第3話「恋愛チートが猛威をふるっています」
放火して脅しを入れて食料と物資と女とを提出させる、とゆー世紀末ヤクザ手法を続けること一か月。
講和の使者が。
やってきた。
「条件は?」
「両家の争いに関わらない代わりに、軍を引いてほしいと」
そういう話らしい。
「どうしましょう?」
「お受けなされればよろしいかと」
「なるほど」
「ただし、公的な証書と証人とをつけることが前提となりますが」
カルラ領から出向しているソマ隊長はそのように助言してくれた。
「口約束では?」
「だめです。破られます。われわれが軍を引いたあと、戦局が不利になった段階で必ず参戦してきます」
そういうものなのか。
「公的な証書があればそれを防げるのですね?」
「いいえ」
「ううん? 無理なのですか?」
だったら……何のために証書を作るのだろうか。
「口約束であれば、かなり簡単に攻めてきます。公的な証書があれば相当有利な状況でなければ攻めてきません。この二者は違うものです」
「なるほど」
単なる保険、ということか。
そうだな。
土地と財産の奪い合いというのは領民すべての未来を決めてしまうほどの重大事だ。
約束が順守されるわけがない。
「では、返事が来るまでは待機ということですね?」
「いいえ。それはなりませんぞ」
ソマ隊長は強く断言した。
「むしろ積極的に攻めるべきです。向こうの時間稼ぎに付き合うことはありませぬ。戦争は攻撃目標を選べる攻め手側が圧倒的に有利なのですから」
「わかりました」
私はそのようにした。
サンロット男爵領を渡り歩き、各地の村を支配下に置きまくり。
砦については。
無人に近いところについては、一気呵成に攻め破り。
難所は。
戦えば被害が大きくなりすぎる、ということで。
とりあえず放置しておき。
次の目標へと。
そうこう。
しているうちに。
向こうから。
降伏の使者がやってきた。
周辺の弱小貴族たちは、基本的には侵略側であるスティング子爵領の人々には手を貸さない。
のだが。
同盟軍は別だ。
彼らは条約によって結ばれた一蓮托生の身であるから、サンロッド男爵領はスティング子爵領に対して協力することになっている。
しかし。
条件が変われば。
事情も変わってくる。
後々の信用が多少失われるとしても、戦況の推移によっては敵味方が変わることもありえる。
交渉には男爵領当主ジャン=シャルル。
その本人が来た。
なんと。
冗談ではないのか。
一方の勢力のトップともあろうものが、生殺与奪さえ嚢中にある敵陣のただ中に来るなんて。
そんなことがありえるのか。
「カエデ様。お久しぶりです。私のことを覚えておられますかな」
「……どこかで?」
「私は男爵ジャン=シャルル。以前、社交界でお会いしたことがありました。あれはそう、アルビン殿がペルセフォネ嬢との婚約破棄を決めた折のことでしたが」
ああ。
そういうことか。
挨拶ぐらいはしたかもしれないけれど。
え。
でもちょっと待って。
私たちが顔見知りであることと本人が直接来ることとは、別に関係なくない?
「極めて重要な交渉であるがゆえに、代理では務まらないと考えました。このままでは我が領は破滅してしまいますので」
「そうですか」
まあなあ。
村を荒らしているのは私たちだが。
彼らを保護できなかったという汚名はジャン=シャルル男爵に対して与えられるものだろう。
支配は。
一方的なものでは成り立たない。
税金を払わせている以上、支配者には当然のことながら、領民を保護する義務も発生しているわけだ。
「それで、今後のジャン=シャルル男爵の方針としては?」
「簡単に言いますと」
彼らは降伏し。
私たちに対しては軍需物資を提供し。
なんと軍を出して、スティング子爵家に向けて敵対までしてくれるらしい。
「そのかわりに、戦後においては格別の付き合いを賜りたいと」
そのようにお願いされた。
あと、できれば個室にて、私と内々の話をしたいとのことだったが。
「ジャン=シャルル殿! 身の程を知られよ! 貴殿は降伏に来たのではないのか!」
「は……さようですが。やはり今後については、カエデ様と直接話し合いませんとな。それに」
「それに?」
「私に傷一つでもつければ、もはや交渉の余地はありますまい。サンロット男爵家一同、我が息子のもとに一丸となって復讐戦を仕掛けることになりましょう」
「…………」
それは。
すごく、困る。
単独で戦争を止めるための交渉に来たジャン=シャルル・サンロット男爵を人質に取ったところで、名誉にはならないし。
むしろ。
嫌われる。
だけだ。
泥沼の戦争になる。
敵主力を壊滅させなければ終わらない戦いなんて、悪夢としか言いようがない。
「カエデ様。我らが主力部隊はいまだ健在であることをお忘れなく」
「……わかりました」
しょうがないな。
ジャン=シャルルと2人きりで。
おはなしか。
まあ。
殺されはしないだろう。
私とジャン=シャルルは移動して。
人払いをして。
いちおう。
最低限の護衛だけは、もちろんのことながら家の外につけたが。
そこで。
予想通り。
というべきか。
「さっそくですが……カエデ様。あなたはご自分の魅力については自覚しておられますかな?」
「多少は」
「ならば話は早い。聖女にして男爵家の正妻であるカエデ殿を抱けるとは、はは、体が熱くなりますなあ」
「…………」
私は。
無言で目を閉じた。
はあ。
いつになっても、とても。
慣れないな。
何をどう考えても断れる申し出ではないから、仕方がないのだけれど。
「大声を出してもかまいませんぞ? ああ、やはり外に聞かれるのは嫌ですかな」
「…………っ!」
私は。
声を押し殺して、耐えた。
たぶん。
助けを求めない限りは部屋に入るなと厳命しておいたから、多少声が漏れたとしても問題はなかっただろうけど。
そして。
苦痛に満ちた1時間が経過した。
ベッドで涙を流しながら肩を上下させている私を見て、ジャン=シャルルは満足そうに息を吐く。
「……素晴らしかったですぞ、カエデ殿。この続きは後日、もっと落ち着いた時にでも。その美しい声でも楽しませていただければと」
「それ……より…………約束を」
「わかっておりますとも」
サインを一つ入れて、ジャン=シャルル男爵は去っていった。
こうして。
サンロット男爵家はスティング子爵家との同盟を破棄し。
そのままの勢いで宣戦布告を行い、ファルコーン男爵家と同盟関係になって戦争への介入をはじめた。




