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第3話「狩りで活躍しましょう」

 ドラである。

 ドラとバチなのである。

 麻雀の話ではない。

 楽器だ。

 私は狩りをするにあたり、狩猟部隊のリーダーからこの二つを支給された。


「これをどうするのですか?」

「叩け。鳴らせ」


 リーダーの指示は端的でわかりやすすぎる。


「どこで鳴らしますか?」

「獲物の向こう側だ。こちらへと追い立てるように鳴らせ。群れの向こうに走って陣取って、力の限りガンガン叩きまくるのだ」

「わかりました」


 なるほど。

 いわゆる勢子という役割であるらしい。

 頭の弱いどーぶつを音でびびらせて疲れさせる。

 そういう戦術のようだ。


「行け」

「はい」


 狩猟部隊のみなさんに合わせて森を走り抜ける。

 みんなすごく速い。

 コケない。

 気力にあふれている。

 とろとろと動くのが常である難民のみなさんとは大違いだ。


 大声でわめいて獲物を追い立て、弓でぴゅんぴゅんと始末する。

 意外なことに。

 どーぶつは弓で射られても即死しない。

 しばらくは動き回る。

 で、走っているうちに疲れて倒れ、その死体を回収すると。

 そういう流れのようだ。


「よくやった。今日は終わりだ」

「はい」

「すばらしい動きだった。お前ほど走れる者はなかなかない。次もよろしく頼む」

「はい。わかりました」

「この半券を見せれば優先的に配給が受けられる。使うといい」

「ありがとうございます」


 私はぺこりと礼をする。

 リーダーは満足げにうなずいて去っていった。


 ……さて。


 狩りが終わった。

 ので。

 かねてからの約束通り、ティッキーと合流することにした。


「やっほー」

「おう」

「今日はよろしくお願いします」

「それはかまわんが……お前、ずっと走り回っていただろう。疲れていないのか?」


 ティッキーは気づかわし気に私を見た。


「問題ありません。むしろ元気です」

「そうか」

「昼からも同じような感じで動けると思います」

「すごいな」

「ただ、やはり一人で狩りをするのは難しそうです。今回かんたんにやれたのは、リーダーの指示がよかったからかと」

「そうだな」


 なんでも今日のリーダーはプロの猟師出身の兵士さんらしい。

 私は驚いた。

 兵士にも出自があるのか。

 そりゃそうだが。

 兵士といえば兵士として生まれて兵士として育っていそうな感じもする。

 異世界なのにやたらと細かい世界設定だった。


「食事にするか」

「そうですね」


 とまれ、私たちは難民キャンプに向かってランチタイムに入った。

 本日の獲物たち。

 鹿もどきやイノシシもどきやバッファローもどきなど。

 彼らは解体された末に鍋で煮られている。

 無常だ。

 生き物を殺して食べるということについては、まだ少し抵抗がある私である。


 リーダーにもらった半券を見せる。

 すぐに食事が取れた。

 列に並んでいる人たちの恨めしそうな視線を受けつつ椀に汁を盛る。

 それを木製のスプーンですくって食べると。

 この世界の食事というのはそういう形式のようだ。


「昨日とほぼ同じメニューですね。肉野菜入りの粥」

「難民食とは全てそうだ」

「3日ぐらいならこれでもいいですが……毎日だと飽きそうです。たまには違うものが食べたいな」

「それは手間だ。数千人の難民を相手にしてメニューを工夫するのは無駄が過ぎるというもの。鍋はもっとも調理の手間が少なく大量に用意でき、栄養の欠損率も少ない。優れた料理法だ」

「火加減の調整とかもいりませんしね」

「ああ」


 もくもくと椀を空にしたティッキーは立ち上がり、再び配給を受けて戻って来た。


「……料理は得意なのか?」

「趣味としてなら。道具と食材がそろっていれば、という条件付きでなら一通りはできます」

「そうか」

「この粥とかも、私ならリゾットとかにしたり、火加減やら塩味やらを調整して変化をつけますかね。香辛料とかもあれば楽しいかな」

「裕福な生まれなのだな」

「ただの難民です」

「お前の器量と運動能力があれば、難民にはならなくて済んだはずだ。お前は何だ。誰を探している?」


 さぐるような視線を向けられる。

 うーん。

 異世界から転移してきた異次元人でクラスメートを探しています。

 なんていってもな。

 信じてはもらえまい。

 この話題について話しても得るものは何もなさそうだ。


「ごめんなさい。秘密なんです」


 私は唇に指を当て、できるだけ可愛く見えるように微笑んだ。


 ティッキーは目に見えてうろたえた。


「そ、そうか」

「強いて言えば、これぐらいの大きさの道具箱を探しています。キャンプに入ってすぐ、盗まれてしまって」

「それは災難だったな」

「大切なものも入っていたのですが……このへん、治安がよくないですね」

「当たり前だ」

「まあ、今はもう、盗まれるようなものもないので警戒する必要もないのでしょうけれど」

「そうでもないぞ」


 どこか怒ったような顔でティッキーは私をピッと指さした。


「このへんには人さらいもいる」

「なるほど」


 それは盲点だった。


「食事の時はいいが、普段はせいぜいそのフードを深くかぶって顔をさらさないことだ」

「……おぼえておきます」


 素直にうなずく私。

 うーむ。

 この世界は本当に治安が悪いのだな。

 深夜に出歩いても100%近く襲われない日本とはえらい違いである。


「食ったか?」

「はい」

「行くか」

「はい。行きましょう」


 私とティッキーは連れ立って狩りに出かけた。

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