第6話「これが絆の力」
「とゆーことらしいですが、だんな様」
「ああ、そうなんだが……僕はカエデさえいればどうでもいい。2人で遠くへ逃げないか?」
などと。
無茶苦茶いうジロー。
おいおい。
アルビンの時とは違うのだぞ。
あなたは当主であって、そんな無責任なことが許される立場ではない。
まあ。
これはさすがに。
冗談の一種だと思うが。
しかし。
「逃げません。だんな様。手を打つ必要があります。戦うのです。このまま国が侵略されるのを放置しておけば、後は破滅までまったなしですよ」
「それはそうかもしれぬが……」
苦悩するジロー。
まあ。
状況を聞く限りでは、確かにほぼ詰んではいるようだが。
「ここで逃げるのは、責任放棄です。ジローには男爵としての仕事があるはずです。領地のこともちゃんと考えてください」
「むむむ……カエデがそう言うなら、そうするが」
「約束ですよ」
「わかった。約束する。カエデ以外のことも考える。それで」
ジローは私に問いかけた。
「どうしよう?」
「兵を集めましょう」
「……戦うのか?」
「はい。だんな様。このままことが推移すれば、敵国にとらわれた私も無事ではすみません。恨みを持っているスティング子爵領のペルセフォネ嬢にいじめ殺されてしまいます」
「そんなことはさせない!」
玉座から立ち上がりジローが奮い立った。
「軍務大臣を呼べ!」
おお。
急にやる気になったな。
話に聞く限りでは外交によって解決できる段階は終わっているようなので、あとは殴り合うだけか。
外務大臣ではなく軍務大臣を呼んだジローの判断は正しい。
それから。
会議が開かれて。
スティング子爵家長男ザンが率いる侵略軍5000を打倒するために、あれこれと対応を練っているようだが。
私も。
何かしないとな。
妻として男爵家の一員として、礼儀作法の授業なんて受けている場合ではない。
「ジロー、部下をください」
「なんのために?」
「私には結婚前に持っていた金や人脈があります。それを使って兵を集めるので、手足となる使い走りを何人か」
「ふうむ」
首をかしげるジローだったが。
まあ。
やってみてもいいよ、とオーケーをもらえたので。
とりあえず。
やってみた。
結果。
3000の兵隊が集まった。
「…………え、なんで?」
「さあ」
「カエデって、そんなに集兵力あるの?」
「さ、さあ。私にもわかりません」
自分でもびっくりである。
詳しく聞いてみると。
私の命がひっぱくしている事情を説明し。
なんとか。
ファビオの遺産のうち、村の運営に支障がない範囲で助けてほしいと手紙を持たせて使者を送ったところ。
ロックフィード村のみんなが、土地や財産をいっせいに処分して。
集兵し。
結束し。
いそいそと行軍して。
今現在はファルコーン男爵家の国境を越えて、その後の指示を待っているという話である。
「す、すごいね」
「信じられません。もうとっくに、縁なんて切れたと思ってたのに」
ファビオの遺産を任していた人たちは、突き抜けて善良だったようだ。
善良、というか。
そこまでいくと異常と言ってもいいけれど。
ともあれ。
兵隊はたくさん集まった。
ロックフィード村の開拓地区にいた若い衆がたくさん。
野良の浪人や冒険者。
あとは。
学生時代に一緒に冒険していた格闘少女のテッサとかも来てくれた。
「カエデちゃん! 来たよ!」
「わあ……うれしいです! テッサ! ほんとうにうれしいです!
私たちはひしと抱き合った。
加えて、なぜか。
難民時代に一緒に狩りをしていた人々とか。
山賊時代の幹部で脱獄した人とか。
冒険者時代、学生時代の顔見知りが100名ほど。
集合した。
してしまった。
いったい。
彼らは何を考えてここに来たのだろうか。
偶然。
集まった、とでもいうのか。
戦場は命を落とすこともある危険な場所であり。
戦争は人生の命運を決定づけてしまうほどの一大イベントだというのに。
負け組に。
つくなんて。
なんで。
そんな、自殺のようなまねを。
『…………ぼくら、がんばったー、けどー』
『…………あとは、ますたーしだい。がんばれー』
ふと。
消え入るようなささやきが耳に入った気がする。
何を伝えたかったのか。
もはや。
わからない。
でも。
なんとなく、妖精さんが私をはげましてくれたような気がする。
うん。
がんばるぞ。
私はそう決めた。




