2章 -8-
とりあえず、戦闘の疲れもあったので休憩する流れとなった。
ハリーたちが持っていた旅道具を使ってお茶を沸かす。
エリーさんがてきぱきと準備をしてくれた。
「おっ、うまい」
お茶といっても紅茶のようなものだった。
やはり世界が違うと植生が違うようで、茶葉も違うようだ。
まあ、紅茶は詳しくないので前の世界にも似た味はあったのかも知れないが。俺は知らない。
南雲も珍しそうにしながら飲んでいた。
猫舌なのか、そうとうフーフーしながら飲んでいる。
「で、お前たちは何者なんだ?」
お茶を一口飲んで落ち着いたところで、聞いてみた。
「それはこちらが聞きたいね」
逆に聞き返されてしまった。
「見たところ、服装はエルフたちの物の様だが、君たちは人間だよね」
質素な生活を良しとするエルフは、服装も質素なものだ。
人間の社会的に見ても少し違うらしい。
「まあ、そうだけど」
出されたお菓子もつまんでみる。元の世界で言うマドレーヌのようなものだった。
甘さは控えめだがこれもおいしい。
エルフの里にはお菓子というものはなかったので新鮮だった。
「だが、さっきの動きは人間のそれではなかったようだが……」
「そうですね。ハリーがあんなにあっさり追い抜かれるなんて」
お菓子の用意を終えたエリーさんも会話に加わってきた。
さっきの木々の間を飛びぬけたことか。
さりげなく「うぐっ」と口ごもっているハリーは見なかったことにしておいてあげる。
「修行したんですよ」
「それだけであんなに早く動けるものなの?」
マリーさんも不思議そうにしている。
「え、人間でこれくらい動ける人はいないんですか?」
「少なくとも私たちの町にはいないわね」
そうなのか。
ということは……まさかそこの勇者が人間のMAXとかではないよな???
とりあえず精霊たちのことは伏せておきたいので、これ以上深堀されるのは面倒だ。
「で、結局お前たちは何者なんだ?」
なので最初の質問に戻した。
「あんたは勇者ってやつなのか?」
その勢いで気になっていたことを聞いてみる。
「え!? ……そ、そうさ。僕は勇者さ!」
なんだ今の「え!?」は。
もしかして自称勇者っていう悲しいやつか? いやまさか。
「君は勇者を知っているんだね」
「どういうことだ?」
知っている……ということは、勇者という存在はこの世界では有名ではないのだろうか。
もしくは、秘匿された存在だとか?
「だって、いまどき勇者のことを知っている人の方が少ないわよ」
「勇者は古い伝承にしか出てこないからね」
マリーさんとエリーさんが教えてくれた。
この世界では勇者という存在は古い書物の中にしか出てこないらしい。
伝承の中にのみ存在するものらしい。
軍を率いたり、歴史を変えたりした重要人物はそれなりにいるのだそうだが、それらは英雄と呼ばれているそうだ。
たった一人の力で魔王を倒すような勇者という存在は、ずいぶん昔に忘れ去られてしまったらしい。
「そうなんですね。……え、じゃあハリーは何で勇者なんだよ?」
「待て、君は僕にだけ口調がおかしくないか?」
気付かれたか。
「なぜマリーとエリーには敬語で話し、僕にはタメ口なんだ!?」
「マリーさんとエリーさんに敬語使って何がおかしいんだよ」
「おかしくは無いが……いや、そっちじゃない! いや、そこもだ! なぜ二人はさん付けで、僕は呼び捨てなんだ!?」
「だってハリーにさんは付かないだろ」
「なんでだ!」
「俺より弱そうだし……」
「ぐっさぁぁぁぁぁ!!!」
あ、ショックすぎて白目向いてる。
ケータイがあったら写メりたいところだ。イケメンが台無し。素晴らしい。
「………………はっ! ぼ、ぼぼぼ、僕だって本気を出せば君とだって対等以上に闘えるさ!」
しばらくすると意識が戻ってきて強がり的なことを言っている。
「そうね。ハリーも頑張っているわ!」
「いつもちょっとだけ上手くいかないだけよね!」
マリーさんとエリーさんがフォローしている。
……エリーさんのはフォローなのか?
思いのほか本気で言ってそうなフォローだが、この人たち大丈夫だろうか。
仲は良さそうなので何よりだが。
「まあ、勝負したかったら相手するぜ。修行もしたいし」
適当に言っておく。
「ふんっ、年下に本気を出しても面白くないのでやめといてやるさ」
ハリーは偉そうに言い切った。
意外と度胸があるな。こいつ。
先ほどのデビルベアー戦だけで如実に差が出た気がするが。
まあ、いいや。
そんなこんなで俺たちの休憩は雑談の中で親睦を深めていった。
「そういえば、何でこんなところにいたんですか?」
「私たちは冒険をしているのよ」
「冒険…」
つまりハリーたちは勇者一行で、かつファンタジー物でよくある職業:冒険者ってやつか。
てことはギルドとかもあって、そこでスキルの確認とか身分証の発行ができるのでは?
こっちに来てからというもの、ステータス画面的なものは見たことがない。レベルやランクなどの概念があるのかも謎だ。というか今のところなさそうだと思っている。
しかし、人間の文化があるのなら、魔法や魔術といったもので評価するシステムなどがあってもおかしくないだろう。
あるなら早く自分の実力を確かめて見たいものだ。
それに、今のままだと身元の証明もできないし。今後何かと不便になるだろう。
街に着いたらギルドに行こうと決めたのだった。
更新遅くなりました。
しばらく遅めですが、必ず更新しますので1週間単位くらいでゆっくり確認して頂けたらと思います。
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