第1話「貴族には気をつけて」
それからについて話そう。
パーティーは解散となり。
チンピラのジュリアンは学校を去って。
私と。
ポニー美少女のテッサは。
共に学校に残り。
たまにパーティーを組んで。
無理のない範囲で魔物退治をするという関係に落ち着いた。
「カエデちゃん! また呼んでね! 元気でね!」
「うん。テッサも、次は3日後に会いましょう」
お別れして一息つく。
ふう。
今回は疲れたな。
テッサと同じ時間を過ごすのは最高に楽しいけれど。
仕事自体はきつい。
とくにダンジョン探索は……衛生面でも死亡率でも拘束時間でも、ぶっちぎりで危険な仕事だ。
泊りがけになることもあるし。
寝ている間は無防備。
魔物も強い。
わずか1日であっても精神はすり減っていき、2日も潜れば疲労困憊だ。
毎日は到底できない。
妖精さんの加護がある私であっても、定期的に休暇を取らねば動けなくなってしまう。
なんでもこの学校には、17層あたりまで探索して普通に帰って来たウォーレン侯爵子息を中心とするパーティーなどもあるようだが。
それはバケモノだな。
常軌を逸している。
エリーがいたころの私たちでさえ、そんなのはとてもできない。
被害を度外視で進んで。
いいとこ10層まで行けば運がいい。
そんなところ。
17層あたりまで進むには何日もかかるため、体力だけではなく精神力や装備についても突出したものが求められる。
そういう世界の話だ。
この学校においては、10層までたどり着けたパーティーは一人前と評価されるそうだが。
私はともかく。
格闘家のテッサはその領域には到達していない。
才能が足りないのだ。
ゆえに。
学生ではあるものの、受けられる授業や利用できる施設には一定の制限がある。
ちなみに。
私は無制限。
どうも将来性を期待されているらしい。
本来であれば年間金貨1000枚はかかるという授業料についても、私は無料である。
すべての授業に出られて。
どんな施設でも使える。
学業成績のほうも語学だけ突出して優秀なので、放校の恐れはない。
3000名程度が在籍している王立貴族学校のうちで、爵位持ち貴族の親類縁者が1000人ほど。
彼らと直接的に縁のある腹心の部下が1000人。
あとは本当に優秀な学業のバケモノと、富裕層でありかつ学業優秀な者、そして即戦力の優れた冒険者で1000人だ。
私は最後のグループに属している。
テッサは。
それとは別枠。
正規の学生ではないものの、上の3000名の活躍をサポートする補欠学生としての活動を続けている。
補欠学生。
それはメイドとかを含めれば、なんと10000人ぐらいはいるらしいが。
彼らは。
学費がないかわりに。
権利もあまりない。
学生としての保護が受けられない。
極端な話、貴族から顔が気に入らないという理由で半殺しにされたとしても。
文句は言えないそうだ。
それが平民と貴族とを隔てる超えられない壁なのである。
テッサとかも。
学校に来た当初、あれこれと理不尽な要求を受けて大変だったらしい。
もう慣れたよ、などと言ってへらへら笑っていたが。
なれる。
ものでもないだろうに。
「カエデちゃんにアドバイスしとくとね、部屋に呼ばれてもついていっちゃだめ。ぜったいだめ。暗がりを歩いちゃだめ。とにかく走って逃げて。いくら貴族の人でも、宿まで押しかけて誘拐することはまずないから」
とは、テッサの話だが。
新入生の多くはそれがわからないために。
貴族の命令に唯々諾々と従って。
ひどい目にあうと。
そういった例が後を絶たないそうだ。
「断ればいいのにね」
テッサはつらそうな顔で笑った。
貴族は格上だが。
どんな命令でも聞かなければならない相手は雇用者だけである。
彼らに逆らえば冤罪を着せられて解雇されてしまう。
しかし。
ただの貴族であれば。
その場限りの関係であるがゆえに、逃げてしまえばそれで済む。
「ただ……部屋とかに入っちゃった場合は、もうあきらめたほうがいい。叫んでも誰も助けてくれないし。抵抗してもケガをするだけで無駄な上に、貴族にケガでもさせたら自分だけじゃなくて仲間にも迷惑がかかるから」
泣き笑いのような表情で教えてくれたテッサ。
体験談。
なのだろうか。
そんな質問ができるわけがないので、真相はまったくの不明だが。




