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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
5章 浮き沈みの激しい季節になりました
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第11話「裏切り者になりました」

 決着はついていた。

 地に伏せて呻いている山賊たち。

 武器を手放して降参のポーズを取る敗北者。

 たくさんの人が死んで。

 たくさんの人が降伏した。

 勇敢に戦うことを選んだ人の大多数は、もちろん勇敢に死んだ。


 美少年娼婦のアランちゃんを見る。


 倒れている。

 肩から胸にかけて。

 剣で斬られたらしい。

 大けがだ。

 口から血を吐いている。


 助からない……だろうか。

 治療しようとすると、手を払いのけられた。

 にらまれた。

 うらまれている。

 傷一つない顔が涙でくしゃくしゃに濡れていた。


 アランちゃんは泣いている姿もきれいだ、と思った。


 それから。

 5秒もたたず。

 美少年娼婦のアランちゃんは動けなくなった。

 死んだ。

 12歳だった。

 私より4つも若い。


 抱きしめた体はまだ暖かかったけれど。

 呼吸はしていなかったし。

 心臓も止まっていた。


 体から力が抜ける。

 ぺたんと座り込んでうなだれた。

 涙が止まらない。

 殺した。

 自分の意志で。

 山賊リーダーも幹部たちも私に優しくしてくれたアランちゃんも。

 みんな死んでしまった。

 いまはもういない。


 気持ち悪い。

 吐き気がする。


 死んだのは山賊一味であり。

 私の仇だったが。

 同時に仲間でもあったのだ。

 いっしょにごはんをたべて、ねて、おきて、話して、笑って怒ってほほえんで。


 かれらが。

 しんで。

 めでたしめでたし。


 なんだそれは。

 わけがわからない。

 わたしは。

 これからどういう風に生きていけばいいのだろう。


 襲撃当日は頭の奥深くがぐるぐると回って上下さえわからなかったが。

 一日寝て。

 起きて。

 ひとしきり泣いてしまうと。

 あとはすっと落ち着いて、冷静さを取り戻すことができた。


 さて。

 それからのことだ。

 山賊稼業の構成員であった私には、悲嘆にくれて部屋にこもるなどいう贅沢は許されない。


 私は対人用の仮面をべったりとはりつけて事後処理にあたっている。


 お縄についた私。

 交易都市マッパライダーの留置所に放り込まれた私は審判の時をそこで待つことになった。

 逃げる必要はない。

 妖精さんはそのように言っている。

 ならば。

 そうなのだろう。

 私はこの種のことについて、もはや妖精さんを疑わなくなっていた。


 いまさら。

 死んで困る人も。

 いないし。


 囚われてから3日後。

 私は当初想定していたよりもあっさり釈放されてしまった。




 私は山賊団メンバーの中では最も早くに解放されたわけだが。

 他はそうもいかない。

 個別に尋問官に呼び出されては矛盾を突き付けられ、情報という情報を吐き出し続けている。


 身元が明らかで。

 釈明に一つの矛盾もなく。

 山賊リーダーを倒すのに貢献し、襲撃された時に山賊と戦った目撃例もたくさんある私。


 そんな私は、あっさりと無罪になった。

 スピード結審。

 むしろさっさと村に帰って知人を安心させてあげなさいと、いたわりさえされてしまったわけだが。


 私が無罪になる一方。

 他のメンバー。

 特に私の下で働いていた女の子たちはぼ全員有罪になって、厳しい罰が下る予定だという話である。


 おかしな話だが。

 どうも山賊稼業というやつは、それに身を投じたきっかけによって罪状が変わるらしい。

 浚われてきた私は被害者。

 自分から志願した彼女たちは加害者。

 山賊になってからの悪事についてはそれほど重視されない。

 どうやらそういうものらしい。


「つらかっただろう。意に沿わない犯罪に手をかすのは」

「それは、まあ」

「安心してくれ。もうあんなことはしなくていい。これからは俺たちが味方だ」

「ありがとうございます」


 空気の読める私は瞳をうるませて男に抱き着いてしくしくと涙を流したが。

 なんだかなあ。

 私は心情的には加害者のつもりである。

 たしかにきっかけとしては脅されていたにしても。

 精力的に手助けをしたのは事実だし。

 リスクを顧みなければ脱出だって簡単にできたし、殺されるのを覚悟で逆らうこともできた。

 そのはずだ。


 いや、もちろん恐怖心を乗り越えられるほど私は強くなかったが。

 だから無罪、というのは後ろめたい。

 私は加害者なのだ。

 罰がないに越したことはないが、まったくおとがめなしというのも気が引ける。


 女の子たちは特にそう思ったのだろう。

 面会して。

 今後の生活など、不自由がないように手配を申し出たとたん。


 ばりばりに糾弾してきた。


「ひとでなし! なんであんたが無罪なの!?」

「えっと」

「私たちを使ってさんざん悪いことしてきたのに! さらわれてきたなんて嘘よ! 自分から志願したのよ! そいつは団長の女としてさんざんに尽くしてきたんだから!」


 傷ついた表情をうかべる。

 半分は演技。

 半分は本当だ。

 私に負い目があるのは事実だからである。


 ともかく。

 それを見て。

 男は私をかばった。


「そのあたりの事情については裏が取れている。複数の構成員に別々の尋問を行って事実をすり合わせた。嘘は通じん。彼女は間違いなく被害者だし、お前は間違いなく志願して盗賊になったのだ」

「それは……でも、その子のほうがひどいことをしてきたのに!」

「暴力で支配されているときに自由意思を持てないのはしかたがないことだ。彼女を貶めることは許さん。さらわれたのが事実。お前は今、偽証の罪を犯している。発言に気をつけろ」

「……っ!?」


 女の子は悔しそうに歯ぎしりした。


「そもそも、彼女はお前たちの身の振り方を決めるサポートをしに来たのだ。怒鳴られる筋はない」

「ふざけるな! みんなその子のせいだ! その子さえいなければ、私たちは」


 泣いている。

 にらまれている。

 無理だな。

 私では彼女たちを救うことができない。

 せめて腕なり足なりを失うような大けがをしていたら、まだしも可能性はあったかもしれないけれど。


 私は。

 たしかに彼女たちにひどいことをした。

 そう思う。

 明らかに強力にひいきを受けていた私という女が、彼女たちにどれほどの屈辱と怒りを与えたことだろうか。


「……最大限の配慮を頼みます。もう、ここには来ません」

「わかった」


 黙々とうなずかれたが。

 内心ではたぶん軽蔑されただろう。

 はあ。

 裏切り者か。

 この世で一番汚くてみっともないあのゴミ屑どもに、まさか私がなるなんて。


 でも。

 そうしなければ。

 自殺するしかないし。

 山賊に汚された時点で誇り高く死ぬほどの勇気は。

 私にはなかった。


 なかったのだ。

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