第5話「ボロボロ」
山賊集団との戦いは私の敗北に終わった。
けっこう倒したし。
けっこう殺したし。
たくさんの村人を助けられたように思うが。
結果として私が囚われの身になってしまえば勝利とはとても言えまい。
負けだ。
私は敗北した。
善戦は善戦だったが、敗北は敗北だった。
そして。
当然と言うべきか。
私はその代償を支払うことになった。
これが物語であれば、たぶん私を助けてくれるクラスメートなり勇者なりが現れてくれたのだろう。
白馬に乗った王子様が囚われのお姫様を救う。
よく聞いた話だ。
私は強がりながらもお礼を言って新しい恋に落ちる。
くだらない。
チープでありふれた話。
でも。
私はこの時ばかりは、そんなチープでありふれた展開が心の底から欲しかった。
嫌な目にあった。
本当に。
この時のことはあまり語りたくないため、私に詳細を説明させるのは容赦いただきたい。
とりあえず。
私は処女ではなくなった。
山賊親分は2メートル近い大男で、腕も丸太のように太く、肌はぶあつく、髪も太くて硬く、指も節くれだっていて固かった。
ファビオとは正反対の感じ。
歯並びも悪いと言うか、半分は抜け落ちている。
総じていえば粗野で下品で凶暴さを隠そうともしない、人類最底辺という感じの野獣人間だった。
私の。
一番嫌いな、タイプだ。
はあ。
失敗した。
こんなことならもっと早くにファビオとねんごろになっていればよかった。
不良が好きとか言う頭の狂った女がたまにいるが。
あれは何なのだろうか。
まるで理解不能だ。
暴力的な雰囲気を持っているほうが男として魅力的だとか。
男には野性味が必要だとか。
意味がわからない。
優しいほうがいいに決まっているだろう。
前世のクラスには髪を染めている人間なんて一人もいなかったし、暴力の匂いがする男もゼロだった。
それが上流階級というものだ。
見ただけでカタギではないとわかる山賊ボスのごときクズ男など、本来であれば私に口を利くことさえ許されない。
そんな。
下等な。
男に。
この私が。
涙が出る。
みじめで情けなくてたまらない。
もはや私は男性読者からは見放された存在だろう。
どこの世界に非処女が主人公の物語をうきうきと見る男がいるのだ。
女性読者から見ても厳しい。
感情移入できない。
見ていて楽しくない。
落伍者。
おしまいだ。
わらしべ物語完。
ご愛読ありがとうございました。
ところで、現実というのはゲームオーバー同然の状況になっても続いていくものである。
私の異世界生活は処女を奪われても終わらない。
眠って起きて。
時間が流れたとしても。
失敗したね、と肩を叩いて次の世界へと導いてくれるナビゲーターさんは、一向に現れないままだった。
もはや涙も枯れ果て、すっかり感情の起伏がなくなってしまった私。
出されたご飯を食べる。
味がしない。
やる気が起こらない。
屈辱を晴らしてやろうという怒りさえ生まれなかった。
からっぽだった。
つかれていた。
まひしていた。
もしも世界が終わるなら、それはこんな日のまどろみの中であればいいのだと。
そう願って目を閉じた。
次の日。
世界は終わっていなかった。
寝て。
食べて。
起きて寝て食べて何度も何度も山賊に呼び出されて。
さんざん嫌な目にあって。
泣き叫んで。
それでも世界は終わらない。
『なかないでー』
妖精さんが私をなぐさめてくれている。
別に。
泣いてはいないけど。
かなしい。
つらい。
帰りたい。
元の世界に帰りたい。
それが無理ならせめて。
ファビオと一緒に笑いあっていた、楽しいあのころに戻りたい。
ぼんやりする私。
妖精さんは光の塊をせっせと運んでいる。
ううん?
あれは何だろう。
どうも山賊頭の部屋に入って、わざわざ取って来てくれているらしいが。
それを渡されると。
なぜだか元気が湧いてくる。
暖かな思いやりのようなもので体が包まれて、気分が落ち着くのだ。
少しずつ。
血が通う。
凍り付くようだった体は次第にほぐれていき、指先に熱がとおる。
頭がさえてくる。
うん。
そうだな。
結局はそうするしかないのだ。
死んでしまいたいほど悲しくて。
情けなくて。
やるせないけれど
生きたい。
生きていたい。
そして、できることならば。
今と私のこれからが、もう少しだけでもましなものになるように。
もう一度、がんばろう。
私はそう決めた。




