第4話「ハネムーン」
で、結婚式が終わってから一週間程度。
ジローは私に夢中になっていた。
出会った当初はややぎこちなく、緊張からかあまり話してくれなかったのだが。
質問して。
話題を振り。
冗談をまじえてあれこれと話すにつけ、少しずつ笑顔が増えはじめ。
「…………見ろ、カエデ! 街が見えてきたぞ!」
すっかり打ち解けた私とジローは、手をつないでラブラブとしながら物見遊山を楽しんでいる。
旅行。
新婚旅行。
ザ・ハネムーン。
それも金に糸目をつけない、最高級の旅館に泊まりながら豪遊して歩くぜーたくコースである。
大滝のしぶきに打たれたり。
登山でへばったり。
ロバをへばらせたり。
古代遺跡でピクニックとしゃれこんで、ガイドの解説を聞きながら過去に思いをはせたりと。
いろいろ。
前世ではよくやっていた旅行三昧の日々を、私は送っている。
「ジロー様と!」
「カエデ様のご成婚に!」
ばんざーい!
ばんざーい!
ばんざーい!
などと。
あちこちで祝福を受けた。
これが単純な人望によるものであれば、もはやその人は英雄としか言いようがないわけだが。
もちろん。
私たちは違う。
施しを受けた領民さんがお上から命じられて場を盛り上げるのは、単なるビジネスである。
私たちは視察と称して領地のあちこちを巡り。
そのかたわら。
恩赦やら。
予算面における優遇やら。
就職のあっせんやら。
いろいろと援助を与えまくり、民衆の機嫌を取っていく。
ハネムーンとは。
旅行であり。
ばらまき政策であり。
この結婚が祝福されたものであると民衆に印象付ける、一種の情報操作でもあるわけだ。
もちろん。
単なる娯楽でもあって。
夜になれば。
二人は夫婦で、水入らず。
あれこれと楽しんだあとは、気だるい感覚に身をまかせつつ。
ピロートークに興じる。
そんな毎日である。
「汗をかいているな」
「ですか?」
「ああ。湿ってる。普段はもっとさらさらなのに、今はしっとりとした感じだ」
ジローは私の髪をいじるのが好きなようで、さわさわとよくなでてくる。
ううん。
ちょっとくすぐったいかな。
髪が痛みそうだからやめてほしいけれど、気持ちよくもあるので微妙に注意しにくい。
私が夜風をあびながらぼんやりとしていると。
ジローはそっと近づいて。
抱きしめて。
耳をぱくぱくしたり、頬をぺろぺろしたり。
ややフェチっぽい感じで好きなようにお楽しみになりながら、同時に私への愛の言葉をささやく。
「カエデ」
「はい」
「愛している」
「…………はい」
「はじめて見た時から好きだったんだ。まさか、君をこの手にできるなんて。夢みたいだ」
「光栄です」
どうも、ジローは。
社交界で婚約破棄をやらかした時に私を見たことがあるらしく。
その時から夢中になり。
今回のことも、カルラ様に特別に掛け合って実現してもらったとのこと。
「カエデは……世界一きれいだ。僕はきっと、カエデと出会うためにこの世に生まれてきたんだと思う」
ぽーっとした表情で私を見るジロー。
うんうん。
私も嬉しいかな。
そこまで好かれては、女としていやがあろうはずもない。
嫌いな相手から好かれるのはごめんだけど。
貴族なら。
許せる。
多少デブでも。
それに素材は悪くなさそうなので、もしかしたらかっこよくなるかもしれないし。
ジローは。
私の髪の毛を触って赤くなったり瞳をうるませたり。
ぽーっと顔を見つめたり。
ひんぱんに痛いぐらいに抱きしめて動かなくなったり、舌をからませるキスを一日に十回もしたり。
さすがに。
人目のあるところでは、いやいやをして遠慮してもらうことにしたのだが。
ううむ。
ちょっとこの人。
私のことが好きすぎるのではあるまいか。
嬉しいけど。
嬉しいけどね。
でも。
貴族が政務をおろそかにしてまで女にかまけるというのは。
すごく問題だと思う。
はたして。
ハネムーンが終われば、まともになるのだろうか、などと。
後から思えば、この時の私はだいぶのんきなことを考えていたように思う。
新婚旅行を終えて主都ドラスレに戻り。
すぐのこと。
私との結婚が許されてしまうほどに悪い、ファルコーン男爵家の窮状が明らかになった。
戦争がはじまった。




