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第7話「傷心中は弱いのです」

 一週間がたった。


 さすがに落ち着いた私は、葬式やら事後報告やらのあれこれを終えて暇をもてあましている。


 エリーは死んだ。

 クリスも。

 今後のことを3人で話し合いたいと。

 ジュリアンから呼び出しがあった。

 ふむ。

 そりゃそうだな。

 私は部屋に向かった。


 宿屋で並びの3部屋の一番奥が、ジュリアン少年の部屋だ。


 もう一人のメンバーは。

 いない。

 私が2番手か。

 少々気づまりではあるものの、個室でジュリアンと向き合う。


「テッサは?」

「まだだ。てゆーか、呼んでねーよ」


 ええ?

 どうして?

 今日は、パーティーのこれからを3人で話し合うと。

 そういう予定なのでは?


「ま、ちょっと面倒なことにはなってるよな。エリーさんが死んで、ごたごたとか片付けることも多いし」

「はい」

「まーあれだ、カエデがもーちょっとうまくやってればエリーさんは死ななかったかもしんねーな?」

「……っ!?」


 何も言えなくなる私。

 反論。

 すべきだったかもしれないが。

 それが暴言ではなく正しい事実なのだと確信していたせいで。

 客観的にはいいがかりに過ぎないジュリアンの言葉にも同調してしまった。


「そ、れ、は……すみません。そうかもしれないです」

「だから今日は、その責任を取ってもらおうかなって、こうして呼んだわけよ」


 ジュリアンが近づいてくる。

 え。

 なにを。

 言って。


 私は手首をつかまれた。


「ちょ、な、なんですか?」

「なにって……へへ、用件は簡単だ。エリーさんが死んで傷心の俺を、なぐさめて欲しいわけ」


 にたにたと笑っているジュリアン。


 な。

 なんだ、それは。

 なぜ私が、そんなことを。


「はなして……ちょ、ちょっと、いたいです。はなしなさ」

「静かにしろ!」


 どなられる。

 びくりと。

 体とこころとが震えた。

 フラッシュバック。

 半年前の冬、暴力で支配されていたあのころ。


 あのときは。

 ずいぶん殴られた。

 思っていた以上に。

 わたしはひょっとして、ここで死ぬかもしれないとさえ思ったのだ。


 それを知ってか知らずか。

 ジュリアンは威圧的な表情で私に迫ってくる。


「カエデもさびしいだろ? エリーが死んで。俺がなぐさめてやるよ……へへ……あんなやつ、死んだほうがよかったんだ」

「や、やめろ」


 のしかかられる私。

 はねのけ、られない。

 こわい。

 身が震える。


「て、手をはなして……さわらないで……おねがい、ですから」

「おっ、ふるえてんのか?」


 ジュリアンは下卑た笑みを浮かべた。


「好きなだけお願いしなよぉ!」


 手首を強く握られる。

 こわい。

 欲望でぎらついた視線が向けられる。

 出会ったばかりのころの山賊シルベストルと同じ。

 時がたって優しくなる前の、あのゴミのような男と同じ目だ。


 私はぎゅっと目をつぶり。

 必死になって声をしぼり出した。


「や、やめて! やめなさい! だ……だれか! ……んぐっ!?」


 ジュリアンは私の口を覆った。


「大声を出すんじゃねえ! 抵抗するな! エリーさんが死んだのはお前のせいだろうが!」

「……っ!?」

「ぐひひ……それに、カエデは俺に恩があるだろ。山賊から助けてやったじゃねーか。それを返すのが筋ってもんじゃねえの?」

「…………」


 それは。

 そうなのかも。

 しれない。


 ジュリアンは嫌な男だけど。

 山賊とは違って、死ぬべきと言うほどの悪行を積んでいるわけでもないし。


 わたしと。

 おにあいなのだろうか。


 もしかすると。


 ここでジュリアンの慰み者になるというぐらいが……わたしという下等な人間のちょうどいい分際なのかも。


 わたしは体から力が抜けるのを感じた。

 

「お、おお、観念しやがったか。だよなあ、ケガはしたくねえもんなあ」


 ベッドに押し倒されるわたし。

 そのまま。

 上半身を制圧されて。

 もはや抵抗する気力さえなくなって、私は唇をぎゅっと結んだ。


 武骨な男の手が私のからだを好き勝手になぶっている。

 気持ち悪い。

 吐き気がする。

 逃げたい。

 だけど力が入らずに、私は目に涙を浮かべることしかできていない。


「へ、へへへ……そうだ。それでいいんだよ! いいか、目を閉じてればそのうち気持ちよくなって」

「ちょっと! うるさいんだけど!」


 とつぜん。

 バン、と部屋の扉が開かれる。

 おお。

 援軍か。

 わたしは感動でおもわず涙ぐんだ。


 そう。

 救いの手は唐突に現れた。


「……なにしてんの?」


 怒りの乗った声。

 格闘美少女のテッサが怒っている。

 その威圧感にあてられて、ジュリアンは私から離れて一歩後ずさった。


「こ、これはだな。ちょっとしたコミュニケーションの一環で」

「助けてください! 襲われそうなんです!」

「ちょ、おま!?」


 あわてるジュリアン。

 テッサはつかつかと部屋を歩き。

 私の前に立ち、ジュリアンをギロリとにらみつけた。


「こう言ってるけど?」

「そ、そんなのは嘘だ! だいたい、俺がカエデを腕力でどうこうできるわけねーだろ!」

「……どーなの?」

「こ、こわくて。動けなくて。助けてほしいです」

「そう……なんか、いつもにましてカエデのことが年下の女の子っぽく見えるわ」


 ばしっ、と。

 テッサはジュリアンを殴りつけた。


「……消えなさい」

「ま、待ってくれ。仲間だったろ!? 俺はカエデを愛している!」

「そんなの愛じゃない。ただの性欲でしょ。次、私の前に現れたら殺すから」

「じょ、冗談じゃねえ! そいつだって、抵抗はしなかったんだ! そ、そうだ、カエデだって、本当は俺のことが」


 ガン、と。

 私は強めに殴った。


 気絶するジュリアン。


 アゴの骨を砕いた感触があったので、当分は満足に食事もとれないだろう。


「すみません。面倒をおかけしました」

「あー、えっと……自分でなんとかできたのね?」

「いいえ。危なかったです」

「そうみたいね。まあ……あんまり気にすることないわよ。なんか弱り目に祟り目ってゆーか、見るからに責任感じてそうな顔だけど」


 テッサは一拍おいて、


「エリーが死んだのは、カエデのせいじゃない」


 と、なぐさめてくれた。

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