第8話「ぷっつんしちゃいました」
好みの男達が大量に。
わらわらと。
私へと向けて、いっせいにアプローチをはじめている。
しかし。
いくら私が、彼らに対して好意を持っていても。
この数は。
相手にできない。
人が一度に愛せるのは一人だけである。
その日限りの恋人だと仮に割り切ったとしても、ベッドに連れ込んでいいのは一人だけだ。
いや。
まてまて。
何を私は物色をはじめているのだ。
男とは。
距離を置く。
そう誓ったばかりのはずなのに。
なぜこんなことに。
「す、すみません。時間もありませんし、全員とお話することは……ええっと、その、これで」
と、私はテーブルから飴玉をいくつか取り上げ、
「この手袋の中に、いくつ入っているか……当てられた人以外は、今日のところは、お引き取りを」
などと、水を向けてみると。
そのとたん。
「……5!」
「6!」
「8だ!」
「11!」
「4!」
「7!」
「9!」
10を超える男の人が、一斉に手を挙げて叫んだ。
「正解は……9でした。そう、そちらのかた」
「ミッシェルです!」
「ええっと……たしか、ゴッチ家の?」
「そうです! ゴッチ男爵家の嫡男ミッシェルです!」
選ばれたミッシェルは嬉し気だ。
「では、ミッシェル様。よろしければ、私のエスコートをお願いできますか」
「は、はい! 聖女様! 喜んで!」
私は20代ぐらいの好青年ミッシェルに手を引かれて。
悔し気に地団太を踏んでいる男の群れを後ろに、会場を楚々と後にした。
さて。
ここからは。
まだ若い男女における、社交界で合意があった場合の定番……で、あるようだが。
私はミッシェルが取っている宿に入り、彼の部屋へと向かう。
その前に。
エントランス付近にある、公共スペースにおいて。
「ええっと……いつまでお邪魔していいのでしょう?」
「いつまででも!」
茶髪で陽気そうな青年ミッシェルは、勢いよく爽やかな笑顔でそう言った。
「今夜は、こちらで泊まっても?」
「もちろん!」
「では、連絡を入れますね。少々お待ちください」
私は。
取り巻きの侍女に、そう伝えて。
所在を明らかにしたがゆえに、明日の朝までは完全にフリーとなった。
2人きりになった。
「ミッシェル様……今夜は、どうか、お互いに立場を忘れ、自由にこの身をお使いくださいませ」
「聖女様!」
熱烈に抱き合う私たち。
さっそく。
話をする間もなく、寝所に連れ込まれて。
ムードも何もないままで、肩を抱かれて強引に唇を奪われた。
ねちゃねちゃと。
ねちっこく。
舌を絡ませて、私の背中を痛いほどにつかんでくる青年ミッシェルくん。
ううむ。
ちょっと怖い、かも。
「あ、あの……少し、待ってくださいますか。その……わたし、実は、こういう形で男の人に誘われるのは、はじめてで」
「……っ!?」
いきなり。
獣のよーになったミッシェルは、がばちょと私を押し倒し。
それから。
あれこれ。
にゃんにゃんと。
何度も何度も再プレイ。
私は欲望のおもむくままに、ミッシェルの好きなようにお楽しみされてしまった。
……いや、まあ。
途中からは、私も怖さが薄れて慣れが入ったので。
声や。
手や。
ポーズなど。
過去の男たちから学んだ技のいくらかを駆使して、青年ミッシェルに気持ちよく喜んでもらえるようにがんばった。
で。
その翌日の朝。
「聖女カエデ! 君にひとめぼれだ! 僕と結婚を前提に付き合ってほしい!」
「あの。わたし、既婚者なので……無理です」
きっぱりと断ると。
青年ミッシェルは泣きそうな顔になった。
ものの。
また会いましょうねと、社交辞令を送ったとたん、尻尾を振る犬のように満面の笑みを浮かべて私を抱きしめてくれた。
「必ず、また会おう! 僕は君なしの人生なんて、もう考えられない!」
「ふふ……うれしいです。私も、ミッシェル様のことを、とても好ましい殿方だと思っておりますよ」
「か、カエデ」
ミッシェルは感動した。
いやいや。
社交辞令だから。
本気にはしないでくれよ。
一緒に寝た後でイマイチだった、なんて言う女は、正直ちょっと頭があれだってだけの、そーゆー話なんだぜ。
……まあ。
ミッシェルが、私的に「あり」の男だというのは。
本当だが。
しかし。
彼は男爵家の後継者である以上、私とは一夜限りの関係以上には、どうしてもなりようがない。
で、領地に帰ったところ。
私は教育係の人に怒られてしまった。
「カエデ様……複数の男から言い寄られた場合、一番地位の高い人か、もしくは最初に声をかけた人、一番好みの男のいずれかを優先させてください。くじで決めるなどもっての他ですぞ」
「で、でも。それが一番公平かなって」
「人は不公平です。それで正しいのです。カエデ様がやったことは、男側の努力を全否定したも同然。カエデ様が自らの意志に従って男を選ばなければ、大きな問題が生じます」
「何の問題が?」
「……次からも押し寄せますよ。男が。カエデ様は要するに、男なら誰でもいいと宣言したわけなので」
「ええっ」
そのようになった。
貴族社会では自分より上の相手に対して求婚することができない。
ゆえに。
社交界は私にとって、比較的安全な場所。
そういう風にも言える。
ミッシェル男爵子息が私にやったのは、あくまでも私的な2人の間柄による戯言なのであって。
公的な場においてであれば。
私に対してプロポーズできる立場の人間など、そうはいない。
が。
アプローチはできる。
単に性交渉のみを前提として口説くだけであれば、それは当人同士の自由恋愛となる。
背中の開いた煽情的なドレスを身にまとっていると、会場中の男性が私を見ているのがはっきりと自覚できる。
子爵級貴族。
当主。
しかも若くて美しいとあっては。
私と近づきたい男は相当に多いらしく、長々とした行列ができて絶え間なく補充され、途切れることもまずない。
『妖精さん……この人は大丈夫か?』
『いっかいー、ぐらいならー』
『もんだいなしー』
と。
ゆーわけで、それから。
連日連夜。
私は各地の社交界に出席しまくって男と密会し、肌を重ねて回った。
いい。
すごくいい。
自分が人から求められている存在であると自覚することができる。
男をふりまわす、というのは。
実のところ。
すごく楽しいものなのだ。
前世においては、貞操観念をきっちりと植え付けられていたために、絶対にやらなかったが。
もはや、私はバツ3だ。
18歳なのに。
ウルトラスーパーなビッチである。
人も殺しまくったし。
身も心も汚れている。
ことここに至っては、貞操観念なんて持っていても私が清らかだと思われないことは、誰の目にも明らかだったので。
私は。
ぷっつんして。
もーどーにでもなーれー、という感じで、美醜に関わらず男の袖を引き、あちこちで抱かれまくった。
「か、カエデ! 君が好きだ!」
「僕なんかで……いいのか?」
「困ったことがあれば、何でも言ってくれ。君のためならこの身が滅びても、惜しくはない」
などなど。
とてもモテまくる私。
楽しい。
楽しい。
楽しい。
女として幸せである。
貧乏人から抱かれているとみじめな気持ちになるが。
金持ちは。
いい。
すごく好きだ。
私は相手のことを男として認識できれば、それ以上の注文については特に何も言わない。
いやまあ。
肉体的に危険なプレイとか。
サドの度が過ぎたり公開交渉とかを望む変態に関しては、また別なのだけど。
部屋の中で。
2人で完結することで。
事後、健康にその場所を出ることができる範囲のプレイであれば、それで。
私はなんでも許す。
相手のどんな要求だって満たしてあげたいと、私はそのように考える。
しかし。
当然と言うべきだが。
そんな生活を続けていると、かならず。
痴情のもつれという名の恐ろしいトラブルは、定期的に襲ってくる。




