2章 -7-
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―――と思ったら、デビルベアーの腕がはじけとんだ。
「え?」
思ったより威力があったらしい。デビルベアーの右腕のひじから先が、肉片に変わっていた。
結構グロイ。
「ぐおおおお……」
デビルベアーがよろけて腰を落とし、うめいている。
その右腕からは血が流れ落ちていく。
やりすぎた!
前回の大猪の時も思ったが、今回は目の前での流血を見てかなり後悔した。
ここはゲームではないのだ。
HPがなくならないと死なないとか、倒したらコインに変わるとかではない。攻撃すれば相手は怪我をするし、怪物にだって暖かい血が流れているのだ。こっちもだが。
ドラゴン戦のときは、あまりにファンタジーの感覚が強すぎて忘れていた。
生き物を殴るってことは、威力の違いこそあれ、そういうことだ。
「ありがとう! 助かったわ!」
ネガティブに引き込まれそうになっていたところに、女性の声が聞こえた。
「あ、いや……大丈夫っすか?」
デビルベアーのちぎれた腕に意識が行き過ぎて、助けたマリーさんのことを忘れていた。
マリーと呼ばれていた女性だ。
「ええ! あなたのおかげで命拾いしたわ!」
こちらのお姉さんも美人さんだ。やはりイケメンの同行者は美女になるらしい。
さっきの回復魔法のエリーさんが優しそうな美人だったのに対して、こちらは気の強そうな美人さんだった。
「あなた、若いのに強いのね!」
ちょっと興奮気味に話しかけてくる。
美人に褒められるのは悪い気分ではない。というか正直嬉しい。
「まあ、そうみたいっす」
とりあえず、素直に喜べるようにデビルベアーに回復魔法をかけた。
だって自分で動物(怪物だけど)血まみれにしといて、のた打ち回っている横でヘラヘラできないでしょ?
「ごあ?」
腕が治ってすっとぼけた顔をしているデビルベアー。
そしてすっとぼけた顔をしているマリーさん。
勇者たちも今の間に追いついたようで、そばで同じ顔をしている。
「何してんの!?」
勇者が叫んだ。さっきまでのきざっぽいしゃべり方はどうした。
「え? だって可哀想だし」
「可哀想!?」
「血があんなにドバドバ出て痛そうじゃん」
「あんたね……。でも、確かに」
俺が素直に答えると、少し離れたところから南雲が呆れた声を出したが、同意もしてくれた。
日本人の感想としては普通だと思う。
食べるためだったり、害獣だったりしたら仕方ないのかもしれないが……
まあ、デビルベアーが害獣だといえばそうなのかもしれないけども。
とにかく、中二病とは言え一般人だ。動物の死とか怪我とか大量の血とかに耐性はないのだ。
「な……」
勇者とエリーさんたちは理解できないといった表情だ。
まあ、生きるか死ぬかの戦いをしているこっちの人たちにとっては分からない感覚かもしれない。
そういう点で言えば、俺の考え方はここでは甘いのかもしれないな。
「ぐるるるるる……」
自分の手がいきなり治ったことに驚いていたデビルベアーだが、とにかく戦闘態勢に戻った。そこはやっぱり野生の本能か。
しかしさっきのダメージへの恐怖からか攻めては来ない。
「ほら、しっし」
適当に手を振って追っ払おうとする。
「な、何してるの……?」
エリーさんが問いかけてきた。
「え? いや、どっか行けって思って」
こっちの世界じゃジェスチャーが違ったかな?
元の世界でも、国によってはこっち来いって意味になるらしいし。
「それは分かるけど!」
分かるんだ。間違ってはなかったか。
「そんなのでデビルベアーがどっか行くわけないでしょ!」
気性が荒く、攻撃的な種らしい。
おっしゃる通りのようで、デビルベアーはこちらを見たまま動かない。
「なら……」
手を二回振る。
それぞれに風の斬撃を乗せる。ウィングカッターってところか。
ズバズバッとデビルベアーの左右を通り抜けた。地面を抉り、木々を粉砕した。
「ぐあっ!」
驚いたデビルベアーが飛び退り、そのまま逃走を開始した。
「よし」
狙い通り。
とりあえずこれ以上の戦闘は回避できたな。もーまんたい。もーまんたい。
「「「……………………」」」
勇者ハリー、マリー、エリーが黙り込んでしまった。
「どした?」
思わず問いかけた。
返事は南雲から帰ってきた。
「アンタが非常識すぎて驚いてんのよ」
……ごめん。うすうす気付いてました。
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