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第7話「空手形をつかませましょう」

 戦場となるエーデン平野はアルテピア内海の南端、王立貴族学校のある島から、船で真っすぐ南に進んだ場所にある。


 この周囲一帯は四通八達した街道が集結する重要地点のため、5代魔王が数十もの領地に分割してから下級貴族に与えて統治させた。


 川が縦横に流れ。

 橋もたくさん。

 おのおのの貴族領では関所を作らないという提携がなされており、旅人や商人たちの往来が途絶えることはほぼない。


 つまり。

 交通の便がよく。

 援軍を呼ぶことが比較的容易であり。

 かつて私がファビオと過ごしたリーフ子爵領なんかも、徒歩で一か月圏内にはあるのだ。


 そこから集まった兵隊。

 3000名。

 これをうまく使って、スティング子爵領からやってきた侵略軍5000を追い払わなければならない。


 現在、スティング子爵領の長男ザンは国境のユグドーラ砦に籠って機会をうかがっている。


 攻めるか。

 増援を待つか。

 補給を固めるか。


 いずれにしても力押しの解決をはかるほどの優位はないらしく。

 コツコツと時間を稼いで。

 支配した村の安定を第一にと、まずは考えているようだ。


「取り返せないのですか?」

「無理です。勝てません」


 答えてくれたのはカルラ様からこっそり融通してもらった公爵家の大隊長さん。


 名前はソマ。

 48歳。

 ややしぶめ。

 今回の件で私たちがあっさり負けては困るということで、できる限りの助言を与えてくれる軍事顧問さんである。


「敵は5000で……こちらは私が集めた3000と、男爵家にも5000を超える兵がいるのでしょう? 数では勝ってますけど?」

「全軍なら勝てるでしょうが……男爵家の5000は主都や各地の砦を防衛するために残しておかなければなりませぬ。自由に動けるのは1000か2000。また、カエデ様が集めた兵はあくまでも烏合の衆であり編成も未了です。この状態ではとても」

「なるほど」


 そりゃーまあ、もともとが力の強い民間人というだけだからな。

 異常に強い人も何人かはいるけれど。

 それは例外で。

 異常に強い人を主力として構成された軍隊と比べれば、質の低さは隠しようもない。


「私が集めた3000人は……軍隊で言うところの1000人ぐらい?」

「はい。その上に、食料や物資はほぼ同じだけ消費します。長期戦には向かないかもしれませぬ」


 うーむ。

 戦いは数ではないのだな。

 できるだけ集まった人を使い潰すような命令はしたくないのだけれど。

 いよいよとなれば、強行突撃もやむなしか。


 そのときは。

 せめて。

 私も一緒に死のう。


 それが元貧民の私を慕って集まってくれた彼らへの礼儀だと思う。


「敵の総数は?」

「侵略してきたのは5000ですが。子爵領には無傷の5000が手つかずで残されています。加えて同盟国を結んでいるメサイヤ男爵領からも2000程度の援軍が用意されているとのことで。他にも敵寄りの中立国からもう数千程度、送られてきても不思議ではありあませぬ」

「合計……1万以上。下手をすれば2万?」

「そういうことになりますな」


 たんたんとソマ隊長は答えた。


 うわー。

 それはお手上げだな。

 こんな平野では正面からぶつかって戦うしかないらしいし、その場合は兵力差で全て決まってしまう。


 これはもう。

 戦場で囚われる前に自殺できるよう訓練すべきかもしれない。


 ううん。

 いや、待てよ。

 大隊長ソマはさっき、なにか気になることを言わなかっただろうか?


「メサイヤ……男爵領?」

「はい」

「アルビンの実家の?」

「はい。このあたりの貴族は政略結婚が盛んでありますれば。カエデ様はひょっとすると、当主のズリエル殿とは顔見知りでありましたかな」

「えーと」


 顔見知り、というか。


 脅されて。

 犯されて。

 監禁もされかけたんだけど。


 そっかー。

 あいつかー。

 私の今生きてる死んでほしい人ランキングで5指に入っている腹デブオヤジ。

 のうのうと。

 まだ動いてやがったのか。


 はあ。

 嫌な名前を聞いた。

 今日はもうこのまま現実を忘れて眠りにつきたい気分だ。

 いや。

 まてまて。

 これはチャンスだぞ。

 ズリエル男爵はたしか、息子との関係を壊してもいいと思うぐらい私にベタ惚れだったはず。


 ならば。


「ソマ隊長。ズリエル男爵への手紙を届けることはできますか?」

「それは……可能ですが」

「寝返りをすすめてみようと思います」

「なんと」


 とゆーわけで。


 私はソマ隊長に体裁を聞きながら、自筆にて手紙をしたためた。


 当主のズリエルに向けて。

 あの別れの日に引き留めてくれたことを忘れていないこと。

 協力してほしいこと。

 もしも戦場で適切に裏切ってもらえるのであれば、報酬としてどんなものでも差し出す用意があること。


 ……もしも、あの時。

 家屋敷でも財産でも全て差し出すと言ったズリエルの言葉が嘘ではないのなら。

 これで裏切ってくれる。

 はず。


 いやまあ。

 私のこの手紙は明らかな嘘だけど。

 こんなもの、真面目に考える必要もあるまい。


 裏切ってくれるならもうけもの。

 なのだ。

 報酬については、後でもめるだけもめればいい。

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