?」

「そんなんじゃないわよ」

 じゃあ何だというのだ。

『罪悪感でしょ』

(気付いてもあえて言わないの! 自分でも気にしてるみたいだし、流してやれよ。紳士的に!)

 脳内で嫌みったらしくミズキが言うので、フォローしておく。

 適当に話しを変えて笑い話にでもしよう。

「アタシがあんたにしてきたこと考えたら当然でしょ……」

 俺が次の話しを始める前いに南雲がしゃべり始めてしまった。

『自分から言わせるのが紳士?』

(………………)

 思いのほか、南雲は思いつめているようだった。

 俺的には、反省しているならそれでいいのだが。

「 何かされたっけか? 些細でしょうも無いこと過ぎて覚えてないな!」

 ふんっ、と鼻息荒く言ってみた。まあ、半分は本心である。

 残りの半分は、マジ面倒くさかった、だ。なので挑発も含めておく。

「アンタね……。まあ、いいわよ」

 今晩の南雲は変だった。挑発すれば喧嘩を買いそうな性格だと思っていたが、全く乗ってこない。

「どうしたんだよ。いつものキツイ性格はどこ行った? なんなら喧嘩の叩き売りでもしてやろうか?」

「そんなに喧嘩したいなら買うわよ。好きなだけ殴りなさいよ」

「何で一方的なんだよ。それは喧嘩とは言わん」

「そうかもね」

 打っても響かない。ちょっとくらい買ってくれても良いだろ、喧嘩。

 喧嘩の需要と供給バランスどうしたよ。

「アタシがアンタの立場だったらそうするわよ」

 押し殺したような声で南雲が言った。

 俺の立場だったらって言ったってな。

「俺はお前とは違うからな。神をも打ち倒し魔王すらも従える、破壊者にして救世主、悠太・古川様だぜ?」

「……バカ」

 バカとは言い返してきたものの、元気が無い。やりづらいな。

「ねえ、一発くらい殴ってよ」

 いきなりアレなこと言い出したな。

「お前Mなの?」

「違うわよ」

 キレるでもなく、真面目に返された。本当にノリの悪いやつだ。

 しかし何となく分かった。南雲が今日この部屋に来た理由だ。

 暑さに耐えかねたと言うより、自身の罪悪感(俺からしたら勘違いだが)に耐えかねたんだろうな。

「だってアタシのせいでアンタ死んだのよ? しかもアンタをイジメてたアタシなんかのために。こんな世界に飛ばされてさ。アンタ何も悪くないのに、ケータイもテレビもクーラーもないこんな世界に……」

 南雲が一番言いたかったところはこれなのだろう。

 吐き出すように一気にしゃべりだした。

「アタシなんか庇って死んで、わけわからないまま変な世界に送られて、なのにこっちでもアタシのこと助けてさ。何してんのって感じよ。アタシなんて邪魔なだけなのに」

 勢いに任せてしゃべっているから、若干まとまってない。

 でも言いたいことは分かった。

「アタシだったらマジでキレてるし、何してるかわかんないわよ……」

 南雲がキレたら怖そうだな。取り巻きも使って袋叩きにされそうだ。

「死ぬまで踏みつけて、八つ裂きにしてたかも」

 怖いわ!

 想像の上を行っていた。殺すとこまで視野に入れるなよ。

「なのに何でアンタは何もしないのよ……」

 一方的に話し続けた南雲は、問いかけのような言葉を最後に押し黙った。

 暗い部屋の中に沈黙が降りる。

 外から虫の鳴き声が聞こえてくるのが余計に室内の静けさを際立たせる。

 南雲はずっと悩んでいたのだろう。

 この世界に来てから数日、あいつは暑くて寝苦しいとは一言も言わなかった。

 意外なことだが、自分の立場をきちんと考え、その状況を受け入れていたのかもしれない。

 ミザリーが言ったことも原因かもしれないが。

 ここで回答を出してやらないと、今後も悩み続けるかもしれない。

「あのさ、訂正させてもらうけどよ」

「……?」

「まず一つ目。俺が死んだ理由は俺の意思が原因だ。俺は善人として生きていきたいから人を助けようとしただけだ。相手がたまたまお前だったってだけだ。それを悲劇のヒロインみたいにアタシのせいでなんて言うんじゃない。俺が、俺のために判断した結果だ。俺の決意を勝手に消すなよ」

「…………」

「二つ目。ケータイもテレビもクーラーもないこの世界だけど、俺は案外嫌いじゃない。中二病だと思ってた自分の中身の真実に気付けたのもこの世界に来たおかげだし、どうやらこの世界じゃ俺の力は有能らしいし。日本でサラリーマンとして働く将来よりよっぽど面白そうだと思ってる」

 正直、家族や友人と会えなくなったのは残念だが、あいつらが死んだわけじゃない。死んだのは俺だけだ(あと南雲もだが)。あっちの世界が大きく変わることは無いだろう。

 俺の友達や家族は、こっちで増やしていけばいい。それだけの話しだ。

「だから南雲が気にすることは何も無いって話で、そんなところで転がっているお前はただのバカだ」

「……あんた、やっぱりおかしいわよ」

 やっぱりって何だ。

「俺はポジティブが信条なの。自然いっぱいの素敵世界で美味い肉食って、美味い果物食って、なにか問題あるか?」

「猪に襲われそうになったり、エルフに矢を向けられたり、変なおっさんに教われたり、酷いことばっかりじゃない……」

 ネガティブだが言っていることは事実でもある。

「お前けっこう頑固だなぁ。これ以上意見を続けるならドM認定するぞ。この変体」

「なんでそうなるのよ…。普通に考えたら全部アタシのせいだし、アンタがアタシにキレて当たり前でしょ?」

「普通ってなんだよ。中二病のオタクなめんなよ? 俺に常識は通用しない」

 はあ。とため息をつく南雲。

 呆れられた?

 あれ? 俺が気を使ってやってるはずなのに……。

 ゴソゴソと音が聞こえてきた。

「ん?」

「お邪魔したわね。後は自分の部屋で寝るから」

 起き上がった南雲が部屋の入り口に向かって歩いていった。

「待てよ。あっちは暑いんだろ?」

「仕方ないわよ」

「床しかないんだろ?」

「仕方ないわよ」

「ギャルのくせにマジメに考えるなんて似合わないぞ」

「うるさいわよ」

 こいつは思った以上に頑固者だ。

 こうなったら仕方ない。このままあっちの部屋で寝かせるのも忍びないので考える。

 妙案を思いついた。せっかくなので役得に浸ることにしよう。

 部屋を出ようとする南雲に声をかける。

「ご希望通りオシヨキしてやるからこっち来い」

「……」

 立ち止まった南雲は、うつむいたまま俺の元まで歩いてきた。

「向こう向いてここに寝ろ」

 ベッドに入らせ、俺の反対を向かせる。

「ごめんね古川。好きに楽しんでくれていいから」

 南雲の振り絞った声が聞こえた。

 反対を向いているので表情は見えないが、明るい声ではない。

 なんというか、ずるい。

 ライオンみたいな南雲はどこへやら。これでは借りてきた子猫だ。

 守ってやりたくなってしまう。

 しかし同時に、そんなこと言われたらできる我慢もできなくなりそうだ。

 でも、それはそれとして、

「お前に実刑判決を下す。南雲、お前はこれから毎晩抱き枕の刑だ」

 偉そうに言ってやった。

「え?」

 目の前で縮こまっている南雲の肩に腕をまわす。

 まあ、自分であれだけ好きにしろと言っていたのだ。それくらいは良いだろう。

 そのまま身体も抱き寄せ、密着する。

 女子とこんなに接近したのは当然初めてだ。中二病患者に恋愛などできようものか。

 俺の恋愛経験レベルは0だ。

 南雲の身体は柔らかく、良いにおいがした。

 やばいこれ。めっちゃドキドキする。

 密着する形になったが、この部屋はクーラー魔法(仮)が聞いているため暑くはなかった。

「言っておくけど、これは罰だからな。毎晩来いよ?」

「分かったけど……。こんなのじゃ……」

 罰にならないじゃない。とのこと。

 もっと酷いことをお望みか。やはりM認定が必要か?

「好きにして良いって話だったけど。俺の抱き枕にはなれないってのか?」

「そうじゃないけど……」

「なら決定だ」

 強引に話しを終わらせ、寝ることにする。

 お休みを言い合い、部屋には沈黙がおりた。

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