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第7話「成長途上の人なのかもしれません」

 主従の約束を交わした私とアルビンは、より頻繁に会って話をするようになった。


 冗談が好きで博識で明るくて、顔もよくて金も権力もあるアルビン。


 そこだけを見れば。

 満点。

 なのだが。


 貴族としては、ちょっと。

 浮世離れ。

 しすぎ、というか。


 ファビオなんかは柔らかな物腰の中にも、支配階級としての厳しさのようなものがあったのに。


「カエデちゃんは理想の政治とか考えたことある?」

「理想……ですか。ええっと、人口が多くて経済がうまく回っていて犯罪発生率が低くて……ああ、でもそれだと規制が強くなりすぎるような気も」

「いやいや、そういう難しい話じゃなくて」

「ええっと?」

「僕はもっと民間人の中から有能な人をガンガン起用して、彼らに仕事をたくさん任せればいいんじゃないかって思うんだ」

「え」


 この人は。

 完全に貴族のボンボン、という感じだ。

 悪い意味での。

 ふわふわとしたことばかり言って、現実に目が向いていない。


「民間人の有能な人に力を与えると……革命されてしまうのでは?」

「革命?」

「ええっと……その、領主をみんなで捕まえて、見せしめでギロチンに」

「あはは。なにそれ。カエデちゃんってちょっと想像力がナナメ上にぶっとびすぎだよね」


 アルビンはけらけらと笑った。


 いやいやいや。

 ぶっとびすぎているのはアルビンではなかろうか。

 民間人に力を与えようだなんて。

 侵略によって国家存亡の危機に立たされているわけでもない君主がするべきことでもあるまいに。


 しかし。

 どうも彼は、かなりマジでそう思っているらしく。

 貴族としての責務を果たす果たさない以前に、貴族が人からどのように思われているのかという基本中の基本さえわかっていないようであり。


「僕は人間の上下関係を認めない」

「庶民がいきいきと生活できるように整えるのがいい政治なんだよ」

「現場の声に耳を傾けてこそ生きた政治ができるんだ」


 とか。

 なんとか。

 ふつーに言っちゃう側の人らしい。


 どうも。

 政治学の先生のいうことを、ストレートに加工せず飲み込んでしまっているらしく。

 現場に出たことがなくて庶民という生き物のことも知らないアルビンは、とりあえずノリと雰囲気だけで「あるべき論」を語っている。


 ああ。

 でもでも。

 そんなところもいいかも。


 顔が好みで貴族だから許せるというのもあるが。

 私は正直、ファビオより好みの男というものが実在しているという事実に驚いているほどだった。


 暴力のにおいがしない。

 品がいい。

 庶民を思いやるほどの心の余裕があって、私のような身元の怪しい人を雇う度量も備えている。

 その人の好さは大変好ましく。

 学問によって知性を身に着けて人の生活に役立てようという姿勢それ自体には、すごく好感が持てる。


 こんなのを見つけてくるとは。

 いやはや。

 すごいな妖精さん。


 性格はちょっとあれだけど。

 不良とかオレ様とかと比べれば圧倒的にましである。


「もちろん、何でもかんでも野放図に任せるわけじゃないよ。あまりにも採算の悪い事業は切り捨てて……あと、人が生きるのには必要のない、宝石とか骨董品とか芸術品なんて下らないものは全部売っちゃうのもいいかもね」

「それはやりすぎなのでは?」

「え、だって。絵とか彫刻みたいに何の役にも立たないものをありがたがるのっておかしくない? 土地と食料と金と魔石以上に重要なものってある?」

「…………現実問題として、土地や財産には限りがあります。何の役にも立たない物であってもありがたがる人がいれば神が宿るのです。価値観をいくつも作って勝負の土俵を増やし、より多くの勝者を作り出すことが領地運営の基本と言えるかと」

「へええ。そんな考え方もあるんだねえ」


 頭が極端に悪い……というか、記憶力とか計算能力には人一倍優れているのに、それを現実にあてはめて理解するための実経験とバランス感覚を身に着けていないアルビン。

 彼は、政治家としては最悪だが。

 話し相手としては非常におもしろくて冗談もうまく。

 将来性もあり。

 たぶん現場を知ってから10年もすれば、私のような変に小器用に適応できてしまうタイプよりも深く考えて動ける統治者になると思われる。


 同じバカでも、趣味人的なバカと低能バカとは違う。


 低能バカは反応が鈍くて頭の回転も鈍くて何も覚えられない、ようするに基本スペックが低い人のことだが。


 趣味人的なバカは頭のよさが空回りして現実とは乖離したまま、砂上の楼閣に理論だけを積み上げたタイプのバカだ。


 こういう人は。

 のびる。

 のびしろがある。

 特に貴族であれば。

 これからの人生経験によって興味の方向を修正し、現実に叩かれながらまともになっていく可能性がかなり高いらしい。


 会社の中でも一等使えるタイプの人材はそういうやつらだと、父はそう言っていた。


 ゆえに。

 満点の顔と地位と財産だけでなく、能力やら性格やらも、及第点をつけられるレベルで魅力的であると断言できるけれど。


 これからの成長に期待するという点では。

 むしろ楽しみでさえあるけれど。


 しかし。

 一つだけ問題があった。


 彼には婚約者がいたのだ。

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