第6話「新生活のスタートです」
男爵家の元嫡男と私は。
末永くしあわせに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
とは。
ならなかった。
特に何か予兆があったとか、そういったことではない。
まったく。
日々は平凡に過ぎていった。
私たち2人は街近くの一軒家に住まわせてもらい。
やや不便ながらも。
狩りをしたり。
釣りをしたり。
一緒に料理をしたりして、日常を楽しんでいた。
ただだらと。
一日中遊んで暮らす。
それだけだと体裁が悪いので。
公爵令嬢のカルラ様から資金を出してもらい。
通称『カルラ基金』なるボランティア団体を作って、慈善活動にいそしんだ。
なんでもカルラ様からは『カルラちゃん喜ばせ隊・慈愛部門』なるわけのわからない名称にしなさいと命令があったそうだが。
……うん。
聞かなかったことにしよう。
幸いにも私たちはカルラ様の部下というわけではないので、相手のためになることであれば逆らっても許されるはずだ。
「アルビン。起きてください」
「……ああ、カエデか。今日もがんばるかぁ」
のそのそとベッドから出るアルビン。
そこにキス。
ふにゃっと顔が崩れる。
私手製の朝食を食べて着替えて、さっそく街へと向かう。
手配していた資材を配置して。
人に指示を出して。
炊き出し。
ゴミ拾い。
集金行脚など。
軽く半日ほど働いてから、今度は教会へと向かう。
「カエデ先生だー!」
「アルビンもいるぞー!」
わらわらと集まってくるクソガキども。
最初は生意気だったが。
デモンストレーションとして人の大きさほどもある岩を割ってやると、一発で大人しくなった。
うむ。
子供は可愛いな。
どーぶつ的な本能の塊なので、彼らは強い存在には逆らわない。
「せんせー、アルビンと結婚してるの?」
「そうですよ」
カルラ様の領地に着いて、生活が落ち着いてからすぐのこと。
私たちは。
正式に夫婦になった。
籍は入っている。
式はなし。
残念ながら居候の身では大々的に結婚式を挙げる気分にもなれなかったので。
とりあえず書類だけだが。
「なんで?」
「え?」
「なんでアルビンなんかと一緒になったの?」
「それは……」
イケメンだから、ではだめなのか。
貴族だから。
それも正解だ。
総合的にはいろいろあって、としか言いようはないかもだな。
「私はアルビンがすごい人だと思ったから、お嫁さんにしてほしいとお願いしたのです」
「アルビンのほうが偉いの?」
「そうですよ?」
「なんで?」
「なんでと言われても」
子供と言うのは純粋だ。
彼らの価値観とは。
力。
大きさ。
腕力。
そのあたりが全てである。
小学校時代に足の速い男がモテるというのは、ある意味では当たり前のことなのだ。
前世とかでは勘違いしたバカなヒーローもどきが、カエデなら俺と釣り合うとか言って告白してきて最高にうざかったが。
ここでもあるのか。
いやはや。
どこの世界であっても、身の程を知らない屑というのはいるものだ。
私はぴっ、と、その子の頭を指で弾いてやった。
「ふぇ、痛い……」
「貴族の人に今みたいなことを聞いたら、もっと痛い目を見ることがあります。気を付けましょう」
「うええ。カエデ先生。ひどいよう」
「ひどくないですよ?」
説明しても理解するだけの知能はないだろうから、こんこんとは諭せないが。
殴ってあげないと。
危ない。
妻の前で夫をけなし。
貴族の偉さがわからないと放言する。
それは。
子供なら許されるけれど。
この子も。
いつか大人になるのだ。
私が嫌われないために甘やかしていい理由なんて一つもない。
「なんで叩かれたかわかりますか?」
「……カエデせんせーをおこらせたから」
「うん。なんで私がおこったのかわかりますか?」
「えっと」
殴るのは早い。
叱るのには何分もかかるような話でも、殴れば1秒で済む。
圧倒的な早さだ。
しかし。
それでは成長が見込めない。
仮に相手にものごとを理解するだけの知能がなかったとしても、最低限の解説だけはしなくては。
「わたしが悪い子だから」
「ちがう」
「……アルビンをばかにしたから」
「そう」
「ごめんなさい」
「うん。次からは気を付けないとだめだよ?」
「はーい」
子供はとてとてと走って逃げて行った。
うむ。
ひとまずはこれでよしか。




