第8話「反乱を鎮圧しました」
季節は冬。
外は雪。
たくわえは少し。
山賊砦のメンバーのうちで、全員が冬を越せないのはすでに明らかである。
その選別が終わって。
生き残るべき人間と野垂れ死ぬグループとがわけられて。
後者は食料の探索と銘打って野山に放り出された。
ロックフィード村への襲撃は完全なる失敗に終わり。
食料は得られず。
怪我人ばかりが増えて冬を越すための戦果は手にしていない。
もう一度村を襲う。
それも不可能だ。
警戒されているだろうし。
加害者がいまさら投降したところで、待つのは拷問と処刑だけ。
だから。
その反乱は野心によるものではなく、単なる必然だったのかもしれない。
獲物を抱えて探索部隊が帰還して。
傷だらけでボロボロの探索部隊が再び冬の山に放り出されることが決まった、その日の夜。
山賊が20人ほど徒党を組んで、山賊ボスのジルベストルを襲撃しにやって来た。
隔離されている部屋の扉を破って砦内部に新入し。
ボスの首を取る。
そういう作戦だ。
謀反。
というには、あまりにも悲壮すぎる状況ではあったけれど。
ともかく。
20名程度が夜中に暴れまわり。
そのうちの数人がボス部屋近くまで迫った。
私は拳を握りしめて戦い、女に指示を出してボスを呼びに行かせた。
戦う。
そして勝つ。
反乱はあっさりと終わった。
私が倒したのは3名程度だが。
今回は手加減する余裕があったため、別に死んではいない。
意味はなかったが。
すぐに頭目が手ずから処刑して外に捨てたため、単に時間がずれただけのことだった。
「やるじゃねえか」
「弱かったです」
「カエデもなかなか、盗賊稼業が板についてきたもんだな」
「ありがとうございます。難しい戦いがあれば、ぜひとも先鋒をお申し付けくださいませ」
さすが俺の女だと、リーダーはげらげらと笑った。
はんらん。
反乱か。
私にもできるだろうか。
少なくとも私には。
それをやる理由はあるが。
……実のところ。
私は来た当初よりもはるかに、このよくわからない魔力という不思議な力の扱い方がうまくなっていた。
たぶん。
おそらく。
今の私なら山賊リーダーのシルベストルだって倒せる。
少なくとも実力的には。
部下を交えずの一対一であれば、それほど苦もなくやれるだろう。
しかし。
いざ実行という段になると、どうしても足が震える。
恐怖で動けなくなる。
かつて意に反して触れられた時のあれこれが記憶によみがえり、勇気が出せなくなるのだ。
私はしょせん、一人の女だった。
それに、現実的な問題というのもある。
ボスを倒した後。
山賊稼業を引き継いで私がボスになる、などという展開はきっと無理だろう。
部下は従わないだろうし。
仮に従ってくれたとしても。
そもそもやりかたがわからない。
私たちのクラスには2パターンの金持ちがいた。
生まれた時から帝王学を仕込まれていたタイプと。
愛玩動物として可愛らしく育てられたタイプ。
たとえば花恋ちゃんや七音様、きらら様あたりならできるかもしれないが。
私は後者。
料理、掃除、洗濯、基礎教養、舞踏、弦楽などを一通り仕込まれた専業主婦タイプなのだ。
女としての商品価値を高めるための習い事はだいたいやってきたものの。
仕事については別。
何も教わっていないに等しい状態である。
1対1の会話なら自信がある。
多対一でも自分がリーダーでさえなければうまくやれる。
だが。
それ以上は。
大勢の人を率いてうまく動かすような感性は、私には備わっていない。
私は何をどう考えても人の上に立つ器ではないのだ。
単なる潤滑油。
いれば便利。
組織の一員として奉仕するタイプの人間だ。
率先して山賊たちを引っ張りうまく回していくような才覚は、私にはまったくない。
それに。
ここでの生活は意外と安定している。
難民界での女の扱いはひどいものだった。
基本やりすて。
弱った女を狙って無理やり組み敷いて。
楽しんで。
ポイと捨てて。
後は野となれ山となれ。
キャッチアンドリリースの精神で溢れすぎていたのが、難民界という場所だった。
それと比べれば。
ここは。
まだましだ。
山賊は女に優しい。
福利厚生要員を壊しても益がないことを理解しているのだ。
仕事はくれるし服もくれるし立場もくれる。
至れり尽くせりである。
これは単に山賊頭の性格が善良なせいなのだろうが。
いやまあ。
山賊に善良もなにもない。
それはそのとおり。
しかし私はもっか軟禁中の被支配状態である。
このような状態における被害者はご主人様を好意的な視線で見る。
そういうものなのだ。
私が山賊頭に好意をもってしまうのも、多少はやむをえないと思ってくれ。
というわけで。
私は現状維持に甘んじ。
特に仲のよかった美少年娼婦のアランちゃんと、カードゲームやら双六やら丁半博打やらで遊びつつ。
のんびりと冬をすごした。
そして。
月日は流れて。
意に反して山賊の女をやり続けてどれほど経っただろうか。
一か月?
二か月?
救いの手は唐突にやってきた。




