第3話「学生の本分は勉強です」
『……語学教室?』
『ここー』
『おすすめー』
おそるおそる。
部屋に入ってみる。
学校の隅にある図書館。
大陸中の書物が集まっているらしく、室内は本棚でいっぱいだ。
教授もまた本に埋もれている。
部屋の主。
白髪。
しわ顔。
銀ブチのメガネ。
今はもくもくと本を読み、ペンで注釈を入れている。
資料を読み込んで。
比較して。
推測と。
地味な仕事だな。
翻訳スキルがあるなんてカミングアウトしたら、卒倒してしまいそうな感じだ。
「誰だ?」
誰何の声がかかった。
「えっと、私は」
「ここは選ばれし者の学び舎だ。平民に用はない」
「し、失礼しました」
委縮する私。
ううむ。
来るべきタイミングを間違えたか。
誰かの紹介を得て、話を通してから入るべき場所ということだな。
私は部屋を去ろうとした。
のだが。
「……待て」
「はい?」
なぜか呼び止められた。
「お前、名前は?」
「カエデです」
「ああ、あの天才か」
納得したような顔でうなずく老教授。
こちらは。
ぜんぜん納得してないけど。
自分の世界だけで完結しないでほしい。
妖精さんは、この部屋に行けと言っていた。
室内には彼が1人だけ。
なら。
相手はこの教授か?
うーん。
あんまり好みじゃないなあ。
こーゆー権威主義的っぽい威圧感のある人は苦手だ。
特に教師については。
話してみると、意外と気さくで冗談が好きだったりするのも知ってるけど。
そもそも話す気が起こらない。
いくら年上好きでも。
どう見ても50超えてるし。
せめて40……できれば30か。
男というのは10代から40代までの幅広い期間でイケメンゾーンみたいなものがあって、40代が一番輝いている男も確かにいるけれど。
50は行き過ぎだし。
そもそも好みの顔じゃない。
しかし。
女はその点、不利だな。
女のヒロインゾーンは10代から20代のごくごく短い間だけ。
かっこいい男の半分ぐらいの期間しか、女はかわいくいられない。
花の命は短い。
なんて。
よく聞いた言葉だけれど。
男はどんどん魅力的になっていくのに、女は枯れていくのだ。
これを不公平と言わずして何と言う。
「これを読んでみろ」
本を渡される。
ボロボロ。
ざっと目を通す。
「詩集……ですかね?」
「そうだ」
「ええっと、音読すればいいのですか?」
「そうだ」
読む。
抑揚をつけて。
ううん。
難しいな。
翻訳スキルがあっても。
そもそも詩集とは耳で楽しむものだから、異言語で再現するなんてあまり意味がない。
「……もういい」
「直訳になりましたが、韻を踏むように工夫すべきでしたか?」
「できるのか?」
「そ、即興ではちょっと。何日かあれば……なんとか」
「原文のままでも読めるか?」
「ええっと」
私はそのまま読んだ。
ラップのような感じで、軽快に。
うん。
この方が楽だな。
変に訳そうとすると意味が変わってしまうため、文字のまま読んだ方が簡単だ。
紅眼族の言語とはまったく違うから、なんだか外国語の歌みたない感じになってしまったけれど。
「……許可を与える」
「え?」
「いつでもこの部屋に来て、好きなように書物を閲覧して構わん。課題を与えるゆえ、定期的にレポートを提出しろ」
「わ、わかりました」
なにやら。
お眼鏡にかなったようだ。
ううむ。
ラッキー。
なのかなあ?
翻訳スキルについて変につっこまれると困るから、常識の範囲内で音読したつもりなのだけど。
ともあれ。
私は言語研究室の客員ということになり。
部屋に自由に出入りできる権利と、冒険者として以外の居場所を手に入れた。




