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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
2-4章 失敗だらけの楽しい日々でした
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第10話「サイの目の向いた先には」

 人が減ってしまった孤児院兼教会。

 患者は。

 10名を超えている。

 アルビンとスタッフが1人、子供が10人、お手伝いの老婆が1人。


 ここにいる人は、症状が出ている確定患者だけだが。

 その後。

 元気だった人も何人か発症して追加され。


 総勢15人となった。

 この病人たちを。

 限られた人的資源によって、看病していかなければならない。


 メンバーは。

 私と。

 神父様。

 カルラ様から紹介された熟練の職員。

 そして孤児院の出身だとか言う、中年の飯炊き女の4人だけ。


 私は。

 19人分の給仕をして皿を洗い。

 シーツを変え。

 汚物の処理をして。

 ほぼ全ての力仕事に関しては、一人で回していた。


 疲労がたまった状態で看病を続ければ。

 抵抗力が落ちて。

 死ぬかもしれない。

 などと。

 医者には脅されたものだが。


 知らない。

 どうでもいい。

 私しか看病をする者がいないなら、それはもう私がやるしかないことなのである。


 夫のアルビンが死ぬかもしれないのに。

 私が逃げられるわけがない。


 掃除。

 洗濯。

 料理の一切や、着替えの手伝い、3人の若者が手配してくれた支援物資の運搬作業、などなど。


 余裕ができたら埃を払い、空気を通し、壁を拭いて、部屋を清潔に保つ。


 それだけで毎日が過ぎていく。


 死病を恐れてスタッフが激減した教会の中で。

 私は死に物狂いで働いた。


「聖女様……たまには休まれては」

「ギリアン様が働いているのに、そんなことできるわけないですよ」


 教会の神父ギリアン様は超絶善人だった。

 神の愛を説き。

 万民をいつくしみ。

 身を粉にして人に尽くす。

 真の博愛主義者。


 そんな彼でさえ、死病を恐れるスタッフたちを引き留めることはできなかったわけだが。


 私が直接頼んだ3人の男の人以外。

 ボランティアに参加していたスタッフたちはほとんどが逃げてしまった。


 カルラ様から紹介を受けた熟練の職員ダミアンだけが唯一、教会の中でまで働いて看病を手伝ってくれている。


「いいですか、カエデ様。手袋とマスクを着用し、清掃を徹底し、虫の一匹さえも通してはなりません。病はそこから伝わります」

「はい。できる限りは」


 やります、とは言ったものの。

 事実上。

 すべてを少人数で回すのは無茶である。


 どうしても。

 ゲロやらションベンやらはともかく、患者が触った場所の消毒などはおざなりになってくる。


 体力は無限ではないし。

 資材も無限ではない。

 教会外部で働いている若者たちからは、生鮮食品が手に入りにくくなったことを謝られてしまったが。


 それは。

 やむをえない。

 ここはもう死の街なのだ。


 どんどんと人が減り、街路は閑散として、用事のない者が外を出歩くということもなくなった。


 店も、何割かは閉店になり。

 商人も街を避け。

 とぼしい物資と食料とをなんとかやりくりして、私たちはつらい春をすごした。




「せんせー、ぼくしぬの?」

「しにません」

「でも」

「ぜったいになおりますから。ほら、目を閉じて。呼吸を整えて。ゆっくりと体に血をめぐらして」


 看病の。

 かいもなく。

 子供たちは次々と死んでいった。




「カエデは将来、僕が守るんだから。こんな風邪、なんてことないよ」


 と約束してくれた、わんぱくなラッセル少年も死んだ。




「せんせー、こわいよ。しにたくない。助けて」


 と願った、一番かしこいヘスケス少年も死んだ。




「俺のこと、忘れないで……さいごまで、手をにぎって」


 と言い残して、甘えん坊のリル少年も死んだ。




 不思議なもので。

 子供たちの中でも、特に私に好意を持って接していた男の子ばかりが率先して死んでしまった。


 スカートめくりやらお尻タッチやらを試み、しょっちゅう私やアルビンに殴られていたラッセルも。

 授業中に意地悪な質問ばかりをしてくるヘスケスも。

 森に入って両手いっぱいの花を束ねてプレゼントしてくれたリルも。


 みんな死んだ。


 今はもういない。


 体力に劣る子供たちがまず死んで。

 老人へと続き。

 そして。

 アルビンの番がやってきた。


「カエデ……すまない。最後まで一緒にいられなかったな」

「いいえ。私は幸せでした」


 すっかりと痩せこけてしまったアルビン。

 なのだが。

 今回は。

 ちゃんと死に別れるまでの猶予期間があった。


 なので。

 看病ができた。

 ファビオの時とは違って、言葉をかわすための時間がちゃんとあった。


「アルビンは私に、ほんとの笑顔をくれました。ずっと長いこと、忘れちゃっていたけれど」


 私はにっこりとほほえんで。

 アルビンの手を握った。

 ぎゅっと。

 強く。

 そして、目を閉じて。

 今のつらい日々ではなくて。

 孤児院で文句を言いながら笑い合っていた、楽しいあのころのことを思い出す。


 嘘じゃない。

 ファビオの時以来。

 あれほど身も心も安らかになって過ごせたのは、はじめてのことだった。


「私がもう一度笑えるようになったのはアルビンのおかげです」

「……かえ、で。ぼくも」

「だから。治ってください。もう一度、あのころに。私たちは戻れますよ」

「…………」


 アルビンは。

 冷え込みが厳しい日の朝に病死した。


 死に化粧を施されたアルビンの顔は非常にやすらかだった。


 なぜ。

 アルビンだったのだろう。

 私を慕っていた子供たちもたくさん死んでしまった。

 15人からいた患者のうちで。

 死んだのは7名。

 半分以下。

 老婆や病弱だった子はともかく、アルビンや私を慕っていた男の子たちには十分、病気に勝つ目があったと思うのだが。


 運が。

 悪かったのだろうか。

 それはそうとしか、言いようのないものだけど。


 なぜだと思うのは避けられない。




 そして、それから。


 患者の多くが世を去ったことで、皮肉にも看病自体は楽になり。

 ぽつぽつと。

 街にも人が戻って来て。


 病気が落ち着いた。

 そのあいだに。

 冬が過ぎ。

 春が来て。

 そして、夏になった。


 私は涙を流して悲しむための余裕を与えられて、かわりにアルビンを失った。




 さて。


 これからどうしようか。

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