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第4話「野外デート」

 弓を手に取って引き絞り矢を放つ。

 えいっと。

 弦が胸甲をかすめてビィィンと鳴り響き、空を走る矢が獲物に吸い込まれた。


「やった!」

「よし。追うぞ」


 二の矢を打ち込む間もなく獲物が森を走る。

 鹿もどき。

 角と美しい毛皮を持った中型モンスター。

 それが藪に飛び込み、蹄の音だけを残して森の奥へと消えていく。


「ああっ」

「急所を外したか……惜しかったな」

「追いましょう!」

「むだだと思うが。まあ、近くで倒れている可能性もあるからな。いちおう探してみるか」


 私たちは血痕を頼りに後を追った。


「ここで途切れている」

「あっちです」

「ううん? 逃げた先がわかるのか?」

「私にはわかるのです。あっちに逃げています。近いです」


 どうやらそうらしい。

 妖精さんがそのように主張している。

 空に浮いたレーダーのようなものをビッビッと指さして。


 こっち、こっち、という感じで、私にささやくのだ。

 

「いました」

「……信じられん。痕跡などなかったぞ。どうやった?」

「なんとなく」

「犬なみのカンだな」

「失礼な」

「ほめたつもりだ。後はトドメだが」

「おまかせします」

「自分でやれ」

「……うううっ。気持ち悪いよう」


 ざく、とナイフで首を刺す。

 血が噴き出した。

 逆さにして血液を抜いていく。


「あとは内臓だ」

「あの、私、かよわい女の子なので」

「知るか」

「ひどい」

「……まあいい。洗うぐらいはやってやる」


 木の棒にひもでくくり、二人で両端をかつぐ。

 まるで原始人だ。

 そのまま難民キャンプの方角にある水場へと向かい。


「相当に気持ち悪いですね」

「まひさせろ。慣れないうちだけだ。すぐにどうでもよくなる」


 腹を裂いて消化器一式を取り出して水洗いして、再び木の棒にくくりつけた。


「あの、この水は飲めるんですか?」

「生き物が泳いでいれば飲める。煮沸すればより安全だが……お前の魔力量なら泥水でも飲めるだろう。上流ほど安全で、流れが速い場所ほど安全な水ということだ。湧き水なんかも基本問題ないな」

「なるほど」

「逆に下流ほど危ないし、生き物がいない水もやばい。最悪なのは木のうろとかにたまっている水で、ほぼ毒そのものだ。お前でさえ飲めば苦しむだろう」

「苦しむだけで済むんですか?」

「魔力が高い人間は解毒作用やら免疫機能やらが普通よりはるかに強いそうだ。けがの治りも早いし疲労もしにくくなる」

「……私は?」


 こてっ、と首をかしげてみる。

 何か違うのだろうか。

 たしかにこの世界に来てからというもの。

 やたらめったらに体調がいいし、気力にも満ちあふれているが。


「貴族お抱えの正規兵であってもお前ほどの魔力を持つやつはほぼいない。泥水と木の根と塩があれば数か月は生き続けられるだろう」

「そうですか」


 わかったような顔をしてうなずく。

 魔力。

 魔力か。

 そんなことを言われてもな。

 オーラとか気とか、そういった感じの不思議パワーなのだろうが。


「魔力があれば、ビーム砲で敵を倒せたりするんですか?」

「なんだそれは」

「え、こう、光の線みたいなのが獲物に向かって飛んで行って、ドギャーンと爆発して、それで相手がダメージを受けて気絶して」

「頭がおかしいのか?」

「……たとえ話です。忘れてください」


 気のふれた人扱いをされた。

 ひどい。

 魔力とか言い出したくせに。

 私が子供の時に見たアニメだと、たしかにそんな感じだったのだ。


 アニメ。

 アニメか。

 今見ると滑稽なものだが。


 私個人の常識において、魔法使いは魔力ビームで戦うのが普通である。

 恋の呪文を唱えると。

 悪いやつらが爆裂四散してごめんなさい。

 円満解決。

 とってもステキ。

 この圧倒的な様式美というものが、魔法少女アニメのいいところだと思うのだ。


 変にこったアニメだと、魔法少女が肉弾戦やらコンビネーションやらを使って敵と戦ってしまう。

 それはどうなんだろうか。

 ちょっとマニア向け、というか。

 あまりにも大人向けでありすぎる。

 大きなお友達ならばそれで満足だとしても。

 小さな子供が見る番組としてはふさわしくないと思う。


 もっと単純でいいのだ。

 子供にとっては。

 魔法少女がお約束の必殺技を叫んで邪悪な敵を倒す。

 お気軽にいいことをする。

 それでいい。

 それだけでいい。

 そのシンプルさと爽快感さえあれば、他には何もいらない。


 畢竟、セーラー戦士ならば『セーラービーム』を使って戦うべきであり。

 セーラーフック。

 セーラーアッパーなど。

 そういった一撃必殺につながらない地味な技を使って戦うのは、あまりにも小賢しくありすぎる。


 努力なんてしたくない。

 卑怯に一方的に悪を否定してやっつけたい。

 そのために『魔力ビーム』はあるのだ。


 だから、私が魔力と聞いて真っ先にそれを思い浮かべたというのも、無理のないことであるという点だけは強く主張したいわけである。


「魔力ってどうやって使うんです?」

「…………体にまとわせてみろ」

「こうですか」


 なんとなくそれっぽい感じで気合いを入れてみる。

 おお。

 なんだか全身がぽかぽかと温かいような?


「できている」

「ですか」

「なら、次は岩を砕いてみろ」

「ええっと」


 手ごろな石ころをひろい。

 ガツン。

 と、拳と岩とをぶつけてみた。


「……」

「……」


 沈黙が場に満ちる。


 それだけ。

 岩は砕けない。

 それはそうだろう。

 女の腕力ならばそれが普通である。


 一般的な女の握力は十代後半だと25キロぐらい。

 私は50キロ。

 女子としては高いが。

 それでもリンゴさえ潰せない程度のレベルだ。

 80歳の男であっても女の全盛時より握力的には強い。

 女という生き物は、何をどう考えても闘争や狩猟には向いていない。


 ようするに、ぼーりょくというのは圧倒的に男の仕事なのであって。

 戦争で女性兵が少ないのは当然のことなのだ。

 差別とかではない。

 てっぽーを撃って人を殺すことだけはできるかもしれないが。

 数十キロの荷物をしょって移動するなんてことは、女にはとてもとても。


「それは防御用の魔力だ。攻撃用にあみなおせ」

「どうするんです?」

「……水のようにとどまった状態から、くるくると回転させてみろ」

「えっと、こう?」

「そうだ。それをもっと荒々しくして、拳と岩がぶつかる瞬間にもっとも激しくなるように」

「えい」


 バカン!

 岩が粉々に砕けた。

 おお。

 すごい威力だ。

 ってゆーかこれ、人間につかったら頭トマト状態になるのでは。


「ちょっと怖いです」

「まあな。お前は魔力がバカ強いから、ケンカでは使わないほうがよかろう」

「でも。うまくできました。もしかして才能ありますか?」

「いや」

「あれれ?」


 思っていたのとは違う返事が来た。


「おまえ、すごく下手だぞ。まるで三歳児並だ」

「そんなにひどいですか?」

「ああ。密度はめちゃくちゃだし、おそいし、干渉しあっているし、属性変化も雑だし、重力魔法もぜんぜんだ。実用できるレベルではないな」

「そうですか」

「魔力自体が多いから、それでも並みの兵士には負けたりはしないだろうが……俺程度の相手であっても勝敗は怪しいぞ。もっと精進しろ」

「なるほど」


 どうやら私の戦闘能力はティッキーと五分五分ぐらいらしい。


「ティッキーさんは……見たとこ、あんまり魔力が多くないのですね」

「お前、俺以外の相手にそんなことを言うなよ。殺されるぞ」

「そうなのですか?」

「これでも俺は100人に1人程度には強い魔力がある。お前が特別なのだ。お前の特別は万人より上のレベルだな」

「へー」


 ピンと来ないのだが。

 そんなものか。

 まあ、前世でも走り高跳びの全中記録で全国3位だった私だ。

 転生者特典で魔力も優れていると、そんな感じなのかもしれない。


「雑談は終わりだ」

「ですか」

「獲物が痛む。処理も終わった。さっさと移動するぞ」

「わかりました」


 私たちは獲物を担いで難民キャンプへと向かった。

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