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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
2-4章 失敗だらけの楽しい日々でした
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第2話「つらい目にあいました」

 その日の夜。

 私は義父(予定)の部屋に呼び出された。


 見た目50ぐらい。

 やや小太り。

 アルビンを老けさせて少しだけ太らせたらこんな感じになるかもという、下腹の出た顔だけかっこいい初老の男だった。


 メサイヤ男爵家の当主。

 その名をズリエルという。


 アルビンから事情を聴いて。

 私からも。

 裏を取った後。

 さらなる情報を仕入れるその前に、現状における結論をズリエルは下した。


「やつはこのままだと、廃嫡だ」

「……そうですね」


 あそこまでやってしまってはな。

 公衆の面前で。

 それも、重要人物ばかりが集まる超絶危険な場所で。

 格上の貴族との約束を反故にしたうえ、その娘に大恥をかかせたのだ。


 しかも原因が悪い。

 婚約者がいるのに平民女との関係を優先させたわけで。

 貴族からすれば、相当に頭のおかしい……信用の全くできない取引相手だと思われても、決して文句は言えない。


「お前の対応次第では、なんとかしてやれなくもない」

「本当ですか!?」


 それは。

 すごい、けど。

 大丈夫なのだろうか。

 子爵家に真っ向からケンカを売った長男を許すのは、かなりの勇気がいる。


 いや、まあ。

 いまさら謝ったところで。

 許してはもらえないだろうし。

 それなら親バカながらも身内を守る強い当主だというイメージにしたほうが、むしろおさまりがいいのかもしれないが。


「私にできることがあれば、なんでもします」

「君にしかできないことだ」

「それは?」


 なんだろう。

 菓子折りを持ってペルセフォネに謝りに行けとか?

 それは。

 断らないといけないな。

 何でもするとは言ったが、殺されに行くようなことだけはごめんである。


「教えてください。私は何をすればいいのですか?」

「簡単だ。君はその美しい体を私に捧げて、どんな命令でも聞いて奉仕してくれればいいのだ」


 あたまがまっしろになった。

 え。

 なんだ。

 このおとこはなにをいっている。


「お前が断るのであれば……勘当も、破滅させることもできるのだぞ?」

「……っ!?」


 ズリエルは私に近づき、指先でつつ、と、私の体をなぞってもてあそんだ。


 どうやら。

 本気。

 らしい。


 胸、腹、太ももや肩や首筋など。


 肉食動物が獲物をいたぶるときの優越感に満ちた表情で、ズリエルは私に触れている。


 なにを、考えて、いるのだ。

 息子の、女を。

 寝取る気か。


 ああ、でも。

 これはむくいなのか。

 私はアルビンの婚約者だったペルセフォネから、同じことをしたのか。


 いまさらながらに罪悪感が湧き上がってくる。

 しかし。

 もう遅い。

 すでに現実は壊れてしまっている。


 冷静に考える。

 ここで逃げたとしても、おそらくは。


 私は。

 どこででも生きていけるだろう。

 そういう確信がある。


 でも。

 アルビンは。

 婚約破棄という大暴投をやらかして、しかも父親のズリエルからも見捨てられたとあっては。

 もはや。

 この世界において彼のような男が、一人で生きていくための道筋はどこにもない。


 今回の申し出についてはともかく。

 アルビンが廃嫡されるというのは、私の目から見てもごくごくまっとうな対応だ。

 それがわかってしまう。


「……わかりました」


 泣く泣く。

 私は折れた。

 彼の要求をすべて、受け入れることにした。

 年上の権力者。

 その点だけを見れば好みに合っていたが。


 私は獣ではない。

 常識がある。

 愛する人の父親に無理やり抱かれるなんて、当たり前だが苦痛極まることだ。

 いや。

 そんな言葉は生ぬるい。

 正直なところ、私はそれからの1週間で何度も自殺を考えた。


 ズリエルは真正の変態だった。


 道具とかを使ったねちっこいプレイとか。

 変なポーズを取らせたりとか。

 頭のおかしいセリフを言わせたり、アルビンに見つかるかどうかの、ギリギリの状況を楽しんだり。


 檻。

 拘束具。

 薬物。

 浣腸など。


 いわゆる恥辱系。

 私に屈辱を感じさせて喜びを得るタイプの、ひじょーに精神ストレスのかかる要求ばかりをしてくるのだ。


 プレイ自体はうまいが。

 そんなのが。

 救いになるというわけもなく。


 最近の私は、泣き叫ぶのが日常になるという暴行を受け続けている。


 これなら。

 まだ。

 社会的地位にさえ目をつぶれば、山賊親分のシルベストルのほうがましだった。


 魅力がありすぎるのはぜんぜんいいことではない。

 そう思う。

 もっと不細工に生まれていれば、こんなみじめな思いをしなくてもすんだだろうに。


 いや。

 それはたぶん、嘘だが。

 ズリエルは私の安全を確保しつつ私をいじめているし。

 その気になれば脱出も逃走もできるし。

 だれからも求められない哀れな不細工と比べれば、この状況でさえまちがいなくましではあるのだが。


 しかし。

 死にたいな。

 死んでしまおうか。

 私は本当にそのように感じはじめた。

 死ぬ気はもちろんゼロだけど。

 そういう妄想によって自分を慰めねばならないほどに、私は追い詰められた。


 うん。

 そうだな。

 あきらめよう。


 全てをぶちまけてしまって、それで嫌われるのであればきっぱりとアルビンと別れよう。


「アルビン様、話があります」

「なんだい? 改まって」

「実は…………」


 私は。

 アルビンに事情をうちあけ。

 家を出てほしいと。

 私と一緒に世界を回って、楽しく生きてほしいと。


 そのかわりに。

 アルビンが生活するための金については、全て私が面倒を見るつもりだと。

 そのように進言した。


 してしまった。


 まったく。

 私はばかだった。

 男という生き物が。

 そのような提案に乗るわけがないのだと。


 いや。

 乗る者もいるだろうが。

 少なくともアルビンという男は。

 乗らない男なのだと。

 そんな程度のことさえ理解していなかったのだ。


 信じてほしい。

 私が好きなのはあなただけ。

 私についてきてほしい。


 などと。

 そのように説明した。

 次の日。


 アルビンは家出していた。


 家出。

 家出か。

 謹慎中なのにな。

 私への置手紙には、逃げてほしいこと。

 好きなように生きてほしいこと。

 後は可能性が低いながらも、学校に戻って知り合いの貴族に直談判をしてみると書置きが残してあった。


 そして。

 もしもそれがかなうなら、また会おうと。

 どこにいても探し出してみせると、そんないい加減なことが書かれていた。


 ずいぶんと乱暴な解決を選んだものだ。

 もはや。

 社交界であれだけのことをしてしまえば。

 権力もないだろうに。


 この世界で目的の人一人を探すことがどれほど困難であるか。

 そんなこともわからないのだろうか。

 いや。

 それほどまでに、追い詰められていたのか。

 合理性はないけれど。


 私には。

 よくわかる。

 ストレスで頭がおかしくなっている状態の私が、ちょうどそんな感じだ。


 私が正気に戻ってズリエル男爵の誘いを断った結果。

 アルビンのほうに頭のおかしさが移った。

 そういうことか。


 うん。

 なら。

 追いかけないといけないな。


 私はそのむね、いちおう義理としてズリエルに報告した。

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