第3話「友情と恋愛とは両立しないのでしょうか」
暇ができると、忙しい時には顔を出さなかったトラブルも表面化することになる。
メイドとして雇った元冒険者のテッサ。
彼女は妖精さんいわく。
『おすすめー』
『ちょういいひとー』
らしい。
妖精さんは基本、男でかつ私に性的興味がある世代の人間しか鑑定してくれないのだが。
テッサは例外的に回答があった。
なぜだろう。
実は男、という線は、おそらくはないはずだと思うけど。
その疑問に答えが出た。
のは。
冬のある日。
私が、仕事も落ち着いたな、と漏らしたのが原因か。
あるいは。
寒いと人寂しくなりますね、と物憂げにつぶやいたのが原因か。
それはともかく。
「カエデちゃん! あなたが好きなの! 私と付き合ってください!」
「え……ライク?」
「ラブなの!」
とゆー告白を受けた。
受けてしまった。
どうやらテッサは同性愛者らしい。
えええ。
こ、これはすごく困ったぞ。
私は完全にノンケであるがゆえに、そういう申し出をしてくる女の子は素直に気持ち悪い。
そういえば。
前世の男は百合漫画を好むという説を聞いたことがある。
女にとってのホモ漫画と同じ。
なのか。
私にとってホモ漫画はちょっと耽美で天使同士の恋愛であるかのような背徳感があって、わりと好きだったわけだが。
れ、れずは。
ちょっとなあ。
うう。
せめて男でさえあれば、お礼代わりに爛れた関係になることもやぶさかではなかったけれど。
「ご、ごめんなさい……私は、女の人をそういう目では見れなくて」
「そっか……わかってた。むりいってごめん」
寂しそうな目で別れをつげるテッサ。
「つらいから、仕事はやめるね。最後までいっしょにいられなくて……ごめん」
え。
いやだ。
いかせたくない。
女友達の1人もいない。
こんな場所で。
ひとりぼっちになるのは、もう嫌だ!
「ま、待った!」
「え?」
私は。
覚悟を決めて。
テッサを全力でひきとめた。
「それじゃあ、わたしを愛してくれるの? 求めにこたえてくれるの?」
「それは……うん。そうできるようにがんばる」
私はオーケーした。
「やったあ!」
テッサはたいそう喜んだ。
「その……そもそも、女同士で、どうするんだ? ノータッチのプラトニックラブということなのか?」
「まさか! 肉体関係のない恋愛なんてありえない!」
「そ、そうか」
「道具を使って入れるの。ちゃんと持ってるから、安心して!」
なにをどう安心しろというのだろう。
「ち、ちなみに、入れるほうと入れられるほう、どちらがお好みで?」
「入れるほう! ぜったいゆずらないから! カエデちゃんをはじめて見た瞬間から、この人しかいないって決めてたから!」
ええー。
勇者エリーはどうしたのだ。
彼とは遊びだったのか。
「いやー、だってさあ。そーゆー風に見せとかないと居心地悪いじゃん。エリーのほうも、女よけにちょうどいいって言ってたし。シスタークリスを牽制する意味もあったし」
「な、なるほど」
考えたこともなかった。
女よけか。
私の場合だと、男よけの偽彼氏を作るのは一考に値するかもだな。
いや。
今は偽彼氏どころか、8歳の夫と21歳の息子がいる身だけれども。
「ともかく! さっそく、今夜からがんばろう!」
「お、おてやわらかに」
めちゃくちゃ気乗りしない私だったが。
友達が欲しかったために。
しかたなく。
私はテッサに身を許すことになった。
あれこれとされてしまう私。
きもちわるい。
うう。
同性に体を売る男の人というのはこういう気分なのか。
すごーく嫌な感じだ。
山賊頭目に襲われた時もあれはあれで最悪だったし、ズリエルの変態趣味に答えるのは屈辱的で泣きまくったけれど……これにはまた別種の気持ち悪さがある。
失敗した。
一時の気の迷いでオーケーしなければよかった。
「いやー、カエデってほんと最高だよね! 肌とか筋肉とか、見たことないぐらいすごいよ!」
「…………アリガトウ」
「あとさあとさ、なんか一緒にいると幸せな気持ちになれるの! ふわふわするの! なんかやばいフェロモンとか絶対出てるよねこれ! すごいよ!」
テッサは元気いっぱいで私を絶賛している。
ううう。
こっちはそれどころじゃないのに。
嫌悪感を抑えるのでいっぱいだ。
「それになんてゆーか、私って貧しい生まれだからさ! 貴族様の高貴なからだを好きなようにあれこれしてるって思うと、もう、なに!? なんなの!? こんなに幸せでいいの!?」
「私も貧しい生まれなのだが……」
「今は貴族でしょ! しかも子爵! 私、いま間違いなく人生で一番幸せだよ!」
キラキラとした瞳で私を見つめているテッサ。
彼女のことは嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
私はテッサに対して友愛を感じているし、彼女自身も相当な美人である。
しかし。
女の体と言うのはやはり男のそれとは違うのだ。
やわらかいし。
ぷにぷにしているし。
体臭とかの感じも男とは違っていて、すごく違和感がある。
ものすごく満足して元気いっぱいになったテッサとは対照的に。
私はへとへとだ。
道具もそんなにいいもんじゃないし、触られても相手が女だと思うといまいち熱くなれない。
むむう。
そういえば……前世のボーイズラブ文化において、男性は「やおい穴」なる摩訶不思議な機能を備えていた。
お互いにテンションを高めて盛り上がって。
その時になると。
あら不思議。
ぬめぬめとした体液とかなんかが受け側の「やおい穴」から分泌されて、気持ちよくできてしまうという話である。
れずでは。
そーゆーのはないのだろうか。
個人的にはTS系ふたなり少女テッサでもかまわない。
そのほうが。
道具よりましだと思う。
私の悩みとは裏腹に、心の底から充実しているらしいテッサは2時間3時間という冗談のような長時間プレイによって私を攻め立ててくる。
「今夜もがんばろう!」
「あ……あの、毎日はきっついな。仕事もあるし。せめて、その、多くても週一ぐらいで」
「3日! 3日!」
「ぜ、ぜんしょします」
泣きそうだ。
いや。
これは議論の余地なく100%私が悪いので悲劇ではまったくないが。
ああ。
どうしよう。
どうするべきなのだ。
彼女を傷つけないでやんわり断る……のは、無理か。
無理だろうな。
せめて時間が経てば私の体に飽きて、頻度を落としてくれればいいのだが。
でもなあ。
山賊にとらわれていた時とか。
頻度が落ちる、どころか。
逆に上がったし。
どんどんのめり込まれてしまったし。
テッサがそうならないという保証はない。
お先真っ暗だ。
はあ。
私はため息をついた。
おさき。
まっくら。
だったのは。
この時点においては、実はテッサのほうだったが。
私がそれを知ったのは、一週間後のよく晴れた夜のことだった。
テッサは。
私を刺すためにやってきた暗殺者に殺された。




