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第6話「プロポーズされました」

「カエデ」

「なんですか?」

「よければ、俺と一緒にならないか?」

「へあっ!?」


 狩りを終えた夕刻のことである。

 血の汚れを落とすために水浴びをしていた私に向けて、やたらと真剣な顔をしたあと。

 ティッキーはずずいと近寄り。

 私にそのように言った。


「カエデに何かしらの目的があることは知っている。その上でだ……もしもそれがあきらめられるものなら、俺の故郷に付いてきて一緒にならないか?」

「そ、それはその、結婚とか?」

「ああ」


 視線をそらさないティッキー。

 てんぱる。

 その。

 こまる。

 嫌かどうかで言えば全然嫌じゃないけど。


 出会ってまだ1か月足らずだし。

 早すぎるっていうか。

 15歳だから結婚年齢に達していないというかいやこの世界ではそれは関係なさそうではあるのだけれど子供を作るにはある程度の身体的成熟が必要で私は2人か3人ぐらいの数が理想だと思うんだけど育児には家族のフォローとか必要で。

 ああでも。

 とってもそれは幸せそうだなあ。


「返事は今でなくていい。あと一週間。それでこの難民キャンプが目的地へとつく。それまでに」

「わ、わかりました」


 ということで。

 それからティッキーは一言も話さなくなり。

 私たちは無言のままで難民キャンプに戻ってから、食事を取って別れた。


 一人になった。

 日が暮れた。

 毛布にくるまってぷるぷる震えつつ、私はぐるぐると考える。


 ど。

 どうしようどうしようどうしよう。

 結婚。

 結婚って!?

 それは元の世界に帰るためには明らかに妨げになるし。

 他のクラスメートだって探しに行きにくくなる。


 いや、てゆーか。

 そもそも。

 他のクラスメートにどんな顔で会うのだ。

 異世界人の貧乏人と結婚して子供をこさえた白河楓とか。

 もはや宇宙人である。


 それをやってしまうと。

 クラスメートの女子達とは、二度と友達には戻れないような。

 そんな感じがする。



 ……今更か。



 私はすっと熱をさまして上を見た。


 満天の星空。

 すごい。

 吸い込まれそうになる。


 これが見えるということは感動的なことであると同時に、文明に守られていないということでもある。


 この世界は優しくない。

 ファンタジーではあってもぜんぜんまったくファンタジー要素はないのだ。

 やられ役の敵。

 邪悪な秘密結社。

 称賛してくれる民衆。

 便利で世話をやいてくれるギルドや、武器財宝をくれる王様など。

 そういうものはない。

 そういうものはなかった。

 いたのは妖精だけだ。


 私はなんとなくだが、この世界の厳しさのようなものに触れたので。

 他のクラスメートがきっと。

 私ほど無事でないことはわかっている。



『生存者』



 念じる。

 星に向かって祈る。

 すぐに表示が現れた。

 ゲーム画面のようなウィンドウが虚空に浮いて光っている。



 初期ポイント 



 カエデ・シラカワ

 148ポイント


 26/40 287/416  


 残り26人です。

 残り287人です。

 0人殺害。



 これはなんなのか。

 妖精さんに聞いてみたところ、生存者の数だそうだ。

 生存者。

 転生しているクラスメートと学校関係者のうちで。

 今も生きている者。

 この表示はそういうことらしい。


 クラスメートは26人。

 学校関係者は287人が生きている。


 逆に言えば。


 生存者がわざわざ表示されている以上。

 死者。

 それもいる。

 当たり前のことだ。

 たまたま難民の群れに潜り込むことのできた私とは違い。

 モンスターのいる森の中に放り出されたクラスメートだっているのだろう。


 桜小路花恋さくらこうじ かれん

 香山美咲かやま みさき

 吉良瑞樹きら みずき


 私の友達だったクラスメートたち。

 無事でいるだろうか。

 というか。

 生きているのだろうか。


 こんな不自由な世界では苦労しているだろうなと確信する一方。

 あんがい。

 楽しくやっているかもしれないと。

 そんな感じもする。

 真相は闇の中だ。


 私は首を振って感傷を彼方へと追い払う。

 彼女たちは楽しく生きている。

 そう決めた。

 それでいい。

 私だ。

 今まさに人生の岐路といっていいイベントに遭遇している私の身の振り方を。

 まずは考えねばならない。



 前世のクラスメート。

 死者14名。

 単純計算で3人に1人以上が死んでいることになる。


 と、いうことは。


 ……危険なのだ。

 この世界は。

 きわめて危険。

 ちょっと魔力を得られたなどという程度の優位性で生きられるものではない。

 そういうことになる。

 彼ら彼女らの死因はわからないにせよ。


 人を食う魔獣やら。

 世界を滅ぼす魔族やら。

 そういうのが徘徊しているのが異世界の定番というもの。

 物語のヒーローならば勝てるのだとしても。

 私はそうではない。

 モブ。

 登場人物その他の女子高生なのだ。

 このまま流されて生きていくと決めるのは、危険だと言わざるを得ない。


 保護者が必要だ。


 強力な。

 できればティッキーよりも、もっと社会的地位の高い。

 幸いにも私は顔がいい。

 容姿に恵まれている。

 おそらくだが。

 ティッキーよりも高めの男に求婚される可能性も、決して低くはないだろう。


 ううむ。

 どうしよう。

 どうするべきなのだ。

 ティッキーは善良で紳士的だと思う。

 博識だし。

 サバイバルの知識については誰よりもよく知っている。

 健康でハンサムで若い。

 社会的地位が低くて貧乏である、という点を除いたなら、たいへん優良な物件だと言ってもいい。


 金。

 金か。

 やはり金だよな。

 私は前世でお嬢様だったから。

 あれの力と恐ろしさはよく知っている。


 金では買えないものがある、なんて主張する人間とか。

 正直バカなんじゃないか。

 そう思う。

 金で買えないのならば何をしたって買えまい。

 誇りは大切だが。

 人が誇り高く生きるためにも金は必要だ。


 地位も。

 名誉も。

 時間も。

 あるいは命さえも。


 金で買うことができる。

 あれはそういうものだ。



 うん。


 そうだな。


 断ろう。



 ティッキーには申し訳ないが。

 コンビの解消を提案して、それでお別れとしよう。

 早い方がいい。

 明日。

 気持ちが動かないうちに。

 狩りを終えて場を作って面と向かって、ちゃんと断りを入れよう。


 ……もしかしたら殴られて、ひょっとしたら襲われるかもしれないが。

 それぐらいのリスクを負うのが義理と言うものだろう。

 ティッキーは私にとてもよくしてくれた。

 恩がある。

 話の片手間に断るようなことはしたくない。


 私は内心の葛藤を押し殺して決断を下し、闇に身をゆだねて眠りについた。

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