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第2話「縁談がありました」

 妖精さんが泣いている。


 たまに。

 夢をみるのだ。

 夢の中の妖精さんたちはそれはもう耽美ではかなげな超絶美少年なのだが。

 カルラ様に出会ったあの日から。

 彼らは夢の中で、バケモノに汚されるようになった。


 それはたとえば、私があのクズ山賊にやられたようなものだが。

 いつも泣いている。

 悲鳴が聞こえる。

 どういうわけかあの日以来、妖精さんは私の目の前に現れなくなった。


 うーん。


『妖精さーん。妖精さーん』

『……なーにー』

『……ぼくら、げんきー』


 呼びかけると。

 彼らは答えてくれる。

 でも。

 テンションが低いというか。


 なんなのだろう。

 大丈夫なのだろうか。

 夢については、おそらく、私のトラウマが変な形で昇華されて妖精さんいじめの願望へと変化したのだと思うけど。


 大人になると。

 人は妖精の声が聞こえなくなってしまう。

 そういうものなのかもしれない。


 今思い返してみれば、この世界に来た当時の妖精さんは……もっと自由で明るくて楽し気で、傍にいるだけで私を明るい気持ちにさせてくれていたような。


 それが。

 山賊に襲われたあの日あたりから、徐々に。

 神聖さが薄れはじめ。

 存在感が小さくなっていって。

 いまでは。

 声はまだ聞こえるものの、意識して語り掛けなければわからないほどに儚くなっている。


 うーむ。

 まあいいか。

 夢なら。

 また会えるし。

 妖精さんも毎日毎晩泣いているわけではないため、朝のまどろみの中では私と楽しくデートしていたりもするので。


 それでよしとしよう。




 夢の声が聞こえる。




『ますたーは、せいちょうしたー』

『おおくのおとこからてんうんをすいとって、うんめいがおおきくなったー』




『いまのますたーなら、たぶんー』

『ししゃくきゅうのおとこだって、おとせるー。だからー、がんばってー』




 朝起きて目が覚めた。

 夢の内容は。

 特に覚えていない。


 ただ。

 なんとなく。

 妖精さんが夢の中で、励ましてくれたような記憶がある。


 うん。

 がんばろう。

 私はとりあえず、今後のことを相談するためにカルラ様の屋敷へと出向くことになった。




 実は、子供たちやアルビンの看病をしている間にも。

 カルラ様からしょっちゅう呼び出しがあったようなのだが。

 全て無視してしまった。

 まずいな。

 事情についてはカルラ様の部下から伝わっているだろうけれど、せめて手紙の一つでも送っておくべきではあった。


 ……いや。

 あの当時の私に、そんな余裕があったのかと言えば。

 それはノーだろうし。

 自分が死ぬともしれない環境で気遣いができるほどに、私は成熟していなかった。


 まあ。

 カルラ様の部下のほうも、死病の巣窟であった教会を直接訪れて私を引っ張り出すほどの動機はなかったようだったし。

 いいか。

 怒られたらその時だ。

 まさか殺されはしないだろう。




「お久しぶりです、カエデさん」

「はい。カルラ様も、ご機嫌うるわしゅう」


 あいさつもそこそこに。

 私は用件を切り出された。


「縁談? 私にですか?」

「はい。とてもいい話があるのです」


 聞くところによると。

 なんでも。

 ファルコーン男爵家の当主ジローが、私を妻に迎えたいと熱望しているらしい。


 ちょっと前までは既婚者であることと、死病の恐れがあることを理由に断っていたのだが。

 その貴族は。

 どうやら私に一目ぼれをしたらしく。

 未亡人で病気持ちの女でもかまわないと断言してしまえるほどに、私のことが気に入ってしまったそうだ。


「どうします? 断りを入れることもできますが……私としては受けてもらいたいのですけれど。カエデさんには貸しもあることですし」

「お受けいたします」


 政略結婚か。

 できれば。

 断りたかったが。

 いままで領地で養っていた恩を返してほしい、と言われてしまっては、どうにも断りようはない。


 それに。

 これはカルラ様からの純然たる善意の申し出だ。


 相手は貴族当主。

 どどん。

 全世界の女子があこがれる、ウルトラスーパーな優良物件である。

 それを紹介してもらっておいて。

 断るとか。

 まったくありえない。

 いやもちろん、夫のアルビンが死んですぐに結婚なんて、嫌は嫌なのだけど。


 カルラ様が言っているように。

 いい話。

 なのは本当だ。


 貴族当主と庶民。

 これは本来であれば結ばれる余地もないほどの格差結婚である。

 私とカルラ様が知り合いであるがゆえに、公爵家と男爵家とをつなげる縁のかすがいとしてかろうじて成立した。

 それだけのことにすぎない。


 そして。

 当然と言うべきだが。

 私のような後ろ盾のない女を妻として求めるという時点で。


 その家の危なさは説明するまでもないのだった。

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