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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
3-2章 不本意ながら軍人になりました
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第4話「身も心も汚れました」

 朝起きて目が覚める。

 汚い。

 隣で寝ていた男はいつの間にか消えていた。

 私はぼんやりと眉をこすり、起きてもぞもぞと身支度を整える。


 すっかり汚れた私。

 ビッチだ。

 誰が何と言っても蔑まれ見下されてしかるべき存在であると。

 他ならぬ私がそう思う。


 ジローは。

 こんな私でもまだ。

 好きでいてくれるだろうか。

 自己嫌悪を朝のまどろみが中和して、かろうじて正気を保っている頭で考える。


 戦争に負ければそんな可能性さえも消えてしまうわけだから。

 選択肢は。

 ない。

 仮にジローから戦後に捨てられるとしても、私を愛してくれた彼が生きているのなら、死ぬよりは絶対にましだ。


「二人で逃げないか」


 と。

 ジローは言っていた。

 そんな覚えがある。

 私はあの時、当主としての責任があるだろうとその提案を断ってしまったが。


 今思えば。

 それで。

 よかったのではないだろうか。


 ファルコーン男爵領はスティング子爵領に全面降伏して。

 そのかわり。

 私とジローの命だけは保証してもらって、どこか知らない国に逃げるとか。

 それでいいのではないか。


 失敗した。

 名誉とか責任とか。

 みんな嘘だ。

 この世界のやつらは嘘つきだ。

 私もそんな嘘に乗って、バカばかりやってしまった。


 あれから何人死んだ。

 何人殺したというのだ。

 村は焼かれて人は怪我をして苦しみ、生産的な活動については何も行われていない。


 戦っては。

 いけなかった。

 私はそんなことも知らなかったから、責任なんて嘘を平気でついて戦争をはじめてしまった。


 しかし。

 私にはもう。

 それを嘘だったと言うことさえ。


 今は許されていない。


 嘘の上にも嘘を塗り重ね。

 私は今日も生きていく。




 私は商人に手紙を書いて面会を取り付け、ほうぼうで援助物資を受けまくった。

 そして。

 ほうぼうで。

 やられた。

 みんな私の体を希望しやがるのだ。

 いったいなぜこんなにもモテるのか……などとは、もはや私は考えない。


 よくわからないが。

 そういうもの、なのだ。

 異世界的には私は美女なのだろう。

 私の体には価値があって、みんながそれを虎視眈々と狙っている。


 みじめで。

 くやしくて。

 断れない自分が情けなかったけれど。


 私は弱い。

 略奪と言えば簡単だが。

 それは村人の人生を決めてしまう契機にも間違いなくなりえる。


 子供の泣き声。

 悲鳴。

 明日を奪われて立ち尽くす何百もの絶望のまなざし。


 それを受けて。

 援助物資なんていらない、と胸を張れるほどに。

 私は強くなかった。

 嫌だった。

 どうしても耐えられなかった。


 だから。

 私はジローに対して当然捧げるべき貞節を、捨てることにした。


 これが原因で殺されても、仕方がないとさえ思うけど。


 そのかいあって、と言うべきか。

 私たちは食料や物資に関しては一切困ることなく、歴史上でもまれに見る補給の行き届いた部隊として活動を続けている。




 一度だけ、トラブルがあった。


 涙を拭いて汚れた体を清めてから部屋を出たところ。

 なぜか。

 テッサが顔を腫らしていた。


 テッサは冒険者仲間。

 以前は王立貴族学校で共にダンジョンに潜って戦ったほどの仲だ。

 今は私直属の女官であり護衛メイドをやっている。

 その彼女が。

 壁によりかかって涙を流している。

 これはどういうことだ。


「殴られた……の、ですか。テッサ。誰が」

「私がやりました」


 公爵令嬢カルラから送られてきた大隊長のソマが、すっと手を挙げた。


「カエデ様が商人へ体と引き換えに物資を手に入れているという話を聞くにつけ。止める間もなく、部屋に入ろうとしたので」

「殴りつけたと?」

「はい。やむをえない処置であったとお考えくださいませ」


 わたしは。

 頭に血が上り。


 ソマ隊長の頬を、思い切り平手で打った。


 パァン。


 すごい音がした。

 おそらく。

 脳震盪ぐらいは起こす程度の衝撃があったはずだが。


 ソマは微動だにせず、私を冷静に見つめている。


「次、テッサに手をあげたら殺します。覚えておきなさい」

「……承知いたしました」

「でも。止めたこと自体は正しいです。言い聞かせておいてください」

「ははっ」


 うやうやしく頭を下げるソマ隊長。

 嫌な感じだ。

 本来なら汚れた私を知っている人間なんて一人もいないほうがいいけれど。


 それは。

 無理だろうし。

 私はもう私一人のための身の上ではないので、護衛は絶対に必要だ。


 でも。

 テッサに知られたのはつらいな。

 忘れてほしい。

 話題にされそうになったら上手にかわして、そのことを意識しないで済むように気を付けておかなくては。




 そして、それから。

 私たちはファルコーン男爵軍と対峙を続けているスティング子爵軍の後背を突く形で、敵地へとなだれ込んだ。


 略奪。

 凌辱。

 大混乱。

 行く先々の村が悲鳴と絶望とに包まれる。


「な、なんだ!?」

「裏切りだ! サンロット男爵家が裏切ったのだ!」

「ばかな……あの数は、数千はいるぞ!?」


 その行軍。

 無人の野を行くが如し。


 向かってくる自警団やら駐屯兵やらを蹴散らして、私たちはスティング子爵領の中枢部へと肉薄した。

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