第5話「これがビッチの力」
売春マシーンと化した私の超絶ビッチ力により、スティング子爵軍はいっきに追い詰められた。
サンロット男爵家の裏切り。
に。
続いて。
なんとメサイヤ男爵家も裏切った。
国境付近でジローの軍とにらみ合っていた敵の軍勢は、もともと裏切りの報告によって敗走気味だったわけだが。
そこへ。
右翼を任されていたアルビンの父であるところのズリエル男爵が全軍こぞっての裏切りと総攻撃を行い。
戦線を支えきれなくなった総指揮官のザンは退却を決断した。
そこからは。
悲惨。
の一言に尽きる。
子爵家の長男に生まれたザン指揮官。
彼の人生において、ここまでの屈辱を得たことは決してなかっただろうと。
そう。
断言できるほどに。
追撃され。
猛撃され。
さんざんに痛めつけられて。
カエデ隊やサンロット男爵軍やメサイヤ男爵軍。
あともちろんファルコーン男爵家のジロー軍からも、これまでのうっぷんを晴らすかのようにタコ殴りに殴られ続けた。
で。
子爵軍は領土をほぼ縦断するほどの退却戦をえんえん行い続け。
主都に。
入った時には。
もはや。
総軍わずか、2000も残っていなかったらしい。
秋の中頃のことだ。
私たちは子爵領の主都ウタワレールまで進軍し、王城を取り囲んだ。
「カエデ殿。こちらの部隊は1万。敵はおよそ3000です」
「なるほど」
「しかし。力押しでは、とても」
「勝てませんか」
「はい。ジロー男爵率いる主力軍も、無傷ではありませんし、それに」
「まとまりもない、ですからね」
「まさしく」
寄り合い所帯である私たちの1万は、その人数ほどには軍として機能しない。
ひとつになれるか。
否か。
これすべて総指揮官たる者の実力にかかっている。
「ジローは?」
「先の戦いで腹部に傷を負い、本城にて療養中とのことで」
「え、それ、大丈夫なのですか?」
「命に別状はないようです。ただ、戦闘に参加できないことを悔しがっておりました」
「……もう」
無茶ばっかり言って。
ケガをしたら。
ちゃんと休まないとだめなのに。
「伝えておいてください。この戦争が終わったら、一番に会いに行きますと。誰よりも愛していますと」
「たしかに」
うむ。
最近は戦争で心がすさんでいる傾向があるからな。
癒されたい。
ジローに抱かれていると心がぽかぽかするのだ。
はやく始末をつけてジローのところに戻って、また結婚した当初みたいにイチャイチャしながら生きていたいものだけど。
さて。
ジローが負傷によりいなくなった結果、総軍の指揮権は私に与えられた。
もちろん。
反対もあったが。
ブロッコリー公爵家から出向中のソマ隊長の意見により、私は心を鬼にして、
「ギスラン殿! 貴殿には謀反の疑いがかけられています! 一時的に拘束させてもらう!」
「な、なんと!? 私が謀反!?」
と、冤罪をかけてジローの後任を拘束し、さらに、
「態度が悪い! 指揮官は私ですよ!」
「ひいっ!?」
と、てきとーに男爵家累代の忠臣を何人か殴りつけ、加えて、
「……彼女は私に対して失礼を働きました。無礼打ちにしてきなさい」
「ははっ!」
などと、近衛兵を使ってすぱすぱと。
私への悪評を流していた女官やらメイドやらを首切ってさらしておいた。
結果。
「カエデ様は、鬼じゃ」
「あれほどのバケモノだったのか」
「逆らえば殺される……今は時を待ち、忠節を曲げてもあれに従うしかあるまい」
と。
ゆーことで。
ひそひそと嫌われつつも。
私の名声やら心の潔白やらとは引き換えに、連合軍の心はとりあえず一つになった。
悪堕ち聖女カエデの名のもとに固まった。
泣ける。
けど。
ここまでやらなければ、連合軍というのは機能しないらしい。
ジローが率いていれば別だが。
私が普通にやったところで、攻撃命令をかけても全員サボタージュしてまともに動くことさえない。
そういうものなのだそうだ。
「それで……これからどうします? 総攻撃をかけますか?」
「最終的にはそうするより他にありません。しかし」
「しかし?」
「準備はできるだけするべきです。なんでもスティング子爵軍には、グロリア基金なる隠し財産があるそうで」
「へええ」
聞くところによると。
それは王城には保管されておらず。
領地のどこかに隠してあるらしい。
ああ。
そういえば、あったな。
主都まで進軍している途中に、異様なほど妖精さんサーチに反応していた財宝の塊のような場所が。
「……ここですね」
「それは?」
「ここに財宝が隠されています」
「なんと」
「軍の一部を割いて回収にまわしなさい」
と、ゆーことで。
財宝を守っていた秘密部隊を人知れず皆殺しにしてやり。
こっそりと秘匿されていた金銀財宝は。
残らず回収し。
運搬し。
ジローのいる本城へと奉納させるそのいっぽう、一部陣中へと積み上げさせて、高々と誇示もしてみた。
「うわあ」
「すさまじい……量ですな」
「ゴージャスとはこういうものですね」
「いくらあるのでしょうか?」
「さあ……とりあえず、商人を呼びなさい」
私たちは、ひとまずは借金を返済し。
続いて攻城兵器を発注することにした。
鍵梯子。
投石機。
弓矢。
軽くて頑丈な鎧に兜など。
野戦装備から換装することによって、一応気持ち程度、城攻めに強い部隊へと仕上がってくれた、わけだが。
「これでも……まだ厳しいのでしょうか?」
「そうですな。やれば勝てるかもしれませんが。五分五分です」
「腹をくくって攻めるべき?」
「かもしれません。あるいはじっと待ち、城中の士気が倦んでから攻めかかる手もあります」
「ふむ」
そりゃーまあ、10年包囲を続けて落ちないわけがないし。
兵士にも。
娯楽は必要だ。
まったく戦闘行為が行われなかったとしても、こうして包囲を続けるだけで敵軍は弱っていく。
「時間はどちらの味方ですか?」
「さあ……以前であれば子爵軍は侵略者でしたが、今は逆ですからな。諸外国からの調停は必ずしも我々の有利には働かないかもしれませぬ」
「うーん」
悩ましい。
いや、しかし。
平和的に解決できるというなら、後々火種が残ったとしてもそうするべきではなかろうか。
戦わなければ。
死者も。
でないわけだし。
そっちのほうが私の性格向けな気もする。
うん。
そうだな。
待とう。
私が持久戦の方針を部下へと伝えようと心に決めた、その時。
城中から火の手が上がった。




