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第10話「家にお呼ばれしました」

 王立貴族学校の片隅にある、貴族向けの一軒家。

 そこがアルビンの家だ。

 立地が超一等という以外には特に特徴のない、単なる平屋ではあるが。


「入って。汚いところで悪いね」

「おじゃまします」


 誘われるままに男の家に入る。

 チョロい女だと思われかねない不道徳な行為だ。

 しかし。

 まあ。

 今は特別か。

 油をぶっかけられて火をつけられた私を憐れまない人間はいないだろう。

 多少倫理にもとる行動でも、この状況であれば許される。


「おお」


 アルビンの家はきれいに整えられていた。


 掃除も。

 整理整頓も。

 花などによる飾り付けも。

 たいへんよく行き届いている。


 これを男がやっているのなら過剰な家事能力といえるが、たぶん部下のメイドさんあたりの演出なのだろう。


 ともあれ。


「ケガはない?」

「はい……えっと、従者さんとかは?」

「今はいないよ」


 うええ。

 な。

 なんてお約束な。

 いや、もしかしてこれが妖精さんの言うところの調整というやつなのか。


「だから、手当てを頼める部下のあてはないけど……薬箱ぐらいは用意できるから。痛むところはある?」

「周囲からの視線が痛かったです」

「はは……冗談を言えるんなら大ケガはないみたいだね」


 アルビンは安心したように笑った。


 いやいや。

 笑い事じゃないんだぜ。

 ボロボロの服に上着だけを着せられた状態で人気のない道を歩くとか。

 風聞に関わりすぎである。

 見ようによってはレイプ後に見えなくもないわけだし。

 いくら私がその手の悲劇に慣れていたとしても、周囲からそのように見られたいわけじゃない。


 てゆーか。

 ぶっちゃけ私がファビオの遺産を捨ててまでロックフィード村を出たのは。

 被害者としての扱いを受けるのに耐えられなかった。

 から。

 なのだ。


「ええっと……着替えなら、背格好の似たメイドのものがあるけど」

「それは悪いです」

「作業着として用意した新品だから気にしないで。まだ渡す前だから所有権は僕にあって、誰にあげてもいいものなの」

「そういうことでしたら…………ご厚意に甘えます」

「うん。それがいいよ」


 受け取る。


 渡されたのは。

 服だけか。

 メイド服ではない普通の私服のようだ。


 長めのスカートとシャツにブラウスのみ。

 下着はない。

 まあ……女性ものの下着を用意させるのは難易度が高いだろうからな。

 これは仕方あるまい。


 服を脱ぐ。

 ボロボロだ。

 改めて涙が出る。


 繊維の生産技術が低いこの世界において制服というのは貴重品に当たる。

 数千円の服を着まわすこともできた前世の環境とは違う。

 一着金貨数枚は当たり前。

 ちょっといいものなら金貨数十枚はする。

 服とはそういうものだ。

 失ったこのセーラー服はもはや、レプリカでさえおいそれとは入手することができまい。


 私の体はどんなダメージにも耐えられる。

 殴られてもへーき。

 油をかけられても火をつけられてもへっちゃらだ。

 しかし。

 服は。

 決して無敵ではないのだ。

 私はそれを知っておくべきではあった。


 これがあったから耐えられた。

 つらいときでも。

 苦しいときでも。

 この制服さえ買えないような人がたくさんいるのだと。

 そう思えば楽になった。

 貴族ぞろいの王立貴族学校の中でさえ、前世の制服を着ていればみじめな気にならなかった。


 でも。

 もうこれは、ゴミだ。

 ゴミは捨てなくちゃいけないんだ。


「あー、その、元気出しなよ。なんなら新しい服を」

「いえ。大丈夫です」


 ごしごしと目をこする。

 いけない。

 心配をかけてしまう。

 私は決別の意味でもがばっと服をまくり、さっさと下着姿になった。


 別に傷はない。

 肌をさらしたとたん。

 アルビンは顔を赤くしてそっぽをむいた。


 うわあ。

 超好みの反応だー。

 ちらちらとこちらを見ようとして苦悩しているところがまた、なんというか。

 いとおくゆかし。


 ふふふ。

 ちょっとからかってやろう。


「あ、えーと。その、下着も用意していただけると」

「ああ! うん! そうだよね!」

「ええっと……サイズを確認してもらえますか? こんな感じなんですけど」


 ポーズを決める。

 できるだけ魅力的になるように。

 グラビアアイドルみたいな感じでびしっと決めてやると、アルビンはごくりとつばを飲み込んで、そのまま私を押し倒した。


「か、カエデっ!」

「え、ちょ、ちょっと待って! 待ってください!?」


 うわ!

 しまった!

 やりすぎた!?


「い、いやなら、あきらめるけど」

「それは……」


 う。

 なんとゆーか。

 このままあれこれいってしまいそうな感じだけど。


「その……はやく決めてほしい。このままでいるのは、つらい」

「あ、でも、そ、その……」


 私は考えた。

 早い。

 まだ今は早すぎる。


 こーゆーのはデートとかを何回かやって、お互いの気持ちがはっきり固まってからやるべき!

 軽い女だと思われてしまうし!

 のちのち、浮気とか疑われる原因にもなるし!


 いくらイケメンでも!

 困る!

 ファビオはもっと時間をかけて紳士的に迫ってくれたのに!

 そりゃー結婚するまで待てとまでは言わないけど、ものには順序というものが!


 きっぱり断ろうとした私。

 その瞬間。

 ふわり、と風が吹いた。


 室内で。

 かぜ?

 なんだろう?


 どうからともなく妖精さんにも似た黒い塊が飛んできて、私の胸の中にすっと入り込んだ。

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