第7話「妻として尽くしています」
私が寝るときはボス部屋の前。
暗殺を恐れているらしく、うちのボスは部屋の前に女を敷き詰めて眠る。
妻は一番奥。
ボスの寝室に通じるたった一本の通路で、私は一人寝ている。
毎晩のルーティンとしては、単独でぐっすり寝るか。
ボスに単独で呼び出されるか。
ボスに複数で呼び出されるかの3パターンなわけだが。
だんだん単独お呼ばれの頻度が上がって来た。
ボスいわく。
私以外の女はつまらないらしい。
体の反応も話す内容も単純な見栄えさえも、私がぶっちぎりで一番いいそうだ。
はあ。
ゆううつだ。
私は生まれた時から伴侶を立てるべく育てられているため、人に尽くすことが嫌いと言うわけではないのだが。
山賊ボス。
こんなゴミのような男にその機能を発揮することになるとは思わなかった。
猫に小判。
豚に真珠。
宝の持ち腐れとはこのような状況だと思う。
昼は家事。
夜は奉仕。
私は基本的には、そのように波風の少ない毎日を送っている。
ただ。
一度だけ。
敵が襲ってきたことがあった。
敵。
それを敵と言っていいものかどうか。
砦の正門なんかには、かつて正規軍の小隊30余名を返り討ちにした時の塩生首やら旗やら装備やらが飾られているのだが。
今回はそれとは別。
身内同士の争い。
すなわち反乱である。
反乱。
その主たる動機はというと、頭目を見限ったとか痴情のもつれとかではなく。
単純に。
食料が足りないことに起因する。
私の置かれている環境を掘り下げるために、この点について少しだけ解説を加えてみる。
この世界では食料が簡単に取れるが。
人はもっとかんたんに生まれてしまう。
幸せ家族計画などというものはここにはない。
子供の面倒をみる義務。
家族を養う義務。
そんなものはないのだ。
適当に見つけた女を孕ませておけば、あとは勝手に産む。
それだけ。
上流階級はともかく。
下層階級は毎日ところかまわずセックスしているし、それしか趣味もない。
セックス→妊娠→出産→セックス→妊娠→出産。
このサイクルだけが下層の女の全てだ。
誰も非難しない。
私なんかもボス専用のそれとして、今はそのサイクルに組み込まれてしまっている。
まあ、仮に私が子供を産んだとしても。
育ててもらえるかどうか。
怪しいものだが。
ともかく。
弱者は際限なくあふれ。
人はどこまでも生まれ。
若い女は道具として消費され補充されて。
社会での利用価値がなくなったとたん、あっさりと捨てられる。
そうなる。
これは山賊だけが特別というわけではない。
世界中のいたるところで起こっている、ありふれた悲劇だそうだ。
さて。
上のような理由で、たくさん生産され。
食料に困るほど増殖してしまった居場所のない人々。
その中で選別が起こり。
弱い者から次々と切り捨てられて。
結果としてまさに今現在、最後尾に位置している弱者さん。
女子供よりもっとひどい弱者。
つまり。
じじいやばばあ。
乳児。
ケガ人。
病人。
単なる超絶無能、などなど。
このうちで、ケガ人以外についてはだいたい選別済みなのであるが。
思い出してほしい。
つい先日。
ロックフィード村へと襲撃が起きた時。
返り討ちにあって大けがを負って、死にはしなかったものの満足に歩けなくなった気の毒な…………まあ、そのうちのいくらか、というか、半分以上は私がやったのだが。
とにかく。
後遺症の残った人々。
彼らはもちろん、私に骨を折られてはいおしまい、というわけにはいかない。
それからの生活がある。
回復できなかった者や一生の障害を抱えてしまった者などは、もはや山賊としてさえ働くことができなくなってしまったのだ。
彼らの多くは私に恨みを持ち。
体を触るなどのセクハラや。
もしくはもっと直接的に、私をなぶったり殺したりさせてくれとお頭に頼んでいるようだが。
それは許されない。
彼らにはもはや。
山賊の構成員としての発言力がない。
カタギの世界であればそれまでの貢献度によって多少優遇もされるが。
ヤクザの世界は実力主義。
人を使う立場の者でさえ、下っ端であれば力をなくした時点で捨てられる。
と。
いうことで。
彼らにその順番が回ってきた。




