第2話「復活の妖精さん」
朝起きて目が覚めた。
すると。
『やっほー』
『いえーいー』
ありえない声が響いた。
『…………妖精さん?』
呆然としてつぶやく。
『ぼくら、たいちょう、もどったー』
『またあそぼー』
陽気に声をかけてくれる妖精さん。
はは。
そうか。
私は何もかも失ったとか悲劇のヒロインぶってはいたけれど。
まだ。
妖精さん達がいたか。
それに。
今回の戦争で私を支えてくれた人たちには、ちゃんとお返しもしないとだな。
『心配したぞ、妖精さん。二度と会えないかと思った』
『おおげさー』
『ぼくら、かみにちかいー。めったなことではやられないー』
あいかわらず歌みたいな気持ちいい声で語り掛けてくる妖精さん。
うん。
いいな。
気分が上向いていく。
今日も前向きにがんばろうという力で満たされていく。
ところで。
気になることが一つ。
『妖精さん……その、なんで顔と腕だけなのだ? 体は?』
『ぼくら、いめちぇんしたー』
『あしなんてかざりー。ほらほら、からだも、いちおうあるよー』
自分の肉の切れ端をつかってお手玉を楽しむ妖精さん。
おおお。
なんだかちぎれた人形によるコント劇のようだな。
妖精さんの生態についてはまったくわからないため、今は成長するための準備期間とかなのかもしれないが。
『まあ……元気なのはなによりだ。これからもよろしく頼む』
私は指先に妖精さんを乗せて。
そっと。
その頬にキスをした。
『でれでれー』
『わおーんー』
妖精さんは嬉しそうにほほえんで、くるくると空を舞いはじめた。
ジローが死んだ結果、ファルコーン男爵家の当主は私になった。
当然。
親戚一同から反対はあったのだが。
ジローには子がいない。
この場合。
次の当主は自動的にその妻が選ばれる。
そういう慣習がある。
加えて。
カルラ様の利害関係者一同が熱烈に私を後押しし。
サンロット男爵家。
メサイヤ男爵家ともども。
家をあげて私を推薦したがゆえに。
もはや私以外の馬を立てることは不可能になってしまった。
戦争についても。
これを勝利に導いて子爵家の併合までを成し遂げたのが、その大部分、私の部隊による功績であることは誰の目にも明らかだったため。
反対派は。
火種を残しながらも沈黙し。
せめて次の当主は血縁から選ぶということで、一応の合意を得られた。
夫の命と引き換えに貴族への栄達を果たした。
魔性の女。
カエデ。
というほどでもない。
戦争ということであれば、親類縁者全員死んでしまった、みたいな私よりひどい例はそこらに転がっている。
ゆえに。
だんな様を失った私だが。
とくに目立つということもなく。
夫から男爵家の家督を自動的に引継ぎ、さらには吸収合併したスティング子爵家の家督を与えられて、親戚から養子を取ってその子を育てはじめた。
養子。
養子かあ。
できれば自分の子供を育てたいんだけどな。
私は貴族の血を引いていないため。
仮に子供ができたとしても貴族家の次の当主になることはできないらしい。
あくまでも。
代理。
次世代の貴族をサポートするための補助装置であり、臨時当主。
それこそが。
私。
なのだが。
しかし。
それとは関係なく。
女であれば、誰でも自分が生んだ子供を跡継ぎにしたいと思う。
少なくとも私はそうだ。
この問題を解決するためには……たとえばよその貴族領から血筋のいい夫を捕まえて、その子に領土を分割して与えるとかの処置をとる必要があるらしい。
もしくは。
もっと直接的に。
ジローの親戚を夫に迎えて、その子供に家督を譲るのがベストであるそうだが。
さて。
これからどうするべきか。
私の発言力は。
けっこう強くなった。
そもそも前回の戦争で活躍したのは私の軍隊であるし。
ジローの親戚でさえ、もはや私が当主たることにイチャモンはつけられない。
とりあえず。
この戦争の発端であった旧子爵令嬢ペルセフォネに関しては、裏切った奴隷部隊の統括役が強く希望したので彼に与えてみた。
奴隷部隊は、獣ハーフや魔族ハーフなどで構成されている亜人の集団だ。
人類とは少し違う。
わけだが。
今回の戦いにおける功労者ではあるので、領地を与えてそこに住まわせることになった。
結果。
ペルセフォネ嬢は、以前は見下す立場だった獣人リーダーに妻として尽くすことになったらしい。
お気の毒に。
合掌。
まあでも……美少女ではあるわけだし、案外だんな様から気に入られてうまくやるのかもしれない。
長男ザンは僧院に入ってもらい。
長女次女についてはすでに家を出ているようなのでノータッチ。
次男は戦争での怪我がひどいため、それを治してから縁組みの予定である。
あとは親戚連中に関しては、適当に懲罰名目で財産を巻き上げて。
抵抗したやつらには。
軍を差し向けて。
皆殺し。
上のような処置によって、スティング子爵領の支配者一族は事実上滅亡した。
領内の大臣やらはロックフィード村の出身者で固めたし。
公爵令嬢カルラの息がかかった文官もたくさん送られてきている。
かわりに子供は血縁から。
そんなところに落ち着いた。
もしも私をお飾りにしようというのなら、公爵家主導による第二第三の戦争が起こっていただろうことは間違いない。
ともあれ。
私はファルコーン男爵家あらためファルコーン子爵家の当主さまになった。
当主。
当主ねえ。
いやまあ、世の中には私と同い年の侯爵家当主とかもいるらしいから、絶対にありえない話ではないけど。
私は。
前世の父を超えた。
らしい。
父はしょせん数千人程度の会社のトップであり、社員の家族を含めて数えても1万人程度という集団の王に過ぎない。
子爵家当主。
それは。
人口100万という国の王様ということになる。
父の。
100倍。
いやまあ、父の会社の社員ともなれば最低でも10人に1人程度の逸材ぞろいだろうし。
アルバイトを含めればもっといるだろうし。
私はあくまでも外様のお飾り姫というだけの話なので、単純比較はできないにせよ。
100万は。
やはり100万だ。
ここまでくると、もはやどのように運営すればいいのか全く分からないレベルである。
『妖精さん……貴族の心得とかは?』
『さー』
『しらぬー』
まったく興味ない感じの答えをする妖精さん。
専門外らしい。
ううう。
ど、どうしよう?
「すべておまかせください」
「どうとでも」
「カエデ様は一日遊んでいらっしゃればけっこうです。もしも政務に興味がおありなら、日時を指定していただければ可能な限りの資料をまとめて報告にうかがいます」
ロックフィード村でファビオの腹心だった3名。
軍務担当マティアス。
政務担当ルイ=ジャン。
財務担当ブリス。
それぞれが私に忠誠を誓っている。
妖精さんいわく、
『かんぜんにー』
『しんらいできる、ひとびとー』
とのことで。
私は子爵家当主でありながら。
たまにサインをしたり部下と話したりする他には。
すごく暇になった。
現在の私は子爵家の3男だったシリルと婚姻関係にある。
人妻だ。
相手は8歳児。
人も寄り付かない僻地に監禁されているため、会ったことさえない。
いわく。
「好きな男を連れ込んで好きなようになさってかまいません。なんでしたら、子供をおつくりになって要職につけることも」
できるそうだ。
ううむ。
私は今現在。
養子として縁組みした21歳の元男爵家分家次男かつ次期子爵家当主ユーゴの母親でありながら。
なおかつ8歳児シリルの妻であり。
しかも自由に夫を選んで子作りしていいと。
そういう意味不明な状況になっている。
あとはまあ。
もしもショタ趣味があるならば、8歳児のシリルを好きなように調教してもいいとか。
替え玉を用意して、本人をこっそり呼び寄せることもできるとか。
シリルはまれに見る美童であるとか。
そう言われた。
ねーよ。
12歳以下はいくらなんでも対象外すぎる。
精通も終わっていないだろう幼児と何を楽しめというのだ。
貴族社会の闇は。
深い。
深すぎる。
いくら愛情とかどうでもいい血統オンリーの建前社会だからって。
ものには限度があるだろう。




