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第6話「パーティーが減りました」

 きつい仕事をこなして同じ時間を過ごすと、そこには友情が芽生えてくる。


 正義に燃える勇者。

 きっぷのいい格闘家。

 博愛に満ちたシスター。

 調子のいいチンピラ戦士。

 そして、索敵力に優れた斥候で、戦闘もできる私。


 彼らと一緒に冒険をする中で。

 私は前世では常にかたわらにあった懐かしい感覚を取り戻した。

 そう。

 これは。


 友情だ。


 その時、人生のステージにおいて、私たちは間違いなく同じ場所にいた。


 同じ実力。

 同じ地位。

 同じ場所で同じ危険をわかちあう仲間たち。


 これを友情と呼ばずしてなんと呼ぶというのか。


 恋人じゃなかった。

 でも

 仲間だった。

 友達だった。

 私はこの世界に来てはじめて、対等の関係として付き合える仕事仲間と居場所とを手に入れた。


 別れは唐突にやってきた。




 どれほど同じように見えて。

 そう思おうとして。

 細かいことに目をつぶり、それを信じたとしても。


 私たちは。

 違う。

 持っている魔力も年齢も性別も、その人生につきまとう運命というものも、全て異なっている。


 一時的には同じ場所に立つことができたとしても。


 そのステージにふさわしい人間と。

 落ちていく人間と。

 さらに上へ登れる人間。


 その3者の違いは。

 節目節目において選別されふるいにかけられた時に、残酷なまでに露骨に出る。




 いつもと同じように情報を仕入れ。

 いつもと同じように現場に出向いて。

 いつもと同じように戦った。


 そんな私たち。


 違ったのは。

 敵の強さ。


 今回の魔物は、それはもう鬼のように強かった。


 大型の魔獣。


 狂獣王バーリン。


 大猿の変異種で、しかも魔力がとびきり高い異常個体。


 漆黒の肌。

 2メートルを軽く越す体躯。

 逆立つ獣毛。

 太い口。

 太いアゴ。

 太い腕。

 むき出しの牙からは唾液がしたたり落ちていて。

 瞳には捕食者としての凶暴さと残忍さとが宿っており、実際に凶暴でもある。


 殺された者多数。

 犯された者多数。

 王立貴族学校の冒険者ギルドでも金貨300枚(300万円)という懸賞金がかかっている。


 大物中の大物。


 第五ダンジョンの入り口から現れたそのバケモノは、村の建物をなぎ倒し、王立貴族学校に迫るほどの脅威を見せていたのだ。


「クリス!」


 まず最初に、シスタークリスが吹き飛んだ。

 大猿の腕の一振りで。

 あっさりと。

 首の骨を折られた。

 この時点で総攻撃に出ていれば、また結果は違っていたのかもしれないが。


「だ、だめだ! リーダー! 退こう! 頼む! 退いてくれ!」

「……総員、退却だ。俺がしんがりをする」

「エリー!?」

「さっさと行け!」


 勇者エリーは最後まで戦おうとした。

 ジュリアンはさっさと逃げた。

 テッサも。

 私は。

 退却をためらって、その場に立ち尽くした。


「何をしている! 逃げろ!」

「……っ!」


 邪魔になる。

 早く動かなければ。

 私は速やかに逃げて、テッサを追い越して村の柵近くまで到着した。


 エリーは。

 振り返ると。

 魔猿バーリンがエリーの上にのしかかり、魔障壁の上から爪を叩きつけて猛撃を加えている。


 あれでは。

 逃げられない。

 腹部から鮮血が飛び散って赤くなり、傷口を深くえぐるために再び魔物の腕がふるわれた。


「エリーーーーーーーーーーーっ!」


 叫んだ。

 絶叫した。

 私は全力で走り、狂獣王バーリンの胴体に蹴りをぶち込んだ。


 悲鳴。

 衝撃。

 すさまじい手ごたえと共に魔物の体が吹き飛ぶ。


「キャオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」


 威嚇するかのように咆哮する魔物。

 関係ない。

 次だ。

 拳を握りしめて殴りつけ、獣皮の上からめった打ちにする。


「……カエデ、合わせろ!」


 エリーは起き上がって剣をかかげ、魔猿の胴体を薙ぎ払った。

 鮮血。

 しかし浅い。

 私は途中まで食い込んだエリーの剣を蹴りつけ、魔物の肉体を深く深くえぐる。


「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

「でりゃああああああああああああああああああああああああっ!」


 殴る。

 蹴る。

 ナイフで差し込んでえぐる。


 地面をのたうち回る反動で土埃が飛び散り、視界が悪くなる。

 しかし。

 それがどうした。

 私は目を魔力で覆って保護し、そのまま何度も何度も大猿の体をナイフで削り取った。


 そして。

 無尽蔵の魔力と体力とを備えた巨獣バーリンにも、ついに限界は訪れた。


 ドシン、と。

 倒れる。

 巨体が地面に横たわる。


 まだ生きているようだが。

 ふん。

 もはや防御もできまい。

 私は首もとに近づき、ナイフを深く差し入れて、大猿にトドメを入れた。


「ビュ、ビュ……」


 と、よくわからない断末魔の声を上げて、大猿の動きが止まった。

 勝った。

 狂獣王バーリンは死んだ。

 さいごのさいご、妙にさびしそうな瞳で私を見ていたのがなんとも印象的だった。


「……エリー?」


 戦いの後を見渡す。

 途中から参戦してくれたテッサ。

 勝敗が明らかになるまでは遠巻きに見ていたジュリアン。

 そして。

 エリーは。

 腹部からの出血が、明らかに限界を超えていて。


 立ったままの姿で死んでいた。


 なにを。

 やっているのだ。

 そこまで必死になって戦って。


 さっさと。

 倒れればいいのに。

 自分だけ逃げればいいのに。


 かっこ、つけて。

 わたしは、エリーのことなんて、ぜんぜん。

 好みじゃない。

 好みじゃ、なかったのに。


「カエデ」


 呼びかけられてふと我に返る。


 気づかわしそうな表情でテッサが私を見ていた。

 ああ。

 そうだな。

 この場所は危ないか。

 まずはお金になりそうな部位を回収して、それからエリーとクリスティアーヌの遺体を回収して、あとは。


「カエデ、帰ろう」


 私は。

 答えられなかった。

 涙も止められなかった。

 テッサは私を胸に抱いて、泣き止むまでずっとそうしてくれていた。

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