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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
3-2章 不本意ながら軍人になりました
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第6話「一騎打ちだ!」

 もくもくと。

 敵の城が燃えている。


 勝手に。

 私たちは何もしていないのに。

 なぜいきなり。


 地図を見てみると。

 敵の城にいる一部勢力が青く光っている。

 ううん?

 これはなんだろう。

 敵軍のまっただ中に、なぜ味方が。


「カエデ様! 城中から矢文が!」

「内容は?」

「子爵家で虐げられてきた奴隷部隊からです! 攪乱作戦を行うゆえ、この機に乗って総攻撃をとのこと!」

「……わかりました、ならば」

「カエデ様。お待ちください」


 ソマ隊長は止めた。


「これは罠です。行ってはなりません。火は確かに上がっておりますが、窮地に置かれた軍が混乱を演出して待ち受けるのは常套手段です。あの勢いではいずれ鎮火もされましょう」

「…………」

「本物の乱であればまたとない機会ですが、区別はつきませぬ。慎重な対応を。まずはあの反乱が鎮まるものかどうか、見定めてからでも遅くは」

「なにをのんきなことを!」


 そんなことをすれば機会が逃げて、反乱も潰れてしまうじゃないか!


「全軍に突撃命令を出しなさい! あの反乱は本物です!」

「しかし」

「指揮官は私です! 厳命! 全軍突撃! 直ちに実行しなさい!」

「……承知いたしました」

「私も出ます!」


 私は自ら最前線に躍り出て、一番敵の数が少ないところにとりついてしゃにむに鍵梯子を駆けあがった。


「カエデ様だ!」

「カエデ様が突撃してしまったぞ!?」

「…………お、おい、すぐ続け! カエデ様に死なれたら、我々は皆殺しにされてしまう!」


 と。

 なって。

 自分の命を人質にした突撃作戦によって、総軍一丸となって城に攻めかからせることには成功した。


 当然。

 すさまじい被害も出たが。


 攻城戦は。

 いきおいだ。

 一度負け癖がついてしまえばなまなかなことでは成功しない、かわりに。


 勝てるときは一瞬で勝負がつく。

 

「でりゃあああああああ!!!」


 私は斬った。

 斬りまくった。


 波に乗った。


 吹きさらしの外壁に躍り出て向かってくる敵兵を真っ向から斬り伏せ。

 殴りつけ。

 蹴り倒し。

 弓を雨あられと浴びながら、それでもかまわずに城を走り回った。


 これほど自分を危険にさらすのは、ファビオを殺されてブチ切れた時以来のことだが。


 でも。

 あの時とは。

 違う。


 私は一人じゃない。


 今の私は総大将である。

 部下がいる。

 山ほど。

 ロックフィード村の若い衆の中でも「これは」と見込まれた屈強な壮士達が数十ほど、私のまわりを固めて戦っている。


 いいな。

 背中が頼りになる、というのは。

 すごくいい気分だ。


 私は目の前の敵だけに集中し、つぎつぎと敵兵を両断して突き進んだ。


『……』

『……』


 妖精さんの指示に従って城を走り抜ける。


 もはや。

 私に声は聞こえないが。

 きっと昔の妖精さんたちであれば、あっちー、そっちー、などとうたいながら私を導いてくれたことだろう。


 今でも。

 わかる。

 感じ取れる。

 

 彼らの導きに従って、私は走り続けた。




 玉座の間へと至った私以下数十名。

 そこには。

 貴族がいた。

 堂々たる風体にて玉剣をかかげて待ち構え、涼やかに名乗りを上げる。


「我が名はスペンサー」


 壮年の男性。

 黒髪。

 赤眼。

 筋骨隆々たる大男。

 やや白髪が混じり顔にはシワが刻まれてはいるものの、まだまだ現役といった感じの老戦士だ。


 できる。

 雰囲気でわかる。

 こいつは強い。


 敵意の混じった魔力が前方から吹き付けてきて、ビリビリとしびれるような感覚が背中を走り抜ける。


「スティング子爵家当主にしてこの城の主である。武勇に名高き聖女カエデに対しての一騎打ちを所望なり」

「……いいとも!」


 私は快諾した。


 貴族当主と指揮官で。

 一騎打ちか。

 あまりにもバカげている。


 が。

 しかし。


 もはや、スペンサー子爵には後がない。

 王城の奥深くにまで攻め込まれているのだ。

 部下も。

 兵も。

 信用も不足している。

 大将といえども玉座でふんぞり返っている場合ではないのだろう。


 私にしても。

 戦う理由はある。

 これまでずっと安全地帯に身を置いて人を死地に追いやり、恐怖による統制支配をやって反感を買い続けてきたのが私なのだ。


 生まれついての。

 貴族なら。

 それでいいのかもしれないが。


 私は違う。

 成り上がり者である。

 生まれの賤しい人間というのは、いつかどこかで命を捨てて勇気を示さねばならない。


 今がその時だ。


 私とスペンサー子爵は部下を下がらせて中央へと進み、真っ向からにらみ合った。


「…………ジロー男爵の妻、聖女のカエデです。スペンサー子爵の御首をいただきます」

「相手に不足なし」

「言い残すことが、あれば?」

「勝つのは余だ」

「ならば、あとは剣で」

「ああ」

「いざ!」

「尋常に!」


 勝負!

 と、声をあわせ。

 私たちは力の限りにぶつかって殺し合った。


「…………っ!」

「…………っ!?」


 つ。

 つよいぞ、こいつ!?


 私は苦戦した。

 力では上回っていたが。

 技は。

 スペンサーが上だ。

 流れるような足さばきで私へと接近し、鋭く斬りつけてくる。


 払う。

 受ける。

 つばぜり合いで押し合って互いに隙をうかがう。


 さすがは他国に侵略するほどの野心を持っている貴族領の王である。

 その実力は並じゃない。

 アルビンやジローなんかとは比べ物にもならない、本当に武闘派といった感じのむちゃくちゃな強さだった。


 ガン!

 ガン!

 ガン!


 剣同士がぶつかって火花を散らしている。


 強い。

 重い。

 速い。


 実戦を幾度も潜り抜け、魔力の使い方に慣れた私でさえ翻弄されてしまう。


 長期戦は、まずい。

 剣筋を読まれたら終わりだ。

 私は手にした武器の魔力を全解除してから子爵の攻撃を受け止めた。


 バキン!

 と剣が折れる。

 かまわない。

 勢い余った王剣を掌でつかみ取る。

 引かれた。

 が、抜かせない。

 魔力を集中させた手にさえ刃が食い込んで、血がしたたり落ちていく。


 でも。

 力なら、私が。


 上なのだ!


 私は剣を解放し、同時に勢いよく踏み込んだ。


「ぬ!?」

「…………っりゃあああああああああああ!」


 服を。

 つかむ。

 指で。


 振り回されるスペンサー。

 体勢を戻そうと踏ん張るスペンサー子爵の防御が乱れ、そこに拳を打ち込む。

 ズドン、と。

 入った。

 胸甲の上から重撃を入れられて、スペンサー子爵の体が吹き飛んだ。


 私は機を逃さずに追撃した。


 バキィ!


 と。

 蹴った。

 思い切り、全力で。

 ガードした子爵の右腕が骨ごと砕け、そのまま床を転がる。


 動揺する敵の近衛たち。

 くるか。

 でも。

 そこからだと、もう間に合わないぞ。

 私は子爵が立ち上がる前にもう一度蹴りを入れ、地面を転がっていくところに追いすがって踏みつけて、さらにナイフを抜いて首へと差し入れた。


 ひねりを入れた。

 抜いた。

 地面を蹴って子爵から後ずさった。


 血液が。

 噴水のように噴き出して、玉座の間の高い天井の半ばまで到達した。


「…………」


 ぱくぱくと。

 スペンサー子爵は驚いたような称賛したような表情をして、そのままの顔で固まった。


 うごかなくなった。

 しんだ。

 けっちゃくだ。


 私はスペンサーに勝利した。


「……打ち取ったり」


 最初はぼそりと。

 自分に。

 言い聞かせるように。


 しかし。

 次は。

 ちがう。


 私は腹の底から叫んだ。


「ファルコーン家の聖女カエデが、子爵領当主のスペンサーを打ち取ったり!」

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