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第5話「変わった王子様のようです」

 私たちは貴族向けの高級店に入り。

 ふつーに。

 食事を楽しむことにした。


 どうやらおごってくれるらしいので、お金を気にしなくてすむのはありがたい。


「僕は白魚がメインのコースと……鳥のソテーを追加で頼もうかな。ワインはロゼのいいやつで。カエデちゃんは?」

「アルビン様と同じものを」

「え、ちょっと多いけど?」

「それなら……シェフのおすすめを。お任せします」


 ウェイターにそう告げると、彼はぺこりと頭を下げて去っていった。


 目をぱちくりとさせるアルビン。

 ううん?

 何か間違えただろうか?


「……カエデちゃんはこういう場所、たまにくるの?」

「たまなら」


 中学時代に20回ぐらいだから。

 まあ。

 たまだな。

 人生トータルで100回は来ていないと思う。


「自分のお金で?」

「あ、ええっと……そ、その、おごりです。すみません」


 私は自分の金で高級店に行って食事をしたことなど一度もない。

 全ておごりだ。

 いや、前世での私は労働の権利さえない学生だったため、それは当たり前だが。

 こちらの世界に来てからもない。

 思えば冒険者仲間の彼らには、もっと美味しい思いをさせてあげるべきではあった。


「……慣れてるね」

「ど、どうも」

「店もきょろきょろ見てないし、メニューも見なかった。値段も聞かない。堂々としてる。自分がここにいることに何の疑問もないって感じだ」

「きょ、恐縮です」


 思わずかしこまってしまったが。

 いかんな。

 委縮しすぎている。

 いくら私が座っているだけで人を魅了する超一級の美少女だとしても。

 怠けていい理由にはならない。


 話題を提供されるということは。

 気を使われている。

 そういうことだ。

 女である以上、こちらから殿方にとって答えやすい質問を投げかけるのは義務みたいなものである。


 ちゃんと能動的に。

 相手に気を使わせないための質問をしなくては。


 ……一番かんたんなやつからいくか。


「慣れてる女は、お嫌いですか?」

「うーん」


 アルビンはちょっと考えて、


「変に調子に乗ってなきゃ別にいいよ。ひどい子だとウェイターに当たったりとかするからさ」


 と回答した。


 なんでも。

 性格的にきついタイプの女の子を連れてきた場合。


 貴族と同席して調子に乗って。

 ウェイターをアゴで使って屈辱を与えて。

 スタッフを怒らせて。

 出禁と。

 そういう流れになったらしい。


「食事はみんなで楽しむものなんだよ」

「そうですね」

「料理人もスタッフも僕たちも、みんなその場を構成する仲間なんだ。それに序列をつけて威張り散らすような人は仲間とはみなせないよね」

「素晴らしい考えだと思います」


 などと。

 口ではなんとなく同調してみせたけれど。


 それはまあ。

 権限が違うからな。

 私はどちらかというと、たぶんアゴで使う側の性格の持ち主である。


 仮に私がこの場で、アルビンの意にそうように従順にふるまったとしても。

 別に仲間ではない。

 上下関係を前提とした支配と服従の姿があるだけである。


 ウェイターと私とアルビンは違う人種の生き物。

 違う人間だ。

 例えば私が貴族としての権限を持ってこの場にいたのなら、かなり無礼な態度を取っても出禁になることはないだろう。


 仲間とは本来、そういう相手に対して使うべき言葉だと思う。

 同じ立場。

 対等。

 時には言い合いも殴り合いもできる、真に社会的地位が共通している2人。

 仲間とはそういうものだ。


 私で言うならば。

 転生直後のティッキー。

 山賊時代の幹部たちや、美少年娼婦のアランちゃん。

 パーティーを組んでいた時の勇者エリー、他3人。

 あとはまあ、冒険者時代に死に別れた男5人とかもそうだけど。


 あーゆーのが仲間である。

 お互いの存在がメリットになりかつ、お互いの失敗がデメリットにもなる。

 相互依存の関係。

 傷心につけこんで私に乱暴しようとしたジュリアンとかも、目の前にいるアルビンと比べれば圧倒的に仲間だった。


 アルビンは仲間ではない。

 開拓地区の指導者だったファビオや、山賊頭目のシルベストルと同じ。

 私に奉仕させる立場。

 完全な格付けが行われた上での関係だ。

 恋人や妻にはなれるかもしれないが、仲間には絶対になれない。


 もしかするとこの人、それがわからないのだろうか?


 貴族。

 だからなあ。

 そういえば私も小学校時代にはそれがわからなかった。

 一人の友達もいなかったせいで。

 友達でもなんでもない下等生物である貧乏人どもを、友達だと思うしかなかったのだ。


「カエデちゃんは、友達とか多い方?」

「少ない方です。社交性にはとぼしいものでして」

「もったいないよね」

「そうですか?」

「うん。やっぱり気の置けない関係の相手はたくさん作るべきだよ。見分を広めることにもなるし。縦だけじゃなくて横の関係もあるのが世の中のおもしろいところだと思うから」

「なるほど」


 ひどい意見だ。

 貧乏人が言えば自己礼賛が強い人で済むが。

 貴族がそれを言ってしまえば単なるいやみだろうに。


 いやまあ。

 世の中にはいろんな人がいる。

 上下関係を認めないタイプの人も一定割合で存在しているらしい。

 まれに、ではなく。

 父に言わせれば、人類の半分ぐらいはそういう性質のようだ。


「アルビン様は、縦ではなくて横のつながりのほうを重視するお方なのでしょうか?」

「……そうありたいとは思っているよ。世界はそうあるべきだ」


 アルビンは強い目をしてそう答えた。

 なるほど。

 横のつながりを重視するなんて恥さらしそのもののセリフを、臆面もなく言ってしまえるとは。

 彼はそちら側の人なのか。


 半分。

 半分かあ。

 上の人間には逆らわない忠犬タイプの性格をしている私からすれば、そういう人のことは想像もできないのだが。


 勇者エリーとか。

 思えばそんな感じだったかもだな。

 前世だと、美咲ちゃんとか瑞樹ちゃんとかにもそういう傾向があった。


 名誉や趣味を上下関係よりも上に置くなんて。

 私には。

 まったく理解できないが。

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